最近の猫の跳躍傾向について
ボストンの高層マンション19階の窓から3月22日、一匹の猫が飛び降り、そして60メートルを超える落下の後、あざやかに着地した。いや。あざやかとまでは言えないかもしれない。あざが胸に小さくできたからだ。
その完全なる着地は現地では"purrfect landing"と称賛された。ギネスブックも猫最長降下の記録を確認し、国際的なニュースにもなった(参照)。
現地ボストン・グローブ紙によると、この最長降下記録を更新した猫は、高層マンション、エマーソンパレス19階でブリタニー・カークさんと暮らすメスの「シュガー」である(参照)。
その偉大なる跳躍に最初に気がついたのは2階に暮らしている女性だった。「今日は何か猫のようなものが落ちてきたわ」と思った彼女が階下に降りてみると、そこにドヤ顔のシュガーがいたのだった。
他の階の住人も「猫降ってきたんじゃないの」とぞろぞろと階下に集まり、シュガーの偉業に驚嘆した。「ところで、どこの猫?」と集まった住民は気がかりになり、とりあえずボストンの動物救護会に連絡した。同居のブリタニーさんは19階の窓を開けたまま仕事に出ていたのだった。
偉大なる着地を奇跡と呼ぶ声もあった。しかし奇跡なるものはこの世には存在しない。そこには猫の飛翔についての純粋な科学だけが存在する。ガリレオによるピサの斜塔の落下実験による誤解から物体は質量にかかわらず等速落下すると考えている人もいるが、現実の世界では落下する物体は空気抵抗によって一定の距離の落下後に、それぞれの落下物質によって異なる、一定の速度に落ち着く。これを終端速度と呼ぶ。ちなみに式はこのようになる。
この終端速度を猫は落下時に本能的に計算し、落下面を調整して最適解を得ることができる。さらに猫は「落下猫効果」も適用する。これは、仮に猫の落下初期にひっくり返った状態であっても、全身の屈伸とひねりによって通常の猫状態に戻ることだ。数学的にも興味深い問題として研究されてきた。
具体的に猫の落下終端速度はどの程度の速度であろうか。1987年に獣医のウエイン・ホイットニー氏とシェリルメル・ファフ氏が猫の終端速度について実験したところ、時速97キロであることが判明した。比較として人間の場合だと、その終端速度は時速193キロとなるとのことだ。なお、彼らどのような実験をしたかについての詳細な情報は得られていない。
今回のシュガーの偉業だが、背景には近年、全世界の猫による類似の跳躍現象の増加がある。猫は今や飛ばずにはいられないようなのだ。この傾向について、高層ビル症候群(High-rise syndrome)という名称もついている。
当然ともいえるが着地に失敗してケガをする猫もいる。生死に関わるケガの率は1980年代は10パーセントほど(参照)だったが、近年は高まっているようだ(参照)。
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バージニア工科大学で生態力学専門のジェイク・ソーチャ博士は、「猫は本来高い樹木で暮らす生物であり、猫にとっては、高い位置からの跳躍は自然な能力である。今後も高いマンションからの跳躍は試みられるだろう」とコメントしている。英国王立獣医大学のジム・アッシャー博士は「猫には、猫立ち直り反射(Cat righting reflex)と呼ばれる、落下空間での身体制御のほか、柔軟な内臓の仕組みなど各種、跳躍と着地を可能にする生体の仕組みが備わっている」とも述べている。
ソーチャ博士はさらに、猫による偉大なる跳躍と着地能力は進化論的な自然選択の結果である("Through natural selection, cats have developed a keen instinct for sensing which way is down.")とも示唆し、その進化論的な意味を重視している。むしろ現代社会の猫は、高層マンションでの生活の一環として、また進化的な新しい環境適合として、種としての偉大な跳躍を試みているのではないかというのである。哲学者ベルクソンが「生命の跳躍("Élan vital")」と呼んだ生命の特質にも関係しているようだ。
ケンブリッジ・トリニティ大学で進化論を研究するアレックス・サンダース博士も類似の意見を持っている。今回の猫の跳躍について彼は「猫はいずれ空を飛ぶようになるだろう」と予言している。
猫は、鳥類とは異なる形態を経るものの、空を飛ぶような生物に進化している過程にあるのかもしれないが、対して人間はといえば、高層マンションに住む人間は出かける前には、猫を飼っているなら窓を確認することが望ましいだろう。
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コメント
4月1日にしては微妙なネタですね。
投稿: YT | 2012.04.01 20:48
1枚目の画像吹いた
投稿: | 2012.04.03 03:07