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2012.04.11

ソコトラ岩

 アラビア半島の底辺というかイエメンとオマーンの国境の洋上、そしてソマリア、そのアフリカの角の先、アデン湾を出たところにソコトラ島がある。海賊の多い海域なので物騒にも思えるが、世界遺産にもなっていることから観光地と言えないこともない。「インド洋のガラパゴス」とも言われる自然景観は写真などを見ると異世界のようにすばらしい(参照)。チャンスがあれば行ってみたい場所ではある。安全はというと、在イエメン日本国大使館は「十分注意してください」とし、外務省はイエメン側で異変があれば影響も受けるだろうといった微妙な書き方をしている。
 ソコトラ島の名前の由来は、語感からするとギリシア語のようでもあるが、サンスクリット語の"dvipa sukhadhara"「至福の島」ということらしい。「ソコトラ」にはこのうえなき歓喜といった意味合いがあるのだろう。
 長い枕だったが、話は「ソコトラ島」ではなく、「ソコトラ岩」である。ソコトラ岩は、ソコトラ島にあるわけではない。どこにあるのかというと、海面下と言えないこともないが、地理的に見るなら、韓国済州島の南西にある。黄海と東シナ海の区切りあたりである。
 とすれば、中国様が俺の領土だと言わないわけがないだろうと誰もが思う。もちろん! 韓国様も俺の領土だと言う。もちろん!
 しかも、韓国は李承晩ライン決まっているというのである。もちろん! かくして、中韓の領土紛争のテーマになっている。中韓の両国に対して実質的な領土問題を抱えている日本としては、中韓様が領土についてどのようにお考えになっているのを学ぶ、またとない事例と言えないこともないかなと傍観する。
 しかしなにゆえ、「ソコトラ岩」。ハングルで「ソコトラ」なのだろうか。そうではない。1900年、イギリス商船「ソコトラ丸」が最初に気づいたかららしい。というか、その10年後英国の軍艦が確認したのでそうなったらしい。「ソコトラ丸」という船の名前は、たぶんソコトラ島に由来するのだろう。
 「ソコトラ岩」については1938年に日本も測量している。このとき、日本が何と呼んだのかはよくわからない。中国名では「蘇岩礁」である。韓国名では「離於島」である。が、韓国では「波浪島」とも呼ぶらしい。戦後韓国が日本が放棄すべき島の一つとして竹島などと合わせて挙げたものの、所在がはっきりせず、「じゃあ、蘇岩礁」としたらしい。だとすると、日本領だったのか。

 ところでさっき「海面下と言えないこともないが」と書いたが、自然のままであれば、ソコトラ岩は海面下である。その海面近い岩の上部に2005年、「海洋科学基地」を建設を開始し2003年6月完成した。ヘリパッドがあり、8人が15日間居住できる施設になっている。

 中国としてはそれまでは、ソコトラ岩を水面下の暗礁であるとして、よって国際法上領土の問題には関係しないとしていた。こういうものができてしまうと話はややこしくなる。
 この面白い話題は、ようするに海底資源争奪だろうと思っていたのだが、どうもそうとばかりも言えないらしい。3月22日付けディプロマット「China’s Next Flashpoint?」(参照)では軍事的な側面を上げていた。


South Korea is also seeking a military presence nearer to Socotra and China, to strengthen its claims of control and provide a foothold in the event of conflict. Without a base on Jeju, South Korea’s navy must operate in the area from Incheon, nine hours to the north.

韓国はまたソコトラ岩と中国近辺への軍事的存在感を求めている。それは紛争時には、制御主張の強化と足がかりの提供ともなるものである。済州島の基地がなければ、韓国海軍は9時間も北にある仁川からこの地域の作戦行動を迫られる。


 ようするに、ソコトラ岩の「海洋科学基地」を保護するという名目で、済州島に海軍基地を作りたいというのである。
 済州島海軍基地については、昨年の産経新聞9月1日付け「対中国警戒の要 済州島海軍基地計画 反対激化で政治問題化」(参照)に話題がある。

韓国最大のリゾート地である済州島で建設が進む海軍基地への反対運動が激化し、与野党が対立する大きな政治問題となっている。東シナ海に面する済州島基地は、海洋権益拡大を狙って海軍力増強を続ける中国を牽制(けんせい)する意味がある。李明博政権は来年の大統領選と国政選挙を前に対中関係、国防政策の在り方や世論動向への対応で微妙な対応を迫られている。


海軍基地は島南部の西帰浦市海岸に約9770億ウォン(約700億円)をかけて建設し、政府は2014年完成を目指している。韓国国防省によれば軍民共用港で、完成時にはイージス艦などの大型艦20隻と、15万トン級船舶2隻が同時に係留できる埠頭を備える。

 そうした構図で見ると、「ソコトラ岩」の問題は、いわゆる中韓の領土問題とは割り切れないことにはなる。
 
 

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