インドの大陸間弾道ミサイル「アグニⅤ」実験
国際ニュースを見ていつも不思議に思う。なぜ、それが話題で、あれは話題ではないのか。国内ニュースの場合は、それなりに勘所みたいなものもあるし、国際ニュースといっても基本、西側ニュースなので同様にわからないでもない。昨今の話題でいえば、4月中旬に実施予定のインドの大陸間弾道ミサイル「アグニⅤ」実験である。
その前に少し脇道にそれる。日本で「ミサイル実験」というと北朝鮮の北朝鮮のミサイルが話題だが、これには奇妙な印象がある。余談みたいな話だが、ネットなどではこれをもって中国への脅しと見る指摘があった。いや、それはありえない。北朝鮮のミサイルは固定式なので本当に中国が危機意識を持つなら、発射台ごと事前に爆破すればよい。米国や韓国は、日本のような平和憲法ももっていないことから、判断によってはそうする可能性がある。いずれにせよ、北朝鮮ミサイルは直接的な軍事脅威にはならない。
ではなぜ日本で大騒ぎしているかというと、日本は事前に爆破できないからというより、騒ぎの実態がミサイル防衛(MD)であることからわかるように、北朝鮮の脅威というよりMD訓練が焦点になっている。
これは常識だと思うのだが、MDの精度がいくらあがっても攻撃側のミサイル数が多ければ意味はない。北朝鮮がそれほどのミサイルを持っているかというと、現下話題のテポドンなら数は少ない。が、日本を射程に収める中距離弾道ミサイルのノドンは300発もあり、「もう勘弁してくださいよ輿石先生(75)」と音を上げたくなるほどの人選の結果でもある、「無知の知」を誇る田中直紀防衛相が、3日の参院予算委員会で明言したように、ノドンへの防衛態勢については、「今の態勢では全国土を守りきれない」(参照)。白旗の少女ならぬ、白旗の賢人こそ日本の守りという現状である。
ではこの沖縄を巻き込んだMD騒ぎだが、沖縄に設置予定の司令部の防衛とみてよいし、それは多数のミサイルを前提にしていることや、標的を沖縄に定めていると見られるミサイルを配備するという点で、中国を意識したものだろう。
話をもとに戻すと、4月中旬に実験予定のインドの大陸間弾道ミサイル「アグニⅤミサイル」は、来年2013年には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM: an operational submarine-launched ballistic missile)となり発射位置が事前にわからなくなる。また2014年には事前攻撃に利用される無人機からの防御も完成する予定である(参照)。今回の実験はその着実は進展を示すことになる。
さて、このアグニⅤは脅威なのか?
もちろん脅威だが、どの国に対しての脅威か。それは射程域からわかる部分が大きい。
そして簡単にわかる。中露である。さらに当然ながら、隣国パキスタンさらにイランへも脅威を与える。
中国はこれに反応しないのかというと、西側ニュースからは見えないが、中国語圏のニュースに絞り込むと中国網「印度4月中旬试射“烈火-5”导弹」(参照)を筆頭として数多くの記事がすでに存在している。中国としては無視できない脅威であることはこれらのニュースから察せられる。だが、日本を含め、西側報道では奇妙な印象があるくらい少ない。
中国にとっては明白な脅威なので、これが中国の防衛と称する軍事強化を急き立てている。当然ながらインドが米国と軍事的な連携を結んでいるかぎり、インドが対中戦の前面に立つことになり、米国としてはインドを強く支援するしかない。
同時それはインドと敵対するパキスタンとの関係も複雑にする。
興味深いことにパキスタンは北朝鮮と核兵器技術やミサイル技術でも繋がりをもってきた(参照)。うがった見方をすれば、北朝鮮の今回のミサイル実験は、パキスタンを後ろに控えた、対インドと対米への牽制でもあり、その文脈では中国の意思も感じられないではない。
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コメント
国際ニュース、「それが話題で、あれは話題ではないのか」という指摘はもっともだと思います。国際ニュースの取捨選択、たとえば、英国のロイターや米国のAPの判断基準はなんなのでしょう? こんなことは言っても詮ないことですが、「国際ニュース」という看板を標榜できること自体が、もう彼らが国際政治経済の立場で「何者かであることを示しており」としか言い様がないです。
それは「オカシイ」等と大上段に構えるほど、カマトトぶる訳にもいきません。
日本にとってインドは、地政学的、文化的にも極めて重要な存在だと思います。
投稿: ボンボン太郎 | 2012.04.08 16:00