石原都知事、尖閣諸島買い上げ発言について
訪米中の石原慎太郎・東京都知事はワシントン市内の講演で現地時間の4月16日午後(日本時間の17日未明)、尖閣諸島中の魚釣島、北小島、南小島の3島を東京都の予算で購入するとの方針を表明した。それが原因で思わぬ騒ぎとなったようだ。いや、驚いた。何に? それが騒ぎになることに、だ。
何か騒ぐような問題でもあるのだろうか? この話題を聞いた仲井真弘多・沖縄県知事も「なぜこうした話が問題になるのかわからない」と述べた(参照)。
そもそも尖閣諸島に領土問題はないということなのに、なぜこうした話が問題になるのか分からない。沖縄県も都内に土地を持っているし、都が沖縄の土地を購入することが禁止されているわけではない。
普通に考えれば、仲井真・沖縄県知事のように、この話はここで終わりである。
東京都が買い取るとしても、現在の個人の地権者から買い取るということで、これは国家と関係ない私的セクターの普通の取引にすぎない。沖縄県が、東京都に沖縄県人会の施設を作るために東京都の個人の地権者からその土地を買うのとなんら変わりはない。無問題。尖閣諸島が東京都に編入されるという話でもない。
終了……
とはいえ、東京都知事がそんなことを勝手にしてよいものだろうか?
いや、勝手にできない話になっている。
2億円以上あるいは2万平方メートル以上の土地を東京都が購入する際には、東京都議会の議決を経なければならない。だから、議会がダメですと言えばそれはそれで終わりという話である。
議会が承認すれば、なるほど都民の総意として尖閣諸島を都が所有するということになる。議会の決議こそが民主主義の手続きである。日本の戦争だってその予算執行は議会を経て行われたのだから、責任は民主主義の手続きからすれば国民にあるのと同じ。米国のブッシュ政権下で米国民主党がイラク戦争にいろいろ反対意見は述べたが戦争の予算は通したのとも同じことだ。
都議会は承認するだろうか?
読売新聞の報道によれば、外務省幹部は「都政の目的と相いれないのではないかという根本的な疑問がぬぐえない。都議会を通るとは思えない」(参照)とのことだ。あっさり議会で否決されるかもしれない。
どうなるだろうか?
東京生まれで東京育ちの私としては、案外都民は都知事の今回の提案を支持してしまうのではないかとも思う。猪瀬副知事がすでに言い出しているが、購入のための資金募集も計画されているようだ(参照)。
一坪地主みたいに公募にするなら、小さな記念碑でなくても亜熱帯植物の植樹のためでもいいから、小さな自分の土地を買ってみたいと思う人も出てくるだろう。自分が死んだら遺骨の一部をそこに納めてもらうのも悪くないというのもちょっとしたファンタジーだ。夢を買いたいという人はいるものだ。
これまでは尖閣諸島の地権者といえども、自分の所有している土地に入ることができなかったが、それは地権者が国にその土地を貸して国の管理下に置かれていたからだった。東京都の所有ということになれば変わるかもしれない。
実際の購入には都議会承認以前の手順もある。東京都が土地を購入するときは現地調査して地権者とも交渉して評価額を決めるのだが、一部報道では地権者からの評価額が出ているものの、正確な査定は必要になる。そこで査定のための測量だが、現在借りている国の認可が必要になる。こういうからくりでもしかすると国がまた面白いパフォーマンスをやってくれるかもしれない。
どうなるんでしょうかね。
以上の話は、ふんふんと聞き流していたが、その先に驚く話があった。
藤村修官房長官が17日の記者会見で、現在個人所有となっている尖閣諸島について、必要なら国が購入する可能性があると示唆したことだ。すると、国有化ということになる(参照)。
東京都が購入できるものなら、日本国も購入は可能だが、国が出てくると一気に国家の問題となる。私的セクターの問題からは逸脱する。国家の強制とまでは言わないまでも、こんな領域に国家がずかずかと出てくるとなれば、この話がまさに国家の問題に転換する。民主党は尖閣諸島を国家の問題として騒ぎたいのだろうか。
大手紙のなかでいち早くこの問題を扱った朝日新聞社説「尖閣買い上げ―石原発言は無責任だ」(参照)を読むと、地方自治における地方議会の意味を理解していない点は苦笑で過ごすとして、「藤村官房長官はきのうの記者会見で、国が購入する可能性を否定しなかった。東京都よりも外交を担当する政府が所有する方が、まだ理にかなっている」と述べた。
朝日新聞も、もう、やる気満々でこうした本来私的セクターの所有権の問題を、国家の問題に格上げしたいのである。その感覚というのは、私的セクターの所有権が尊重される民主主義国ではなく、まるで共産党支配の中国みたいだな。
そもそも尖閣諸島が国家所有だったと思い込んでいる人や国家の問題として騒ぎたい人がいることが今回の件で驚きもあったが、ウォールストリートジャーナル「大売出し:領有権問題付きの島」(参照)は外国の新聞だからか、ぬけぬけとこう書いているのだった。
奔放な言動と旺盛な愛国心で何かと話題をふりまく石原慎太郎東京都知事。それだけに今回の東京都の尖閣諸島買収の意向表明にも驚きはなかった。むしろ驚きはこの中国、台湾も領有権を主張している島々が、民間人に所有され、売りに出されていたということだ。
外交上の扱いが難しいこの土地が、なぜ遠く離れた東京郊外に住む一介の民間人に所有されていたのか?
もちろん、日本人なら常識の事でも、外国に伝えるために修辞的に「驚き」と書いているには違いない。
これを機会に中国にも理解を浸透させるとよいだろうとも思うが、案外中国はこうした事情をきちんと理解していたかもしれない。噂に過ぎないのかもしれないが、中国も尖閣諸島を40億円ほどで購入したかったらしい(参照)。
中国が日本の法に則って日本の領土の一部を購入するというなら、これできちんと尖閣諸島が日本の領土だということを中国が認識していることになる。
鳩山由紀夫・元日本国首相も「日本列島は日本人だけの所有物じゃないんですから、もっと多くの方々に参加をしてもらえるような、よろこんでもらえるような、そんな土壌にしなきやダメですよ」と言っていたものだった(参照)。あ、その、鳩山由紀夫、「元日本国」、首相ではないので、ご注意。
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コメント
市場相場の通りの価格ならとやかく言うことがないし、所得税が国庫に納められるならとか、その個人の所得が何に使われるのかとか下世話ながらきになるかなぁ。あとは、今の地権者は、いったい誰から買ったものなのだろうかとかは、強く気になるところ。ま、うまくまとまらないと思う。知事も任期がくれば、かわるだろうし。
投稿: | 2012.04.18 22:42
えー、植樹は良くないと思います!
尖閣諸島にしかいない希少な動植物もあるようですし、
むしろ、外来動植物の駆除に行きたいです。
散骨も土壌に影響与えたりしないですかねぇ?
投稿: ナナシたぬき | 2012.04.18 23:26
1番目のコメントの方が気持ち悪いです。
今の地権者は尖閣諸島が日本の国土として認められた直後に払い下げてもらった方から譲ってもらったようですが?
投稿: | 2012.04.19 14:19
東京都が「東京都尖閣諸島寄附金」を開始しました。
東京都のホームページに載っています↓
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/senkaku.htm
私もたった1万円ですが募金しました。
拡散希望!
投稿: 真実の目 | 2012.04.28 07:11