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2012.04.20

スーダンと南スーダンの戦争状態で南スーダンPKOをどうするのだろうか

 スーダンと南スーダンの状況について、日本も関係していることもあり簡単にメモしておきたい。
 まず日本が関係する部分だが、今日問責決議を受けた田中直紀防衛相が焦点になる。3月14日の予算委員会でゴラン高原および南スーダン国連平和維持活動(PKO)について問われた際、彼は「緊急撤収計画」は未読であると答えた。さらに26日の予算委員会でも「表紙しか見ていない」と発言した(参照)。それで防衛相が務まるものなのか。務まらないと野党が判断したから問責決議を受けたが、民主党は田中直紀防衛相の続投を支持しているし、野田ちゃん首相もそれでいいと思っているらしい。
 スーダンと南スーダンが軍事衝突が拡大したら日本は南スーダンPKOをどうするのか。この点について3月28日の参院外交防衛委員会で問われた田中防衛相は「内閣で相談し、国連の動きも見て、決断すべきときは決断するということで判断したい」と答えている。そして現在、スーダンと南スーダンが軍事衝突となっている。いまここ。
 外務省のまとめを元に今回の事態の経緯を素描しておこう(参照)。
 3月26日早朝、南北スーダンの国境付近でスーダン軍(武装勢力含む)と南スーダン軍との間で、爆弾投下を伴う限定的な衝突が発生し、スーダン軍が南スーダンのユニティ州に侵入した。これに南スーダン軍が応戦して、スーダン軍をスーダン領コルドファン州まで撃退させ、さらに南スーダン軍は報復攻撃としてスーダンのヘグリグ(Heglig)地域の油田を占拠した。
 27日、スーダン軍は再度南スーダンのユニティ州北部の油田地帯を爆撃。南スーダンのサルヴァ・キール大統領はこのスーダンの軍事活動を非難。スーダン側はそれを受けて4月3日に南スーダンの首都ジュバ(Juba)で予定されていた南北首脳会談の延期を通告した。
 今回の事態の発端を見ると、スーダン側が最初に手を出したかに見える。だが、これは常態ともいえる衝突で、問題化したのは、南スーダンがスーダンのヘグリグ地域の油田を占拠した要因が大きい。その意味で南スーダン側に大きな非があるとしてもよいだろう(なお、南スーダンとしてはヘグリグ地域は自国域だと主張している)。

 その後だが、スーダン側はヘグリグ地域の油田の奪還を目指して戦闘を激化させた。4月14日までにはこの地域の1万人もの住民が避難する事態となった(参照)。
 15日には、スーダンとの国境に接する南スーダンの町マヨムで、スーダン軍の戦闘機が投下した爆弾が国連PKO部隊の駐屯地に着弾。マヨムは陸上自衛隊が活動している首都のジュバから500キロ以上離れていることから、日本の民主党政権は自衛隊のPKO活動には影響はないと判断した。
 派遣先の国家という単位で考えたらこの事態で戦闘地域と見なしてもよさそうなものだし、イラク戦争後にはなにかと自衛隊派遣が問題となったものだが、理由はわからないが、今回はさほど問題にもならない。ネットでもこの問題を取り上げている例はあまり見かけない。
 16日にスーダンの議会は、南スーダン軍に対して「打倒するまで戦わなければならない」敵と見なす決議案を採択し、バシル大統領はこれを承認した(参照)。
 普通に考えればこれで戦争になったと判断してよさそうなもので、実際、19日、現地にいるライマン米国特使は電話会見で「事態はすでに戦争状態だと言わざるをえない」と述べた(参照)。
 PKOとして陸上自衛隊を派遣している日本は、ここまで事態が悪化してどうするのだろうか。自衛隊側では、岩崎茂統合幕僚長は19日の記者会見で、「戦闘地域がジュバから500キロぐらい離れており、任務に影響はないと判断している」と述べた(参照)。民主党政権側からの発表はないようだ。野田ちゃん首相、現下の事態を知らないのかもしれない、案外。
 今回の戦争状態について、スーダンと南スーダンのどちらに非があるだろうか。
 すでに初動については述べたが、もう少し広い構図で見ると、焦点となるのは、スーダン側にあるヘグリグ地域の油田に対する南スーダンの制圧である。この油田はスーダンの日産原油の55%にも及ぶ(参照)。つまり、ここを制圧されればスーダンとしては死活問題とならざるをえない。おそらく南スーダン側としては、ヘグリグ地域の油田を南スーダン側に取り込みたいのだろうが、現下の国際状況のなかでは暴挙と言える。
 さらにさかのぼること1月20日以降、南スーダンは石油パイプラインの使用料でスーダンとの対立し、日量35万バレルの上る石油生産を全面的に停止していた。これには奇妙な裏話がある。
 2月20日、南スーダンの石油エネルギー・鉱山省は、同国内最大の石油会社ペトロダール社の社長劉英才氏に対して、72時間以内に国内退去を命じた。理由は、同社が南スーダン政府が決定した石油生産停止に従わず生産を継続し、その売上げをスーダンに渡していたとのことだ(参照)。この停止措置は、石油パイプラインの使用料問題の紛糾による南スーダンの勝手な決定である。
 事実の詳細はわからないが、ペトロダール社が南スーダンの決定に従わなかった部分は事実であろうし、この決定で同社の背後にいる中国政府を南スーダンが敵視した点も事実であろう。ペトロダール社は中国の国有石油会社で、生産量は南北スーダンを合わせた日量の5割強に相当するほど大きい。中国としても大問題であるが、打つ手のない状態が続いていた。今回のスーダン側の対抗によって南スーダンが軟化すれば中国にとっては利益になるとは言えるだろうが、そこに中国側の画策を見るのも行きすぎだろう。
 これまで西側世論としては、ダルフール危機に関連して戦争犯罪人として起訴されているスーダンのバシル大統領を非難してきたが、この件では被害者の位置に納まることになった。
 

追記(2012.4.21)
 南スーダン政府からヘグリグ撤退の表明があった。毎日新聞「南スーダン:油田地帯から撤退表明」(参照)より。


スーダンと南スーダンとの国境地帯で続く両国軍の衝突で、南スーダン政府は20日、南スーダン軍が制圧したスーダン領内の油田地帯ヘグリグから撤退すると表明した。一方、スーダン政府は南側の表明直後、「ヘグリグをスーダン軍が解放した」と発表した。ロイター通信が報じた。どちらの発表が事実かは不明だが、南側がヘグリグから退くことで、危惧されてきた全面戦争突入が回避されるか可能性が出てきた。

 ただし現状では撤退は確認されていない。VOA「South Sudan, Sudan Claim Control of Heglig Despite Withdrawal」(参照)より。

Later that evening, however, South Sudan's ambassador to the United Nations, Agnes Oswaha, told reporters at U.N. headquarters in New York that southern forces were still in complete control of Heglig. She did confirm that all southern forces would be out of Heglig within 72 hours.

 日本国内動向だが。産経「治安情勢の調査指示 南スーダンPKOで防衛相 陸自は週明けに報告」(参照)より。

 陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)で展開している南スーダンとスーダンの間で衝突が激化している問題で、田中直紀防衛相が治安情勢の徹底調査を指示したことが20日、分かった。田中氏は現地調査団の派遣も検討するよう求めたが、調査団を送れば2次隊の派遣時期が遅れる。このため、現地を訪問中の陸自中央即応集団司令官が週明けに視察結果を報告することで調査団派遣は見送り、活動も継続する方針だ。


 陸自は2次隊として5月から6月にかけ約330人を送る計画で、今月末に派遣命令を出すことを予定している。仮に調査団を派遣するとすれば、団の編成から派遣後の報告まで数週間かかる。その間、2次隊に対する派遣命令の発出や移動時期・手段の確定も先送りを余儀なくされる。
 2次隊の到着まで1次隊は現地にとどまらざるを得ず、活動期間も延びる。初動部隊として緊張状態の中で活動した上、帰国が遅れることになれば隊員の士気も低下しかねず、「2次隊は予定どおりのスケジュールで派遣すべきだ」(防衛省幹部)との声が多い。

 二次隊の派遣時期が遅れるのを恐れて調査団派遣は見送られるということになりそうで、どうも自衛隊の事務側の都合で独走している雰囲気がある。非常に危険なのではないか。
 
 


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コメント

昔の軍官僚, 今の内局.
今も昔も, 政府が弱くなると, 官僚は自分の都合
で暴走するから恐い. 財務官僚の暴走を戦前の
軍官僚の暴走になぞらえる意見もある.

投稿: ちび・むぎ・みみ・はな | 2012.04.21 18:29

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