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2012.03.15

日米欧がレアアースで中国をWTO提訴、え?

 日本、米国、欧州連合(EU)が13日、共同して中国のレアアース(希土類)輸出を不当に制限について世界貿易機関(WTO)に提訴(紛争解決手続き)をした。中国が設定したレアアースの輸出税で各国企業が貿易上の不利な扱いを受けているというのである。
 中国を国際ルールに載せるためにいろいろな手を打ってますというポーズが米国に必要なんだろうなと聞き流していたら、朝日新聞を除いて大手紙がこの問題を社説で扱っていて、むしろそのことに驚いた。
 ざっと各紙社説を見ておこう。読売新聞社説「レアアース提訴 中国はWTOルールの順守を」(参照)より。


 レアアースは、ハイブリッド車や省エネ家電のモーターなどに不可欠な材料で、中国が世界生産の9割を占めている。
 中国は2010年からレアアースの輸出規制を強化し続けている。「環境と資源保護のため」と主張するが、自国企業に有利なように資源の囲い込みを狙っているのは明らかである。
 輸出規制で需給が逼迫した結果、レアアース価格が急騰している。日本や米欧企業の生産に支障が出ているのは問題だ。
 中国の輸出規制を放置すれば、企業生産への悪影響が一段と広がる。他の新興国などでも保護貿易主義の台頭を誘発しかねない。

 中国のレアアース規制で世界の企業に支障があるとしているが、よく読むと問題は「レアアース価格が急騰」であることは押さえている。

 今回の提訴を主導したのは、今秋の大統領選で再選を目指すオバマ米大統領である。
 大統領は、製造業復活や雇用拡大を掲げている。最大の貿易赤字国である中国との公正な競争のルール作りを訴え、選挙戦で主導権を握りたい考えだろう。

 背景に米国大統領選があるとの指摘だが、妥当なところだろう。
 毎日新聞社説「中国WTO提訴へ レアアースの確保急げ」(参照)の基本線は読売新聞社説と同じ。

 政府は中国政府に対し、改善を求めてきたが、変化の兆しはない。こうした情勢の中、政府が問題をWTOに持ち込んだことは、国際的な紛争処理ルールにのっとって、公正で透明性の高い解決を目指すものとして評価したい。
 もっとも、今回は米国の政治的思惑も拭いきれない。対中貿易赤字が膨らむ米国では、中国の経済政策に対する不満が高まっている。大統領選を控えるオバマ政権は、中国に対する強硬姿勢を示す必要があったと思われる。

 危機管理の文脈から中国依存への転換も指摘されている。

 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件が起きた10年秋には、2カ月にわたって対日輸出がストップし、レアアースが外交カードに使われたとされる事態も起きた。レアアースは、付加価値の高いハイテク製品で活性化を目指す国内製造業の命運を握るものともいえるだけに、中国依存一辺倒からの脱却を急ぐ必要もある。
 商社などが、カザフスタンやベトナム、インド、オーストラリアなどでレアアースの資源確保を進めつつある。政府の支援で後押しする必要があるだろう。代替技術の開発や家電製品からの資源回収などにも一段と力を入れてほしい。

 常識的な議論に見えるが、その実情を背景にしているわけではない。
 産経新聞社説「中国とWTO 規範破りに厳しい対応を」(参照)は産経らしい風味があるというくらいで他紙と主張の方向に違いもないので省略し、日経新聞社説「圧力と対話で中国に譲歩促せ」(参照)だが、基本は同種の主張であるものの、外交上の問題を注視している。

日本が中国をWTO提訴するのは初めてで、対中通商政策の転換点ともいえる。日米欧が共同歩調をとったことで中国への圧力は格段に高まった。国際ルールを使い、案件ごとに是非を問う今回の判断は正しい。
 ただ、圧力だけでは問題は解決できない。日本にとって大切なのは資源の安定確保だ。WTOでの議論とともに、中国との対話も並行して進める必要がある。

 面白いのは実質ダブルスタンダードを勧めている点である。

 米中の間には経済政策について幅広く話し合う、米中戦略経済対話の枠組みがある。それに比べ、日本と中国とのパイプは不十分だ。表舞台で高めた圧力を背景に、政府は中国から譲歩を引き出す対話を深めてほしい。

 以上、今日まで沈黙している朝日新聞を除き、大手紙社説間で大きな意見の相違はない。中国を国際ルールに載せようという点と米国の外交戦略の一環であるという点である。別の言い方をすれば、資源問題ではないというのが明瞭な形ではないものの押さえられている。
 比較にフィナンシャルタイムズ社説「レアアースについての誇張された脅威(The overstated fear for rare earths)」(参照)を読むと、レアアースだから稀少というイメージに反して、希少性の問題とは言い難いことを明言している。

China’s market dominance has less to do with the rarity of these minerals - they are not all that rare - than with better standards elsewhere having made Chinese supplies particularly attractive. Other countries and companies are belatedly developing new sources of rare earths.

中国の市場支配は、これらの鉱物資源の稀少性に関連しているというより、他所にはましな基準があるせいで特段に中国の供給に旨味があることに関連している。これらの資源は稀少ではない。他国と企業は遅ればせながらレアアースの新資源を開発している。


 レアアースは、ようするに中国品が安いから中国に集中していたわけで、安さの原因は環境規制の緩さにある。
 フィナンシャルタイムズとしては、今回提訴受けて中国が規制強化を弁明にしたが、あながち外れているわけでもないとも指摘している。それでも貿易ルール上は問題がないわけでもないから、提訴もよいだろうと展開して、日本の大手紙と似たような主張に落としている。ただし、米国大統領選といった読みについては言及していない。
 話はそれだけのことだが、ちょっと面白い指摘もあった。

Weak demand from stagnating economies has put downward pressure on prices. Last year, buyers of China’s rare earths did not use up the available export quotas.

経済停滞による需要弱化は価格の下方圧力をもたらしている。昨年の、中国のレアアース購入者は、入手可能な輸出割当てを使い切っていない。


 例外もあるのではないかとは思うが、フィナンシャルタイムズが指摘しているように、現実はレアアースが入手できないと騒ぐほどことはなく、むしろ逆に、世界経済の停滞で資源価格の低下が問題になっていた。
 とすると、逆に見ることも可能だろう。価格維持のために、中国は市場と需要を見つつ規制を強化しているのはないか。
 レアアースと限らず、世界経済停滞による需要弱化は石油などにも及んでいるはずで、石油危機も多分に同種の演出がありそうだ。
 
 

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コメント

泣くつもりはなかったのに、泣いてしまった。

投稿: waki | 2012.03.17 13:37

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