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2012.03.31

沖縄海兵隊メモ

 今週の日本版ニューズウィーク(4.4)の表紙に大きく「普天間と日本」とあり、沖縄の基地問題を扱っていた。その下には「海兵隊をめぐる勘違い」とある。沖縄の基地問題というより、在沖海兵隊についての話題が基本である。私にとっては目新しい知見はなかったが、確認としてブログにメモしておいてもよいように思われた。

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Newsweek (ニューズウィーク日本版)
2012年 4/4号 [雑誌]
 記事はジャーナリストのカーク・スピッツアー(Kirk Spitzer)氏によるもで、英語のタイトルは「Time to Pack up?」となっていた。私の記憶ではこの記事を英語版のNewsweekで読んだことはない。ざっと検索しても見当たらない。むしろ基本的な主張と取材は、今年1月同氏がTimeに寄稿した「Marines on Okinawa: Time to Leave?」(参照)と同じなので、日本版の編集者が「Time誌のこのネタで行こう!」とやってしまったような印象がある。
 最初にこの話題のもっとも基本的な枠組みを、私なりに説明したほうがよいのではないかと思うのでつらつらと書いてみる。
 沖縄で展開されている反米基地闘争的な運動だと、いろいろなご事情から「米軍基地」として雑駁に捉えられているが、米軍には4軍(正確にはCoast Guardを入れて5軍)、陸・海・空に海兵隊があり、その差の認識が重要になる。海兵隊は、"Marine Corps"ということから沖縄では「マリーン」とも呼ばれることもある。
 問題となっている普天間こと普天間基地、つまり普天間飛行場だが、これは海兵隊に所属している。飛行場だからといって空軍にではない。対して通称嘉手納基地こと嘉手納飛行場は、空軍に所属するが、ここには海軍駐機場もあり海軍にも関係がする。
 日本軍や自衛隊の構成から陸・海・空の3軍は理解しやすいが、海兵隊は理解しにくいかもしれない。イメージとしては海軍の歩兵と言ってもよいのかもしれないが、海軍の組織ではない。海軍と分離されている由来には、いろいろと歴史があるが、日本では事実上、軍事の歴史がタブー化されているので世界史などで教えられていないように見える。
 海兵隊の働きだが、これもイメージだと言ってよいのだろうが、その兵を船で運び敵地に上陸させ、いわば肉弾で戦闘させる。米軍が他国で戦闘するときはこれがもっとも重要になるし、沖縄戦でも熾烈な戦闘に当たった。
 話が多少飛躍するが、沖縄戦で海兵隊は辛勝した。そこで海兵隊にとって沖縄という土地は日米戦争の記念トロフィー的な意味が付与されてしまっている。記念だから手放したくないという心理がある。
 また、マッチョな組織でもあり、退役兵も米国社会的にその線で敬意をもって受け入れられ、さらにそこから政治的なロビー組織も形成し、政治に対して強い力を持っている。さすがに太平洋戦争が終了して半世紀以上の時が流れ、沖縄戦経験を持つ退役者も減ってきたが、沖縄はベトナム戦争のときも拠点だったので、そのあたりで青春の思い出を持つ人は少なくない。
 余談が伸びてしまうが、海兵隊が起こした事件として沖縄少女暴行事件に少し触れておく。私は当時、沖縄で暮らしていた。当然。この事件は沖縄で大きな事件として報道されていたが、日本本土側の反応は鈍かった。それが国際的ともいえる大々的な問題に発展したのは、米国でこれを問題視して日本本土側に反映されたためだった。なぜ米国で大問題になったかというと、あまり報道されない二点があった。一つは、建前上海兵隊員は英雄の卵なのでそんな不名誉は断じてならないということだった。もう一つは、私が当時インターネットでニュースや掲示板などを見てわかったのだが、この問題には人種問題や海兵隊内部の問題が関係していた。その暗部が露呈してしまったというパニックでもあった。
 話戻して、海兵隊というのはそういう性質のものなので、実戦となれば当然隊員を上陸させるための揚陸艦が重要になるのだが、それが沖縄には配備されていない。在沖海兵隊には緊急事態を想定した即戦力はない。であれば沖縄に常時多数の海兵隊員を配備しておく必要もない(台湾有事に備えた少数の特別任務はありえる)。
 ではなぜ多数の在沖海兵隊員がいるかというと、基本的に訓練場となっているためである。さらに10万円くらいで雇われている若い海兵隊員にとっては、フロリダみたいにすごしやすくて、そのほかいろいろ特典のある沖縄は魅力な場所になっている。なお、市街地近辺で実弾がぶっ放せる訓練場だったのは、沖縄は米統治時代、日本ではなかったことに由来する。
 加えて、普天間飛行場の由来。沖縄戦後、米国によって住民を追い払って建設されたものとされているが、間違いではないのだが、その目的は日本本土攻撃に備えるためだったので、その目的が終了してからは、市街地でもあり撤廃の方向だった。また建設時では陸軍に所属していたが、その後空軍に移管され、空軍での統合・整理の対象となっていた。このあたりはまだ秘史に関連するかもしれないが。
 この間、普天間飛行場が撤廃されず息を吹き返したのは、朝鮮戦争による影響である。1956年に岐阜県と山梨県にあった海兵隊基地を沖縄に移したためだ。なぜ移したかというと、日本国内では反米基地運動が盛んだったので、当時日本ではない沖縄に移転すればよいということだった。その理屈からすれば、沖縄が本土復帰した時点で、いったん、岐阜県と山梨県とはいかないにせよ、本土側に戻すべきだったのかもしれない。だが、この時点ですでにベトナム戦争での利用に組み込まれていた。
 簡単な前振りのはずが長くなってしまったが、具体的な戦闘能力という点のみで見れは沖縄海兵隊の意義はそれほどない。また、実際の戦闘ということでは空軍の嘉手納基地が重要になり、沖縄の米軍問題としていっしょくたには議論できない。
 さて、ニューズウィークの記事。
 基本線として国防総省系シンクタンク、アジア太平洋安全保障センターのジェフリー・ホーナング准教授の個人的な見解として、「沖縄から海兵隊を移転させたら、日本かアメリカの安全保障が損なわれるか。そうは思わない。そろそろ(海兵隊を動かしても)いい頃だろう」というコメントを引いている。ちなみに、これは先のTime誌記事にもそっくりある。
 この見解だが、単純に受け取るのではなく、国防総省あたりの観測気球的な思惑だとまず理解したほうがよい。が、その後の経緯、つまり普天間問題と在日米軍再配置問題の切り離しの動向を見ていると、背後には海兵隊の見直し論は潜んでいるのだろう。
 記事中の数値だが、在沖海兵隊員は1万4000人。うち早期展開可能な要員が半数。主力戦闘部隊となる第31海兵遠征部隊の兵力は2200人。

 海兵遠征軍は通常、2個師団以上の地上部隊や支援部隊を指揮するようにできている。例えば、91年の湾岸戦争で、第1海兵遠征軍は10万人超規模の海兵隊を指揮した。だが沖縄の第3海兵遠征隊の指揮下にある兵力は数千人程度だ。海兵隊は厳密な数字を示さないが、ほぼその全員が情報収集や通信、エンジニアリング、医療、人事などの支援任務に就いている。

 先の揚陸艦の話も関係する点では。

 さらに、沖縄駐留継続論の論拠の少なくとも一部は、もはや時代遅れになっている。朝鮮戦争やベトナム戦争の時代は、米本土からアジアに部隊を運ぶ手段が船舶だったので、沖縄に基地があるおかげで移動時間を大幅に節約できた。沖縄の基地は、戦闘を支える準備拠点としても大きな機能を果たした。
 しかし今日では、中継地を経ずに長距離輸送機で戦闘地帯に部隊を直接送り込むのが一般的だ。


 抑止効果の面で、沖縄に海兵隊を残す必要はあるのだろうか。「何に対する抑止力なのか。もし中国を念頭に置くのであれば(沖縄の海兵隊がいなくなっても)海軍の第7艦隊がいる。北朝鮮に対しては在韓米軍がいる」とホーナングは言う。

 このあたりは、実際に米軍がどのような対中軍事シナリオを持っているかによる。だが、この点についてはウィキリークスで暴露されたのだが、日本が民主党政権になってから米国側としては、日本側に対応できる責任者が不在になったから公開できないとしている。
 またベトナム戦争の時代はジャングル域での戦闘訓練として似た環境の沖縄が重視されていた面もあるが、そのあたりも変化しつつある。

 そもそも、部隊が沖縄に駐留していてもアジアの戦闘地域に迅速に展開できる保証はない。この10年間で何千人もの沖縄駐留海兵隊員がアフガニスタンに派遣されたが、ほとんどの隊員はその前に、訓練のためにカリフォルニア州の基地にいったん連れていかれた。沖縄で行える訓練に制約があるからだ。
 カリフォルニアの基地で数週間の訓練を積んだ兵士たちは、沖縄を経由せず、輸送機で直接現地入りした。沖縄の基地に駐留していることで時間を節約できるどころか、むしろ遠回りを強いられたのだ。

 同記事はそうした点から、沖縄海兵隊の不要論というあたりを面白おかしく展開している。そのため、配備予定のオスプレイの意味合いなどの考察は含まれていない。
 この問題は、いろいろと錯綜している部分がある。また多分に政治的な側面が大きい。雑誌記事レベルの知識で議論を展開していもなかなか現実には対応できないし、民主党政権の失敗でしみじみと理解できた部分も大きい。
 
 

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コメント

台湾有事の際は普天間の海兵隊でないと地理的に即時対応できないという話がありますがどうなんでしょう?

投稿: | 2012.04.01 17:43

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