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2012.03.06

[書評]めまいについての二冊の新書

 人はなぜ病気になるのか。病気をもたらす実体が明らかになれば対処も可能になるので、近代医学はそれを細菌やウイルスとして突き止めていった(真菌の毒性については伝染性がないことで研究が遅れた)。
 ウイルスによる疾患も多く解明されてきたが、まだまだ未知な部分もある。さらにウイルスという実体が原因とは考えづらい病気も多い。例えば、癌によってはウイルスによって発症することもあるが、基本的に遺伝子の変異から起きる。また発生した癌を身体から排除しきれないという点では、免疫の問題とも言える。
 めまいという疾患については因果関係がさらに複雑になる。細菌やウイルスといった実体が関係していないわけでもないが関与は少ないようにも見える。遺伝子変化や免疫の問題ともいいがたい。しかし、日常多くの人が遭遇する病気でもあり、一般書も多く書かれている。病気とは何かという観点も含めて、比較的最近の知見を含んでいると思われるめまいについての二冊の新書を読んだ感想のようなものを記してみたい。

cover
めまいの正体
 一冊目は「めまいの正体(神崎仁)」参照)である。2004年の刊行だがまだ絶版にはなっていない。読み継がれているかあまり売れなかったかだが、前者ではないかという印象はある。帯に「それは生活全体の赤信号!」とあるように、生活習慣によってめまいがコントロールできることが主旨になっている。本文を読むと「めまいのかなりの部分は生活習慣病である」とまで書かれている。全体の構成もその主旨によっている。

第1章 セルフコントロールをめざして
第2章 めまいを起こすからだの仕組み
第3章 四つの誘因ここにご注意!
第4章 はじめようセルフコントロール
第5章 セルフコントロール可能なめまい
第6章 セルフコントロールできないめまい
第7章 生命にとって危険なめまい
第8章 リハビリテーションと自己評価

 著者はこの分野の専門家ではあるが、肥満や高血圧といった生活習慣に関連深い病気とめまいが同種の範疇に入るのか素人でも疑問に思うだろう。標準的な医療書「メルクマニュアル」(参照)を参照しても、めまいが生活習慣によるといった知見は見当たらないように思える。が、仔細に読み直してみると重篤な病気が原因となるのは5%とあり、そこから類推すると、大半のめまいは生活習慣によると言ってもよいのかもしれない。
 本書では、6章と7章といった後半部でセルフコントロールできないめまいを扱うが、全体としては、めまいをコントロールするための生活習慣の提言となっている。3章では、めまいの要因として、睡眠・血圧・脳循環・ストレスを取り上げている。4章ではこれをコントロールする生活習慣が論じられる。
 読んでいて正直なところ奇異に感じられるのは、それらはめまいというより、普通に「健康」という問題なのではないか。問題設定が正確とはいえないのではないかということだ。「睡眠・血圧・脳循環・ストレスといった生活習慣が問題なのです」の主題には「鬱病」や「肥満」、「心疾患」なども含まれそうに思える。
 また巻末の付録に顕著なのだが、めまいについて、個人の性格と関連した、実質的には「心身症」と見ているようだ。

附録1 何かを受診するか
附録2 めまいの診療手順
附録3 心理検査 ①エゴグラム、②CMI・うつ病質問票、③STAI検査法
附録4 自律訓練法
附録5 認知療法

 率直なところ一種の疑似科学の領域に近い印象ももった。もちろん、睡眠・血圧・脳循環・ストレスを管理するのは健康によいのだから、よいではないかと言えないことはない。
cover
薬も手術もいらない
めまい・メニエール病治療
 二冊目「薬も手術もいらない めまい・メニエール病治療(高橋正紘)」参照)は今年の1月の刊行で、先の文春新書の書籍から6年が経過し、別の著者ではあるが、同じテーマがどのように扱われているか関心をもって読んだ。結論からすると、文春新書と同じく、生活習慣を問題としている。

 めまいやメニエール病の原因の多くは、実は日常生活のひずみにあり、いわば生活習慣病なのです。ですから生活習慣を正さない限り、根本的な解決や治療はありません。

 率直なところ、それでは文春新書に加えて読むほどの意味はないとも思われた。が、本書では、実際の治療にあたってきた著者の現場感覚のようなものが興味を引いた。

 長らく大学でバランスや揺らぎの研究をしてきた私が、専門知識を患者さんに還元し、さらに研究を深めたいとめまい専門クリニックを開設したのは2006年5月です。以来5年間に、約3000人の患者さんを診察し、治療にあたるなかで、さらにめまいに対する理解が深まり、治療に確信が深まってきました。

 特にメニエール病に焦点を当てている。

 メニエール病の人の内耳には「内リンパ水腫」、つまり水ぶくれの状態ができていることはわかっていますが、なぜそれができるのか、まだ解明されていません。1974年(昭和49)年に厚生省特定疾患(難病)の一つに指定され、専門家によるメニエール病調査研究班が発足、以来40年近く研究が続けられていますが、わからないことがあまりにも多い病気です。


 メニエール病治療の現状は惨憺たるものです。現在盛んに行われている治療では、残念ながらメニエール病は治りませんし、それどころか副作用や後遺症を残すことすらあります。特に、私は次の3点に大きな疑問を持っています。
 第一は、無効な薬が何の疑問も持たれずに、20年以上も使い続けられていること。
 第二は、一時的な効果しか得られない手術が、一部の医療機関では、ひんぱんに実施されていること。
 第三は、後遺症のリスクの高い治療が、安易に実施されていること。

 ざっと読むと、標準的な医学に挑戦するトンデモ医学といった印象があっても不思議ではないが、本書は多数の臨床経験に加え、医学的な基礎をもって書かれていて、これらの疑問の正当性には説得力がある。
 実際の治療だが、書名のように「薬も手術もいらない」として生活習慣の改善が提起されている。内容は、文春新書よりも一歩進めて、有酸素運動も提起している。帯に「めまいは寝てても治らない」「3000人の患者を『ウォーキング』で治した!!」とあるように、有酸素運動として「ウォーキング」が指示されている。だが、実際の治療の説明を読むと通常のウォーキングよりも負荷は高いように思える。
 私の読後の印象だが、本書は臨床を考える上で非常に興味深い事例が多く、その治療法も実績を積み上げつつあることは理解できる。だが、医学的な説明としては納得しづらい面もあった。先にも述べたように、問題設定が明確ではなく、一般的な心身症に還元されているのではないか。また、指示される有酸素運動の効果は、うつ病などにも効果的なのではないか。そうであるなら、疾患の特定がまだ十分にできていないのではないかと思われた。
 生活習慣をあらため運動を生活に取り入れることは健康維持によいことに異論はない。またそれによって治療効果が得られるならよいことだ。ただ、メニエール病の病変が内リンパ水腫であるという点からは単純にヘルペスウイルスのようなウイルスが関与しているのではないだろうかとの疑念は残る。
 
 

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