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2012.02.11

イランを巡る不明瞭な状況

 イランを巡る不明瞭な状況を解き明かすことは難しいが、日本ではあまり見かけない話題もあり、簡単にだがそろそろ触れておいたほうがよさそうに思えてきた。話題のきっかけは1月11日の、イラン科学者モスタファ・アフマディロシャン(Mostafa Ahmadi Roshan)氏の暗殺である。
 翌日のAFP「イラン核科学者が爆弾攻撃で死亡、政府「イスラエルと米国の仕業」」(参照)より。


 イランのファルス(Fars)通信などによると、首都テヘラン(Tehran)で11日、自動車爆弾攻撃があり、核科学者のモスタファ・アフマディロシャン(Mostafa Ahmadi Roshan)氏(32)が死亡した。
 テヘラン東部にある大学の前で、同氏が乗る車にバイクの2人組が近づき、車にマグネット式の爆弾を仕掛けて爆発させたという。この攻撃でアフマディロシャン氏と車を運転していたボディーガードが死亡、1人が負傷した。

 イラン側はこの暗殺にイスラエルと米国が関与していると見ていた。1月13日付け読売新聞「イラン核施設幹部暗殺「CIAとモサドが関与」」(参照)より。

イランの最高指導者ハメネイ師は12日、同国核施設幹部の暗殺事件について、米中央情報局(CIA)とイスラエル情報機関モサドが支援したと明言した。
 国営通信が伝えた。ハメネイ発言は、事件に米国やイスラエルの関与があったとイランが結論づけたことを意味し、イランと米国の対立は一層深まりそうだ。
 ハメネイ師は、中部ナタンツにある核施設幹部だったとされる核科学者モスタファ・アフマディロシャン氏が11日、首都で爆殺された事件を受け、同氏の遺族へのメッセージを発表、この中で、「このテロ事件の首謀者はCIAやモサドの支援を受けて犯行を実行した」と述べた。

 イラン側の主張に裏付けとなる証拠が挙がっているかについては、他の報道からも読み解けない。
 問題は、この、イランが主張する、イラン科学者への暗殺が単発的なものではないという点である。先のAFP記事はこう伝えている。

■過去にも同様の手口で3人死亡
 アフマディロシャン氏は、出身大学のウェブサイトによると、ナタンツ(Natanz)のウラン濃縮施設の副所長を務めていた。
 イランでは、2010年と11年にも、同様の手口による攻撃で科学者3人が殺害される事件が発生している。このうち2人は核活動に従事していた。

 また、1月12日ブルームバーグ「イランの核科学者が爆死-政府はイスラエルの犯行と非難」(参照)より。

米国やイスラエルがイランに対し核開発の中止を求める中、同国の核科学者が標的となった事件は少なくとも3件目。


米国務省のヌーランド報道官は11日にワシントンで、「善良な市民に対するいかなる暗殺行為および攻撃も非難する」とのコメントを発表。イスラエル外務省のパルモール報道官は電話で、報道に関するコメントはないと語った。

 真相はわからないという状況が続き、実際のところまだ確定的なことがいえる状況ではないが、NBCが8日、関連の興味深い報道「Israel teams with terror group to kill Iran's nuclear scientists, U.S. officials tell NBC News」(参照)をした。

Deadly attacks on Iranian nuclear scientists are being carried out by an Iranian dissident group that is financed, trained and armed by Israel’s secret service, U.S. officials tell NBC News, confirming charges leveled by Iran’s leaders.

イスラエルのシークレットサービスはイラン反体制派に資金提供、訓練、武装を実施しているが、イランの原子物理学者への致死的な攻撃は、このイラン反体制派によって実行されたと、米国高官はNBCに語った。これはイラン指導者からの嫌疑を確認するものでもあった。

The group, the People’s Mujahedin of Iran, has long been designated as a terrorist group by the United States, accused of killing American servicemen and contractors in the 1970s and supporting the takeover of the U.S. Embassy in Tehran before breaking with the Iranian mullahs in 1980.

このイスラム人民戦士機構は、米国からテロリスト集団として従来から指定され、1970年代に米軍人と請負人を殺害し、イラン宗教指導者と断絶する以前の1980年、テヘランの米国大使館乗っ取りを支援したことで告発されている。

The attacks, which have killed five Iranian nuclear scientists since 2007 and may have destroyed a missile research and development site, have been carried out in dramatic fashion, with motorcycle-borne assailants often attaching small magnetic bombs to the exterior of the victims’ cars.

2007年以来、5人のイランの原子物理学者を殺害し、ミサイル研究開発場を破壊したとみられる攻撃は、劇場的に実行されている。よくある手口は、オートバイに乗った襲撃者が、犠牲者の自動車外部に小型時期爆弾を設置することだ。

U.S. officials, speaking on condition of anonymity, said the Obama administration is aware of the assassination campaign but has no direct involvement.

オバマ政権はこの暗殺活動を知っているが、直接的には関与していないと、匿名を条件に話す米国高官は語った。


 現状では真偽が確かめられないが、NBC報道によれば、2007年以来、5人のイランの原子物理学者が、イスラエル諜報機関支援したイラン内反対派によって暗殺され、オバマ政権は直接関与していないものの認知している、ということになる。おそらく、米国高官がそのように認識しているという点までは真実であろう。
 ではそのような、まさに陰謀と言ってもよい事態が進展しているのだろうか。そう考えても妥当なようだ。1月11日付けテレグラフ「The undeclared war on Iran is heating up」(参照)の推論は説得的だろう。

The assassination of another Iranian nuclear scientist in Tehran is further evidence that an undeclared war is being waged to prevent the ayatollahs from acquiring nuclear weapons. Mostafa Ahmadi-Roshan, a university professor who also worked as deputy director at the Natanz uranium enrichment facility, is the fifth Iranian scientist to be assassinated since 2007.

テヘランでまた原子物理学者の暗殺されたことは、シーア派指導者が核兵器獲得を阻むための、宣戦布告のない戦争が遂行されているという証拠を重ねるものである。ナランツのウラニウム濃縮施設副所長でもある大学教授、モスタファ・アフマディロシャンは、2007年以降に暗殺された5番目のイランの科学者である。

In addition, Iran’s nuclear programme has suffered serious damage from the Stuxnet computer virus, while mysterious explosions have occurred at two military bases, one of which killed the senior officer responsible for developing Iran’s ballistic missile programme.

加えて、イランの原子力計画はスタクスネット・コンピューター・ウイルスで重大な被害を被っており、2つの軍事基地で謎の爆発が起きたことで、イラン弾道ミサイルプログラム開発責任者の高官一名が殺害された。

It is highly unlikely that these events are unrelated, and the sophistication of the attacks suggests they are being carried out by agents working for Western or Israeli intelligence.

これらの事態が無関係だとはありえない。精巧な攻撃は、それが西側またはイスラエル諜報機関で働いている工作員によることを示唆している。


 証拠はない。だから、憶測にすぎないと言うことはできる。また、NBCのリーク報道もなんらかの意図による可能性もあるだろう。だが、一連の暗殺の背後にイスラエルを想定しないというのは、あまり合理的ではないだろう。
 だが、そうだとするなら、これはまさに"an undeclared war"(宣戦布告なき戦争)と呼びうるものになる。この状況を西側諸国は、それは憶測にすぎないとして看過していくのだろうか。現状としては、そうならざるを得ない。
 というのも、この延長にあるのは、イスラエルによるイランへの空爆であり、その遅延には非人道的な暗殺もやむなしという事実上の是認がある。
 イスラエルによるイラン空爆については、そのストーリーがもはや常識を逸したものではないことは、出川展恒NHK解説委員の時論公論「イスラエル先制攻撃はあるのか?」(参照)からもうかがえる。

 イスラエルには、慎重論もあるものの、ネタニヤフ首相やバラク国防相は、「核を持ったイランとの平和共存は不可能」と考えているうえ、「残された時間はわずか」と見ているようです。
 「イランは1年以内に核兵器を製造できるようになる」という情報があるうえ、濃縮ウランが地下の施設に移されれば、攻撃で破壊できなくなると懸念しており、そうなる前に、限定的な攻撃を、数日間行い、国連の主導で停戦に持ち込むシナリオを想定していると言うことです。

 この読みはかなり正確だろう。つまり、濃縮ウラン施設が地下に施設される時期に、過去の事例のように、限定的な空爆がなされる可能性は高い。
 出川解説委員は言及していないが、全体の流れから私はもう一つのシナリオもありうると考えている。
イラン国内の争乱の醸成である。現状、イラン国内は外側で見ているより不安定な状況にある。11日付け毎日新聞「イラン:権力闘争激化 反大統領派、体制変革を警戒」(参照)より。

 緊張緩和の動きと並行するように、イラン内政は混迷を深める。国営放送によると、反大統領派は今月7日、近く大統領を呼び、経済政策などの「不正」を問うことを決めた。反大統領派の先頭に立つラリジャニ議長は「大統領は国会を軽視している」と再三批判。大統領への喚問が実現すればイスラム革命(79年)以来初めてで、国会選挙を控えた大統領派のイメージダウンが狙いだ。
 イラン政界は、改革派が力を失う中、保守派内が大統領派と反大統領派に分裂。反大統領派はさらにラリジャニ議長らのグループや、革命防衛隊のレザイ元最高司令官らのグループに分かれ、綱引きを展開する。
 石油や天然ガスが豊富なこの国で、政界の関心は対外関係より莫大(ばくだい)な利権に向く。利権確保は政界の主導権と裏表の関係だ。

 こうしたイラン内の分裂に乗じて、イランの体制転覆までの争乱はないとしても、アフマディネジャド大統領派を失墜させるような争乱の誘発はありそうに思える。
 
 

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