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2012.02.17

卵子老化を巡る「もや」っとした思い

 バレンタインデーの日のNHKクローズアップ現代「産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~」(参照)を見て、なんとも「もや」っとした印象をもった。その「もや」っとした感覚が何に由来するのかしばらく自問自答し模索した。思いがくっきりとまとまったわけではないが、少し書いてみたい。
 クローズアップ現代の話はタイトルから推測がつくように、卵子の老化と不妊を結びつけているものだった。卵子は精子と違い、生まれたときから一定数であり、年齢とともに減少しまた老化する。このため、一定の年代以降は受精しづらくなる。つまり、妊娠しづらくなる。ではその年代はいつか。線引きが難しい。番組でもそれについては微妙にぼかしていたようだった。ゲストの杉浦真弓・名古屋市立大学大学院教授はこう語っていた。


 20代の前半ですと6%の不妊症が、40代ですと、64%になります。ですから、やはり20代が一番妊娠しやすいというふうに考えられると思います。


 (卵子の老化が不妊の大きな要因になっていることを)社会が知らないんだと思います。
 まず日本では、生殖に関する教育を全くしてこなかった。高校の教科書にも、なかなかそういった不妊症ということばが出てこない、家族計画ということばは出てきますけれども。それから一般の人たちは通常、メディアを通じてそういった不妊の知識などを得ているんですけれど、芸能人の方々、例えば45歳で出産するというニュースが流れると、自分も45歳で出産できるというふうに誤解をされる方が多いと思います。避妊ですとか、性感染症のところが中心的になっている、そういう教育がされてきた結果かなと思います。

 言葉でははっきりしたメッセージはなかったが、グラフでは年代による不妊症の割合が表示された。

 グラフの印象からすると、34歳までは不妊症は15%ほどと少なく、35歳から39歳でそれが30%ほどに倍増し、40歳から44歳でさらに倍の64%となるようだ。不妊を避けるというなら、35歳までに妊娠するか、あるいは40歳までに妊娠するか、どちらか。その線引きが難しい。そしてそれ以前に、「不妊を避けるために出産年齢を人生の計画にすべきなのか」という難問が横たわる。冒頭に書いた、「もや」っとした思いの一つはそこに関わってくる。人生の計画として、妊娠の年齢を決められるものなのだろうか。
 先日のエントリー「米国の婚姻率減少の理由はなにか」(参照)で日本の初婚年齢は男性は30.5歳、女性は28.8歳という統計を紹介したが、英国の例を参考にしたり日本でも都市部に限定したりして見るなら、おおよそ現代日本の女性の初婚の中央値は30歳くらいなのではないだろうか。
 私の記憶では不妊の判定は婚姻後2年で、そして自然の状態だと2年周期で出産だったが、それに合わせると、日本の女性は30歳で結婚し、32歳・34歳あたりで二子を産むというモデルになるかと思う。そういうふうに「人生設計」するという社会学的なモデルが一つ成立するだろう。だとすれば、少子化を問題だと騒ぐ日本国家及び社会は、そのあたりを中心点に支援の政策を打ち出していくことになる。そういう支援が見えるかというと、特に見えないようには思う。
 クローズアップ現代でも、初婚40歳という年齢が暗黙に不妊の要因とされた文脈で、仕事に専念し40歳で結婚し不妊に悩む女性を紹介していたが、こういうケースはどう考えるべきなのか。
 番組にはなかったが番組ホームページのほうでは、「産みたい時に産める会社を」という見出しがあった。が、それに対応する番組の内容はなかったように思う。理念としては、「産みたい時に産める会社を」なのだろうが、ではどうしたらいいかという答えは、いろいろ模索し検討しても番組では見つからなかったのだろう。余談だが、クローズアップ現代の番組は模索して作成されている。もう語ってもいい時期だが、以前ブログがテーマになったときは途中までこのブログも取材の対象になっていた。が、最終時点で落とされた。その残存は番組背景のでの「極東ブログ」という表示に残った。
 さて、「産みたい時に産める会社を」ということが見出しには、どういう話があるのか。重要なので杉浦教授の話のその部分を引用したい。


 具体的に企業がどうするってことは、私には思いつかないんですけど、ただ、やはり妊娠には期限があるってことを知っていただく。
 まず、全く皆さん、知識ないわけですから、まず知っていただく、そこからやはり自分の所で働く女性、あるいは自分のおつきあいしている女性に対して、妊娠の期限を知ったところから、そして支えていくことができるのではないかなと思います。
 (不妊治療を受け始めた方は)すごくつらい思いをされてると思います。ですから、今の女性たちは一生懸命勉強して、学歴も手に入れ、そして仕事もいい仕事を手に入れるということをしてきたわけなんですけれど、努力ではどうしようもないことが、やはりあるんですね。人の生死など、コントロールできないことがある。やはり子どもは授かるんだという気持ちを少し持っていただく。そして例えば、自分を責める気持ちが強い方も多いんですけれど、決して自分を責めるようなことではないというふうに考えていただきたいと思います。
 まずやはり卵子の老化ということで、妊娠には適齢期が、適齢期ということば、あまり好きではないかもしれませんが、あるわけです。ですから、その時点で、今、自分の抱えてる仕事、キャリアと、どちらが本当に子どもが欲しい人にとって大切なのかということを、しっかり考えていただいて、自分で決めていただく。そうであれば、やはり自分であとで後悔することがないのかなというふうに思います。
 今から20代の方であれば、予防していくことができることだと思いますし、今、30代の方であれば今、どうするのかということを考えていただく機会になるのではないかなと思います。

 率直な私の印象は、何を主張されているのかわからなかった。
 個別の主張はわかるのだが、全体的に何が語られているのかわからない。だが、しいてキーワードとして取り上げるなら、「予防」だろう。「不妊が予防できる」という考え方だ。では、どのように「予防」するかというと、ある年代以前に妊娠しなさいということなのだろう。35歳まで、あるいは、40歳まで。
 そしてその文脈に「産みたい時に産める会社を」という見出しがどう整合するのか。整合していないように思える。
 クローズアップ現代を批判したわけではまったくない。おそらく番組制作過程でテーマと主張が見失われていったのだろう。あるいは、いくつかの主張がうまく整合的に語ることができない状態になってしまったのだろう。
 それでも、番組の全体からは、杉浦教授の指摘にもあるように、妊娠の最適な年齢期間が学校教育などを通して周知ではなかったという論点がありそうだ。
 それを主張として「女性と限らず、女性をパートナーとする男性も妊娠適齢の年代について正しい知識を持つべきだ」としてみる。背景には、これまでそれが周知ではなかったという前提がある。
 そうなのだろうか。番組ホームページには掲載されていないが、番組の冒頭にはその認識状況についてグラフの提示があった。

 ホームページでも言及がなく、またグラフについての説明も番組ではそれほどなかったように記憶している。だが、この認知度のグラフを眺めてみると、仮に適齢期の線引きが女性の40歳だとするなら、6割は正しい認識を持っているとして読み取ることができる。
 「妊娠適齢の年代について正しい知識を持つべきだ」という命題が適応されるなら、残り4割に相当すると言ってもよいだろう。
 だが、こうも言えるはずだ――不妊症の率36%を仮に許容なリスクのように認識するなら、45歳まで自然に妊娠できる――その認識が誤っているわけではない。そう見るなら、「妊娠適齢の年代について正しい知識を持つべきだ」という主張は成立しない。すでに日本社会は正しい認識を持っていると見てよいことになる。
 自分なりにここまでの「もや」とした思いをまとめてみると、「妊娠適齢の年代」は女性の35歳なのか40歳なのかはっきりと言うことはできないし、45歳についても不妊症のリスクのようなものを許容するなら、そもそも「妊娠適齢の年代」意識について、日本国民はすでに正しい認識を持っていることになる。
 ではそもそも問題はないのか。「もわ」っとした思いから、クローズアップ現代のこの番組放送後、2ちゃんねるに倖田來未さんの「羊水発言」を擁護する話題を見つけた。ライブドアのトピックにも上っていた。「倖田來未の「羊水発言」を擁護する声が続出」(参照)より。


 14日、NHK「クローズアップ現代」で放送された「産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~」は、これまで知られなかった「卵子の老化」と「女性が適齢期に産める社会」について考える内容となり、放送直後から大きな話題となった。
 すると、放送後のネット掲示板では、過去に歌手の倖田來未が行った「羊水は腐る」発言に触れ、再び議論が起こっている。倖田は2008年のニッポン放送「倖田來未のオールナイトニッポン」内で、「35歳をまわるとお母さんの羊水が腐ってくるんですよね」と発言したが、「高齢出産の女性に失礼」など抗議の声が続出し、その後プロモーション活動の全面自粛や、CM放送の中止という事態に追い込まれ、報道番組内では涙ながらに謝罪を行っている。
 今回の「クローズアップ現代」でテーマとなったのは、羊水ではなく卵子だったが、ネット掲示板では「倖田來未はある意味正しかったのでは?」「言い方は違うけど、羊水が腐るというのもあながち間違いではなかったな。(高齢出産に対する)警告という意味ではありだな」あど、倖田を擁護する声が相次いだのだ。

 倖田來未さんの「羊水が腐る」発言は冗談でなされたとはいえ、まったく科学的に間違っている。しかし、もとの発言の文脈は、子どもをもちたいとする知人が35歳以前に結婚でできてよかったということであり、不妊と高齢化という意図の文脈でとらえるなら、クローズアップ現代の番組のように卵子の老化を考えるとするなら、そう外れたものでもなかったことになる。「高齢出産の女性に失礼」など抗議の声は、「老化する卵子」であれば失礼にはならなかったか。
 私の印象では、倖田來未さんが、「卵子が老化する前に結婚できてよかった」と発言しても、やはり、「高齢出産の女性に失礼」な発言だっただろうと思う。
 それらを整合した社会的態度で考えるなら、市民は「妊娠適齢の年代」を認識しつつも、誰の妊娠の年代についても言及してはならないということになるだろう。
 その結果、その認識のソースは他者の発言から得られないということになり、すると、これは国家なり一般意思なりのようなものが伝える知識となるのだろう。誰もが関わり誰かが直接対応しえないという点で、よい比喩ではないがごみ処理のように公共性がありその公共性が人口政策として国家の施策に関わるまでのものならば。
 論理的な帰結のようだが、「妊娠適齢の年代」を語る国家意思というのは、なんとも気持ちの悪いものでもあり、どこかに理路の間違いがあるようにも思う。これも「もわ」っとした部分だ。
 この問題は日本だけの問題ではないので、米国ではどうなのかいくつか情報をあたってみた。実は、クローズアップ現代が掲げたグラフが国際的に見て正しいのか疑念もあった。結論からいうと、大きな差はない。
 意外にも思えたのが米国疾病対策センター(CDC)に、「生殖補助技術(ART: Assisted Reproductive Technology)」(参照)が存在し、各種の資料を提供していたことだった。ざっと調べてみたが、日本にこうした国家機関が存在するのか私にはわからない。
 ARTの2009年のレポートを見ると、不妊症治療の場合の、加齢していく卵子(緑の丸)と提供された卵子(青の四角)による妊娠率のグラフが示されている。

 このグラフから米国という国家が、市民の人生に対する指針、たとえば、「妊娠適齢の年代を考慮せよ」といった主張をしているわけではない。そうではなく、不妊の場合で、加齢を考慮する際、卵子提供を受けるという決断のための資料を提供している。
 別の言い方をすれば、市民が可能な人生の選択の幅を広げるための具体的な情報を米国国家は提供していると。
 おそらく、私たち日本人は、少子化し人口縮小していく日本という国家にあって、市民が「妊娠適齢の年代を考慮せよ」と国家に指導してもらうよりも、多様な人生の局面において多様な選択を可能にする知識の確かな源泉としての国家という装置の情報機能を求めていくべきなのではないか。
 
 

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コメント

少子化対策の外堀埋めのような気がするのは、オイラの下世話な裏読みのせいなんですかねぇ。
何となくウチの国は金を出したりポジティブ情報を与えるより、ジメっとした悪意を露出させ、真綿で首を絞めて「窒息したくなかったら従いなさい」というニュアンスしか感じられないんですがw

まぁ、昨今の政治情勢のせいで国家、政府に不信しか持てなくなったせいだと自戒しておきます。

投稿: kingate | 2012.02.17 21:43

杉浦さんの主張は明確かと。まず事実を知れってこと。NHKの番組も同じ。皆知らないから後から後悔しないように知っておけってこと。議論はこれから。どこから学校教育の話が出てきたかわからないし、国家の指導みたいな話は論理飛躍では?

投稿: | 2012.02.19 02:35

 えーと、この番組の前に、教育テレビの「ここが聞きたい!名医にQ」2011/12/10の不妊治療の話の時に、この話が出てますな。
 老母がたまたま再放送か何かで見て、そのあとでクローズアップ現代の放送がされたようです。
 で、その時に小生としたのが「そういえば、昔めんどりを潰したら、卵が大きいのから小さいのまで順番にお腹の中から出てきてたね」という会話。そして「精子はかなり晩年まで生成されるが、卵子は最初から胎内に入って、熟して排卵される」という、経文のような知識。そして「高齢出産」についての教育的フレーズ。
 まぁ、我々の頃(今の40代)よりもさらにいまの子ども世代は体の成熟までが早いといいますし、となれば卵子の成熟スイッチが入るのも早くなってもおかしくないはずです。迂闊でしたなあ。まぁ我々がそういう意味で情報を結びつけて考えるってのをし損なった世代という可能性という言い方も出来るやもしれません。いわゆる「情弱」てやつです....

 でも、少子化対策でこれがどう作用するかはまた別の話ですよ。食うのもやっとって給料の若い共稼ぎ夫婦に子供産んでくれというのなら、それこそ35才までの若妻に限って子供手当てを出産援助金と育児補助実務の形で出すくらいでないと。

投稿: とおりすがりの | 2012.02.20 02:20

一点だけ、誤記? 「不妊症の率36%を仮に許容なリスクのように認識するなら、45歳まで自然に妊娠できる――その認識が誤っているわけではない。」の36%は64%の間違いではないでしょうか。
64%はリスクとしては大きめですから(3人中2人は妊娠できない)、ここを直すと文意が通らなくなるかもしれませんが。

それから、米国には卵子提供が合法な州と違法な州があって、情報は提供されているものの誰にでも選択可能な医療ではないようですね。国家意思で人生の選択の幅を広げてくれていると言うには少し弱いかと。

投稿: nanoshi | 2012.02.22 14:07

本人が努力をしても改善できない事柄について他人が言及するのは「失礼」にあたるのだと思います。生まれつきの外見や人種、ハンディキャップなどの言及は状況によって失礼になるでしょう。身だしなみ(服の着方)や態度などは本人の心がけや努力によるものですから言及しても失礼ではないように思います。
その体で言いますと、既に高齢になった方の不妊に対して「卵子が老化する前に出産しなかったから」と言うのは失礼でしょうが、若い人に「卵子が老化する前に出産する方が良いよ」と、人生設計における価値観に相当するものを呈示するのは失礼にはならないと思います。テレビでは幅広い年齢の視聴者がいるのでその辺が難しかったのでしょうね。

投稿: rakitarou | 2012.02.26 14:24

長々と中身のない文章にもやっとしました

投稿: | 2013.10.30 18:57

ずいぶん前のブログですが‥
今年33歳のものですが、卵子の老化って中学校で習いました。
多分学習指導要項にあると思いますが。
そもそも卵子の老化なんて、適齢期になるまでに意識しない方がおかしい。
この度それこそクローズアップされて驚いているぼんやりした人はほんの僅かで、その人達が大袈裟に報道されてるだけじゃないの?

投稿: | 2015.09.10 18:25

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高齢出産に関して「誰もリスクを教えてくれなかった…」との声があがったらしい(クローズアップ現代) まず、先にこっちの記事を読んで欲しい。今回いいたいことは、ほぼここで書いてある。 ■科学と政治(正義)…たとえば出産年齢について http://d.hatena.ne.jp/gryphon... [続きを読む]

受信: 2012.02.21 20:31

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