米国では、30歳以下の女性の出産は婚外子が多い
一昨日のエントリー「新米パパ(Old New Dads)」で、40歳過ぎて子供を持つ男性が増えてきたという話を書いたが、40過ぎ男性のお相手女性はというと8歳ほど若いことが多い。40歳を過ぎた再婚男と30歳を少し過ぎた女性といったところ。日本でもそういう傾向はあるだろう。こうした話と直接関連しているわけでもないが、米国だと30歳未満の女性の出産では婚外子が多いらしい。18日付けのニューヨークタイムズに「30歳未満の女性では、大半の出産は婚外」(参照)という記事があり、興味深いものだった。
米国はプロテスタントのキリスト教文化的な気風が強く、かつては婚外子の出産は違法のように見なされていた(余談だがアマゾンのベソス社長は母が10代のときの婚外子)。この50年間で社会は変化し、30歳未満の女性では嫡出子より婚外子の出産が上回った。結婚しないで子供を産む20代の女性が普通になったと言ってもよい。
全体的に見るなら成婚者の出産が59%だが、30歳未満の女性に限定すると60%強が婚外子出産となる(2009年)。しかし若い世代に全体的な傾向かというとそうでもなく、大卒者に限定すると結婚してから子供を出産していることが多い。若い世代では学歴の有無が婚外子を決める側面がある。こうした状況から「結婚は贅沢品」との指摘もある。
なぜ20代女性の婚外子出産が増えたのか。直感的にわかるようでわからない。日本ではそういう傾向が目立っていないから先進国全体の傾向でもない。もっとも日本の場合は中絶が重要な意味を持っているかもしれないが。
米国の若年層の婚外子出産増加にはそれなりの理由はありそうだ。平均給与の減少によるものか。格差社会の影響か。婚外子でも安心して出産できる社会的セイフティネットの充実か。セイフティネットの充実という場合は、成婚が増えるのではなく、未婚で婚外子が増えるという考え方である。婚外子のほうが食糧提供などの補助が厚い。
ニューヨークタイムズ記事では統計提示の後、具体的な事例を挙げて婚外子増加の理由を考察している。結婚できないのは貧困が原因であることが多いが、あらためて婚外子の出産の理由はというと、それほど明確な推測に至れない。
事例を読むと、日本人的な印象にすぎないかもしれないが、婚外子を産むと決断する若い米人女性たちには中絶の選択は第一に上がっていないようだ。米国では中絶の権利が声高に叫ばれているので、日本より産まない自由が社会に浸透しているのかと思っていたが、こうした事例からは、産む自由が問われているようだった。また、婚外子を持つ若いカップルの三分の二は子供が10歳未満で別れる。早晩別れると理解して婚外子を出産している女性も多いだろう。子連れの30代女性と再婚する男性も珍しくはないだろう。
30歳未満女性の婚外子出産には人種の差が存在する。黒人では73%、ラティーノで53%、白人は29%。人種的な格差あるいは人種的な文化差のようだが、増加率で見ると白人が多い。人種差による経済格差の間接的な影響はあるとしても単純ではない。婚外子もまた普通の出産とする社会的セイフティネットの浸透速度の差かもしれない。
出生率が低下していく日本だとこうした問題は、国の人口問題やあるいは結婚できない若者の問題といった文脈で議論されがちだが、ニューヨークタイムズ記事に、考えようによっては、気になる指摘があった。「家族というのはもはや父母・夫婦といった社会的な役割を演じるものではなく、より個人の満足や自己達成となっている」というものだ。個人の生き方という文脈が前面に出てくる。
日本はその点でどうだろうか。少し古い話だが女性の結婚について「勝ち組」と「負け組」を分けるという話題があった。結婚を勝ち負けと見る見方だった。これが現状はどうだろうか。「負け」ではなく「勝ち」の多様性として、「結婚もして社会的にも成功」と「結婚はしないが社会的には成功」に置き換えられつつあるように見える。特に社会的な正義や成功といった文脈で語られるとき、暗黙に「結婚はしないが社会的に成功」が鼓舞されていく傾向、あるいはその枠組みに疲労していくようすが日本に見えつつあるように思える。
日本では、生き方が問われているようでいながら、婚外子を自由に産むという空気はない。あればもっと増えているだろう。米国のように30歳以下の女性の出産で婚外子が増えてくることは、社会的な成功や結婚よりも、婚外子であろうが子供を産むという生き方の、自由な選択結果として受け止めてよさそうだ。
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