エジプト軍部クーデターの失敗と「民主化」という責任回避
大衆活動で陽動し革命を装ったエジプト軍部クーデターから1年、当初の軍部の思惑どおりには民主化の偽装が進まず、ムバラク元大統領の位置に座り込んだ軍最高評議会の実態(参照)も露呈し、反政府デモが続いている。NHK「エジプト 反政府デモ開始1年で」(参照)より。
エジプトでは、去年1月、若者のグループによるインターネット上での呼びかけによって民主化を求める反政府デモが始まり、30年近くにわたったムバラク政権が、僅か18日間で退陣に追い込まれました。民主化運動が始まって1年となる25日、若者たちは再び国を暫定的に統治している軍に抗議するよう呼びかけ、全国の主要な都市で大規模なデモが始まりました。
このうち、首都カイロのタハリール広場では、午前中から数万人が集まり、軍の統治はムバラク政権時代と何も変わっていないとして、即座に権限を手放すよう求めました。参加者からは、「軍は民主化を求める国民の声を聞かず、大きな過ちを犯した」とか、「軍は国の安定のためではなく、自分たちの権益のために動いている」といった声が上がっていました。
今日の混乱は軍部クーデターという本質から容易に予想された事態であったが、各種報道、特に日本での報道からはあまり見えてこない、もう一つの予想された事態があった。軍部クーデターによって崩壊させられたエジプト経済の困窮である。これが深刻化し、いよいよ終わりが見えてきた。
この予想は昨年10月「エジプト軍部クーデターから半年」(参照)でも言及してた。今回明暗を分けたのは、あの時点では国際通貨基金(IMF)からの30億ドル融資を断っていたエジプト軍部が、今回16日、32億ドル融資の懇願に出たことである(参照)。
背景はエジプトの外貨準備がピークの360億ドルから100億ドルへ落ち込み、3月には尽きることだ(参照)。
そのまま国家破綻という事態にまではならないが、エジプト通貨は落下し、さらなるインフレが襲うことになる。一年前のエジプト軍部クーデター以前よりも深刻な事態になるだろう。現状でも国民の六割を占める三十歳以下の若者の失業率が25%もあるがさらに悪化し、社会は不安定になるだろう。
経済問題からエジプト軍部クーデターが実質失敗したことの帰結は二面に分かれる。
一つは、軍部はIMFの融資を活かせないだろうということだ。今回軍部が融資懇願に至ったのだからそれなりの決断もあるかのように思えるが、どうやら逆と見てよい。簡単に言うと、軍部は経済破綻から混迷に至る結果の責任の回避に向かっている。21日付けニューヨークタイムズ「Egypt’s Economic Crisis」(参照)はその読みを示している。
Egypt’s military rulers are now realizing how big a threat the collapsing economy is — and they clearly don’t want to be blamed.エジプトの軍指導者は現在、経済の崩壊がどれほど大きな脅威であるかを理解しつつある。そして、彼らは非難されたくないことを明確にしている。
延長して言うなら、エジプトの議会や大統領選出といった一見民主化に見える現状は、予想される経済崩壊から軍部が責任逃れをする手段と変化しつつある。
予想される経済崩壊をできるだけ事前に防ぐため、ついに軍部もIMFの融資懇願までは動いたが、その先、実際のIMF融資を受け、活用するのは実質ムスリム同胞団による政府になる。IMFもムスリム同胞団との対話に入っている(参照)。これが帰結のもう一面につながる。。
IMF以外に西側諸国も経済援助の意思を表明しているが実質的な動きはない。ムスリム同胞団などイスラム政治の勢力がどのような国家経済の運営方針を打ち出すか疑念を持っているためだ。
別の言い方をすれば、エジプトの経済困窮という状況なら対外融資を使ってイスラム勢力を抑え込むことが可能になると西側諸国は見ている。
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