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2012.01.04

郊外型マクドナルドに行ってみた

 正月帰省ラッシュのピークが過ぎたのか幹線道路は空いているようだった。渋滞に立ち往生もすることもないと思ったら気が抜けて、飯でも食う気になった。うどんか。いや、うどんはないだろ。でも、うどんか。いや、さすがにもう、うどんはないだろと前方に目をやると、m(エム)の看板がある。マクドナルドである。
 ドライブスルーでなんか買うかとも思ったが、ダークな色調の店舗で妙にピカピカとした感じがしたので入ってみることにした。ドアの前に立ってから、それが自動ドアではないことに気がつく。よく見ると禁煙マークがある。入り口に禁煙マークのあるマクドナルドって存在するのか。その違和感が、コインを落としたかのように脳裏に響いた。
 店に入ると、ぷんと化学物質臭がした。マクドといったらすえたショートニングと煙草の臭いだろと無意識に予想していたので面食らう。見回してみて、どうやら新築ということらしい。
 ドナルドがやって来きて、「新築マクドナルドにようこそ。マクドナルド3.3.1 を使うとあなたのルックス、性格、そしてファストフード・エクスペリエンスが向上します。いえ、実は最後の項目だけですが、まあいいでしょう :)」とか言ったりしてね。ははは。
 一人ネタを思いついてくくくと笑うが、まわりは静かである。もしかして開店してない店なんてことはないよな。駐車場にも車は入っていたし、客もいるにはいる。スタッフもいる。なんとも変な感じがするのは学生がいないからだろうか。まあいいや、食えるなら。
 注文カウンターに向かい、メニューを見る。ない。グラコロがない。実は昨年マクドのグラコロの無料クーポン券を貰ってサイフに入れてあるのだが、店舗によってはないのか。メニューに記載されていないのか。聞いてみた(トリビア泉のナレーションの声で)。
 期間限定です、とのこと。じゃ、チーズバーガー。「セットになさいますか?」
 困ったな、セットというがよくわからない。「ポテトがつくの?」「Mサイズがつきます」 まあ、いいや。それとコーヒー。490円。
 二階がある。食い物のトレイを持って階段を上がると、二階は、おや、というくらい明るい。広々として落ち着いている。やたらと広い窓ガラスが四方を囲んでいる。ポスターもない。リア充の若者も当然、いない。家族連れや中年の男女がぽつんぽつんと居るようだ。
 客はまばらだが、ビューのいい席も空いている。これならカウンター席の端っこでひっそり人様に迷惑をかけまいとする、いつもの行動を取らなくてもいいんじゃないかと、ゆったりと窓際の椅子に座る。ここで、え?と思う。
 椅子があるのだった。そりゃ、ある。いや、椅子が動くのである。自動で動くというのではない。手に取って引くと椅子が動くのである。あの、環境型権力とは何かの議論でよく出てくるマクドナルドの椅子ではないということだ。
 それどころか、背もたれはないけど、クッションのきいた椅子すらある。これが、郊外型マクドナルドってやつなのか。へえと思う。世の中変わったな。明るく伸びやかな空間にいると、逃走者も出頭したくなる気持ちがふと理解できる。
 広い窓ガラス越しに街道を行き交う車と青空の拡がる遠景を見つつ、コーヒーを飲む。今日は砂糖とミルクを入れてもいいような気がしてくる。入れる。チーズバーガーをほおばる。これだけは青春時代と変わらないような気がして、やっぱり自分はマクドナルドにいるんだと心落ち着かせる。
 だが、ピクルスが二枚入っている。なんかの間違いだろうか。不安な気持ちになる。遠望、急速に暗雲が立ちこめる。そういえば、昨日の天気予報で、今日は午後雪になると言ってた。スマホを取り出して天気予報を見ると、これから曇、そして雨になるらしい。
 そういえば、この店、Wifiっているのかと試してみると、ない。電波の入り具合は悪くない。むしろ、電波は入りやすいんじゃないか。電波?
 そのとき、後ろで大きな怒号がした。俺は驚きながら振り返った。いや、ちょっと違うか。
 背後から強烈な罵声があったので、俺はまためんどうなことになったなぁ、とか、そういや昼飯も食い終わってないなぁとか色々な思いを巡らせつつも振り返ることにしたのである。いや、そんなラノベ調ではない。
 突然の罵声というものを想像するとき、僕はアフリカの砂漠に忘れられたCDプレーヤーのことを想像してみる。それは恐ろしく空しく、かつては希望であったものの残存なのだ。いや、そんな春樹風でもない。
 空気が、震えた。猛狂うような罵声に振り返ると、郊外型マクドナルドの店内の客たちは凍り付いた。女は腹の底から雄叫びを繰り返した。やはり北方謙三だろ、ここは。
 四十歳は超えている変な格好の女が怒り狂って、「あほか」「なんべんいうたらわかるんか」「ぼけ」とかでかい声で言いまくっているのである。
 もちろん、私は彼女が携帯電話をしているのだと思った。彼女の夫か、恋人か、友だちか、同僚か。ここにいない敵に向かって、何かとてつもない怒りを発散しているのだと思った。そういうことは誰の人生にもある。私にはあまりないんだが。
 半径1メートルということはないが、2メートル圏内の、女の関西弁の罵声は続く。しばらくすれば治まるだろうと高を括ってチーズバーガーを囓ったそのとき、「ぼけ!」と一段と強い声がした。
 もしかして私に怒っているのではないか。もしかして彼女は僕が青春時代心ならずも別れた恋人の一人であるとか……いかんな……振り返ると、彼女の目は私の方向を向いているのだが、ガラスの向こうを見ているようである。遠い誰かを罵っているのだと思ったそのとき、私は彼女が携帯電話など手にしていないことに気がついた。うっぷす。これは強力な電波だ。彼女は見えない敵と戦っているのだ。
 冷静になれ、俺。
 危害があるわけではないし、社会はそういう人々と共存していくべきなのだ。がまんできる範囲ではないのか。「ぼけ!、わからんかい!」 すまん、わからん。
 構図的に、他から見ると、どうも私が罵声の対象のようにも見える。どうも、少ない客も凍り付いたようなテンションで、こちらを盗み見ているようでもある。
 だめ、もう限界。一階にも席があったことを思い出して、引き上げる。というか、さりげなく引き下がる。成功。
 階下の席の隣には、40歳くらいの男が一歳くらいの赤ん坊にハンバーガーをちぎって食わせている。嫁はどうしたのだろうと思うし、もしかするとそこには悲惨な物語が秘められているのかもしれないが、赤ん坊が可愛いので見つめているうちに、店員がなんども二階に上ったり下りたりしていることに気がつく。
 もしかして、マクドナルドのマニュアルにある緊急オペレーション発動なのだろうか。ああいう客をどう対処するのだろうか。いかん、もうワクテカ状態。店内を見渡すと、なぜか英語の注意書きばかりで、トイレもない。トイレは二階か。じゃと、トイレに行くふりでもしてもう一度階を上る。
 女は、さっきと変わらず、怒り猛っているのだった。さっきまであの罵声の2メートル圏内に居た自分の残存を想像してみた。ぞぞぞ。
 まあ、もういいや。手だけ洗ったふりして階下に降りる。食事した気がしない。チーズバーガーは消えている。たぶん自分が食ったのだろう。隣の赤ちゃんが食ったとしてもいいけど。
 Mサイズのポテトは大量に余っている。心のスイッチをオフにしてぼうっとしながら機械的にポテトを食う。なんか青春とかにそういうことあったなとか少し記憶の残骸のようなものがよぎる。
 ポテトにはさして味がない。そういえば、30年くらい前、一つ年上のコリアンの女性とマクドでポテト食ったとき、日本のマクドナルドのポテトにはどうしてケチャップついてないのかしらと言っていた。彼女が暮らしていた米国だと、小パック皿のケチャップが付いてきて、ポテトの先をディップして食うのだそうだ。へえと思ったものだった。でも、日本でもカウンターで頼めばもらえる。この店でも、もらえるかなときいてみたらもらえた。
 マクドナルドでは、ポテト用のケチャップは言えばもらえます。これ豆知識な。
 
 

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コメント

沖縄のマクドナルドは黙っててもケチャップが付いてきましたよ・・・以前は。
現在は内地と同じく頼まないと付いてきません。
あ。そうそう。A&Wのスーパーフライはケチャップ必須です。

投稿: aniya | 2012.01.05 00:24

6年ぶり(!)に書き込みします。
夜勤をするようになってから、世の中には案外向こう岸の方が多いんだなとやっと気づきました。
妙に攻撃的なタイプの方は始末が悪いですね。無視してもいいんですけど、撤退した方が楽なんですよね。

投稿: (-(ェ)-) | 2012.01.08 06:21

今回は、マクドナルドなんですね。

マクドナルドは、どうも自分とは相性が合わないなと
敬遠していましたが、2人の人物のおかけで
見方が変わりました。

ひとりは、日本マクドナルドの現在の社長・原田泳幸さんです。
ほぼ日刊イトイ新聞での糸井重里さんとの対談で知り
その もったいつけず短く平易な言葉で核心をつく物言いに
惹かれ、仕掛けに乗ってみたいと思うようになりました。

もうひとりは、奥さんが宇宙飛行士として有名な
向井万起男さんです。
向井さんの著書の中に、アメリカを車でほうぼう旅するうちに
マクドナルドはどこにでもあり、トイレを気楽に利用できることに
気づいた。
マクドナルドは、アメリカ社会の中にあって、
気兼ねなく使える公衆トイレを提供している。
なかなか立派な役割を担っているじゃないか、
というようなことが書かれていまして。
それで、懐の深さに好感をもつようになりました。

そして先月、5年ぶりに、朝の腹ごなしにと食べに行きました。
どれも大差ないだろうと、メニューをよく確認しないで
「マック グリドル ソーセージ」というのを注文したところ、
これが、ソーセージパティを、はちみつ味のパンケーキで
挟んだものという変わり種でして。

ソーセージパティとパンケーキは
それぞれおいしくはあったのですが
やはり、別々に食べられたらどんなに良かったかと。
いや待て。これが原田社長が言うところの
「いい意味でお客さんの期待を裏切る」ということではないのか。
先入主抜きで最初からこういう味なんだと思って食べれば、
これはこれでアリなんじゃなかろうかと、
一口食べては感想が左へ右へと振れ、
いまだ評価が決まらずじまいです。

今回はうどんの出番がありませんでしたけど
これは道草で、再び うどんのメインストリートに
戻ってくる日があるのか。はたまた、このまま別の道を
開拓していくことになるのか。どうなっていくのでありましょう。

本文と関係ない私事ばかりで失礼致しました。

投稿: けん | 2012.01.08 11:44

ナゲットのディップは二つまではくれる。これ豆知識な。

投稿: hepdad | 2012.01.08 23:33

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