イヤホン装着歩行者の交通事故
アイポッドなど携帯音楽プレーヤーや音楽再生可能なスマートフォンは、基本的にだが、音楽を聴くときはイヤホンを使うようにできている。通勤電車内、イヤホンを耳にして、音楽あるいは語学教材を聴いている人もよく見かける。電車内ならそれほど危険性はないだろうが、イヤホンを耳にして歩いている人やジョギングしている人の場合、交通事故に遭う確率は高まるのではないだろうか。米国で調査したら、なるほど高まるという結果が出た……というニュースがあったのだが、この話、ちょっとややこしい。
報道の一例はAFP「ヘッドホンつけた歩行者が被害に遭う交通事故、04年以降で3倍に 米研究」(参照)である。
ヘッドホンをつけた歩行者が被害にあった交通事故の件数が、2004年から2011年にかけて米国で約3倍に増えたとの研究論文が17日、英専門誌「Injury Prevention」に掲載された。
論文によると、この種の事故の件数は2004年には16件だったが、2011年には47件に増え、04~11年の期間中の合計は116件だった。事故の半数以上は列車にひかれる事故で、事故に遭った人の3分の2が30歳未満だった。
ありそうな話ではあるなと思う。他のメディアでは、CNN「ヘッドホンした歩行者を巻き込む事故、7年で3倍に 米調査」(参照)とブルームバーグ「ヘッドホン装着の歩行者:重傷・死亡事故、6年で3倍に増加-米調査」(参照)があった。
元ネタが同じなので報道の基本事実に相違はないのだが、CNNでは「7年」、ブルームバーグでは「6年」という奇妙な違いがないわけでもない(ブルームバーグのミスか)。
さて私が気になったのは……その内容以前のところから、二点。
一つは、この話題が国内報道で見当たらなかったことだ。なぜだろうか。おそらく、米国の交通事故事情と日本のそれとは違うから、日本で報道する価値はないと判断されたのではないか。
とはいえ、事故の背景にある、イヤホン装着による不注意が引き起こす交通事故というのは、日本ではないわけもないだろう。日本で同種の調査をすれば同傾向の結果が出そうなもので、その際には、報道はされるだろう。日本のどこかの機関で調査しているのだろうか?
内容以前に気になった、もう一点は、すでに意図して混ぜてこのエントリーも書いているのだが、この三報道(AFP、CNN、ブルームバーグ)はすべて「ヘッドホン」の話であって「イヤホン」ではないということだ。交通事故が増えるのは、「ヘッドホン」の装着であって、「イヤホン」の装着ではない、と言えるだろうか?
これも記事内容からすれば、音楽によって外界の関心がそれること(inattentional blindness)が問題なので、してみると、ヘッドホンでもイヤホンでも同じだろう。
そのあたり欧米での報道の扱いはどうか。
ニュースに添えられた写真で見るとどうか。いわゆるヘッドホンの写真もあるが、イヤホンの写真もあり、社会問題としてはイヤホンも含めていると見てよさそうだ。
ロサンゼルスタイムズでは" headphones or earbuds"(参照)として、イヤホンについての注意喚起もあった。ちなみに、イヤホンは英語では"earbuds"とも言う。
内容に関心を移す。
この話題、欧米では注目されたと言えるのだが、実際のところ、調査結果の件数は多いとは言えない。100件程度の調査にしかなっていないので、この結果はそれほど重視すべき問題でもないとも言えるのかもしれない。
事故に遭う人にも偏りが見られた。事故被害者の年齢の中央値は21歳で、男性が68%を占めた。十代に事故が多いともいえず、また30歳以降に多いわけでもない。
20歳くらいを中心とした事故の傾向がある。その意味はなんだろうか? 想像が付かないわけでもない。ナイキとアイポッドという、まさにイヤホンを装着してジョギングを励行する商品などもあり、その世代がよく利用しているのだろう。ただ、全体像は現状では、はっきりとしない。
仮に若い世代に多い事故だとして、日本の場合を想像すると、日本では社会問題は中高年の被害から注目される老人社会なので、こうした問題が社会に潜んでいても関心が向けられないかもしれない。今後日本は、報道は老人視点というバイアスが増えるのではないか。
日本では歩行者のイヤホンはざっと見たところ社会問題になっていない。類似の身近な問題ではイヤホン装着の自転車が危ないというのがある。これは現状では、多数の都道府県で公安委員会規則で禁止されているはずだが、よく見かける。
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