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2012.01.09

ホルムズ海峡封鎖の可能性について

 イランがホルムズ海峡を封鎖すると脅している。脅されているのはイランに敵対する諸国の経済だと見なされている。ホルムズ海峡が封鎖されれば世界経済に大混乱が起きるとも想定されている。
 理由はホルムズ海峡が石油フローにおいて最も大きなチョークポイントだからである。昨年の資源エネルギー庁「エネルギー白書2010」の「第4節 総合的なエネルギー安全保障の定量評価」(参照)に引かれている「IEA World Energy Outlook 2004」は、年次が古いがおおよそのようすを知るにはわかりやすい。余談だが今年の白書は昨年とは打って変わった様相で感慨深い。
 それによると、エネルギー安全保障面での世界の4大チョークポイントは、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、マンダブ海峡およびスエズ運河で、ホルムズ海峡が最も大きい。しかも実際にこれらのチョークポイントに依存している国を見ると、主要国では中国・日本・韓国が大きく、米国やEU諸国は低い。米国、英国、フランス、ドイツは国策としてチョークポイント依存度を低下させてきたが、日本は原発体制と同様に安閑となんら手を打たなかったに等しい状態が続いていたことがよくわかる。
 ホルムズ海峡封鎖で経済的な影響を受けるのは中国・日本・韓国の三国で、米国および英仏独には比較的影響を与えないだろう。
 対イラン石油政策では、日中はその資源開発においては対抗的でもあったが、同一のパイを狙うという意味では同一の利益の上にあるとも言える。日本のエネルギー問題の命運は米国と中国に掛かっているとも見えないことはない。
 実際の封鎖に対応するのは米国だが、米国から見ると、国連で拒否権を持つ中国とどう対応するか、また日韓経済の打撃をどう見るかということになる。
 話が戻るが、イランが強行な素振りを見せるには、イランの核化を阻止しようとする米国中心の圧力であり、より端的に言えば、イラク戦争と同様に、イスラエルとサウジアラビアへの脅威を米国が肩代わりするかということになる。
 基本的にこの問題は、中国、日本、韓国、イスラエル、サウジアラビアの5国の命運のバランスをどう米国が見るかという問題だとしてもよいだろう。(言うまでもなく、日本が見捨てられる可能性は低くはないし、これをネタに日本に同盟国強化への脅しをかけてくる可能性もある。)
 また別方向で話が戻るが、そもそもイランは本気でホルムズ海峡を封鎖するかという問題もある。
 簡単にいうと、イランがホルムズ海峡封鎖を実施すれば、イラン自身も対外的な貿易路としてこのチョークポイントに依存しているので、イラン国内経済が壊滅すると見られる。
 また米軍はこの危機の可能性について長期的に関与してきたので、大方の見方では、イランによるホルムズ海峡封鎖をはね除けることができそうであり、実際、イランがブラフをかけてきても現状市場の動揺はない。日本を含め世界経済全体が低迷しているので、エネルギー需要では基本線で影響力が少ないとも言える(逆に好機になりかねない)。
 むしろこの構図は、太平洋戦争の際の日本のABCD包囲にも似ていて、イランにホルムズ海峡封鎖という暴発を迫る仕組みなのではないか。もちろん、そのようなプランを米国が持っているというほどの陰謀論ではないが、全体の構図からはそういう種類のゲームであり、日本が真珠湾攻撃をしたことをチャーチルが喜んだように、イスラエル側がその暴発を好機とする可能性がある。
 構図を追っていくと着火点になりそうなのはイスラエルであり、そもそもこの問題を引き起こしたのがイスラエルの安全保障であったことを想起してもそう見なせるだろう。
 イスラエルの動向はどうか。また、イスラエルの対イラク戦略を米国はどう見ているか。
 現状、イスラエルの動向がよくわからない。イスラエルがイランを本気で暴発に追い込むほどの国家意思を持っているのか、あるいは、その意思の混迷が結果的にイランを不用意に刺激しているのか。イスラエルの滑稽な内政の現状からすると後者のようにも見える。
 イスラエルに視点を置いて米国側の思惑を見直すと、米国オバマ大統領再選の文脈が重要になる。オバマ政権または共和党が強行なイスラエルロビーをどれほど重視しているかという問題である。どうか。簡単にいえば、この勢力は滑稽なほどの強行をアピールするニュート・ギングリッチに傾倒している、つまり滑稽なというにふさわしい状況にあり、オバマ側の再選の強い要因にはなっていないだろう。
 オバマ政権としては、この現状で世界に不安定要素を持ち込みたくないと見てよいだろう。
 以上の筋から見ると、オバマ政権の基本戦略としては、温和にイランに圧力をかけてレジーム変更を促しつつ、イスラエルの暴発を抑えるということになるだろう。(その点では、イランのレジーム変更が大きな課題だが、どうもこれはイラク戦争以前のイラクのような状態になりそうでもある。)
 日本ではあまり見かけなかったが、イラク駐留米軍は、イスラエルとイランの中間にあって、イスラエルの暴走を抑える蓋の働きもしていた。その蓋がはずれた現在、代替の蓋が必要になる。と見ていると、早々に米国とイスラエルが合同演習を始めた(参照)。表向きは、イランのミサイルに対する防衛ということだが、実際には、イスラエルの蓋ということではないか。
 
 

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コメント

イスラエルは米国がイラン敵視で中東に関与するフリをしている間にトルコ、エジプトと和睦をするという流れだと考えています。トルコ、エジプトはパレスチナ問題をイスラエルに迫り、イスラエルは譲歩する。中東で争いは起こらないと思っています。

投稿: ヒロ | 2012.01.09 22:01

ホルムズ海峡を封鎖してもイランには破滅しか待ってないですから、普通に考えればできないとも思いますけど

まさに戦前の大日本帝国(天皇絶対国家神道)がアメリカに勝てるわけもない戦争を仕掛けたように、強烈な宗教思想の国では現実的な予測とか理性が通じないところもありますからね。

何するか分からない、というところでは可能性はあるとも思いますね。

投稿: | 2012.06.20 00:53

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