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2011.02.25

深刻化するパキスタン問題

 パキスタンのザルダリ大統領が21日から3日間、日本を訪問した。離日する23日には天皇陛下との会談もあった。が、他の報道に押されたせいか、あまり報道された印象はなかった。大手紙社説では今日になって日経新聞がややピンぼけした社説「パキスタン支援を強めよう」(参照)を掲載した。朝日新聞が社説「パキスタン―南アジアの安定に協力を」(参照)を掲載したのは昨日である。こちらは良社説といってよいのだが微妙な含みもあった。日本では現下、あまりパキスタンが注目されていないが、いろいろとやっかいなことになりつつある。
 日経新聞社説「パキスタン支援を強めよう」は表題のとおり、日本はパキスタンを支援せよというのだが、どう支援するのかは曖昧である。


 日本はテロや過激派を生む土壌となっている貧困の削減とともに、経済改革や貿易面での支援も進め、現政権を支えていくべきだ。テロ対策でもアフガニスタンだけでなく、パキスタンにもどのような貢献が可能か、人的支援を含めて包括的に検討していく必要がある。

 論旨がぼけてしまうのも、しかたない面もある。本来ならパキスタンが求めるところに応じるというのが支援なのだが、そうもいかない。

 ザルダリ大統領は日本に原子力協定の締結を打診した。日本がインドと交渉を始めたことへの警戒感もあるのだろう。核拡散の懸念が強い国だけに慎重を期すべきだ。
 日本としては当面、プルトニウムなど核兵器の原材料となる物質の生産を多国間で制限する兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約への参加などを求めていくのが先決である。条約に抵抗するパキスタンを説得できれば、ジュネーブ軍縮会議での交渉開始にもつながる。

 日本には核不拡散条約(NPT)を御旗にして、インドと原子力協定締結交渉をすることに反対的な風潮がある。昭和の名残ともいえる被爆国日本の戦後史の慣性もある。だがこの間、米国やフランスなどはさっさとインドとの原子力協定に踏み切っている。
 加えて、パキスタンをNPT非加盟国だからと原子力協定から外しても、ほいほいと中国が入ってきている現状もあり、どうバランスを取るかは、考えれば難しい。
 このあたりで朝日新聞社説「パキスタン―南アジアの安定に協力を」は、少し興味深い切り出し方をしていた。

 パキスタンの核戦力の問題もある。
 米ニューヨーク・タイムズ紙は最近、パキスタンがこの2年間で配備核兵器を60~90発から95~110発にまで増やし、さらに40~100発分の兵器用核物質を生産したとの、米情報機関などの分析を報じた。
 近く英国を抜き米、ロシア、中国、仏に次ぐ核大国になるとの見立てさえある。パキスタン側は報道を否定するが、実態は秘密に閉ざされている。

 このニューヨークタイムズのネタだが、国内で他に報道されただろうか。
 21日付けのニューヨークタイムズ社説「Pakistan’s Nuclear Folly」(参照)でも、これを包括的に扱っている。朝日新聞社説の執筆者も、このネタをなぞったのだろう。

With the Middle East roiling, the alarming news about Pakistan’s nuclear weapons buildup has gotten far too little attention. The Times recently reported that American intelligence agencies believe Pakistan has between 95 and more than 110 deployed nuclear weapons, up from the mid-to-high 70s just two years ago.

中東の争乱で、パキスタンの核兵器強化について警告的なニュースはほとんど関心を持たれていない。が、ニューヨークタイムズは最近、パキスタンが、2年前には1970年代の水準だったのに、95から110個を超える配備された核兵器を持っていると米国諜報機関が確信していると報じた。

Pakistan can’t feed its people, educate its children, or defeat insurgents without billions of dollars in foreign aid. Yet, with China’s help, it is now building a fourth nuclear reactor to produce more weapons fuel.

パキスタンは数十億ドルもの対外援助なしでは、国民に食糧供給も子供の教育も、さらには反乱者らの鎮圧もできない。なのに、中国の援助で、パキスタンは現在、核兵器燃料を多く生産する4番目の原子炉を築いている。

Even without that reactor, experts say, it has already manufactured enough fuel for 40 to 100 additional weapons. That means Pakistan — which claims to want a minimal credible deterrent — could soon possess the world’s fifth-largest arsenal, behind the United States, Russia, France and China but ahead of Britain and India. Washington and Moscow, with thousands of nuclear weapons each, still have the most weapons by far, but at least they are making serious reductions.

専門家によれば、原子炉なしでも、パキスタンはすでに40から100もの核兵器燃料を製造しおえている。つまり、最小限の抑止力と言いつつ、パキスタンは、米国、ロシア、フランス、中国に次ぐ第5位の核兵器所有となり、英国とインドを抜く。米国政府とロシア政府はそれぞれ数千の核兵器や最大数の武器を有するが、それでも真剣に削減に取り組んでいる。


 米国諜報機関にどれだけの信憑性があるかは疑問だが、朝日新聞ですら懸念する事態ではあるのだろう。とはいえ、朝日新聞は朝日新聞らしい自らの幻想に沈んでしまうのだが、こんなふうに。

 南アジアでの核軍拡を防ぎ、中国も含めたアジア全体の核軍縮・不拡散外交を進めることが不可欠だ。インドとの交渉では、核実験の停止を協定に盛り込むべきだ。それを足場にアジアで新たな核軍備管理の道を模索したい。

 どう模索するのかは皆目わからないが、そこは朝日新聞にツッコミ入れてもナンセンスなので、ニューヨークタイムズ社説に戻る。
 問題は朝日新聞のような明後日の方向に爆走することではなく、現前の課題である。端的にいって、現下、パキスタンの核化を抑制することが米国には不可能な事態になっていることだ。

Washington could threaten to suspend billions of dollars of American aid if Islamabad does not restrain its nuclear appetites. But that would hugely complicate efforts in Afghanistan and could destabilize Pakistan.

米国政府は、パキスタン政府による核の欲望を抑制しないなら、数十億ドルに及ぶ米国援助を中断すると脅すことも不可能ではない。が、それはアフガニスタン問題を複雑にし、パキスタンを不安定化させてしまうことになる。


 言うまでもなく、潜在的な危機は朝日新聞が昭和の香りに引きづられてNPT歌舞伎を演じることではない。単純にアフガニスタンの勢力にパキスタンの核兵器が奪取されることである。
 全体的な危機の状況に加え、オバマ大統領の戦争失態はしかもここに来てさらに極まっている。
 1月27日のことだが、米国人レイモンド・デービス(Raymond Davis)氏がパキスタン、ラホールでパキスタン人男性2人を射殺するという事件があった(参照)。逮捕されたデービス容疑者は、パキスタンの警察の調べに、2人は強盗だったとして正当防衛を主張している。が、彼は米中央情報局(CIA)の契約職員であることが発覚し、パキスタンではこの事件は米国政府による秘密工作ではないかとして反発運動が起きている。
 米国側の対応もまずいものだった。ラホールの米総領事館は事件時、デービス容疑者を救出しようと派遣した自動車でパキスタン人男性をもう1人はねて事故死させている。その上、米国はデービス容疑者には外交上の免責特権があるとし即時釈放を求めた。パキスタン人が怒るのも無理はない。
 苦慮した米国政府は現状米無人機攻撃停止したらしい。17日付け朝日新聞「パキスタンで米無人機攻撃停止 拘束米国人へ影響懸念か」(参照)より。

パキスタン北西部で米国が激化させてきた無人機攻撃が先月23日以降止まっている。理由は不明だが、パキスタンではその4日後にパキスタン人を射殺した容疑で米国人が逮捕されており、攻撃継続が釈放問題に与える影響を米国が懸念しているのではないか、との見方がある。

 朝日新聞記事の元ネタは「Killings Spark CIA Fears in Pakistan」(参照)のようだ。
 もともと、この無人機攻撃がパキスタン人の怒りの源泉でもあった。国内報道では毎日新聞記事「記者の目:オバマ米大統領の無人機戦争=大治朋子」(参照)が詳しい。

 オバマ米大統領が無人航空機を飛ばして武装勢力を掃討する「無人機(プレデター)戦争」を推し進めている。米国本土から衛星通信で無人機を遠隔操作し、1万キロ以上離れた戦場で敵を殺すのだ。兵士は米国内の基地に出勤し、モニター画面の中で「戦争」をして家族の待つ家へと帰る。「プッシュボタン・コンバット(ボタン押しの戦闘)」とも呼ばれる無人機戦略は世界の注目を集め、40カ国以上が開発競争を繰り広げている。だからこそいま、その「負の側面」に目を向けたい。

 これがひどい代物である。誤爆で民間人を殺害している。

 一つは民間人被害だ。米シンクタンクによると、例えばパキスタンでは04年から昨年末までに米中央情報局(CIA)によるとみられる空爆で1734人が死亡し、約2割が民間人だった。無人機の射撃の正確性は95%と高いが「市民をテロリストと誤解して殺している可能性がある」(元陸軍士官学校教授)のだ。

 誤爆もひどいが、そもそも空爆も人間の尊厳に反する攻撃である。
 率直にいって、こんなひどい戦争を展開しているオバマ政権なのに、アフガニスタンの発端を開いたブッシュ前大統領が悪いで終わってしまう日本の世論はどうなんだろうかと思わないでもない。

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2011.02.24

新幹線など高速鉄道はどこの国でも重荷になるだけらしい

 新幹線が幼児のころから大好きで、日本全国に新幹線網ができるといいな、他の国もうらやましいと思うだろう、と思い続けていた自分であったが、先日のワシントンポストを読んでいたら、そうとも言えないのかと落胆した。米国では新幹線など高速鉄道は国の重荷になるだけという議論も沸いている。米国だと、そういうこともあるだろうと思っていたのだが、それで割り切れるものでもなく、どの国でもそうなるものらしい。
 話の発端は、2月8日、米国バイデン副大統領が明らかにした、オバマ政権の米国高速鉄道建設投資である。向こう6年間に530億ドル(4.4兆円)を投資するという計画(参照)である。
 オバマ大統領はすでに、就任後の米国景気対策の財政支出として、高速鉄道網整備に105億ドルを拠出し、その後も高速鉄道網計画を打ち出していたが、ここに来てさらに増額しようとしている。
 15日にはオバマ大統領自身、議会に出した予算教書でこの計画を強調した。が、2日後、その建設計画に上がっていたフロリダ州で、当地の、共和党のリック・スコット知事が計画を拒否した(参照)。共和党は高速鉄道建設は無駄遣いであると考えている。
 日本の報道ではこの問題について、しかたがない面はあるが、新幹線の売り込みという視点から話題になっていた。18日付け毎日新聞記事「米国:フロリダ知事、高速鉄道拒否 新幹線輸出遠のく 日本、戦略練り直し」(参照)より。


 米フロリダ州のスコット知事が16日、同州の高速鉄道整備計画向けの補助金受け取りを拒否する方針を示し、計画自体が中止される公算が大きくなったことで、新幹線輸出に力を入れる政府や、受注を狙うJR東海が戦略転換を迫られるのは必至だ。他の路線への売り込みも検討するが、いずれも計画の具体化が遅れており、米国向けの輸出が実現するかは予断を許さない状況だ。
 インフラ輸出を成長戦略に掲げる政府は09年、官民一体で新幹線を売り込もうと、国土交通省に鉄道国際戦略室を設置。米オバマ政権のグリーン・ニューディール政策で高速鉄道建設が掲げられたことを受け、全米6カ所程度の路線で受注を狙っている。
 中でもフロリダ州(タンパ-オーランド-マイアミ・約500キロ)は専用線を建設するため、在来線を利用する他路線に比べて新幹線が参入しやすい。政府はフロリダ受注を足がかりに世界に攻勢をかける構えで、前原誠司・前国交相は1月、フロリダ州でスコット知事と面会し、「すべてのノウハウを伝えたい」と売り込む力の入れよう。一部区間では、他路線に先駆けて用地買収や環境影響調査が進み、早ければ24年度にも着工開始の見込みだっただけに、国交省幹部は「一番打率の高いトップバッターがこけてしまった」と衝撃を受け、情報収集を進めている。

 引用が長くなったが、この記事ではなぜ中止になるかという米国の動向は描かれていない。他の例として17日朝日新聞記事「フロリダ州の高速鉄道計画中止 新幹線輸出に打撃」(参照)も見ておくとこんな感じである。

米フロリダ州のスコット知事は16日、州内に高速鉄道を建設する計画を事実上中止する、と発表した。雇用創出を急ぐオバマ政権の目玉事業の一つだが、州は採算があわないと判断した。JR東海を中心に、同州への新幹線技術の輸出を目指していた日本連合にとっては打撃となる。

 記事からはフロリダ州独自の判断という印象を受けるくらいだ。たしかにフロリダ州の独自の判断ではあるが、その背景にある共和党の考えや、なぜ共和党がそう考えるのか、という報道は日本ではあまり見かけず、ただ新幹線売り込み話に終始していた印象を受けた。
 米国における、高速鉄道建設についての批判は今になって吹き出したものではない。私が尊敬するコラムニスト、ロバート・サミュエルソンは2009年の時点で、この問題を扱っている。「無駄な鉄道に突っ走るオバマ政権」(参照)より。

 バラク・オバマ大統領が意気込む高速鉄道整備計画は、過去の失敗から学べない政府の無能さを示す典型的な例だ。1971年以来、アメリカ政府は約350億ドルの補助金をアムトラック(鉄道旅客輸送公社)につぎ込んできたが、ほとんど公共の利益になっていない。


 そう考えれば、どんな間抜けな政治家でも鉄道事業への補助金など増やさないだろうと思うのが普通だ。しかも、今年から2019年までの間に、政府予算では11兆ドルの財源不足が見込まれることを考えると、なおさらだ。

 サミュエルソンは今回も同じ論を14日ワシントンポストのコラム「High-speed rail is a fast track to government waste」(参照)で展開している。議論の骨子は3年前と変わらないのだが、気になる修辞がある。

High-speed rail would definitely be big. Transportation Secretary Ray LaHood has estimated the administration's ultimate goal -- bringing high-speed rail to 80 percent of the population -- could cost $500 billion over 25 years. For this stupendous sum, there would be scant public benefits. Precisely the opposite. Rail subsidies would threaten funding for more pressing public needs: schools, police, defense.

高速鉄道建設は間違いなく大きくなる。レイ・ラフード運輸長官は、高速鉄道を人口の80%にもたらすという政府最終目標を25年間で5000億ドルと見積もった。この巨費にはそれ相応に見合う公益があるだろう。正確に言えばその逆のもの。鉄道建設補助は差し迫る公的必要性を脅かすだろう。つまり、教育、警察、防衛。



Governing ought to be about making wise choices. What's disheartening about the Obama administration's embrace of high-speed rail is that it ignores history, evidence and logic. The case against it is overwhelming. The case in favor rests on fashionable platitudes. High-speed rail is not an "investment in the future"; it's mostly a waste of money. Good government can't solve all our problems, but it can at least not make them worse.

行政はもう少し賢明な選択すべきである。オバマ政権の高速鉄道建設案が残念なのは、歴史と実証と論理の無知である。反例が圧倒的である。賛同はは時流の美辞に乗っている。高速鉄道は「未来への投資」ではない。大半は無駄遣いである。良き政府ですら全ての問題は解決できないが、少なくとも悪化させることはない。


 サミュエルソンの言うとおりなのだろう。
 しかし私としては、それは国土が広く、人が分散して住む米国の話であって、日本のように大都市・中都市に集約的に人が居住する場合はそうでもあるまい、それに日本の新幹線は世界最高だから、他国も欲しがるに違いない、となんとなく思っていた。
 え?と思ったのは、おそらくサミュエルソンのこのコラムを受けただろう、16日のワシントンポスト社説「A lost cause: The high-speed rail race」(参照)を読んだときである。論調はサミュエルソンのコラムとさして変わらないが、日本についての言及があったのだ。高速鉄道建設は必ずや国家の負担になるという文脈の補強に出てくる。

That's certainly what happened in Japan, where only a single bullet-train line, between Japan and Osaka, breaks even; it's what happened in France, where only the Paris-Lyon line is in the black. Taiwan tried a privately financed system, but it ended up losing so much money that the government had to bail it out in 2009.

この事態は日本で確実に起きたことである。日本の高速鉄道でかろうじて赤字を出さないのは東京・大阪間のみである。フランスでもそうだ。黒字なのはパリ・リヨン間だけである。台湾は民営を試みたが、結局多大な損失を出して、2009年に政府が埋め合わせした。


 日本で高速鉄道建設として成功しているのは、東京・大阪間だけだと言うのだ。さらに同社説は高速鉄道の成功事例に、人口密度が高いことと、ガソリン税が高いことを条件にあげている。
 それを知らないで驚いたということではない。そんなもんだろうとは思っていた。驚いたのは、日本の新幹線網で、東京・大阪間以外の区間は今後ずっと赤字を垂れ流す運命だったのかということに、うかつにも気がついていなかったからだ。
 よほどの大都市間を結ぶのでなければ高速鉄道の収支は合わないというのは、サミュエルソンの言うように歴史も証拠も論理帰結も明らかにするところである、ということだ。
 ワシントンポスト社説は、もう1点私を驚かした。というか落胆させた。

China would seem to be an especially dubious role model, given the problems its high-speed rail system has been going through of late. Beijing just fired its railway minister amid corruption allegations; this is the sort of thing that can happen when a government suddenly starts throwing $100 billion at a gargantuan public works project, as China did with rail in 2008. Sleek as they may be, China's new fast trains are too expensive for ordinary workers to ride, so they are not achieving their ostensible goal of moving passengers from the roads to the rails. Last year, the Chinese Academy of Sciences asked the government to reconsider its high-speed rail plans because of the system's huge debts.

高速鉄道が問題となった最近の事例として、中国は、特段に不審が募るお手本になりそうだ。中国政府は、汚職疑惑で鉄道大臣を解任した。中国政府が、2008年に高速鉄道建設として、突如1000億ドルを巨大な公共事業に投じてのことだが、この手のことはよく起こることである。快適な走行であっても、中国の高速鉄道は一般労働者が乗るには高額過ぎる。だから、交通手段を道路から鉄道に切り替えるという見せかけの目標は達成されることはない。昨年、中国科学院は中国政府に対して、高速鉄道建設案の再考を促したが、その理由は、巨額の債務を産むからであった。



Of course, if the Chinese do finish their system, it is likely to require operating subsidies for many years - possibly forever. A recent World Bank report on high-speed rail systems around the world noted that ridership forecasts rarely materialize and warned that "governments contemplating the benefits of a new high-speed railway, whether procured by public or private or combined public-private project structures, should also contemplate the near-certainty of copious and continuing budget support for the debt."

当然ながら、中国が高速鉄道システムを完遂させれば、多年に渡り、おそらく永劫、運営補助金が必要になるだろう。高速鉄道網についての最近の世界銀行リポートによれば、乗客予測が当たることはあまりなく、こう警告を出している。「新高速鉄道によって利益を得ようとする政府は、国営、民営、官民合同の計画であれ、ほぼ確実とも言える、その負債のために巨額で継続的な予算支援を考慮すべきである」


 引用が長くなったが、要するに、中国に新幹線は売れない。中国も買う気なんかないということだ。
 オバマさんがなにをとち狂って高速鉄道建設案を持ち出したのかはわからないが、中国様は、まさか、そんなオバカさんなことはしないでしょうということだ。
 新幹線大好きの私としては、夢がぽろぽろと崩れ落ちる感じもしないではない。が、それが現実というものだろうし、さて、日本が背負い込んだ新幹線を今後どうするものかなと少し考え込んだ。


追記
 誤解が多いように思えるので、少し追記しておくかな。
 まず、個人的に関心があるのはオバマ政権がなぜ高速鉄道建設に巨費を投じるのか、米国民主党の論理は知りたいと思っている。そこでなるほどという議論があれば、ワシントンポスト紙への一番の反論になるので、そういうコメントがいただけるとよいなと思っている。
 次に、高速鉄道と通常の鉄道は議論が別なので、そのあたりごちゃごちゃにされるのはご勘弁。
 ワシントンポストの主張が間違いであるというのは、事実の提示で決することなので、事実は違いますよ、そうですかということであれば、単純に言って、議論の問題はない。なるほどそうですかということ以上に沸騰されるのもご勘弁願いたい。
 ただ、この件については、「JRの財務情報を読めば明白」という次元なのかは議論の余地があると思う。個人的には国鉄債務とかを含め会計上の詐術があるのではないかと思う。なので、黒字があるのはごくわずかというワシントンポストの指摘は批判を喚起する点で有用だと思っている。
 新幹線擁護論と新幹線を国外に売るという国策は冷静に区別されるべきだと思う、という意味でもワシントンポスト指摘は有用だと思っている。中国に新幹線は売れそうにないのではないか。というか、売ろうとする勢力にこそ相当な利権がありそう。
 新幹線の是非について、個人的な意見を言うと、私は赤字であっても新幹線は整備すべきと考えている。つまるところ、これは国防にもなるという考えから。同様に、現行の方向ならTPPにも反対。農村が国土を担っているという点で国防の問題があると考える。いずれにせよ、それは国民の決めごとの問題。ただ、実質、国民の負担になるなら理解したほうがよい、と。

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2011.02.23

台湾陸軍少将が中国のスパイだった話の雑感

 日本で報道されなかったわけではないが、台湾陸軍少将が中国のスパイだったというニュースは、それほど日本では話題にならなかったように思う。
 話は2月8日のこと。まず報道の確認から。朝日新聞記事「中国に台湾軍少将が機密漏らす 指揮用の情報システムか」(参照)がよくまとまっている。


台湾軍の現役陸軍少将が機密情報を中国に漏らしていたとして、軍検察が勾留、取り調べていることが明らかになった。少将は通信関連を担当する要職に就いており、安全保障の根幹を揺るがすとの懸念が広がっている。将官級による機密漏洩(ろうえい)の発覚は、国民党政権が台湾に移った直後の1950年ごろ以来という。


 台湾各紙によると羅少将は、米クリントン政権時に売却が決まった、陸海空を統合した作戦指揮のための高度情報通信システム「博勝」にかかわっていた。有事には米軍側と接続可能とされるこのシステムの情報が漏れた可能性があり、台湾各紙は米国との信頼関係にかかわると指摘している。

 台湾軍部の将官級に中国のスパイがいたということ自体、大事件でもある。
 読売新聞記事「台湾軍少将、スパイ容疑で逮捕…報酬数千万円」(参照)が、「機密情報取得を目的とした中国の不正工作のすさまじさを示している」と感想を漏らすのもしかたがない。
 産経新聞記事「美人局の誘惑に負けた台湾軍高官 中国に機密漏洩」(参照)に「長年、中国のためのスパイ活動を続けてきた背景には、中国側が差し向けたとみられる30代の美女との交際があったことがわかった」とあるのを読むと、私も人生に一度くらいは美人計にかかってみたいと思わないでもない。冗談。
 野暮を承知で真面目な話に戻すと、台湾有事に関わる、陸海空を統合した作戦指揮のための高度情報通信システム「博勝」が漏洩した可能性は、日本にとってもう少し問題になってもよいはずだが、あまり話題にならないようだ。パンダ外交(参照)を延々とニュースにしていた。
 この件、その後、国内報道で余り見かけないでいたが、昨日産経新聞、山本勲台北支局長によるコラム「台北支局長・山本勲 台湾将軍が中国女スパイと密会 流出の機密情報は超弩級」(参照)を読み、私のような感想を持っていた人もいたんだなと共感した。

 台湾国防部が8日発表した羅賢哲・陸軍少将による中国スパイ事件は前代未聞だった。軍中枢の現役少将という位の高さ、漏洩(ろうえい)したとみられる軍事機密の重大性、米台関係への影響など、そのダメージは計り知れない。ところが事件発覚から1週間で地元メディアの報道合戦もほぼ収まり、相次ぐ中国スパイ事件に馬英九政権がどう対処しようとしているかもはっきりしない。中国の統一攻勢にさらされている台湾のこの現状に不安を覚えるのは、筆者だけだろうか。


 台湾軍のハイテク戦の中枢が丸裸にされかねないうえ、「博勝案」は米台合同作戦も想定したシステムなだけに、米軍への影響も大きい。同案は「まだ一部配備の段階で、米軍のシステムとも接続しておらず、被害は限定的」(立法委員=国会議員の帥化民・元中将)という。

 「博勝案」が米軍システムと接続する前だったので、それはよかったと言えるかもしれないが、発覚の経緯を知るとそれほど安堵できるものでもない。

しかも同部は「昨年6月、米連邦捜査局(FBI)の通報で事実を知った」(台湾誌「壱週刊」)とされるから、内部管理の甘さを批判されても仕方がない。

 米国側から台湾に対して、おまえさんの軍部に中国スパイがいるよと教えてもらったというわけだ。米国としてもそのままの状態にしておけないぎりぎりのところでもあったのだろう。
 コラムはこう閉じている。

 今回の事件は「氷山の一角」との指摘も多い。馬英九政権がこうした現状の打開にどういう抜本策を講じるか、注視したい。

 そこがとても難しい。
 この話題、なぜか20日のフィナンシャルタイムズ社説「Taiwan strengthens its mainland ties」(参照)が取り上げていた。その論調がなんともいえない味わいだった。

This month, Taiwan uncovered the worst case of alleged Chinese military espionage in 50 years. Major General Lo Hsien-che was arrested on suspicion of having passed military secrets to Beijing for the past six years. The revelation is an embarrassment to Ma Ying-jeou, the Taiwanese president, who has worked hard since his election in 2008 to restore closer ties with mainland China.

今月、台湾はこの50年間で最悪の、中国の軍事的スパイ活動容疑を暴露した。羅賢哲・陸軍少将は、この6年間台湾の軍事機密を北京に手渡しという疑いで逮捕された。大陸側中国と緊密な関係を復元しようと、2008年の就任以来奮迅してきた馬英九台湾総統はこの暴露で困惑に陥った。



Under Mr Ma, China and Taiwan have signed a free trade agreement that should bind their economies even more closely together. The number of Chinese tourists visiting Taiwan has risen sharply. Direct flights and shipping routes have been instituted. Taiwan’s opposition senses a trap: that Beijing wants to draw Taiwan into an economic bear hug so closer political ties become a fait accompli.

馬政権下で中国と台湾は、よりいっそう密接に経済を結合する自由貿易協定に署名している。台湾を訪問する中国観光客は急激に増えた。直接の空路と航路もすでにある。だが、台湾の野党は罠を感知している。中国政府は台湾を経済圏に抱き込むことで、政治的な結合も既成事実化するという罠。


 台湾野党側の疑念は当然ではないかと思うのだが、ここでフィナンシャルタイムズは、馬政権擁護に論調を変える。

That may, indeed, be Beijing’s plan. But Mr Ma has carefully distinguished economic from political concessions. As well as reiterating Taiwan’s status as a “sovereign state”, he has praised the award of the Nobel Peace Prize to Liu Xiaobo, a dissident who has urged Beijing to adopt the sort of pluralist political system practised in Taiwan. Mr Ma has risked Beijing’s wrath by asking to buy more US weapons to bolster Taiwan’s defence against Chinese attack. These are not the actions of a president bent on securing reunification by the back door.

実際それが、中国政府の計画なのかもしれない。だが、馬氏は、政治的な譲歩と経済を慎重に区別してきた。「主権国家」として台湾の地位を繰り返し主張しつつ、台湾のような複数政党政治の採用を中国政府に提唱した反体制思想家である、劉暁波氏へのノーベル平和賞の賞を賞賛した。馬氏は、中国からの攻撃に備え台湾の防衛を支えるために、米国に武器購入を要請することで、中国政府の憤りを買う危険も冒した。こうした行動を見れば、馬総統は統一確保を裏道で推進する人ではない。


 馬総統への評価は微妙なところだが、奇妙なのはなぜ英国のフィナンシャルタイムズがこうした論調を張るかにある。
 フィナンシャルタイムズは、中国の軍事的な危険性を、パンダに浮かれる日本人のように暢気に見ているわけでもない。

Taiwan remains a potential flashpoint. If China were to slip into economic crisis, some military hotheads might be tempted to invade.

台湾は依然、潜在的な軍事問題の着火点の状態にある。中国が経済危機の中に陥ったなら、中国の軍部には、台湾侵略を望む誘惑にかられる者も出てくるだろう。


 さらりと述べているが、中国経済の破綻が中国軍部の暴走の引き金になると見るは、日本では禁句かもしれないが国際的な常識と言っていいだろう。
 結語が困惑に尽きる。

When the irresistible force of reunification meets the immovable object of independence, concentrating on economics and kicking politics into the long grass remains the most sensible course.

中国統一が避けがたい力なのにこれが独立という不動の対象にぶつかるなら、経済に集中し、政治については藪に入れておくしかないというのが、もっとも理性的な方路である。


 呆れたというのが私の率直の感想である。問題を経済に集約していけば、中台統一が既成事実化すると懸念する台湾野党に対して、あたかもそれが歴史の必然のように高説、のたまわるという風情である。
 台湾が独立精神を持ちづけていても、抗いがたい経済の力で中国は統一するのが大局観だと言われて、はいそうですかと言えるだろうか。台湾だけが問われているのではなく、日本も問われているのに気がついたときに。
 私は、反中気分で中国に単純に抗うのは愚かだし、経済的な親好はできるだけ深めるべきだろうと思う。しかし、フィナンシャルタイムズがお薦めするように政治の問題を藪に蹴り込むのではなく、台湾や日本が独裁国家の中国に対して政治体制の面で毅然と独立を維持することのほうが、独裁制を取る中国が崩壊した際、中国民衆にとって大きな支えとなるのではないかと考えている。「そうか台湾や日本のように民主主義という道もあったのだ」という道標は維持しておきたい。

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2011.02.22

リビア争乱は問題として見れば始まりとともに終わり

 リビア情勢はどうなるのか。展開が急なわりに問題の軸がうまく見いだせず、漫然と事態を見ていたのだが、今朝ワシントンポストとフィナンシャルタイムズの社説を読んだら、すっとわかった。もうすべて終わっている。簡単に言えば、カダフィー「大佐」はすでに国際的な人道上の犯罪者だから、生き延びてもその国の石油は西側社会が抑えるということ。終わり。これって、イラク戦争2.0ではないのか。
 リビア問題を見る上でキーとなる条件がいくつかあった。IT革命、アラブ諸国の民主化、独裁体制の崩壊……とかではない。まず、リビアは小国であることだ。隣国エジプトの人口は8300万人だが、リビアは640万人。エジプトの十分の一も満たない。「不安定化するイスラム諸国」とかのお話に付随するイラスト地図を見ると、エジプト並みサイズの国で暴動が起きているというイメージを持ちやすいが、あの国土にエジプトの十分の一の国民が散らばっているとなれば、治安の仕組みはかなり異なる。
 実質的には、リビアは各地方の部族とカダフィー政府の曖昧な合意によって成り立っていたと見てよく、その連携が切れれば国はバラバラになる。
 2点目はリビアは原油の確認埋蔵量で世界8位の国であり、この国の動向には原油の利権が必ず絡むことだ。ひどい話になるが、原油を誰がどう握るかが、リビア問題の結論になると言ってもよい。これは支配という意味ではなく、市場化・コモディティ化させるという意味でもある。
 3点目には、カダフィー「大佐」による独自な統治形態や傭兵の多い軍といった、いわゆるリビアの政体(レジーム)の問題がある。が、すでにレーガン政権時代のような問題とはいえず、実はその要因は小さい。
 このパズルをどう解くのだろうと困惑していた。が、なかなか読めなかった理由もわかった。私は、カダフィー「大佐」のような可視で滑稽な悪玉は世界にとって必要と見なされていると理解していた。話を簡単にするが、隣国の金さんに対して脅しばかりではなく、「大丈夫、ほら、カダフィー大佐もいるではないか」とすれば、説得力がある。それは間違いだったのだろう。
 リビアにはエジプトのように、国家に浸潤した形での軍部はなく、緩慢なクーデターを演出するといった芸当はできない。反乱が起きれば、軍を使ったマジな弾圧が始まるのは必然なので、その人道的な危機が懸念される……といえばいかにも正しい話だが、それを止めることはほぼできない。
 つまり、リビアに一定以上の争乱が起きれば、人道上の問題が発生するのは必然であり、その必然が発生してしまえば、真珠湾攻撃をやったから許されませんよといったふうに、為政者は国際的な犯罪者となり、よって資産は没収となる。そういうプロセスを辿ることは、決まっていたわけだ。一定量の争乱の発火ができれば、カダフィー「大佐」を屠れることは決まっていた。
 構図が見えてきたのは、ワシントンポスト社説「Moammar Gaddafi must pay for atrocities」(参照)からである。西側はリビア政府に民主的な対応を求めたが、それではまだ弱いとして。


But the regime's actions demand much more forceful action, including an immediate downgrading of relations and the raising of Libya's case before the U.N. Security Council. The United States and the European Union should make clear that if the regime survives through violence, it will be subject to far-reaching sanctions, including on its oil industry.

しかし、リビア政権の行動にはさらに強固な行動が必要であり、それには即時の関係格下げと国連安全保障理事会前にリビア問題を議題化することを含む。もしリビア政体が暴力によって存続したとしても、この政体は広範囲な制裁されるべきであり、それには原油産業をも含むことを、米国と欧州連合(EU)は、明確にすべきである。


 人道的な犯罪者の資産であるリビア原油を西側社会が差し押さえますよということだ。
 西側の思い通りになるだろうか。イランのように反西側の産油国化にはならないのだろうか。その懸念は、イランのような、まがりなりにも統一的な政体維持が前提となる。
 この点はフィナンシャルタイムズ「The Arab revolt comes to Tripoli」(参照)が示唆深い。

In both Tunisia and Egypt, the army proved critical in not turning its force on civilians, and maintaining peace once the autocrats were deposed: military leaders were able to separate their own fate from that of their leader. In Libya, the security forces are more of an unknown quantity and the army is not a coherent institution. The tribal nature of Libyan society adds a further layer of uncertainty.

チュニジアとエジプト両国とも、軍部は市民に力を向けなかった。独裁者が追放されれば平和が維持された。軍部指導者は、その支配者の命運を分別できた。リビアでは、治安部隊はより未知数であり、軍部は一貫した組織体ではない。リビア社会は部族社会を基本とするため不確実性が高まっている。

It has always been a generalisation to refer to a monolithic Arab world. Libya’s population is 6m people; Egypt’s is 83m. Libya has almost no civil society; it is closed and dysfunctional. If Mr Gaddafi falls, it is more uncertain even than elsewhere what will fill his place.

アラブ世界は一枚岩だと雑駁に言われ続けたものだった。リビアの人口は600万人だが、エジプトは8200万人である。リビアには市民社会はほとんど存在しない。リビアは閉鎖的で国政は正常に機能していない。仮にカダフィー氏が失墜しても、代わりとなるのはよりいっそうの不安定性である。


 カダフィー「大佐」が消えたとしても、この地域に国家を維持する為政者はいない。ますます、原油は西側で管理するということにならざるを得ない。
 近い未来の予測というなら不明だが、中長期的にリビアを考えるなら、イラクと同じような混乱を通しても議会制に移行させ、原油はコモディティ化の方向に向かわせるのが西側の総意と見てよいだろう。


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