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2011.12.16

オバマ米大統領によるイラク戦争終結宣言の背景

 オバマ米大統領がイラク戦争の終結を宣言して正規兵を撤退させたものの、米国シビリアン1700人とその保護の民間軍事会社・武装要員5000人は常駐させた(参照)。イラクはどうなるのか。オバマ米大統領によるイラク戦争終結宣言の背景について、最近の動向から見ていこう。
 一番気になるのは、10月下旬にイラク政府が公表した大粛清である。
 故フセイン大統領を支えた当時の政権与党バース党員や同体制時の軍人615人が逮捕された。ニューヨークタイムズ報道によれば(参照)、理由は、在イラクの旧バース党員がクーデターを目論んでいるとの情報をリビア暫定政権指導部から得たからとされている。だが、クーデター計画を裏付ける証拠は提示されていない。同報道にもあるように口実に過ぎないだろう。
 何の口実かといえば、スンニ派の弾圧である。
 逮捕者の大半はスンニ派と見られる。スンニ派に対立するシーア派のマリキ首相が、米軍撤退を機にシーア派の政治勢力強化を図ろうとしたものである。しかも、たれこんだとされるリビア暫定政権指導部もシーア派である。シーア派はイラン政府とも繋がりがあると見てよいだろ。
 マリキ首相は突然、変貌したわけではない。イラクの旧軍隊を解体した後、米国ブッシュ政権が関与する時代ではイラクの国内宥和を推進すべくバース党員にも雇用機会を与える立法がなされた。だが、米国がオバマ政権に変わるのと併行して、骨抜きにされていった。スンニ派の政治参加も停滞し、同時にシーア派の強化がなされてきた。いわば今回の粛清はその仕上げと言えるものだった。
 9月26日にHuman Security Gatewayが発表した「Failing Oversight: Iraq's Unchecked Government」(参照PDF)からは、イラク政府は近年、腐敗を防げず権威主義的な傾向にあり、公共サービスも低下しているとしている。皮肉なことにこれらは、イラク戦争後の混乱や暴力によるものではなく、むしろ安定によってもたらされたようだ。
 こうした状況下でなぜオバマ大統領は軍の撤退を実施したか。オバマ政権の公約でもあり、次期大統領選のための口実だから当然と思う向きもあるだろう。そこが難しい。
 現実的に見れば、イラク政府も米国政府も内部で分裂した状態の悪しき帰結であった。ワシントンポスト「An end to the Iraq war? Only for the U.S.」(参照)が内情を伝えている。表面的には米国とイラクは協調しているように繕っているが内実は異なるとして。


In fact, both governments were internally divided. The majority of Iraqi leaders sought a continued U.S. troop presence as a check on Iran and a guarantor of a strong alliance — just like other American allies in the Persian Gulf.

実際は、両政府は内部分裂していた。イラク指導層は、ペルシャ湾沿岸の米国同盟国同様、イランを監視し同盟の証として米軍の駐留継続の道を模索していた。

But Mr. Maliki found it hard to face down the Iranian-backed party in his government; he eventually brokered a bad compromise under which Iraq proposed that U.S. training forces remain but be denied the legal immunity the Pentagon insists on elsewhere in the world.

しかしマリキ氏は、政権内のイラン支持派と対決するのは困難だと見るや、たちの悪い妥協に至った。つまり、米国要員による軍指導員は残留させるが、米軍た各国で地位協定として結んでいる免責特権は認めないというのである。

That gave Mr. Obama a ready reason to side with White House advisers who had argued against a stay-on force all along.

マリキ氏の妥協案は、駐留に反対してきた政権顧問を利する理由をオバマ氏に与えた。

U.S. military commanders, with an eye on Iran, had planned for a troop contingent of up to 18,000. But civilian aides argued that U.S. and Iraqi security forces have demonstrated the ability to maintain control even as U.S. forces have pulled back; that Iraqis have resisted Iranian meddling and will continue to do so; and that the political system now works well enough to prevent a return to the sectarian warfare that raged before 2007.

米軍司令部は、イラン監視もあって、1万8000人の駐留を計画していたのだった。しかし、政権内の文民側は、米軍撤退後も、米国とイラクの治安部隊で統制可能であると主張した。イラクはこれまでもイランに抵抗してきたし今後も抵抗するだろう。イラクの政治体制も機能し、2007年以前に猛威を振るった宗派間闘争は防げるだろうというのである。


 つまり、オバマ政権が公約だからイラク撤退したというより、イラク政権も米政権も意見対立があり、その妥協の産物として今回の撤退となったわけで、むしろ、要点は撤退よりも、米国シビリアン1700人とその保護の民間軍事会社・武装要員5000人の常駐にある。
 オバマ政権内の文民側の予想のように推移するかといえば、すでに言及したように、すでに逆の動向にある。イラク内の宗派間闘争が進行し、さらにイランを中心とするシーア派勢力の影響力がリビアなどを経由して浸透しつつある。
 先のワシントンポストは今回の撤退に疑念を寄せている。

The next year or two will show whether that calculation is correct. In the meantime Mr. Obama will surely boast on the campaign trail, as he did Friday at the White House, that he has fulfilled his 2008 pledge “to bring the war in Iraq to a responsible end.” End it will, for Americans if not for Iraqis; as for “responsible,” count us among the doubters.

目論みどおりに進むかは来年か二年後にはわかるだろう。それまでの間、オバマ氏は、ホワイトハウスで金曜日で言ってのけたように、「イラク戦争に責任有る終結をもたらし」2008年の公約を実現したのだと自慢げに吹きまくるだろう。米国民には終結だろうがイラクの人々にはどうだろうか。「責任有る」を、われわれは疑っている。


 次期米国大統領が誰になるのか。現下、爆笑シリーズの共和党候補漫談で共和党が自滅していくなか、じわじわとオバマ再選の色が濃くなっていく。オバマさんが撒いた失策を、オバマさんが尻を拭くということになりそうな気配である。
 
 

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2011.12.15

コンゴ大統領選不正から内戦が誘発されるか

 「アラブの春」や「欧州危機」の話題に隠れて国内では報道されない、というほどことでもないが、コンゴの不穏な状態について、その内情についての報道は見かけない。ざっと見渡したところ、扱っているブログもなさそうだし、想定外の方向に展開する可能性もあるかもしれないのでメモしておきたい。
 コンゴの現状について日本国内報道がないわけではない。11日NHK「コンゴ 大統領選後混乱で4人死亡」(参照)より。


アフリカ中部のコンゴ民主共和国で、選挙管理委員会が現職の大統領の再選を発表したことに野党の支持者が反発し、治安部隊との衝突で、少なくとも4人が死亡しました。

 今回の事態だが、当面の話の発端は11月28日の大統領選挙の投票である。選挙管理委員会は12月9日、現職のカビラ大統領が49パーセントで1位、野党党首チセケディ氏が32パーセントで2位と発表したが、野党側は選管発表を受け入れず、一部が暴徒化した。野党側の不満の噴出というありがちな話にも思えるが、事態の本質はそれではない。もう少し追ってみよう。

ところが32パーセントの得票率で2位だった野党党首のチセケディ氏が選挙に不正があったとして結果を受け入れず、「自分こそが大統領だ」と主張し、混乱が広がっています。10日には、首都キンシャサで選挙結果に反発した野党の支持者が路上でタイヤを燃やしたり石を投げたりして治安部隊と衝突し、これまでに女性1人を含む4人が死亡しました。国際的な人権団体は、一部の投票所の票が開票されないまま投票結果が発表されるなど、不正があったと報告しており、今後、最高裁判所が選挙結果を承認するかどうか判断することになっています。

 当面の問題は、チセケディ氏が敗北を認めず、また現状では選挙の公正さに疑念があるということだ。
 選挙にどの程度の不正があったかが問われることになるし、NHKニュースの流れでは、その疑問は当面は最高裁判所待ちといった印象を与える。
 AFP「コンゴ民主共和国で現職大統領が再選、野党候補は不正を主張」(参照)報道も補足になる。

 最高裁は、12月17日まで選挙結果への不服申し立ての審理や選管が発表した選挙結果の点検を行った上で正式な当選者を宣言することになっているが、チセケディ氏は、最高裁は「カビラ氏の私的な機関」になっているとして不服申し立てはしないと述べた。カビラ大統領は選挙期間に入ってから、最高裁判事を7人から27人に増やしていた。

 NHKニュースの流れに戻ると、コンゴの大統領選挙は、とりあえず17日までは様子見となるはずであった。
 だが事態は国際問題化してきている。米国はこの選挙に不備があるとすでに声明を出した(参照)。
 いくつか疑問がわく。どうすれば選挙不備がただせるのか。米国は17日までの宣言にプレッシャーを与えたと見るべきか。米国を含め西側諸国はチセケディ氏側の言い分をのんだのか(コンゴの最高裁はカビラ氏の私的な機関だと認めたか)。そのあたりが現下問われている。
 仮に選挙結果が正せるとして、その結果を現職カビラ大統領が受け入れるのかという問題にもなる。
 それ以前に、この選挙の実態はどうだったのか。つまり、先日のロシア下院選挙のように不正があるにせよ、大筋は変わらないということなのか。
 実は、それ以前の前提があった。今回の大統領選挙は最初から茶番として実施されていたのだった。フィナンシャルタイムズ「Kabila’s charades cost Congo dearly」(参照)が手の内を明かしている。

Britain funded this charade with £31m, the European Union with €47m, and the UN with $110m. They have all raised concerns. But the international community does not favour Mr Tshisekedi. Instead it is ready to choose the option perceived as safest: supporting the status quo.

この茶番に英国は3100万ポンド、欧州連合(EU)は4700万ユーロ、国連は1億1千ドルを拠出した。これらの国は懸念を表明したが、この国際社会とやらはチセケディ氏を良しとしていたわけではない。それどころか、安全パイを選ぶことになっていた。つまり、現状維持である。


 そもそも不正選挙であっても、カビラ大統領を立て、内乱を誘発しないように抑え込むという筋書きであった。
 西側シナリオの背景には、近隣6か国の介入を招き1998年から5年間も続き、死者400万人も出した「アフリカ大戦」とも呼ばれる大規模な内戦を誘発するのは避けたいという思いがある。
 だが、この虚妄の安定を突いてこの間、中国がコンゴの資源獲得に乗り出し、民主化や富の再配分を妨げてきた。これも潜在的に大きな問題となっていた。
 つまり、西側の茶番筋書きが、米国の口出し後もそのまま維持されるのかが、現下の問題になっていると見てよいだろう。
 米国の思惑といえば、毎度ながら気になるのはワシントンポストだが、これが読みようによっては胡散臭い主張をすでに掲げていた。「Congo at risk」(参照)より。

Mr. Tshisekedi had promised that his followers’ reaction to a loss would mimic the Arab Spring revolts in northern Africa. More likely, the result of taking to the streets would be a bloody contest like those that followed disputed elections in Kenya and Ivory Coast. At worst, Congo’s multi-sided, transcontinental war could reignite.

チセケディ氏は、選挙敗北について彼の支持者の反応は「アラブの春」のようになると約束している。街頭活動の結果は、ケニヤやコートジボアール選挙に続く血みどろの闘争になる可能性が高い。最悪の場合、多勢力に分かれたアフリカ大戦が再燃しかねない。

The United Nations, which has 19,000 troops in Congo, should be prepared to act quickly to prevent a broader conflict, while Western governments and Congo’s neighbors should make clear to Mr. Kabila that excesses by his security forces will not be tolerated.

1万9000人の軍をコンゴに置いている国連は、より広い衝突を防止するよう迅速に行動する準備をすべきだし、他方、西側諸国とコンゴ隣国はカビラ氏に対して、その治安部隊の逸脱行為は許されないと明言すべきだ。

Congo’s election is already a political failure; the challenge now is to prevent it from triggering a humanitarian catastrophe.

コンゴ大統領選挙はすでに政治的な失敗である。現下の問題は、大規模な人道危機を引き起こさないようにすることだ。


 ご立派なことを述べているようだが、良く読むと、ようするに米国は当初の茶番シナリオはすでに失敗しているのだから、放棄せよということだ。そして明確には書かれていないが、カビラ大統領の失脚も想定されていると見てよいだろう。
 では、米国はコンゴの政権交代を操るのだろうか。
 普通に考えるなら無理だ。現状では、国連軍が米国の思惑で動くとも思われないし、リビア内戦のように裏方に回ってこっそり米国の実力を行使するようなことはできそうにはない。
 それでもどうも胡散臭い第二シナリオが展開しそうな雰囲気がある。
 
 

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2011.12.11

エジプト・クーデターの落としどころ

 「第二革命か」とも言われた11月下旬のエジプト、タハリール広場を主とする抗議運動はしぼみ、軍部のシナリオどおりに議会選挙が実施された。現状から今後の動向の関連をメモしておこう。
 議会選挙でイスラム政党が躍進することは予想通りのことだが、論点は軍部が権限移譲を行うかにある。
 単純な話、来年、軍部が権限移譲を行えば、この一連の争乱は結果的にクーデターとは言えないものに変貌する。軍部の権限移譲がなければ、歴史評価としてもただのクーデターで終わることになる。
 11月下旬の抗議運動は、そもそも軍部に支えられた暫定政府が、軍最高評議会の意向を受け、早々に独自に新憲法指針を出したことへの反発が発端であった。この指針では、軍予算について軍部に全決定権を持たせるとしていた。
 構図は選挙前の11月30日ワシントンポスト社説「Will Egypt’s generals respect the power of the vote?」(参照)が明快に描いている。


The full results of the vote won’t be known for some time, although well-organized Islamic parties, led by the Muslim Brotherhood, are widely expected to finish first. In the short term, the biggest winner will be Egypt’s ruling military council, which by staging an orderly and relatively free election in Cairo may have defused a new popular rebellion. Huge crowds that gathered in Tahrir Square last week and clashed bloodily with police and troops largely disappeared when the polls opened.

選挙結果は当分不明だろうが、ムスリム同胞団が率いる、組織化のよいイスラム政党が第一党になるだろう。しかし短期的には、最大の勝利者はエジプトを支配する軍事評議会となる。彼らは、通常手段で比較的自由な選挙をカイロで演出することで、新たな大衆抗議を沈静させてしまったかもしれない。投票が開始されるや、先週タハリール広場に集まり、警察や軍と血まみれになっても衝突した群衆の大半は消えた。


 11月下旬の抗議運動が失敗したことで、軍部による憲法指針は事実上確定した。

Facing charges both at home and abroad that it was subverting a promised transition to democracy, the generals can now claim that the process is back on course.

約束された民主化移行を反故としてきたとして国内外で批判されていたが、将軍たちは今や民主化プロセスに戻ったのだと主張できる。


 軍部の主張は本当か。この食わせ物のクーデター騒ぎがまだ継続しているだけなのか。
 ワシントンポスト社説は疑念を提示していた。軍部が民主化への権限移譲のプロセスにあると主張することに対して。

That claim could still prove deceptive. In addition to the more than 20 days of voting still to be managed, a successful election will require the military council to respect its results — which it has not yet committed to doing. The generals last week named a new prime minister — a 78-year-old veteran of the Mubarak regime — and have not yet agreed that the elected parliament will form its own cabinet.

この主張もまた欺瞞だと判明する可能性がある。選挙の成功は、20日以上かかる投票が管理されることに加え、軍事評議会が結果を尊重する必要がある。だが、軍事評議会はこの件について関与してこなかった。将軍たちは先週、ムバラク時代に経験がある78歳の新首相を任命したが、選出議員による議会が組閣することには同意していない。

They are also attempting to reverse a constitutional amendment, ratified by a popular vote just eight months ago, that gave the new parliament authority to select the members of a constitution-writing committee.

8か月前に一般投票で承認されたのだが、新憲法草案作成委員会選出の権限を新議会に与えるとする憲法改正を軍事評議会は覆そうと試みている。

Their aim, council chief Gen. Mohammed Hussein Tantawi baldly stated in a news conference Sunday, is to ensure that the military’s power remains unchallenged in the new political order, even after the promised handover of authority to an elected president in June.

軍部の目的は、軍事評議会のムハンマド・フセイン・タンタウィ将軍が日曜日の記者会見で言ってのけたように、来年6月に選出される大統領に権限が移譲された後も、政治の新体制において、軍部の権力が現状のまま確実に温存することにある。


 これこそ大がかりなクーデターの仕上げとも言えるものだ。
 現状についてだがウォールストリート・ジャーナル「イスラム政党の躍進で軍との関係複雑化=エジプト人民議会選挙」(参照)がわかりやすい。

 選挙管理委員会の4日の発表によると、サラフ主義(強硬なイスラム原理主義)の超保守派政党ヌール党が政治アナリストの予想を上回る24.4%の得票を獲得した。穏健なイスラム原理主義組織ムスリム同胞団系の自由公正党は、ほぼ予想通りの36.6%で、宗教色のないエジプト連合は13.4%にとどまった。この結果、イスラム系政党が得票率の60%超を確保した。イスラム政党有利の傾向は今後2回の投票でも続く見通しだ。
 アナリストによれば、新議会でイデオロギー上の対立が表面化すれば、議会が軍に対し強く当たれるかどうかについて、自由公正党が大きな責任を負うことになるとみられる。同党がサラフ主義政党とリベラル政党の相対立する要求をうまく吸収できれば、新議会は軍に強力に対抗できそうだ。


 軍最高評議会は、新議会が制定する新憲法で文民政府の決定から軍の予算や政治的立場を保護することを要求している。エジプト連合は自由公正党を嫌っているが、軍から議会への権限移行を望むならば、差し当たっては自由公正党と連携する必要性が出てこよう。

 イスラム政党が躍進したとはいえ、国民の一割のコプト教徒(キリスト教徒)を抱え、またイスラム色を脱したいとする世俗主義者も少なくないエジプトでは、国論をまとめることが基本的に難しい。そしてその困難さが与党に負わされることになり、与党が困難な妥協を求めることになる。
 問題はその妥協先はどういう方向に向くかということだ。別の言い方をすれば、イスラム政党が、暴力機関である軍部の独立性を奪取して、これを国家という暴力装置に収納する方向に動くかということになる。それには、当然ながら、軍部との対立構図を政治として描けるかにかかっている。
 無理だろうと私は思う。ウォールストリート・ジャーナルもその線で見ているようだ。

 しかし、イスラム諸政党は連立を組んで一致団結することには慎重。一方、リベラル諸政党は自由公正党とある程度距離を置く方針のため、軍最高評議会が議会を巧みに操る可能性もある。軍政の打倒を掲げるリベラル派は、ムスリム同胞団がここに来て軍に対し協調的な姿勢を見せていることに怒りを募らせている。

 ムスリム同胞団系の自由公正党が軍部と対立できるように政治の構成を取ることは困難であり、むしろ逆に与党が軍部と妥協・協調していく可能性が高い。このことは、先日の抗議活動でもすでに先行して見られた動向であった。
 11月下旬の抗議活動こそ革命の始まりかと見た、11月27日のNewsweek記事「Does Egypt's Real Revolution Start Now?(エジプトの真の革命が今始まったのか?)」(参照)は、クーデター政権完成の図柄をこう描いていた。

The high command, for its part, has worked hard to divide any potential opposition, trying to create what Prof. Robert Springborg, an expert on the Egyptian military at the U.S. Naval Postgraduate School, calls "a new political order in which it may agree to neither rule nor govern, but in which it in turn is neither ruled nor governed."

最高司令部としては、軍に歯向かう政治勢力の分断に注力し、新体制を形成しようとしている。それは、エジプト軍の専門家ロバート・スプリングボーグ米国海軍大学院教授によれば、「支配も統治もしない代わりに、支配も統治もされない組織」である。


 エジプト国家内でありながら、独立した国家的な組織をエジプト軍部は求めているというのだ。

There’s widespread suspicion that the traditional leadership of the once-outlawed Muslim Brotherhood is willing to cut deals with the high command to protect the generals’ prerogatives as long as the way is cleared for the Brotherhood to win elections. In any case, senior Brotherhood officials have not supported the protests.

非合法だったムスリム同胞団の古参指導者は、ムスリム同胞団が選挙に勝つなら将軍らの特権を保護するとして、最高司令部と取引を快く結んだという疑惑が広まっている。いずれにせよ、ムスリム同胞団役員は今回の抗議活動を支援してこなかった。


 この軍隊を保持したまま、あたかも皇帝のような特権者となる、軍事評議会のムハンマド・フセイン・タンタウィ将軍とはどのような人物か。

Foreign officers who have worked with Tantawi often refer to him as "the CEO of Military Inc." He is not only the minister of defense, he is the minister of military production, a position that oversees factories making everything from tanks to pasta, building toll roads and resorts, using conscripts as labor, and raking in millions of dollars that are never accounted for in public.

タンタウィと働いたことがある外国軍人は彼のことを「軍隊会社のCEO」と呼んでいる。彼は防衛大臣だけではなく軍需生産大臣も兼ねていて、戦車からパスタまで製造、有料道路からリゾート施設まで建設、徴集兵を使役し、国民に報告責任のない数百万ドルを稼ぎだすのである。


 欧米や、そして日本でも独裁者ムバラク前大統領が「エジプト革命」によって民衆によって打ち倒されたと語られた。さてその後の、国民と隔離された富と権力を保持する軍事評議会タンタウィ将軍とどちらが高潔であるだろうか。
 
 

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