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2011.11.05

現代版・竹島物語

 竹島の住所はというと、島根県隠岐郡隠岐の島町に属するが官有無番地。島根県松江市から北約70kmの隠岐の島町からさらに北西に約157km離れた、北緯37度15分、東経131度52分の岩礁である。人も住まぬと言いたいところだが韓国人が住んでいるらしい。
 韓国にしてみるとこの岩礁は韓国の領土だというのだ。大韓民国の住所もあり、慶尚北道鬱陵郡鬱陵邑獨島里となるらしい。
 ようするに日本と韓国がその領土を争っている地域である。他国から見れば、それだけなら、よくある領土紛争だが、日韓以外の第三者から見ても、そうとも言い切れないものが出てきた。今年の動向から見ていこう。
 6月16日のこと、大韓航空が翌日からのソウル・成田便に欧州エアバス社の「エアバス380」を投入するにあたり、メディア向けのデモンストレーション飛行を実施したのだが、その飛行ルートはというと、仁川空港から日本海方面に飛び、わざわざ竹島上空を通った。搭乗した新聞記者たちが機内から竹島の撮影ができるようにサービスしたのだが、韓国内の「竹島は韓国領土だ」という世論に迎合したかったという面もありそうだ。
 というのも、その前日の15日、韓国孟亨奎・行政安全相が竹島に上陸し、島内の道路・住所名称の整理・変更に伴う新名称表示板設置の記念行事があり、韓国内が竹島の話題で盛り上がっていたからだ。
 突然の盛り上がりというわけではない。4月1日には李周浩・教育科学技術相と李明博大統領側近である李在五特任相が竹島を訪問していたし、5月25日には白喜英・女性家族相が訪問していた。この時期に韓国の閣僚の竹島訪問が続いていたのは、韓国では来年4月に総選挙、12月に大統領選挙が控えており、吉例の選挙絡みのナショナリズムが高揚する時節だからだ。
 とはいえ、当然、日本にしてみるとこれらは自国領土への侵害である。6月15日の件については外務省の佐々江賢一郎事務次官が抗議した。その前の5月25日の件についても松本剛明外相が権哲賢駐日韓国大使(当時)に抗議した。しないわけにもいかない。
 6月16日のエアバス380による竹島上空フライトも、日本国として見れば領空侵犯である。外務相はまたかという感じで事実確認などをしてから5日後の6月21日に、在ソウル日本大使館を通じて韓国政府に抗議した。
 だが自民党からは手ぬるいとの声もあり、外務省は追加措置として公務による海外出張に大韓航空機の利用を一か月間自粛するよう全職員に通知した。その反応で韓国側も外交通商省が遺憾の意を表した。その他いろいろ騒ぐ人もいた。が、日本の外務相は通常、日本航空や全日空を利用するので、大韓航空を使うなという通達は実際には形式的な抗議に過ぎない。
 自民党としてはそれで収まりも付かなかったかのように7月15日、石破茂政調会長を委員長とする「領土に関する特命委員会」の新藤義孝衆院議員ら3名が、8月初旬、竹島に近いとされる韓国領の鬱陵島を訪問する計画を発表した。なぜ鬱陵島なのかというと、同島が竹島観光の拠点でもあり、同島内の「独島博物館」も視察したいということが、”表向き”の理由だった。
 自民党訪問団についての韓国側の反応だが、先の李在五・特任相は「独島を日本領と主張するための訪問なら韓国領土に対する主権侵害であり、絶対に許せない。あらゆる組織を動員し国民の名で鬱陵島上陸を阻止する」とぶち上げた(参照)。
 韓国が法治国家なら、韓国領土への訪問を阻止する法的な根拠は存在なさそうなものだし、7月18日付け朝鮮日報「独島:自民党議員ら鬱陵島訪問を計画」も「自民党の議員たちによる鬱陵島訪問を阻止する法的根拠がない上、訪問を阻止しようとしてトラブルが発生した場合、日本による領有権の主張を国際的にアピールする結果を招きかねないからだ。」と懸念していた。
 だが、韓国外交通商省の金在信次官補は7月29日、「身辺の安全確保が難しく、両国関係に及ぼす否定的影響を勘案し、議員一行の入国を許可できない」(参照)とした。韓国の出入国管理法では、「韓国の利益や公共の安全を害する行動をする恐れがあると認めるだけの相当の理由がある者」の入国を禁止できるらしい。
 自民党も大人げないものだなという印象があるが、この話、毎度お馴染みの騒ぎというのでもないようだ。4月19日に韓国は、鬱陵島に韓国海軍の次期護衛艦(2300〜2500トン級)を配備する案の検討を明らかにしていたからだ(参照)。
 さらにその計画の詳細は9月28日に報道された。共同「鬱陵島に海軍基地建設へ 韓国、竹島の実効支配強化」(参照)より。


 日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)の北西にある日本海の鬱陵島で、韓国政府がイージス艦が停泊可能な海軍基地を建設することが28日、分かった。与党ハンナラ党の鄭美京議員が明らかにした。
 鄭議員は新たな海軍基地の建設により、有事の際には日本の艦艇より1時間以上早く竹島に到着できると主張。韓国は、鬱陵島で海軍のヘリコプター基地拡張も計画しており、竹島の実効支配を強める狙いがあるとみられる。
 鄭議員によると、海軍基地は長さ300メートルの海軍専用埠頭を建設する。総事業費は3520億ウォン(約230億円)で、2015年までに完成させる。鬱陵島では、最大5千トン級の船舶を接岸可能とする埠頭拡張計画も明らかになっており、海軍基地と併せて整備する方針。

 日本人としては味わい深いものがある。なかでも「有事の際には日本の艦艇より1時間以上早く竹島に到着できる」というのは、日本国が竹島に海上自衛隊を向けるという想定に備えるものだというのが、率直なところ、奇妙な印象がある。韓国からは日本がそのような国家に見えているのだろうか。
 とはいえ、日韓双方の見解をそのまま付き合わせてもなんなので、国際的な外交誌「The Diplomat」の記事「South Korea’s Misguided Pier Plan」(参照)を参考に引いておこう。

Yet it’s hard not to feel that compared with the threats posed by North Korea and China, South Korea’s perception of Japan’s quest for control of Dokdo – and its response in developing the naval base on Ulleung Island – seem overdone.

北朝鮮と中国からの脅威と比較して、日本による竹島支配の追究と、その反応で鬱陵島に海軍基地を作るという、韓国の認識は度が過ぎると見るに否みがたい。

Sovereignty over the Dokdo islets has more emotive than strategic value for South Korea, and it’s clear that it is bitter historical memories that are shaping South Korea’s defence policy vis-à-vis Japan.

竹島という岩礁への主権は、韓国にとって戦略的であるより、感情的なものであり、韓国の対日防衛を形作っているのは、歴史の苦い記憶であるのは明らかだ。

Yet the fact remains that Japan’s current defence policy shows no sign of reverting to its military expansionist past.

しかし、事実はといえば、日本の防衛政策には、過去の軍拡へ逆行する兆候はまったくない。

With this in mind, South Korea’s security strategists would be far better crafting an approach that’s grounded in present day realities, not those of the past.

この点を留意して、韓国の安全保障戦略担当者は、過去に基づくのではなく、現状に基づいて、その戦略を形成していくほうが、はるかに好ましいだろう。


 まあ、ジャーナリズムの世論やネットの世論みたいなものでナショナリズムをわーわー言いあっていても始まらないが、日本国は民主主義国だし、この民主主義の政府で自衛隊という軍事力も掌握され、そのあり方も白書として公開されているのだから、それらに基づいて、韓国も現実性のある防衛策を検討したほうがいいだろう。鬱陵島に海軍基地を作るのは、現実的には、無意味なのだし。
 
 

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2011.11.04

老人はなぜ、うどんをあんなに食べるのだろうか?

 近所にうどん屋ができた。うどん屋といっても、大路に面した、駐車場の広いファストフードタイプの店である。ざっと見たところ、牛丼屋やラーメン屋の風体でもあるが、店の外観は黒ベースで和風の印象もある。大書した看板を見るに、うどんの種類は、さぬきうどんらしいが、釜揚げうどん、ともある。「花丸うどん」のようなものかもしれない。こういうものが流行っているのだろうか。気になって寄ってみた。
 駐車場のつまり具合から予想はしていたが店内に入ると、混んでいる。入り口の戸を開けるや自然に並ぶことになっている。おや? これは学食? セルフサービスらしい。プレートを手に取る。
 どんなメニューがあるのか、どういう支払いシステムなのか。よくわからない。まあ、二、三人前の人の真似をしていたら、なんとかなるだろう。先頭にいる村長さんが芋をすべらしたら、私も箸に刺した芋を振り払えばいい。いや、芋はない。だが、村長さんは、いた。
 もちろん村長さんではない。が、村長さんと呼んで遜色のない風体の老人が列の三人前にいる。そして私の前に老人が二人並ぶ。助役と出納役。
 かく言う私だって、ブログ界では爺の異名を取る者である。爺爺爺爺。これが蟹歩きしている。インベーダーゲームか。あるいはアルマゲストに記される静謐なる宇宙の秩序のようでもあるが、そのアルケーは、うどん。
 前方の爺列を見るに、うどん・アトムは二つの現象がある。ぶっかけと釜揚げ。最初にそのどちらかを選ぶのだ。選択は、ここにある。ぶっかけか、釜揚げか。そこが問題なのだ。
 暴虐な湯気を上げる釜から出でた白蛇のうどんに聖ヨハネのように格闘するのか、温玉うどんに刻みネギというもろもろの荷重に箸をとって立ち向かい、これを胃の腑に納めるか。どちらが立派な態度か。いや所詮は食事に過ぎない。食事によって、この肉体が受けなければならないカロリーと眠気。そうだそれこそ望ましき大願成就。食っては眠ること。眠るは多分夢見ること。おっと、まず食わねばならない。
 爺列は進み、時は迫り来るというのに決断ができない。どうするアイフル。
 前の爺のかまあげうどんの慣性にけおされ、にっこりを微笑む白衣のオバサンの威圧もあって、つい「かまあげ」と言ってしまった。もうしかたがない。ぶっかけで温泉卵ってちょっと気持ち悪いからなぁ。ましかも。
 あとは席を探して食えばいいのかとふとした気の緩みに、オバサンの一撃。「大? 並み?」 え? えええ?
 サイズがあるのか。並みだろ、並みな人間だしな、俺。「並み」と言って、風呂場の手桶の背を低めたようなものを受け取り、オートマトンの駒を進めると爺コンベアの次の工程は天麩羅。
 天麩羅が選べる。釜揚げうどんに天麩羅って初めての体験だな。コロッケはないのか、コロッケ(参照)。ないな。
 じゃ、かき揚げ、と見ると、駅蕎麦の2次元性はなく、オープン3Dで再現しましたみたいな立体的なかき揚げである。それもいいんだが、ここは、昭和生まれの並みの爺としては、磯辺揚げが狙い所。あった。おっとその手前にエビ天も。
 エビ天か、おお、これだ、これ、この衣たっぷりで実体が十二単に覆われた淑女のようなエビがよいのである。するとイカ天もあるに違いない。ある。ここでも選択しなければならないのか。この先は、トマトとピクルスか。
 で、エビ天。
 いや、ま、いいじゃないの。それとナス天。精進しないとね。
 百尺竿灯に一歩を進む。天つゆをもらって、かくして支払い。ワンコインで足りました。安いね。貿易自由化で安い小麦が輸入されるともっと安くなるんだろうか。いや、価格の大半は人件費と流通でしょ。
 支払いが終わると、爺列結合が分解されて、席を探すのだが、この時点になってようやく店内を見渡す。店内は広い。奥の方に座敷席もあるが、そこに爺がひとりぽつんと座るわけにもいかない。ボックスシートもある。ラーメン屋にも似ているな。カウンター席も当然。
 ということでカウンター席に座る。椅子は環境型権力を行使しているに違いないと思ったがそうでもない。
 右隣は爺。左隣は爺。爺再結合である。もういいよ爺。
 釜揚げうどんを食う。悪くない。腰もある。エビ天は期待通りぼってりと衣が脱皮するのだが、ほんのり暖かい。え? ナス天は、おおぉ、暖かいというか、ジューシーでよく揚げられているではないか。ラッキー。
 問題は、そう、問題はある。人生とは問題の連続である。飽きるのだ。味に。単調。うどんに腰があるのはいいけど、だんだん顎関節症のリハビリテーションになってくる。あれかな、爺さんたち顎の訓練でうどん食うのか。
 それに、食っても食ってもこの、釜揚げうどん減らないみたいなんだが、どういうトリックなんだ。
 右隣の爺さんをちらと見る。後から思い起こせばそれは釜揚げうどんであるのだが、その瞬間は視覚の遠近感が狂うような心的ダメージを受けた。で、で、でっかいタライ! そのタライはなんだ。これが「大」なのか。釜揚げうどんは、入っている。爺さん、もくもくと食っている。フィンセント・ファン・ゴッホ作『釜揚げうどんを食べる人々』のように。
 よもや、と見渡すと、店内のあちこちに、このでっかいタライ。ぶっかけのほうも、でっかいすり鉢みたい。
 店内の年寄り率が高いのはすでに描写したとおりなのだが、あっちこっちの爺さん婆さんが、なんで、こんな大量のうどんを食っているのだろうか。なにが起きているんだろう? ニッポン。
 老人たちは、一日一食なので食い溜ためているんだろうか。わからない。
 なんかとんでもないところに来ちゃったな。
 すごい敗北感で、食いきれなかった釜揚げうどんの小タライを戻して店内を出る。
 見上げるとすがすがしい秋の空が拡がっている。負けるな、俺。また、食いに来るからな。
 
 

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2011.11.02

エジプト軍政はアラー・アブド・エルファタ(Alaa Abd El Fattah)氏を公正に扱え!

 エジプトの民主化をブログから訴え続けた、29歳のエジプトのブロガー、アラー・アブド・エルファタ(Alaa Abd El Fattah)氏が10月30日、エジプト軍に拘束された。理由は、エジプト軍に対する暴力活動の煽動と妨害行為とされている。
 彼は、ムバラク政権下でもその言論活動で2006年に逮捕されたことがあるが、クーデターによって政権を奪取したエジプト軍は、あからさまにムバラク時代のやり口をなぞりだしたように見える。
 ガーディアンも今回の事態を「逆走」の転機(参照)と見ている。確かに「エジプトの民主化」と言うなら、ようやくの転機の兆候である。エジプトに民主化を求める諸国は、エジプト軍政がアラー氏を公正に扱うように求めなければならない。


アラー氏の拘束を伝えるガーディアン記事
(写真は左がアラー氏、右が夫人のマナル・ハッサン(Manal Hassan)氏)

 アラー氏に問われた「煽動」だが、このブログでも「エジプトのコプト教徒差別: 極東ブログ」(参照)として記したが、多数の死者を出したコプト教徒弾圧事件に関わるものである。この事件は現在、その広場の名称をとって「マスペロの虐殺(Maspero massacre)」と呼ばれるようになった。
 エジプト軍部はマスペロの虐殺について、丸腰の兵士三百人が、六千人のデモ参加者に向き合ったと二人の将官に証言させているが、戦闘用車両を突っ込んで市民を殺害したことや発砲したことには触れず、目撃証言とは異なっている(参照)。
 エジプト軍に拘束されたアラー氏は現在、軍人にはアラー氏のような市民を尋問する権利はないとして、文民による司法手順を望み、軍部への応答を拒絶している。だがこの拒絶を理由に軍政側は拘束を15日続けるとしている。事態について私は客観的に見ていきたいのだが、アラー氏の文民による司法への要求は民主主義国の市民の権利としてごく当然のことと言えるだろう。
 アラー氏の拘束に反対し、アラー氏への連帯から、タハリール広場には三千人の抗議者が集結して、現在のエジプト軍部が政権から下りるように求めた。軍政指導者に向けて、「陸軍元帥、革命はやってる」との声もスピーカーで拡がった(参照)。軍部が民主の議会に従属してこそ、初めて革命と言える。
 背景となるエジプト軍政府の動向はどうか? マスペロの虐殺の報道でもすでにそうであったが、軍側が被害者であるという枠組みに持ち込みたいようだ。今回の抗議者についても海外からの煽動によるのだと吹聴している。今回のアラー氏の拘束もこの流れの一環にある。
 しかし軍側が国内報道を握り直して、都合のいい虚構を流しても、抗議者たちの活動は依然ツイッターなどで世界に通じている。マスペロの虐殺でもその実態は、ツイッターやフェイスブックから証言が流布していった。軍側の虚構の枠組みによる抑え込みは無理がある。
 現在のエジプト情勢について、ざっと日本国内の報道や国内ブログを見まわしたところ、年初のような関心が失われているようにも思えたが、現在こそ、民主主義諸国がエジプト軍部の動向を注視していくことが重要だろう。ブロガーであるアラー氏へ弾圧の抑制に、一人のブロガーとして連帯の声を上げたい。


追記(2011.12.26)
 テレグラフ「Prominent Egyptian blogger Alaa Abdel-Fattah freed after two months - Telegraph」(参照)などによると、12月26日に解放された。

 
 

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2011.11.01

[書評]ボードゲームカタログ(すごろくや)

 「ボードゲームカタログ(すごろくや)」(参照)は、名前とおり、ボードゲームカタログである。簡素なのに、すごくよく出来ている。

cover
ボードゲームカタログ
 ただ、「ボードゲーム」と言われても、ピンと来ない人もいるかもしれない。ようするに「すごろく」である、というと別の誤解を招く。「人生ゲーム」みたいなゲーム、「モノポリー」(参照)とかね、なんて、あー、すまん、この二つは載ってないんです。ちょっと違う。
 基本は、「ドイツボードゲーム」と呼ばれるタイプのゲームだ。ドイツで10年くらい前から話題になって毎年、各種作成されるようになった、卓上で数名で遊べる創作ゲームである。
 ポイントは、大人も面白いということ。頭を使うタイプが多いが、チェスみたいに頭だけというゲームではない。リアルな人間が集まってわいわい、一、二時間を熱中して過ごすことができる。麻雀みたいな面もあるし、僕は麻雀とかやらないけど、麻雀より面白いんではないかと思う。いかが。
 著者は「すごろくや」となっていて編著という側面もあるのだろうが、実際に書いたのは、代表の丸田康司氏である。あとがきがふるっている。

 私がすごろくやを展開する以前は、15年以上にわたり「MOTHER2」「風来のシレン」など、テレビゲームの開発の仕事に携わってきました。しかしその市場が大きくなるにつれ、次第に黎明期の創作性の豊かさが失われていき、業界は一部の層を対象にしていくスパイラルから抜け出せなくなりつつありました。もともと私は20年ほど前から、この本で紹介されているような、ゲーム本来の魅力溢れる作品の数々に触れてきたこともあり、現状のテレビゲーム業界のズレを特に大きく感じていたのかもしれません。ならばその魅力をひとりでも多くの人に伝えたいと一念発起し、2006年春にボードゲームの専門店・すごころくやをオープンしました。

 起業というのはこういものなんだなというのが、ジンと伝わってくる。カネで評価される成功よりも、まず社会的な明確な使命が重要だし、こういう市民社会を豊かにする起業こそ大切だと思う。いや、なにより、ボードゲームが本当に面白いんだということに、人生賭けちゃうっていうのがよろしい。

ボードゲームには、人の顔を見ながら遊ぶというコミュニケーションの面白さがあります。今まで気がつかなかった相手の内面を知ることができたり、みんなエンターテイナーとなって人を楽しませる作用が生まれます。これらは参加者の思考と意思で成り立つ「小さな社会」とも言えるものです。

 まさにそれこそが、豊かな新しい市民社会の原点でもあると思う。日本国家の行く末が心配だとかでわけのわからない反TPP議論をしている人、国のことなんかすこしそっちに置いといて、もっと、仲良く遊べ。
 というわけで、彼が厳選した「一生手放したくない200タイトル」が収録されてる。カタログというだけあって、かなり網羅的だ。反面、一つ一つの記載はちょっと物足りないなというくらい少ない。が、少ない字数でかなりきちんと書かれている。やっぱ、ネットで拾ってくる情報と、本にまとまっている情報って違うんじゃないかとも思わせる。
 ボードゲームだから、トレーディングカードふうの「ドミニオン」(参照)はないかというと、そんなことはない。「ドミニオンパンツ」について知らなかった僕は、これ買おうかと真剣に悩んでいる。
 ざっと見ると、名前と概要は知っているゲームが多いなという印象だが、いろいろと考えさせられる。「国富論(Wealth of Common)」なんていうゲームもあったのか。ちょっと難しそうだが、やってみるとどうなんだろう。比較優位もわかならない大学教授が出鱈目な議論をぶちまける日本だと、この手の教育的なゲームがあってもいいし、そもそも学校で採用したらいいんじゃないか、いつまでも陳腐なイデオロギーで騒いでいるんじゃなくて。
 超定番の「カルカソンヌ」(参照)や「カタン」(参照)も載っている。「カルカソンヌ」については、「「草原」と「最終未完成得点」の要素を抜いて遊ぶルールをお薦めしています」とあり、たしかに最初やるときはそうしたほうがいいなと思う。ただ、僕個人としては、この二要素が囲碁みたいで気に入って、そこで逆転勝ちに持ち込むのが好き。
 本書は写真もきれいなのだが、「カタン」についても最近のこの4月に出た、それなりにしっかりしたバージョンが記載されている。待ち遠しカッタンですよ、これ。早く、海のほうのリメークも出ないか。余談だが、「カルカソンヌ」と「カタン」については、iPad版もけっこうきれいでやりやすい。戦略を試すときに使っている。
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Amigo 虹色のへび
 とま、個別のお薦めをしていってもなんだが、ひとつ特に薦めたいのが、AMIGOの「虹色のヘビ」(参照)である。どこがいいかというと、カタログにも書いてあるが、これ、3歳でもプレイできる点だ。3歳児とかの相手を頼まれることがある人なら、是非一セット持っておくといい。お相手の子供がうじゃっといるなら、二セットあるとなお吉である。単純な色合わせなので3歳でも、おk、というゲームだが、いや、ガキにまみれてやっているとこっちの熱があがってきて、癒されるものがありますよ。
 
 

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2011.10.30

TPP?反対ですよ。総選挙のときマニフェストで国民に問えばいいじゃないですか?

 TPP(the Trans-Pacific Partnership: 環太平洋戦略的経済連携協定)がにわかに、郵政民営化時のようなバカ騒ぎと化してきた。「貿易はゼロサムのゲームだから米国が勝利者なら日本は敗者だ」みたいな、それって中学生でもわかる間違いじゃないかと思うような意見をまともな大人が言ったりする光景は奇っ怪でもある。
 まあ、少し頭を冷やすためにも、政府は拙速な対応を取らないほうがいい。そもそも民主党政権は、FTA(Free Trade Agreement: 自由貿易協定)についてもマニフェストが固まっていなかったのだから、次回の総選挙のとき各党がマニフェストで国民に問えばいいんじゃないですか? 私の意見はそういうことで、TPP反対ですよ。よろしく。
 TPPは、しかしながら、そもそも大騒ぎするような問題でもないと思う。メリットとデメリットがあり、国民の全体からすれば原則として輸入品がより安価に入手できる点でメリットが大きい。その他、各種の規制が合理的な国際基準になるのもメリットである。もちろん現実的にはタレブ氏が「ブラックスワン」でも指摘していたが、いろいろ諸条件によって異なる結果もあるし、一般論としても、日本の一部の産業、つまり農業の一部に不利益がでることは確実である。
 ただ、その補償の政策こそはTPPの前提になるし、そもそもTPPは国内産業に補償を与えてよいのだから、ようするに、メリットとデメリットを換算して補償を厚くすればいい。米国が現下、日本のTPPにさほど関心がないのも、米国内の産業に補助金を出す口実くらいにしか考えていないからではないか。
 いずれにせよ、こうした問題は、どこの国にも当てはまる普通の政治課題である。だが、よたよたの現政権にそんな芸当ができるわけがない。やってのけたら、野田首相もやるなあと思うが、そんなこともないでしょ。
 そもそもなんで降って湧いたようにTPP問題が出て来たのか、なんかの目眩ましなのか、それも奇っ怪な話だなと思っていたが、毎日新聞がすっぱ抜いた、政府文書の要旨で、だいたいわかった。他紙の報道はないのでガセの可能性もあるのかもしれないが、読むと、ありそうな話だなと思える。「TPP:政府のTPPに関する内部文書(要旨)」(参照)より。


▽11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉参加表明すべき理由
・米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎するタイミングがなくなる
・交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される
・11月までに交渉参加を表明できなければ、交渉参加に関心なしとみなされ、重要情報の入手が困難になる
・韓国が近々TPP交渉に参加する可能性。先に交渉メンバーとなった韓国は日本の参加を認めない可能性すらある

 ▽11月に交渉参加を決断できない場合
マスメディア、経済界はTPP交渉参加を提案。実現できなければ新聞の見出しは「新政権、やはり何も決断できず」という言葉が躍る可能性が極めて大きい。経済界の政権への失望感が高くなる
・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は事実上、TPP交渉参加を前提としている。見送れば外務、経済産業両省は農業再生に非協力になる
・EU(欧州連合)から足元を見られ、注文ばかり付けられる。中国にも高いレベルの自由化を要求できず、中韓FTA(自由貿易協定)だけ進む可能性もある

 ▽選挙との関係
衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。大きな選挙がないタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる

 ▽落としどころ
・実際の交渉参加は12年3月以降。「交渉参加すべきでない」との結論に至れば、参加を取り消せば良い。(取り消しは民主)党が提言し、政府は「重く受け止める」とすべきだ
・参加表明の際には「TPP交渉の最大の受益者は農業」としっかり言うべきだ。交渉参加は農業強化策に政府が明確にコミットすることの表明。予算も付けていくことになる


 よくまとまっているものだなと思うが、ようするに政局的な要因が大きいというのが一番納得な点でもあるし、私のように、TPP議論なんか総選挙後にしたらよいという考えに対して、真っ向から反対のことが書かれている。つまり、2013年夏の国政選挙までに突破しといたほうが、民主党としては選挙が楽だというのだ。呆れたね。というか、それだけで、ダメだろこの政府、でもあり、今更、新聞や産業界の失望など気にすることはない。それに、おそらく最大野党自民党の一部も同じようなことを考えているのではないか。
 この要旨からは、これが、いわゆる追米政策であることもよくわかった。民主党政権が、米国の好感をそれでも買いたいというのは、鳩山政権と菅政権でよほど、米国からそっぽ向かれたというのが骨身に染みているのだろう。自業自得ではある。政権交代というとき、基本、外交と軍事はいじらないか最後に手を付けるものだが、この政権、いきなりそこに手を突っ込んでしまった。
 バカ騒ぎにふさわしく、TPPについては、わけのわからないデマも広まっている。例えば医療制度にしても、TPPに参加している豪州の状況などがきちんと報道されるとよいだろうと思うのだが、理性的な議論が通じる空気でもない。
 それでも一点だけ、これは、指摘しておくのが、案外このブログの役目かもしれないとも若干思うので、指摘しておこう。
 「米国は本音ではTPPを使って日本を押しつぶそうとしていることがウィキリークスで暴露された」という愉快なお話である。ネタ元は5月19日付け日本農業新聞「[TPP反対 ふるさと危機キャンペーン TPP“主導国”] 米国外交公文から読む 本音と現実 上」のようだ。

 ニュージーランド外交貿易省のマーク・シンクレアTPP首席交渉官は「TPPが将来のアジア太平洋の通商統合に向けた基盤である。もし、当初のTPP交渉8カ国でゴールド・スタンダード(絶対標準)に合意できれば、日本、韓国その他の国を押しつぶすことができる。それが長期的な目標だ」と語った。(米国大使館公電から)
 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でニュージーランドと米国は、農地への投資制度や食品の安全性などの規制や基準を統一した「絶対標準」を定め、受け入れ国を広げることで経済自由化を進めようとしている――。TPP交渉を主導する両国のこうした狙いが、在ニュージーランド米国大使館の秘密公電に記載されていた両国政府の交渉当局者の会話から浮かび上がった。ニュージーランドの交渉当局者は「絶対標準」を受け入れさせる国として日本と韓国を名指ししている。これは国内の規制や基準の緩和・撤廃につながり農業だけでなく国民生活の多くに影響を与える可能性がある。公電は、内部告発ウェブサイト「ウィキリークス」が公表。ニュージーランドの当局者らへの取材と合わせて分析した結果を報告する。
 2010年2月19日、ニュージーランドのシンクレアTPP首席交渉官が、米国務省のフランキー・リード国務副次官補(東アジア・太平洋担当)に語った内容だ。シンクレア氏は、TPPの目標が農産物などの市場開放だけではなく、アジアなどで推進する米国型の経済の自由化が両国(アメリカ合衆国、ニュージーランド:古田注)の長期的利益につながると強調した。
 公電は、ニュージーランドのウェリントン市内で行われた両者の会談の概要を、当地の米国大使館がまとめた。「秘密」扱いだ。外交を担当する国務省だけでなく、農務省や通商代表部などにも送るよう記述してある。

 この記事自体はデマとも言い難いし、日本農業新聞といった業界紙ならこういう報道もありかもしれないとは思う。ただ、この手の話が伝言ゲーム化するのもなんなんで、指摘しておこう。
 まず原典を確認しておこう。該当のウィキリークスは、2010年2月19日"Viewing cable 10WELLINGTON65, DAS Reed Engages on TPP, U.N. Reform, Environmental"(参照)である。なお残念ながら、時期によってはウィキリークスの都合で参照できないかもしれない。
 同文書で日本が言及されているのは、日本農業新聞が取りあげた、一点だけで、それだけ見ても、この文書が日本を対象にしたものではないことがわかる。常識があれば、ここから日本を取りあげて騒ぎ出すというのは、ネタが過ぎるなというのはわかるものだ。

¶3. (SBU) On multilateral issues, Sinclair emphasized that New Zealand sees the TPP as a platform for future trade integration in the Asia Pacific.

多角的である点について、ニュージーランドはTPPをアジア太平洋での未来の貿易統合のための基盤であると見ているとシンクレアは強調した。

If the eight initial members can reach the "gold standard" on the TPP, it will "put the squeeze" on Japan, Korea and others, which is when the "real payoff" will come in the long term.

初期メンバーの八か国がTPPで、「金本位制」(究極の判定基準の比喩)に達することができれば、この基準によって、日本や韓国などの国を「締め上げる」ことができるし、それが長期的に見れば「真の見返り」となる時である。


 英語の表現として面白い点がいくつかあるが、日本農業新聞が注目した"put the squeeze"には「カネを絞り上げて取る」という含みもあるので、日本農業新聞のように「押しつぶす」という訳は苦笑もするが、この部分から韓国や日本から、カネを巻き上げるというふうに読まれるのもしかたがない面はあるし、"real payoff"(実際的利益)もそれに対応しているのだから、韓国や日本からカネを取ってくる手段としてTPPを見ているのは、解釈上間違いではない。
 ただ、これ、普通に読んでもわかるが、TPPに韓国と日本を参加させることで、カネを絞り上げるという話ではなく、ニュージーランドのような弱小国は、閉鎖市場の強国である韓国や日本に立ち向かうためには、組合と組合基準作りをしないと、いつまでたってもビジネスできないよということで、普通によくある話である。
 ただし「米国が入っても、弱小国組合かよ」という言い分もあるので、この言外には米国による日本への市場開放の思惑がないわけではない。
 基本的に弱小国組合という性格がよくわかるのは、実は、この文章の後続からである。この部分、伝言ゲームではすっぱりと省略されることが多いので、言及しておこう。

He also stated that another challenge in negotiating is that the current economic and commercial situation has put a great deal of pressure on domestic agendas. Negotiators must therefore be very cognizant of the impact on jobs, wages, and other such factors.

現下の経済・通商状況でニュージーランド国内の政策に圧力がかかっていることも、交渉の別側面の課題だと彼は述べた。よって、交渉担当者らは、雇用、賃金などの要因に敏感にならざるをえない。


 リーマンショック後のニュージーランド経済の困窮が背景にあり、その打開策としてTPPが模索されてきたことがわかる。また、米国の関心からは、同盟国としてのニュージーランドを支援したいという思惑も感じられる。おそらく、ANZUS同盟の問題時への配慮が米国にあると思われる。さらにこう続く。

When asked what New Zealand's position is on including new members, Sinclair put forth that "smaller is better" for the current deal.

TPP加盟国を新規に加えることについてニュージーランドに尋ねたところ、シンクレアは、現状の交渉では、「小規模ほど好ましい」と提示した。


 ここで、日本農業新聞が取り違えた、このウィキリークス公電の意味合いがかなり明確になってくる。
 ニュージーランドとしては、初期八か国以上の新規加盟国による拡張を望んでいないのだ。なぜか。
 協定自体の困難さから類似の立場の弱小国による少数精鋭のほうがよく、利益志向の異なる大国を加えたくないというのだ。つまり、弱小国組合でさっさと基準を作ってから、韓国や日本に押しつけたほうが、ニュージーランドの国益に合致するというのである。
 つまり、そういうことなのだ。この秘密公電から伺われるのは、日本をTPPに参加させて「押しつぶそう」というのではなく、逆に、日本を現状で噛ませるのは不利益だというのが、公電の秘密たる部分なのである。
 では逆に日本としては、こうした秘密を知ってカウンターアクション(反撃)するならどうするかだが、当然、できるだけ早期にTPPに席を置いて、日本に不都合な協定が形成されるのを阻止するということになる。
 つまり、野田政権の内部文書にある「交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される」というのは、まさにそのとおりなのである。
 そしてその結果というと、現時点での参加はできず、後になって、不利益に覚悟して土下座してTPPに参加するという事態が予想される。土下座の泥にまみえるドジョウ内閣にふさわしいというか、その時は、どの内閣も土下座内閣になるのだろう。
 だがそれが日本国民の総意というなら、民主的な国民主権国家なのだから、しかたがないではないか。私はそう思うね。
 この公電の段落は以下で終わる。

However, he emphasized, that what is more important is U.S. Congressional approval and if "critical mass" can be achieved with the initial eight. New Zealand will take a "constructive view" if the group needs to "bulk up" and include Malaysia, for example.

しかしながら、より重要なことは、米国議会承認と、初期八か国で「決定的な量の交易」が達成できるかである。仮に、TPP加盟国を「膨張させる」必要があるなら、ニュージーランドは「建設的な視座」に立ち、例えば、マレーシアを含めるだろう。


 ニュージーランドが懸念しているのは、米国議会承認であり、ここで米国の顔色をうかがっている。国家の死活問題でもありその要点が、米国に握られているからだろう。やはりANZUS同盟の問題の末路である。
 そしてここでも、日本農業新聞などの解釈が間違っていることがわかるのは、TPP新加盟国として想定されているのが、日本のような大国ではなく、マレーシアだということだ。
 当然、日本が対抗するというなら、当面狙われているキーマンであるマレーシアを日本側に取り込んで切り崩しにかかることが重要になる。たとえば、マレーシアが日本に依存したくなるくらい看護師と介護士を導入するといった政策を提示するという策も、可能だ、机上では。現実はというと、無理でしょ。おしまい。
 
 

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