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2011.05.21

タイ総選挙は実施前から混迷

 タイでは、アピシット政権が10日に下院を解散し、7月3日の総選挙に向けて昨日、政党の名簿登録が始まった(参照)。初日の昨日中に26政党が登録を済ませたが、構図としてはアピシット首相率いる与党とタクシン元首相支持の野党との争い、つまり亡命中のタクシン氏を巡る争いになる。行方についてが、政治の安定という点では現時点でもほぼ絶望的だろう。
 率直なところなんでこんな時期に総選挙をするのかも理解しがたいが、国情上なかなか言及しづらい問題が控えているのかもしれない。
 タイは盛り上がっている。19日は、死者90人、負傷者1900人を出した、タクシン派のバンコク都心部占拠への軍弾圧から1周年の追悼記念日でもあり、当然ながらそのシンボルカラーの赤でバンコクは染まった(参照)。ここに来てタクシン派が盛り返しているというわけではなく、依然勢力は膠着しているだけだ。NHKが伝えた世論調査では、与党・民主党支持が34.1%、タクシン派のタイ貢献党が36%である。
 タイ貢献党はタクシン氏の実妹(9人兄弟の末子)、インラック・チナワット氏(43)を首相候補とした。彼女には政治家としての経験はないく、インラック氏の前にミンクワン元工業相らの名前も上がったが、最終的には亡命先のタクシン氏の意向で決まったらしい(参照)。
 当然インラック氏はタクシン氏の傀儡に過ぎないということになり、そのあたりのタイ社会での受け止め方はどうかと、タイの英字紙The Nationの社説「Can Pheu Thai's nominee really convince the Thai public?」(参照)を覗くと、落胆するほど案の定の話が展開されている。


Yingluck Shinawatra was named the Pheu Thai Party's prime minister candidate because of her last name. It's as simple as that, so the issue of "qualifications" should be out of the question. The most interesting part of her selection as party list "Number One" has to do with the controversial prospect of her big brother's return to Thailand and what she will do about it.

インラック・チナワットがタイ貢献党の首相候補に任命されたのは、彼女の一族姓が理由である。話はそれほど単純であり、首相の器といったことは問題にもなっていない。同党リスト筆頭選抜の重要性は、彼女の長兄がタイに帰国し彼女がどう扱うかという政局面にある。


 世論調査からもわかるように伯仲した構図からはインラック氏が政権に着く可能性もある。義弟のソムチャイ氏に続きタクシン一族からの3人目の首相という筋書きだ。
 いうまでもなくインラック氏が政権に就けば、汚職で禁固2年の判決を受けたタクシン氏が恩赦を受けてタイに帰国という段取りが想定されるが、そうなるのかといえば、なりそうにない。そもそも昨年の軍による過酷な弾圧からして、またこれまでの経緯からして、民主的な権力移行は想定しがたい。インラック氏が首相となればまた流血の惨事が繰り返されることになりかねない。
 ただ、そうした思惑もおそらくタイ国民にはすでに織り込まれていているのではないか。ゆえに実際にはタイ貢献党圧勝という構図にはならないのではないか。そうなればそうなったでタイ貢献党が小政党を織り込んだ脆弱な連立政権となり、依然混迷は続くということになる。
 こうした話につねづね楽観的で、日本政局への言及からするとちょっと知性が足りないのではないかとまで見えるフィナンシャルタイムズも「Thaksin’s shadow falls over Thailand」(参照)もこればかりは匙を投げている。タクシン氏への個人崇拝を克服すべきだとしても、無理だろうとしている。

That will not happen in this election. As such, it is hard to conceive of a happy outcome. The opposition would almost certainly dispute any victory for Mr Abhisit’s Democrats. The army would never allow a Thaksin proxy to assume the premiership. The prospects for a peaceful political reconciliation – never large – have dwindled.

それ(タクシン崇拝の克服)はこの選挙で起きないだろうし、その点で満足のいく結果にはなりがたい。アピシット率いる民主党の勝利に対する反対は手段を選ばないだろう。軍部はタクシン氏の傀儡が首相に就くことを断じて許さないだろう。平和的な政治和解の見込みは、以前も大きくはなかったが、先細りになっている。


 現実問題としてはタイ情勢はどうしようもない。国王の年齢という大きな問題も抱えている。
 理想論からすれば、社会的宥和の落としどころを探すしかなく、穏当なところでは、フィナンシャルタイムズが空しく指摘するように、タクシン氏への個人崇拝を薄め、既存権力と結びついたアピシット政権がタクシン支持派の切り崩しにかかることだろうが、それも厳しい過程を辿るだろうし、これをじっと構えて忍耐できるのは中国くらいなものかと冗談でも言うほかはない。

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2011.05.20

ゴラン高原衝突とその後

 シリアと接し、イスラエルが実効支配するゴラン高原で15日、パレスチナ難民を中心とする数千人規模のデモ隊がシリア側から流入しようとし、その阻止のためにイスラエル軍が発砲。2人の死者、170人の負傷者が出た(参照)。同日は、イスラエル建国によって多数のパレスチナ人難民化を余儀なくされた「ナクバ(大惨事)」の記念日にあたり、シリア側のデモもその一環と見られるが、背景はきな臭いものだった。
 同日の衝突はゴラン高原以外でもなされ、デモは「中東革命」よろしくフェースブックが利用されたらしい。16日付け時事「イスラエル境界各地で衝突=12人死亡-パレスチナの「大惨事」記念日」(参照)より。


 インターネットの交流サイト「フェイスブック」などを通じ、パレスチナ難民が故郷に戻る権利を求めるデモを同日、イスラエル境界地帯で行うよう呼び掛けがあった。

 背景について米側はシリアの煽動と見ている。17日時事「「シリアの扇動」と非難=パレスチナ人デモ隊衝突-米」(参照)より。

 【ワシントン時事】イスラエルが占領するゴラン高原で、シリア側から進入したパレスチナ難民とみられるデモ隊とイスラエル軍が衝突したことに関し、カーニー米大統領報道官は16日、シリア政府が抗議活動を扇動しているとの見方を示し、「受け入れ難い」と非難した。
 同報道官は大統領専用機上で記者団に対し、「ゴラン高原での抗議活動をあおったシリア政府の関与に強く反対する」と言明。「シリア政府が行っている手荒い弾圧から(国際社会の)関心をそらせようとしていることは明らか」と指摘した。(2011/05/17-06:41)

 時事の報道では、何が「受け入れ難い」のか時事の報道は曖昧な点はあるが、17日AFP"Syria's stoking Golan protests 'unacceptable': US"では次のように明確で、米側は背後にいるシリア政府を非難している。

The United States is "strongly opposed to the Syrian government's involvement in inciting yesterday's protests in the Golan Heights," Carney told reporters aboard President Barack Obama's official Air Force One airplane. "Such behavior is unacceptable and does not serve as a distraction from the Syrian government's ongoing repression of demonstrators in its own country," Carney said.

カーニー報道官は、オバマ大統領専用機エアフォース・ワンのリポーターに向かって、「昨日のゴラン高原での反対運動でシリア政府が煽動に関与したことを強く反対する」とし、「このような行為は受け入れがたく、シリア政府が自国のデモ参加者を抑圧することから気をそらすのには役に立たない」と述べた。


 米政府としては今回のゴラン高原での衝突は、シリア政府が自国での過酷な弾圧から世界の目をそらすために仕組んだと見ている。これはイスラエルの視点でもある(参照)。
 イスラエルや米国の見方は正しいだろうか。公正に判断する材料は見当たらない。17日ワシントンポスト社説「Israel’s border bloodshed: Will Syria be held accountable?」(参照)もこの見解を取っているが、説得力はある。

Palestinians demonstrate every year against Israel’s founding, and Facebook organizers helped drum up support for Sunday’s marches in the style of the Arab Spring. But no one can reach the heavily militarized Syrian front with Israel without the consent and cooperation of the Assad regime. That Syria’s allies in Lebanon and Gaza, Hezbollah and Hamas, were visibly involved in the demonstrations was also telling. Like the dictatorship in Damascus, the terrorist groups are profoundly threatened by the Arab demands for democratic change — and trying to switch the subject to Israel is the region’s most familiar political gambit.

パレスチナ人は毎年イスラエル建国反対のデモをしてきたし、フェースブックでの組織者は「アラブ春」方式で日曜日の行進支持を集めるのに手伝った。しかし、アサド政権の同意と協力なしに、イスラエル側で厳重に軍隊が居座るシリアの前線に到達できる者はいない。レバノン、ガザ、ヒズボラ、ハマスといったシリアの同盟者は明白にデモに関与しており、それが物語っている。シリア独裁政権のように、テロリストグループは民主主義の変化を求めるアラブ人の要求で深く脅かされている。だから、主題をイスラエルに切り換えようとすることは、この地域で最もなじみ深い政治的な序盤の一手である。


 パレスチナ人にはイスラエルへの反感があり、その運動も毎年行われてきたことは疑いないが、今回異例にゴラン高原にパレスチナ人を送り込んだのはシリア政府であり、背景に、レバノン、ガザ、ヒズボラ、ハマスがいるという読みはおそらく正しいだろう。
 逆にそうはいっても、喧嘩両成敗という意味ではないが、フィナンシャルタイムズ社説「Trouble in the Golan Heights」(参照)も指摘しているが、丸腰の市民に発砲したイスラエルも当然非難されるべきであることは確かだ。むしろ、イスラエルの失態を米側で被ったように見えないこともない。
 また、パレスチナ人が結果的にシリアの思惑に載せられたかにも見える状況をどう捉えるかも難しい。パレスチナ人側での内部の問題の反映があるのではないかとも疑われる。
 この事件がきっかけとも言い切れないが米国はその後、シリアのアサド大統領と政府高官6人に経済制裁を科す大統領令を発令し(参照)、さらにアサド大統領に民主化できなければ退陣を求めた(参照)。
 米国がどこまで本気なのかは疑わしい。むしろ、19日のオバマ大統領による中東政策演説(参照)も、対シリアという視点より、イスラエルに対して、パレスチナ総選挙を受け入れるように示唆する軟化政策に向けた布石のようにも見える。


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2011.05.19

GE製Mark Iはそもそも欠陥だったのかもしれない

 福島第一原子力発電所の状況について、当初の状況についていくつか気になる海外報道が出て来たのでブログに記しておきたい。福島第一原発のGE製Mark Iはそもそも欠陥だったのかもしれないという疑いがある。
 その前に、日本ではメルトダウンや早期に空焚きになっていたことが話題だが、この件についてはNRC文書を扱ったエントリ(参照)の言及から十分想定された範囲のことでもあり、報道が続くわりにはさほど大きな変化はない。NRCとしても5月16日、24時間体制での監視を解除した(参照PDF)。毎時監視を続けるほどの大きな変化はないとのNRCの予想が含まれていると了解してよいだろう。ただし、NRCが示唆した80キロ圏内の退避については依然解除はされていないようなので潜在的な危険(2号炉の崩壊など)は残っているのだろう。
 当面に気になるのは、3号機と4号機燃料プールだろうか。18日TBS「3号機注水、十分届いていない可能性」(参照)で3号機の最新の報道があった。リンク切れなので資料として引用しておこう。


5月18日(水)12時10分 福島第一原発の1号機では、燃料が溶け落ちるメルトダウンが起きていることが明らかになっています。 一方、3号機については、先月からたびたび炉心の温度が上がるなど不安定な状況が続いていますが、これについて複数の政府関係者はJNNの取材に、3号機でも「メルトダウンが起きているとみられる」としています。 原子炉には「シュラウド」と呼ばれる壁と圧力容器との隙間を通して水が注がれていますが、底に固まっている燃料に十分に水が届いていない可能性が高いことが分かりました。 専門家は、この状態が続いた場合、燃料が発する高熱によって、圧力容器の底が抜ける可能性がある「深刻な事態だ」と指摘しています。

 4号機の燃料プールについては傾斜して崩壊するのではないかという懸念も一部で話題になっているようだが、この対処はすでに東電の工程表に含まれているので、新しい脅威というものでもない。
 ほかに、1号炉では圧力容器の底が完全に抜けたとの話もネットで見掛けるが、現状そこまで想定するのは難しく、NHKの想定が妥当というところではないか。「時論公論 「原発事故 見えない収束」(参照)より。

一方、1号機の圧力容器には、これまで1万トン以上の水を入れていますが、水位が低いということは、水が大量に漏れていることになります。燃料がメルトダウンした熱で圧力容器の底が溶け、合計すれば数センチ程度になる細かい穴が開き、水が漏れている可能性を東京電力は認めました。同時に、燃料の一部が、水とともに漏れ出している可能性も認めました。この燃料の一部を含んだ危険度のより高い水は、格納容器からさらに漏れ出していると推定されます。

 この話も3月21日時点のアレバの資料(参照)を読むとわかるが、1号炉は2700℃に達した可能性が書かれており、この温度なら圧力容器は溶けると想定してよいものだった。
 以上、前置き。
 ようやく事故時点の状況が報道されるようになったが、まず興味深いのはWSJ「福島第1原発、事故直後の新事実が明らかに―WSJ分」(参照)だった。地震当日の話である。


 福島第1原発に夕暮れが近づくと、技術者たちは取り外した車のバッテリーを使って臨時装置の電力とし、原子炉の中で何が起こっているのか解明しようとした。午後9時21分には危険なサインを発見した。1号機の水位が急激に下がっており、燃料棒がいまにも露出しそうだった。
 冷却装置がなければ水は沸騰し、炉内の圧力が高まる。沸騰した水の量が増えれば、燃料棒は溶け出し、空気に触れて反応する。そして、放射性物質を放出し、爆発を引き起こす危険がある水素ガスができる。
 午後11時頃、最初の発電用トラックが到着した。東京の首相官邸では歓声が上がった。

 これで発電トラックが機能すると思われたのだろう。

 だが、喜ぶのはまだ早かった。発電所の損傷したメインスイッチに、発電機をつなぐことができなかったのだ。ケーブルの一部が短すぎて、発電所の別の部分まで届かなかった。津波警報も発せられ、作業員は高台に避難しなければならなかった。最初の24時間のうちに接続できた発電機はわずか1台だったことを、東電の資料が示している。
 真夜中には、1号機の格納容器内の圧力が、設計時に想定された最大レベルをすでに50%超えていた。放射能レベルが非常に高かったため、東電の清水正孝社長は作業員に建物からの退避命令を出した。
 関係者によると、大胆な手段を取る必要があることが、東電と政府の目に明らかになってきた。すなわち、格納容器が圧力で破損する前に、原子炉内の蒸気を放出しなければならない。

 WSJでは原子炉内の蒸気を放出、ベントに関心を当てている。

 蒸気放出にはリスクがあった。蒸気は放射性物質を含んでいる可能性があり、近隣地域に危険を及ぼす。だが放出しなければ、容器が壊滅的に破壊される危険が非常に大きかった。菅首相と海江田万里経済産業相は、午前1時半頃、公式に蒸気放出を認めた。
 その後何時間も続いたのは、情報の行き違いや混乱だった。3月12日午前2時45分、東電は原子力安全・保安院に1号機の格納容器内の圧力が想定最大レベルの倍になっているようだと伝えた。
 それでも、蒸気放出口は閉じられたままだった。首相官邸から、海江田経済産業相は東電の経営陣に1時間ごとに電話をし、進捗状況を尋ねた。午前6時50分、海江田経済産業相は蒸気放出を命じた。だが、実行はされなかった。
 東電が今週公表したところによると、3月12日朝のこの時点では、1号機の核燃料はすでに溶け落ち、容器の底に積み重なっていたと思われるという。

 翌日の3月12日の朝には、現在メルトダウンと呼ばれている完全コアメルトになっていた。
 遅れた理由をWSJはこう見ている。

 政府関係者らはいま明かす。東電で蒸気放出を決定するのに長い時間がかかったのは、放射性物質を放出すれば事故の重大さが急激に高まると考えられたからだと。東電はなお、蒸気放出をせずに事故を収束させたいと考えていた。なぜなら、大気中に放射性物質を放出すれば、福島の事故は世界最悪のものとなり、チェルノブイリと並んでしまうためだ。
 これに続く記者会見と国会証言で、東京電力の清水社長は、時間がかかったのは周辺住民の避難への懸念と技術的な問題のためだと述べた。この件に関して、清水社長からはコメントは得られなかった。

 WSJの読み筋としては、東電の内情としてベントなしで事態収束ができると想定していたというものである。しかし、東電の公式アナウンスでは、住民退避猶予と技術としている。この部分についての真相は記事からは明確には読み取れない。
 同記事では、ここからドラマが映像的に描かれる。東電・武藤副社長に注目したい。

 グレーの会議用テーブルが二列に並んだ小さな部屋では、東電の原子力事業を率いる武藤栄副社長と発電所長の吉田昌郎氏の正面に菅首相が座った。
 同席した人々によると、菅首相は、白髪長身の原子力技術者、武藤副社長と衝突した。武藤副社長は、発電所の電力の問題があるため、あと4時間蒸気放出はできないと言った。作業員を送り込んで、蒸気排出弁を手動で開けることを検討しているが、原子炉付近の放射線レベルが非常に高いため、そうすべきかどうか確定できない。一時間ほどで決定すると、武藤副社長は言った。

 この部分についてはあとでニューヨークタイムズの記事と比較したい。
 ドラマ的描写は続く。

 菅首相の補佐官によると、「人ぐりが悪い」と武藤副社長は言った。
 同席していた人にようると、菅首相は「悠長なことを言っている場合じゃない、出来ることは何でもやって、早くしろ」と怒鳴った。
 この件に関して、武藤副社長、吉田所長からのコメントは得られなかった。東電の広報担当者は、武藤副社長の発言を確認することはできないと言った。東電は常に、事態収束のために、政府などからの支援を進んで受けてきたと広報担当者は語った。
 菅首相は、このミーティングの後すぐに福島第1原発を離れた。午前8時18分、発電所の技術者が最初に菅首相らに、1号機から蒸気を排出したいと伝えてから7時間後、東電は首相官邸にあと1時間ほどでバルブを開けると伝えた。
 かなり遅れたものの、安全弁はまだ開放が可能だった。問題はこうだ。通常、それは制御室で電動か圧縮空気で開閉するが、いずれのシステムも機能していなかった。
 その結果、高い放射線量の建屋内で作業員が安全弁を手動で開放しなければならなかった。

 一見すると菅首相の指導力でようやくベントに至ったかのように読める。さらにWSJはこの手動開放を行った人的努力を記事のエンディングとしていかにもドラマティックに置いていく。しかし、ポイントはベントの制御が制御室から可能ではなかったという点にありそうだ。
 ここに焦点を当てたのが18日付けニューヨークタイムズ「In Japan Reactor Failings, Danger Signs for the U.S.」(参照)である。先の東電・武藤副社長のドラマはこう描かれている。

The government became rattled enough that it ordered Tokyo Electric to begin venting. But even then, Tokyo Electric’s executives continued to deliberate, according to a person close to government efforts to bring the reactors under control. The exchanges became so heated, the person said, that the company’s nuclear chief, Vice President Sakae Muto, and the stricken plant’s director, Masao Yoshida, engaged in a “shouting match” — a rarity in reserved Japan.

政府はあまりに狼狽し、東電にベントを命じた。しかしその時ですら、原子炉制御に関わる政府関係者によれば、東電幹部は熟慮し続けた。討議は白熱し、東電原子力事業部門の武藤栄副社長と福島第一原発・吉田昌郎所長は怒鳴り合った。慎み深い日本では珍しいことだった。


 武藤副社長と吉田昌郎所長の口論があったらしい。もちろん、ベントの可否である。

Mr. Yoshida wanted to vent as soon as possible, but Mr. Muto was skeptical whether venting would work, the person said, requesting anonymity because he is still an adviser to the government and is not permitted to comment publicly. “There was hesitation, arguments and sheer confusion over what to do,” he said.

吉田氏は即刻ベントを望んだが、武藤氏はベントが機能するか懐疑的だった。この話の出所は、公にできないので匿名を望む政府相談役によるものだが、続けてこう語った、「ためらい、議論、何をすべきかについての混乱がそこにあった」


 WSJ記事からは武藤副社長のためらいが感じられ、またニューヨークタイムズ記事からも武藤社長のためらいが感じられるが、後者の記事では、その背景に技術的な問題としての含みが色濃い。
 私もずっと疑問だったのだが、ブラックアウト後の1号炉のメルトダウン過程は2号炉、3号炉より早い。1号炉には特殊事情があると見てよいのだが、そこがよくわからなかった。現状では、枝野官房長官が「報道で初めて知った」とされる1号機非常用冷却装置の手動停止(参照)がその原因に関係するのではないかと思われる。が、それにしても別の見方をすれば、いずれにせよメルトダウン過程が遅れた2号炉、3号炉でも結局は1号炉と同じ過程を辿っている。1号炉にベントの遅れがあっても、2号炉、3号炉で遅れがなければ間に合ったのではなかったかという疑問が残るが、現実はというと、1号炉の特殊事情があっても、結局全炉揃って同じプロセスとなった。
 この件についてニューヨークタイムズ記事の示唆がある。

The venting system is designed to be operated from the control room, but operators’ attempts to turn it on failed, most likely because the power to open critical valves was out. The valves are designed so they can also be opened manually, but by that time, workers found radiation levels near the venting system at Reactor No. 1 were already too high to approach, according to Tokyo Electric’s records.

ベント機構は制御室から操作するように設計されているが、操作は失敗した。理由は緊急用電源が切れたことだろう。弁は手動でも開くが、東電の記録によれば、この時点で1号炉のベント機構付近は作業員が接近不能なほど放射線レベルが高かった。

At Reactor No. 2, workers tried to manually open the safety valves, but pressure did not fall inside the reactor, making it unclear whether venting was successful, the records show. At Reactor No. 3, workers tried seven times to manually open the valve, but it kept closing, the records say.The results of the failed venting were disastrous.

2号炉でも作業員が手動で安全弁を開こうとしたが、反応炉内の圧力は下がらず、記録からはベントの可否は不明となった。3号炉でも手動で弁を開こうとしたが、記録によれば、開かなかった。ベントの失敗は悲惨なものになる。


 緊急時にはベントそのものがそもそも無理だったという評価も成り立つようだ。
 ということは、この原子炉、つまりGE製Mark Iがそもそもブラックアウトといった緊急時には対応できない欠陥品だったのではないかという疑念が出てくる。
 ただし、注意しなければならないのは、そもそもこのニューヨークタイムズの記事は米国内の同種の原子炉の潜在的な危険性を煽るためのダシとして福島第一原発を見ているので、そうした意図のバイアスはあるだろう。

追記(2011.5.20)
 コメント欄でベント機構について指摘があった。この点についてだが、ニューヨークタイムズは福島第一原発が改良ベントを装備したうえで、なおこの欠陥の指摘をしている。


American officials had said early on that reactors in the United States would be safe from such disasters because they were equipped with new, stronger venting systems. But Tokyo Electric Power Company, which runs the plant, now says that Fukushima Daiichi had installed the same vents years ago.

米国高官は米国のこの種の反応炉は、新式の強固なベント機構があるので、日本のような惨事にはならないと早期に言ってたものだった。しかし、この設備を運用する東電は現状、福島第一原発は同種のベントを数年前に装備してあると述べている。

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2011.05.16

ニューヨークタイムズに掲載されたウィキリークス日本発公電について

 ウィキリークスに日本発の公電が掲載され、政権交代以降の民主党政権の裏面が見えるようになってきた。しかし日本のメディアでもブログでもさほど話題になっているふうには見えない。なぜだろうか。
 昨年、ウィキリークスが国際的に話題になり、引きずられたように日本でも話題になったが、ようやく東京駐在アメリカ大使館発の公電が暴露されてきたのにこのお寒い状況というのはやや不可解な印象がある。暴露公電の点数が多いことや、他の話題に押されているということもあるだろうが。
 日本発公電の話題の乏しさには解説の弱さもあるかもしれない。各国でウィキリークスが話題になったのは、その国の主要新聞社による解説記事の影響があった。ウィキリークスでは各国の、主にリベラル系の新聞社として、ガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、シュピーゲル、ルモンド、エル・ペイスなどに直接または間接的に暴露公電を提供し、新聞社も独自に分析してきた。
 日本では朝日新聞が選ばれた。現在、朝日新聞が日本発公電を選んで日本語で公開しているが、解説的な記事は弱いように見えるし、翻訳の選択基準もいまひとつ明確ではない。
 朝日新聞によるウィキリークスの取り組みで象徴的な例は、2009年9月21日の公電TOKYO002197である。「外務官僚「日米の対等求める民主政権は愚か」 米公電訳」(参照)である。北朝鮮による拉致問題に触れた部分の第一段落はこのように訳されている。


斎木は、北朝鮮が、2002年に日本国民を拉致したことを認めたことを「誤った判断だった」と信じていることを嘆いた。斎木局長は、まだ40代と比較的若く、国民が最も同情を向けている横田めぐみさんの運命が最も大きい問題だと説明した。

 対応する原文はニューヨークタイムズ掲載(参照)によると次の通りで、朝日新聞訳と対応していない。朝日新聞情報の抜け部分を太字にした。

4. (S) Saiki lamented that the DPRK believes that 2002 was "a mistake"--referring to when North Korea admitted that it had abducted Japanese citizens. The DG said he believed that the DPRK had killed some of the missing abductees, and explained that the fate of Megumi Yokota was the biggest issue, since she was still relatively young (in her forties) and the public was most sympathetic to her case. He believed that some of the abductees were still alive.

 ただし、ウィキリークスサイト(参照)では次のように伏せ字となっているので、朝日新聞としては伏せ字部分を意図的な訳抜けとして対処したのかもしれない。

4. (S) Saiki lamented that the DPRK believes that 2002 was "a mistake"--referring to when North Korea admitted that it had abducted Japanese citizens. The DG xxxxxxxxxxxx explained that the fate of Megumi Yokota was the biggest issue, since she was still relatively young (in her forties) and the public was most sympathetic to her case. xxxxxxxxxxxx

 すでに示したようにニューヨークタイムズ掲載の公電には伏せ字も脱落もない。ウィキリークス、朝日新聞社及びニューヨークタイムズの三者にどのような認識があったのか興味深い。
 朝日新聞としては暴露公電の扱いについて「情報の信憑性確認、厳選し公開〈米公電分析〉朝日新聞社」(参照)で方針を示している。

 まず、欧米メディア同様、公開によって個人の生命、安全を危険にさらす恐れがあると判断できる情報、諜報(ちょうほう)に関する機微に触れる情報は掲載を見送りました。
 外交交渉に著しい打撃を与えるかどうかも考えました。公電に最高機密指定の文書はありませんでした。外交官の内々の解釈や個人的な印象などは、表に出れば当事者を困惑させるだろうと予想されましたが、それらが交渉を著しく阻害するとは判断しませんでした。公開によって社会が得る利益と不利益を真摯(しんし)に比較し、情報を厳選しました。
 そのうえで、(1)政府の国民に対する説明に大きな齟齬(そご)がなかったかどうかを検証する(2)膨大な断片情報を同時代の外交の文脈に位置づける(3)どのように政策が決められ、日米間でどのような交渉が進められ、米国は日本をどう見ていたのかといった点を再整理する――といったことは、報道機関の使命であり、公益に資すると判断しました。

 当然これが先の訳抜けに対応していると思われるが、ウィキリークスのように伏せ字箇所を明記せずに訳抜けとなっていることは、あたかも最初からそこの情報が無かったかのようで、奇妙なものである。
 逆にニューヨークタイムズは該当箇所を公開しており、さらにこの公電はニューヨークタイムズがセレクトした日本発公電の7つのうちの1つに含まれている。つまり、ニューヨークタイムズを読む欧米の知識人は、これらの、朝日新聞が無かったことにした情報を読んでいることになる。
 また、ニューヨークタイムズがセレクトした7つの日本発公電は、日本関連のウィキリークス情報として重視されていると見てよいだろう。この7本から読むとよいとも言える。
 そう考えて、該当7本をこのブログでも独自に試訳してみた。試訳は資料として扱って欲しい意図もあり、ニューヨークタイムズが付けた見出しは排した。おかげで、さほど注目されなかったようだが、ここではニューヨークタイムズの見出しを記してみよう。次のようになっている。

  • Disgruntled Shadow Shogun(ご不満な影の将軍)(参照
  • “Stupid” P.M., Dead Abductees("お馬鹿"な首相、死亡した北朝鮮拉致者)(参照
  • Warnings of Chinese Power(中国軍事力への警戒)(参照
  • Time to Rethink U.S.-Japan Alliance(日米安保再考の時期)(参照
  • Relocation Plan Is “Dead”(普天間基地移設案は"死んでいる")(参照
  • Bigger Role for Japan(日本が担う大きな役割)(参照
  • Could Japan Handle a Disaster?(日本は災害に対処できるか?)(参照

 「ご不満な影の将軍」というのは言うまでもなく小沢一郎であり、そのお小姓役をやっているのが山岡賢次である。公電に描かれた山岡の言動は爆笑を禁じ得ないほど滑稽な姿であるが、ようはこれが米国側に見える小沢という政治家の姿でもある。同時に、民主党の内情というのがここまで笑劇として米側に筒抜けだったのかという侘び寂びの情感も漂う。
 「"お馬鹿"な首相」となれば鳩山由紀夫とならざるをえないが、「お馬鹿」と呼んでいるのは米国ではなく、外務省・斎木昭隆アジア大洋州局長であり、対象も鳩山氏でなく民主党全体と読めないこともない。簡単に言えば、日本の官僚が民主党政府について「馬鹿すぎてやってらんないっすよ」と米国にこぼしているという図であり、この図は「日本が担う大きな役割」にも描かれている。
 不敵な官僚と批判するのはたやすいが、公電の文脈を見れば官僚の愚痴も理解できるだろうし、米側も同情的に了解していることも伝わってくる。
 「死亡した北朝鮮拉致者」については、朝日新聞が結果として隠蔽した情報なので、ニューヨークタイムズのように堂々と見出しにされると国際的には奇妙な絵になってしまう。
 「中国軍事力への警戒」だが、長島昭久などよる民主党の外交戦略と高見沢将林防衛政策局長など官僚の思惑、米側キャンベル国務次官補の、ある意味崖っぷちの意気込みのマリアージュが、どいつもこいも何考えてんだかなあという不条理劇のようで文学的にも味わい深い。
 しかし笑って済ませる寸劇でもない。途中キャンベルさんがぶっち切れてとんでもないことを言っている。この話、なぜかあまり注目されていないようだ。もしかすると、日本のジャーナリズムもわかってないんじゃないかという気もしてくる。こうした点でも日本は終わったなあという荒涼感もある。この件について別途エントリを書いたほうがよいのかもしれない。
 「普天間基地移設案は"死んでいる"」はいわゆる普天間問題の背景の一幕で、この幕の道化役は松野頼久である。道化役を上手にこなしているだけかもしれないが、公電文学の描写にはルース大使の憐憫の視線を含有していると読める。山岡氏といい松野氏といい、公電に描かれる民主党議員の姿は国民に尻向けてあっかんべーでもしているな稚拙な滑稽さがあり、憎めない。
 「日本が担う大きな役割」では、キャンベル国務次官補の焦りがじんわりとにじみ出ている点が、懐かしの日本人12歳論を想起させてしんみりとくる。まじめな部分では「拡大抑止」という大きな問題にツープラスツーのカルテットが暗礁に乗り上げている姿がある。この部分も、先の公電のキャンベルさんのぶっち切れと同様、洒落にならない深刻な問題でもある。
 「日本は災害に対処できるか?」の公電は2008年と古く、自民党時代から変わらない日本国家・日本社会の脆弱さを高校生のレポートのようにまとめている。が、さして面白くもない。ニューヨークタイムズとしては、今回の日本の震災に絡めてネタとして選択したのだろう。
 以上の7点の公電に関連したまとめであるかのようにニューヨークタイムズは「Cables Show U.S. Concern on Japan’s Disaster Readiness」(参照)という記者署名記事を掲載しているが、公電に表現される日本社会の潜在的な危機がこの震災で明らかになったといった、ブログのネタですかね風の無理なひっぱりをしている。他の公電についての概説では、日米外交の文脈、特に対中国の関係からさらっと言及しているが、これもさして興味がわくものでもない。
 この手の解説のつまらさはどうしたことかと思うに、ニューヨークタイムズや朝日新聞といったいわゆるリベラルからはなかなか見えづらい構図がありそうだ。
 ざっくり言えば、ニューヨークタイムズは民主党オバマ贔屓ということがあるのだが、そのオバマ政権がすでにブッシュ政権と同じような、かつてならリベラル派が批判した右派的な政権となっているため、舌鋒が冴えない。同じことが朝日新聞にも言えて、民主党への贔屓感とその政府への配慮、さらには中国様への配慮があるせいか、公電の持つ残酷なほど滑稽な民主党政権のリアリティがうまく掬えていない。
 先ほど朝日新聞のこっそり訳抜けを指摘したが、恐らく朝日新聞はニューヨークタイムズが掲載した7つの代表的とも言える公電の数点は訳さないのではないだろうか。どれが朝日新聞の選択から漏れるかというのが、日本のいわゆるリベラル派の現状の限界を形成している。

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2011.05.15

2008年3月18日の日本発公電

 ウィキリークスに公開された2008年3月18日の公電(参照)を試訳してみた。まあ、ご参考までに。

DATE 2008-03-18 23:00:00
SOURCE Embassy Tokyo
CLASSIFICATION CONFIDENTIAL
C O N F I D E N T I A L SECTION 01 OF 03 TOKYO 000727
SIPDIS
SENSITIVE SIPDIS
STATE FOR S/CT ROBERTSON, EEB, EAP/J WEBSTER
E.O. 12958: DECL: 03/17/2018 TAGS: ASEC, ECON, ETTC, JA, PGOV, PREL, PTER SUBJECT: CRITICAL INFRASTRUCTURE AND EMERGENCY RESPONSE IN JAPAN
日本の重要な社会基盤と危機対処

REF: STATE 6461
Classified By: Ambassador JTSCHIEFFER for reasons 1.4(b/d).

1. (SBU) Summary: Japan has faced a variety of natural disasters and other historical challenges to its critical infrastructure and systems. As a result, the country has developed preparations and capacity for responding to known threats, such as earthquakes, and has a record of willingness to share this information with others to help develop their abilities to prepare for and cope with disasters. Compartmentalization and risk aversion within the bureaucracy, however, could increase Japan,s vulnerability to threats for which it is less prepared, such as a pandemic.

要約:日本では、重要な社会基盤と各種制度が、さまざまな自然災害や歴史課題に直面してきた。そのためこの国は、地震などの既知の脅威に対応する準備と能力を発展させてきたし、災害に国民が対応する能力を高めるために情報を共有する意志を積み重ねてきた。しかし、官僚制の縦割り主義と事なかれ主義によって次第に日本は、感染症の大流行といった対応が手薄になり、脅威に弱くなってきているようだ。

Given the integration of the U.S. and Japanese economies as well as Japan,s status as the world's second largest economy, the potential consequences of a catastrophic event in Japan could be major. It would be useful to develop further bilateral exchanges on the subject of critical infrastructure and its protection and to include Japan in any work on critical infrastructure and emergency response. End Summary.

世界第二位の経済力や日米経済統合を考慮すれば、日本で発生しうる大惨事の顛末は重篤になる。重要な社会構造とその保護という課題で二国間交流を活発にすることや、重要な社会構造と危機対応への作業全般に日本を加えることは有益だろう。以上、要約。

Introduction
導入部
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2. (SBU) Japan and the U.S. are the world's two largest economies, closely linked to each other and to other major world economies. A catastrophic event or major infrastructure failure in Japan, therefore, would negatively affect the U.S., the rest of Asia, and the global economy as well.

主要な世界経済と密接に結び付きつつ、日本と米国は互いに世界の経済の二大大国となっている。従って、日本の大惨事や社会基盤の大規模機能停止は、米国、アジア諸国、さらには世界経済に悪影響を与える。

3. (SBU) The infrastructure and systems that most directly connect the U.S. and Japan include information and communications, transportation and distribution, and financial systems. Japan's industrial and R&D establishments, some of which have become sole providers for extremely specialized high-tech equipment or technologies, mean Japanese inputs are valuable, and sometimes essential, to numerous U.S. industries.

米国と日本を結合する社会基盤と各種制度には、情報、通信、交通、物流及び金融制度がある。日本の産業及び開発研究の企業には、高度に特化したハイテク装置や技術を単独で提供する企業があり、それゆえ日本からの購入には価値があり、時として、数多くの米国企業に必須ともなっている。

Information and Communications Systems
情報と通信システム
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4. (SBU) A failure of information and communications systems would have an immediate impact. These systems are connected globally in real time. A major failure could affect transportation, energy, defense, financial, health care, and other critical industries and services.

情報と通信設備の機能停止は直接的な衝撃になる。これらの設備は常時、世界中に接続されている。大規模な機能停止は、交通、エネルギー、防衛、金融、医療、および他の重大な産業とサービスに影響する。

5. (SBU) The greatest risk to such systems seems to be virtual, from cyber-warfare or cyber-crime. Such attacks are regarded as easier and could have a wider potential impact than attacks on physical infrastructure. Attacks could also be launched against system infrastructure, content or operations on networks, or against individuals or commerce active over such networks. Cyber-security threats seem an inescapable part of life on the Internet and the capabilities of potential attackers and those administering networks are already advanced and growing continually.

サイバー戦争やサイバー犯罪によるものだが、これらの設備への最大の危機はネットワーク上のものとなるだろう。この種の攻撃は比較的容易と見られ、衝撃も広範囲ではあるが、現実の産業設備に対する攻撃に比べて潜在的なものに留まる。攻撃対象は、ネットワーク上の基本設備やデータ、運用のほか、ネットワークを使って活動する個人や企業となる可能性がある。インターネットへの脅威は避けがたく、潜在的な攻撃者とネットワーク管理者の能力は高度な技術を持ち、さらに発展している。

6. (SBU) Still, physical damage to global information networks remains a threat, particularly involving trans-oceanic cables or remote infrastructure. Given the redundancy and ability to reroute signals over networks, however, such an incident might have less severe impact on the U.S, although the time and cost of repairing a transpacific cable could be substantial.

特に太平洋海底ケーブルやクラウドセンターなど、世界的な情報ネットワークへの現実な攻撃は、依然として脅威であり続ける。ネットワークの多重化や迂回ルート機能を考慮すれば、予想される攻撃も米国にさほどの被害をもたらさないかもしれないが、太平洋横断のケーブルの修理にかかる時間と費用は相当なものになりうる。

7. (SBU) Japan is pursuing policies to address risks and improve its cyber-security profile. Japan has both public and private sector entities focused on cyber-security in an effort coordinated by the National Information Security Council (NISC), a cabinet office, and the Japan Computer Emergency Response Team/Coordination Center (CERT/CC). The country is currently in the second year of its Secure Japan three year plan.

日本はこうした危機対応としてネットワーク防衛を強化している。日本にはネットワーク防衛専門の公共機関や民間組織として、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)、JPCERTコーディネーションセンター(CERT/CC)、があり、防衛のための調整を推進している。日本は現在に情報セキュリティ三か年計画の二年目にある。

8. (SBU) The U.S.-Japan Cyber-Security Dialogue, lead by DHS and NISC, also continues to share information and explore areas of cooperation. One example is participation by Japanese observers in the March 2008 CyberStorm II exercise. These efforts should improve international coordination of planning and cyber-security response capabilities, demonstrate best practices and refine national programs.

日米情報セキュリティ対話は、国土安全保障省と内閣官房情報セキュリティセンターが主導し、情報共有や協力分野の割り当てを続けている。その一例には、2008年3月、サイバーストームII演習への日本の視察参加がある。こうした努力を通して、ネットワーク防衛対応の国際協調計画の推進、最善の取り組み提示、各国対応計画の洗練が求められる。

Aviation and Maritime Ports
空港と港湾
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9. (U) Transportation links between Japan and the U.S. too are critical to global as well as bilateral commerce. Two-way merchandise trade in 2006 between the two countries equaled USD 207.7 billion. On average, USD 569 million worth of goods passed through Japanese ports every day on their way to or from the U.S.

日米間を結ぶ物流は、双方のみならず全世界にとっても決定的な意味を持つ。2006年の日米貿易総額は2077億米ドルとなった。平均すると、5億6900万米国ドルの商品が毎日日本の空港・港湾を通過している。

10. (U) Japan's three largest airports with traffic to the U.S. are Narita (Tokyo-Yokohama), Kansai (Osaka-Kobe), and Chubu (Nagoya). In addition to serving passengers to both countries, they are vital hubs for trans-pacific passenger traffic. In terms of passenger traffic to the U.S., 50 flights and 13,000 passengers per day arrive in the United States from Narita (second only to London Heathrow). Disruption of these airports, therefore, would have serious consequences for the U.S. and Asia.

米国便のある日本の大規模空港には、成田(東京横浜)、関西(大阪神戸)、および中部(名古屋)がある。これらは日米間の旅行客が利用するだけではなく、太平洋横断の旅行客にも重要な中継点となっている。米国への旅客便では、1日あたり50便と1万3000人の乗客が成田から米国に到着し、これはロンドンヒースロー空港に次ぐ。従って、これらの日本の空港が使用不能となれば、米国とアジアとって深刻な事態となる。

11. (U) Cargo traffic through these airports is also a vital economic link. In 2007, roughly USD 20 billion of shipments, or almost 13 percent by value of all Japanese exports to the U.S., went as air cargo out of Narita airport. By value, more trade passes through this airport than through any other port in Japan. Narita handles roughly twice the value of global two-way trade as the port of Tokyo. Narita handles 72 percent more than Nagoya port, which processes the most trade by value of any Japanese maritime port.

これらの空港を通る貨物も経済連携として重要である。成田からは、2007年統計だが、日本から米国への輸出として、その13%を占める約200億米ドルの貨物が送出された。金額で見ると、成田空港は他のどの港湾よりも大きく、東京港の二倍にも達するし、一位の湾港である名古屋港より72%も多い。

12. (U) Japan's maritime ports are also vital economic links. Japan's five largest maritime ports are Tokyo, Yokohama, Nagoya, Osaka and Kobe. In 2006, they processed over one million containers (1.43 million TEU) to/from the U.S.

湾港を通る貨物も経済連携として重要である。日本の五大港湾は東京、横浜、名古屋、
大阪及び神戸である。これらの湾港が扱った日米貨物は2006年では100万個を超えるコンテナ(143万のTEU)に達した。

13. (SBU) Japan has established agencies and policies providing for port security, both infrastructure protection and border controls, consistent with international standards, such as the International Ship and Port Facility Security Code. Operational U.S. agencies such as Customs and Border Protection, the Federal Aviation Administration and the U.S. Coast Guard have ongoing dialogue and information sharing programs with Japanese counterparts. Other examples of specific initiatives to strengthen the security of ports and shipping include the Megaport program. Japan looks to launch a Megaports pilot project in Yokohama and is working with DHS and DOE on plans.

日本は港湾保全の部局と政策を設立し、設備保護と国境管理の双方を担わせている。これらは、国際船舶及び港湾施設保安コードといった国際基準を満たしている。税関・国境取締局、連邦航空局及び米沿岸警備隊といった米国の作業部局は、対応する日本の作業部局と対話と情報交換する仕組みを持っている。港湾と海運の安全強化のための特定の構想の例にはメガポート計画がある。日本はメガポートの試験を横浜で開始し、国土安全保障省やエネルギー省と作業中である。

Financial Market Infrastructure
金融市場の設備
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14. (SBU) Financial markets are a clear example of other infrastructures that closely connect the two economies. A failure in Japan's financial system infrastructure, or the interruption of financial transaction clearing, would have serious repercussions for the U.S. and the rest of the world.

金融市場は日米経済を緊密化する明確な仕組みの一例である。日本の金融システムの設備の機能停止や金融取引決済の中断は、米国とその他の世界に深刻な影響をもたらす。

15. (U) Establishment, maintenance, and protection of financial system infrastructure have been left to the private sector, under the supervision of the financial services regulator, the Financial Services Agency, and the Bank of Japan, which is responsible for the payments system.

金融制度の設備を設立・維持・保護は民間部門に任されていて、こられの部門は金融事業を所管とする金融庁と、決済責任を持つ日本銀行が監督している。

Disasters and Threats in Japan
日本に起こる災害と脅威
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16. (U) Japan's has a history of catastrophic natural disasters. Historically, the greatest natural threats were earthquakes and volcanoes, storms, and fires. The great Kanto (Tokyo) earthquake of 1923 was of magnitude 7.9 and killed roughly 105,000 people; the Hanshin (Kobe) earthquake of 1995 was magnitude 7.3 and killed 6,437. Between 1996 and 2005, 20.8 percent of the world's earthquakes of 6.0 or greater occurred in Japan.

日本には壊滅的な自然災害の歴史がある。歴史的に見て最も大きな自然の脅威には、地震、火山、台風及び火事がある。1923年の関東(東京)大震災はマグニチュード7.9で、約105,000人が死亡。1995年の阪神(神戸)地震はマグニチュード7.3で、6,437人が死亡。1996年と2005年の間で、マグニチュード6.0以上の世界の地震の20.8%が日本で発生した。

Seven percent of the world's active volcanoes are located in Japan and Mt. Fuji, although it last erupted in 1707-08, is still active and a threat to the greater Tokyo area with its 30 million inhabitants. Storms are another problem, with the 1959 Ise Bay Typhoon taking 5,098 lives. There is a clear downward trend in the numbers of lives lost in disasters in Japan, however. Factors contributing to this development include improved technology and engineering, stronger safety standards, and better emergency preparations and response.

世界の活火山の7パーセントが日本にあり、前回1707年-08年に噴火した富士山は、依然活動中であり、3000万人住民もの東京地域の脅威となっている。さらに台風も問題であり、1959年の伊勢湾台風で5,098が死亡した。しかし日本の災害の死亡数には、明確な減少傾向がある。改善要因には、技術、科学、高い安全基準、災害準備・対策の改善がある。

17. (SBU) Japan faces other types of threats, with pandemics one of the most serious. The SARS and Avian Influenza did not greatly affect Japan, but the country is potentially vulnerable to a pandemic. In addition, Japan has also experienced terrorism, for example, with the taking of hostages at the Japanese Embassy in Peru and the Sarin gas attack in the Tokyo subway system. The 1995 Sarin attack killed 12, injured 1,034, and undermined public confidence in the safety of Japan's mass transit system.

日本はその他の危機にも直面していて、中でも各種感染症の大流行が深刻である。SARSと鳥インフルエンザは日本にさほど影響しなかったが、日本は感染症の大流行病に潜在的に無防備である。日本は在ペルー大使公邸人質事件や東京地下鉄サリン事件などテロ攻撃の経験もある。1995年のサリンによる攻撃では12人殺害と1034人損傷となり、交通網の安全性への国民の信頼は薄れた。

18. (SBU) Japan relies heavily on nuclear power for roughly 30 percent of its electricity needs. While Japan has never had an attack on a nuclear facility, several Japanese facilities have experienced safety incidents, some resulting in fatalities and prolonged shutdowns.

日本は原子力発電に強く依存し電力需要の30%にも及んでいる。日本にはまだ原発への攻撃事件はないが、事故死や停止継続となる安全性の問題を起こした原発が数機ある。

In the most recent case, the Kashiwazaki-Kariwa nuclear power plant located in Niigata Prefecture and the world's largest in terms of electrical generating capacity, remains off line following a July 2007 earthquake. Also during summer 2007, the Hokkaido Electric Power Company was criticized for failing to prevent suspected arson at a reactor construction site at its Tomari nuclear power plant.

最近の例では、発電容量世界最大の原子力発電所、新潟県・柏崎刈羽原発は、2007年7月の地震以降操業停止となっている。2007年夏期、北海道電力は、泊原発で原子炉工事現場の放火容疑を防止できなかったと非難された。

19. (SBU) Japan's political leaders and public profess concern about the country's continued dependence on imported food as well as on imported oil. Some Japanese still recall post-war shortages. However, as Japan is less than 40 percent self-sufficient in food production, despite concerns about food security, Japan's only practical resource security will come from stable and reliable flows.

日本の政治指導者と国民は、石油輸入だけではなく食品輸入への依存が続くことも心配している。戦後の食糧難を想起する日本人もいる。しかし食糧安全保障を懸念しても日本の食糧自給率は40%以下なので、現実的な食糧安全保障は安定した交易によるほかはない。

Emergency Preparedness and Response
緊急事態の準備と対応
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20. (SBU) The GOJ has taken steps to prepare for such threats. Japan has established legislative and organizational frameworks for disaster management and emergency response. The GOJ has developed response capabilities at the national, regional, and local levels as well. A Minister of State for Disaster Management oversees disaster management efforts, coordinated by the Cabinet Office, and involving 23 government entities and 63 public and private corporations. The legal basis for Japan's Disaster Management System were set out in 1961 by the Disaster Countermeasures Basic Act.

上述の危機に日本政府は準備として段階的な手を打ってきた。日本は災害対応や緊急事態対応の法的・組織的な枠組みを設立してきた。日本政府は同様に、国家レベル、地域レベル、地方レベルで対応能力を発展させてきた。防災担当相が災害対応の推進を監督し、内閣官房が調整し、さらに23の政府機関、63の公的法人や民間会社が関連している。日本の災害管理制度の法的根拠は1961年の災害対策基本法である。

21. (SBU) Japanese bureaucracy and planning can be inflexible, with the result that Japan may be still vulnerable to threats that are less well understood, or which require different sorts of preparation. A pandemic or a major cyber attack would require different responses from those appropriate to an earthquake, and could catch both the GOJ and private sector unprepared. Such a situation in turn could result in prolonged loss of critical systems or services.

日本の官僚制度と政策は柔軟性を欠くことがあり、理解の至らぬ脅威や既存とは異なる準備を要する驚異については依然、無防備だともいえる。感染症の大流行や大規模サイバー攻撃には、地震対策とは異なる対応が求められるだろうし、日本政府も民間企業も準備不足が罠となりうる。状況が変われば日本は、重要な制度と運用に長期の空白がもたらされることになる。

22. (C) Comment: Highly advanced technology and its application for industrial and consumer use has long been a key factor in Japan's economic growth and a reality for leading U.S. and other companies. Disruption in the supply lines would have significant consequences. Likewise, Japan's role as an international financial services and a communications/transportation hub would mean an attack or other serious development that disrupted these activities here, would likely seriously affect the U.S. and other allies. As the U.S. proceeds with the effort described in ref, it may be useful to consider reaching out to Japan to discuss steps we can take to prevent a possible disruption or to mitigate the negative effects should one occur. End Comment. SCHIEFFER

意見。高度な技術と産業・民間へのその活用は日本の経済成長の重要な要素であったし、米国主要企業やその他の企業にも当たり前であった。日本産業からの提供が途絶えると深刻な事態になる。同様に、国際的金融制度と通信・交通の中継基地としての日本の役割は衝撃にもなりうるし、日本の諸活動停止がすれば、米国やその他の同盟国に深刻な影響を与える深刻な事態となる。参考資料で示した努力を米国が推進する際、発生しうる混乱を予防するため、さらに発生後の悪化状況緩和のための議論に向けて、日本に手をさしのべるよう配慮することが有益であろう。意見終わり。シーファー記す。

DESTINATION
VZCZCXRO8661
PP RUEHFK RUEHKSO RUEHNH
DE RUEHKO #0727/01 0782300
ZNY CCCCC ZZH
P 182300Z MAR 08
FM AMEMBASSY TOKYO
TO RUEHC/SECSTATE WASHDC PRIORITY 2650
INFO RUEHFK/AMCONSUL FUKUOKA PRIORITY 6705
RUEHNH/AMCONSUL NAHA PRIORITY 9097
RUEHOK/AMCONSUL OSAKA KOBE PRIORITY 0378
RUEHKSO/AMCONSUL SAPPORO PRIORITY 7309

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