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2011.04.15

原子力安全調査専門委員会が福島第一原発原子炉状況をまとめた

 日本原子力学会の原子力安全調査専門委員会が福島第一原子力発電所原子炉現状を分析しその結果を14日にまとめたという記事が、14日付け読売新聞記事「溶融燃料「粒子状、冷えて蓄積」1~3号機分析」(参照)に掲載されていた。なんと言っていいのか、ある種の沈黙を強いられるような話であった。


 それによると、圧力容器内の燃料棒は、3号機では冷却水で冠水しているが、1、2号機は一部が露出している。1~3号機の燃料棒はいずれも損傷し、一部が溶け落ちている。溶融した核燃料は、冷却水と接触して数ミリ以下の細かい粒子に崩れ、燃料棒の支持板や圧力容器下部に冷えて積もっていると推定している。

 記事には図が添えられている。注釈を外し、縦に少し潰すとこんな感じである。

 ちょっと見には底のほうに団子のように固まっているかのようにも見えるが、遠近感の都合で描かれているだけ、絵の意図としては粉状の物体が上面を平らに降り積もっているということなのだろう。
 もちろん、底部は半球である。球体に近い。球体の形状に原子炉燃料(数パーセントのウラン235)が集積されている状態を見て、さてと、私はなんと言ったらいいのか考え込んでしまう。ある種の沈黙を強いられるよう話というのはそういうことだ。
 記事には専門家のコメントがある。

沢田隆・原子力学会副会長は「外部に出た汚染水にも、粒子状の溶融燃料が混じっていると思われる」と説明した。

 さすが専門家ですね。間違ってはいない。そこがポイントなのかとは疑問に思うが。
 同テーマと思われるが産経新聞記事「福島原発1~3号機、燃料の一部溶け落ち 原子力学会が見解」(参照)では「事故調査委員会」として報道されていた。

 東京電力福島第1原子力発電所事故について、日本原子力学会が設置した事故調査委員会は14日、1~3号機の炉心燃料棒の一部が溶け落ち、原子炉圧力容器の下部にたまっているとの見解を示した。溶け落ちた燃料は注水で冷やされ、固体状に固まり、原子炉に穴が開くなどの損傷の恐れはないとしている。
 同委員会では、各号機の原子炉の表面温度や内部の放射線量などのデータから、燃料棒を覆う「被覆管」が溶け、内部の放射性物質(放射能)が漏出するだけでなく、燃料の一部が、数ミリの粒状になり、溶け落ちる高温になったと推計した。
 原子炉の損傷は回避されたが、注水が2、3日間途絶えると危険な状態になるため、余震への注意が必要としている。

 注水が途絶えると、どんなふうに危険になるかについての言及はない。
 その点、NHK14日付け「原子力学会 安定に2~3か月」(参照)には若干の言及がある。なお、NHKは発表を「日本原子力学会に所属する専門家チーム」としている。

それによりますと、1号機から3号機の原子炉にある核燃料はいずれも一部が損傷して溶け出し、原子炉の底にたまっていると推定されるが、このまま水で冷やし続ければ今の状態を保つことはできるとしています。しかし、強い余震などによって核燃料が2~3日冷やせなくなると、事故が発生した直後のように原子炉の温度や圧力が不安定になり、予断を許さない状態に戻るということです。

 事故直後の状況に舞い戻りする可能性はあるということだ。
 15日付け共同通信記事「原発安定化まで2、3カ月 学会見解、燃料溶け底に蓄積」(参照)は、もう一歩踏み込んで書いている。

 溶けた燃料が圧力容器の底にたまりすぎると熱がこもり、容器を損傷する恐れがあるが、圧力容器の底部の温度データから、現状ではそこまでたまっていないとみられるという。

 記者による表現の苦労が忍ばれるというところかもしれない。
 そりゃ、熱がこもるでしょうし、容器も損傷するでしょうというか、容器が損傷するかもしれない温度にまで上昇する可能性があるということだ。なんの熱? 崩壊熱ですね、常考。
 NHK報道では「日本原子力学会は、この結果を学会のホームページで公表するほか、今後、具体的な対策や放射線の影響についても東京電力などに提案したいとしています」ともあるのだが、現状では同ホームページ(参照)には見当たらなかったようだった。
 総じて言えば、米原子力規制委員会(CRC)のヤツコ委員長が言うように、安定というより膠着(the situation as static but not yet stable)ということだろう。
 ところで、最初の読売報道に戻ると「圧力容器内の燃料棒は、3号機では冷却水で冠水しているが、1、2号機は一部が露出している」とあるが、なんで1号機と2号機は冠水してないのだろうか?
 それと、私がデータを読み違えているのかもしれないが、福島原発原子炉の状態 原子炉の水位(参照)を見ると、3炉ともに水位はマイナスのように見える。「地震被害情報(第94報)(4月15日08時00分現在)及び現地モニタリング情報(METI/経済産業省」(参照)を見ても3号機でも冠水していなように受け取れるのだがどうなのだろうか。
 話を戻して、読売報道の通りとして、その含みから、1号機と2号機も、3号機のように燃料棒を冠水させたほうがよいように受け取れるのだが、なぜ冠水しないのだろうか。つまり、なぜ注水しているのに水位が上がらないのか?
 この点について、14日付けブルームバーグ記事「東電:福島第一原発冷却に3カ月見込む、「水棺」拒否-関係者」に興味深い言及がある。

 関係者によると、福島第一の原子炉で最も危険なのは温度と圧力が依然として高い1号機だという。圧力容器とこれを包む格納容器の間を水で満たすことで、温度は数日で下がると関係者は述べた。
 さらに、消防用ホースとポンプで注水する方法では水の量が足りないとしている。13日には内部の温度がセ氏204.5度に達し、注入した水が蒸発し冷却効果が得にくい状態になったという。
 東電の発表データによれば、13日は一号機の炉心の水位が下がり燃料棒が1.65メートル露出した。露出した燃料棒は溶解し圧力容器内に放射性物質が漏れる恐れがある。東電の危機解決計画は燃料棒を水没させることを安定化の1つの目安としているものの、事故後の35日で注水によって水位が20センチ以上上がったことはないという。
未知のリスク
 米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は今週、水位が上がらないことを1つの理由に福島第一原発の状況は「足踏み」しているとの見解を示した。

 記事から窺えるのは、1号機についてだが、本来なら圧力容器と格納容器を満水にしてしまえばよいのだが、炉内の温度が高く、注水しても蒸発してしまうらしいということだ。なお、該当記事の英文「Fukushima Radiation Leaks Will Continue Through June, Tokyo Electric Says」(参照)は日本語版と多少異なる。
 1号機に限定されるが、炉内温度が冠水を阻止しているのだろうか。そこがよくわからない。ヤツコ委員長がそこに着目しているのかも、いまひとつ不確かな情報のようにも思える。
 奇妙なのは、この記事の描写と比べると、原子力安全調査専門委員会の発表には炉内温度の推定が含まれていないように見える点だ。「圧力容器下部の水温が低い」されているのだが、圧力容器の下部は水温が低いが、上部は水温が高いということなのだろうか。

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2011.04.14

[書評]新訳 チェーホフ短篇集(沼野充義訳)

 「新訳 チェーホフ短篇集(沼野充義訳)」(参照)とあるようにチェーホフの主要短編の新訳である。2008年から雑誌「すばる」に掲載され、昨年秋に単行本にまとめられた。

cover
新訳 チェーホフ短篇集
沼野充義
 新訳というと旧訳が読みづらくなったかのような印象もあるかもしれないが、それはあまりない。旧訳には言葉遣いが多少古い面もあるが、田山花袋の「蒲団」を読んでいるようなことはない……あー、「蒲団」もそれほど古めかしくもないか。

机、本棚、ビンは依然として元のままで、恋しい人はいつものように学校に行っているのではないかと思われる。時雄は机のひきだしを開けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取って匂いを嗅いだ。しばらくして立上ってふすまを開けてみた。その向うに、芳子がつねに用いていた敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟のビロードの際だって汚れているのに顔を押つけて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅いだ。

 すまん、若干文章と表記をいじったが現代でも読める。それより後代のチェーホフ訳の文章ならなおのこと。例えば、神西清による旧訳の若い女の台詞だが、こんな感じ。

「信じて、わたしを信じて、後生ですから……」と彼女はかき口説くのだった。「わたしは正しい清らかな生活が好きなの。道にはずれたことは大きらいなの。いま自分のしていることが我ながらさっぱり分からないの。世間でよく魔がさしたって言いますわね。今のわたしがちょうどそれなんですわ、わたしも魔がさしたんですわ」

 新訳だとこう。

「信じてください、ね、お願いだから信じて……」彼女は言った。「私は正直で清らかな暮らしが好きなんです。罪深い生活なんてぞっとするわ。自分でも何をしているのか、わからないの、ほら、世間の人たちはよく、魔がさしたって言うでしょう。いまのわたしもそうなんです。やっぱり魔がさしたのね」

 そんな感じ。
 チェーホフ短編の面白さを味わうというなら、特別新訳を読むこともないのだが、こっそり言うけど、Tolle Lege、取って読め、買って読め。
 なにゆえ? 新訳ならではの面白さというのもあるけど、この本、作品ごとの末にいちいち訳者のこってりとした解説が付いていて、そこがたまらん。おまえ、文学好きだろ、みたな世界が延々と広がっていく。ラノベの評価で友だちと罵倒を繰り返すような熱い思いが湧いてくる。
 チェーホフ短編自体も面白いが、率直に言うと、女性にとっても、これ、面白いのかというと、困惑。20代までの男にとって面白いかというと、微妙。童貞さんには、がちで面白くないと思う、すまん。
 とりあえず、これが恋愛っつうもんですかみたいなことを二、三回して、「うへぇ、俺って嫌なヤツだな」という自覚もできた30代や40代の男なら、この短編集、苦笑で腹が痛くなるほど楽しめます。おまえ、こういうの好きだろ。
 かく言う私も若い頃はチェーホフなんて好きではなかった。むしろ嫌い。なにが嫌いかというと、「チェーホフはいい」とかいう大人の男からじわっと滲んでくる浅薄さが受け入れられなかった。人生や女性や恋愛をシニカルに眺めるというのは文学じゃないよとか思っていた。ウィリアム王子だって頭部の威光が自覚できない時代がある。
 50過ぎて読んでみるとシニカルというより、甘酸っぱい、胸にちくちく来るものがある。というわけで、50代の男性が読めば、この、恥ずかしい内面にちくちく来る快感が味わえます。そしてチェーホフ先生、44歳で死んじまったのかいと同情する。
 どんな作品か。こんなの。

かわいい
 従来「可愛い女(ひと)」と訳されていた作品。たぶんある種の女を見て、「かわいいっ!」と感じる印象を表現している。チェーホフの意図もそうらしい、うんぬん。
 かわいい女の話。オーレンカという女性。新訳では「オリガちゃん」とも訳されている。「さっちゃん」みたいな含みだろうか。かわいい女の人生の物語である。ショートショートより長めの短編。
 オリガちゃんは冒頭、10代。おっとりとして色白でぽっちゃりして笑顔がかわいい女の子。若干タルドル系かもしれない。見つめていると、「か、かわいい」とつぶやいてしまいそうな女の子。といっても、ロリ好きが言いそうなそれではないが。
 オリガちゃんは、最初パパが好き。中学生になるとフランス語の先生が好き。それから年頃になると、近所に来た地方周り遊園地業者の男が好きになって、結婚した。そして男と一緒にその仕事して専念して、男の考え方に同化する。好きが高じて男と同じこと言い出す。
 男も文句がなければいいのだが、そこは人生ゲーム。男は死ぬ。未亡人となったオリガちゃんは悲しむのだが、渦中、材木屋の男に惚れて結婚。そしてまた男の仕事に専念して男の考え方に同化する。その男も死んで、今度は獣医に惚れる。そしてまた同じ。ほとんど獣医のようなことを言い出す。
 好きな男をころころ変えて、そのたびにその男の考えにするっと同化してしまう女。ころころ変わる女の人生。そう言ってしまうとなんだが、チェーホフの筆致は軽妙で笑える。
 笑いながら、しかし、と30代の男は思うのだ、こういう女よくいるよな、こういう女に惚れられたこともあるよな、と。男の趣味や考え方や仕事に染まっていく女。別れると、別の男にすぐに染まっていく女。
 あれはなんなのだったのだろうと40代の男も思うのだ。あるいは、自分の母親や姉がそういう女なんじゃないか、げーっと思ったりもする。
 愛情深き女。女の愛……まあ、そういうものの、変な本質をさらりと描いた一品。

ジーノチカ
 ジーノチカというのは女の名前。キャラは現代でいうとツンデレか。その女を描いているともいえるが、その女を描くことで女の本質の一面を描いているとも言える。なんとも奇妙な味わいのある小品。
 語り手は中年の男の「僕」。すでに豚。その少年時代の回想の物語。
 「僕」の兄の恋人ともなるジーノチカという年上の少女に会う。家庭教師でもあった。「僕」は、あるとき兄とジーノチカのラブシーンを盗み見て、それをネタに彼女をいびるようになる。それが原因でジーノチカは「僕」を憎むようになる。すさまじい憎しみ。わざわざ「僕」の前にやってきて情熱の愛の言葉のように語る、かく。


「ああ、あなたが憎くてたまらいの! こんなに人に不幸を願ったことはないわ! わかってちょうだい! わかってほしいのよあ、この気持ち!」

 チェーホフの話は笑話でもあるので、こういう台詞が出てくる。僕らの人生でも、そういう女性に巡り会う。そういう事態に遭遇する。ないですか? 僕なんかなんどもありますよ。熱烈に憎まれるというのが。今でも、コメント欄で憎まれているけど。わかっているよ、君が女性だということを。

いたずら
 なにが「いたずら」か。チェーホフに模された男が子どものころを回想する話。好きな女の子のナージャと橇の遊びをする。二人乗りで滑って高速が出ているとき、「す・き・だ・よ、ナージャ!」とその耳元でつぶやく、という「いたずら」。
 ナージャは空耳かなと思う。空耳かどうかまた試してみる。女の子の心に「いたずら」という、たわいない甘酸っぱい話なのだが、これには、なんと2つのエンディングがある。訳者が、すげー気を遣って、初出と改作の2バージョンのエンディングを並べてくれたのだ。よくやるよね。
 2つの異なるエンディングが深い。2つのエンディングがそのままポストモダン小説のように存在して不思議でもない。
 そのことが、中年になった男の胸を、ぐっとえぐるのだ。

奥さんは小犬を連れて
 「犬を連れた奥さん」と訳されてきた作品。リゾート地のヤルタで主人公の、妻子持ちで40歳に手が届こうという中年男のグーロフが、夫と離れて旅先にいる20代の人妻と恋に落ちるという話。ぐへぇな設定。
 最初は男もほんの遊び心だが、女がヤルタを離れモスクワに行くと、結局追いかけてしまい、のっぴきならぬ関係になる。くだらねえなあとか思いがちだし、たしかにくだらないのだが本気になってしまう。中年男の読者の内面にちりちりと苦笑を誘う。


 それからホテルの部屋で、彼女のことを思った。明日もきっと、会ってくれるだろう。きっとそうに違いない。寝床に入って彼はつい最近まで彼女が、現在の自分の娘と同じような女学生だったことに思い当たった。

 40前の男がそんなこと思うか。思うのである。
 話に露骨な性描写はないが、ことの後と思われるシーンのこんな台詞は絶妙にエロい。

「よくないわ」と、彼女は言った。「これであなたは、わたしを尊敬しない最初の人になってしまったのね」

 ちなみに旧訳だとこう。

「いけませんわ」と彼女は言った。「今じゃあなたが一番わたしを尊敬して下さらない方ですわ」

 新訳のほうがエロいかな。
 かくして関係は泥沼に入っていき……とそこで思いがけぬ、ポストモダン小説的なエンディング。

 短編集には、こうした中年男にとっての女とは何、のテーマの他に、子どもや社会貧困などもある。独自のペーソスに含まれるきびしい社会批判も興味深い。「牡蠣」は笑った後にじんわり泣けてくる。「ロスチャイルドのバイオリン」は笑った後に社会というものの複雑さに考え込む。

  • かわいい
  • ジーノチカ
  • いたずら
  • 中二階のある家
  • おおきなかぶ
  • ワーニカ
  • 牡蛎
  • おでこの白い子犬
  • 役人の死
  • せつない
  • ねむい
  • ロスチャイルドのバイオリン
  • 奥さんは小犬を連れて

チェーホフがもうちょっと生きていたら、その先に、ドストエフスキーとは違った大きな作品があったのではないかなとも想像してしまう。

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2011.04.13

NRCは水素爆発の原因を炉ではなく使用済み燃料プールと見ている

 福島第一原発建屋の水素爆発を導いた水素の発生源について、現状日本では、また仏アルバ社もそうだが、炉であると見ている。高温になった炉内の燃料被覆ジルコニウムによって水が還元されて水素が発生し、これがベントによって建屋内に放出され、酸素と化合して爆発したという説である。ところが、米原子力規制委員会(NRC)はこの説を採っていないと12日付けニューヨークタイムズ「Japan’s Reactors Still‘Not Stable,’ U.S. Regulator Says」(参照)が報道していた。発生源は使用済み燃料プールだというのだ。当初、菅首相の残念な発言を追って同記事を読んでいたのだが、この新説を読み、そうかもしれないと胃にずしんと来る感じがした。
 当初、菅首相の残念な発言がどう海外に報じられているだろうかと関連のニュースを追っていて同記事に遭遇した。菅首相の発言というのはこれである(参照)。


原子炉は一歩一歩安定化に向かっておりまして、放射性物質の放出も減少傾向にあります。

 原発事故以降、各種のデマが飛び交い、デマのリストも各種作成されているようだが、この菅首相の「原子炉は一歩一歩安定化に向かっておりまして」という発言も、そのリストに追加されるだろうというのが残念な点である。全然安定化には向かっていないからだ。
 もっとも後半の「放射性物質の放出も減少傾向にあります」は大気のモニタリングに限定すれば、概ねそう見てもよい。もしかすると菅首相としては「放射性物質の放出も減少傾向にあるので原子炉は一歩一歩安定化に向かっている」と言いたかったのかもしれないが、それだと論理的でも科学的でもない。
 併せて菅首相は東京電力に今後の見通しを示すように指示した。12日付けFNN「福島第1原発事故 菅首相「一歩一歩安定化に向かっている」」(参照)より。

菅首相は、福島第1原発事故の国際評価尺度が「レベル7」に変更されたことに関連し、このように述べるとともに、「東京電力に今後の見通しを示すよう指示した」と語り、近く回答が示されるとの認識を示した。

 菅首相のお得意が丸投げなのはかねて承知だが、こんな丸投げされても東電は対応しようがないだろう。あるいは、12日付け日経新聞「福島原発「完全解体に30年」 日立が廃炉計画提案 」(参照)のような答えを想定しているのだろうか。

 日立は一般論と断ったうえで、冷温停止と燃料棒の取り出しに成功した場合でも、核廃棄物を処理できるレベルに放射線を低減させるのに10年、プラント内部と建屋の完全解体までには30年程度かかると説明している。

 菅首相の残念な発言と丸投げはさておき、現実はどうなっているか。
 米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ(Gregory B. Jaczko)委員長は、原子炉の状況を「降着」と見ている。先のニューヨークタイムズ記事より。

The situation is “not stable” and will remain so until “that kind of situation would be handled in a predictable manner,” he said.

状況は「安定的ではない」し、「状況が所定の手法方法で処理されるまで」まで現状のままだろう。


 もっとも、大きな危険が予期されるわけではない。

“We don’t see significant changes from day to day,” the chairman, Gregory B. Jaczko, said, while adding that the risk of big additional releases gets smaller as each day passes.

「日が経っても重要な変化は見られない」とヤツコ委員長は述べるが、同時に一日一日と大きな追加放出の危険性は小さくなってとも付け加えた。


 NRC風に言うなら、「原子炉は膠着状態にあるものの、放射性物質の放出は減少傾向にあります」といったところだろう。とはいえ、そう菅首相が言ったら、国民は気落ちしてしまうだろうという配慮もあったかと思えば、そう責められたものでもないだろうとも思えてくる。
 ヤツコ氏は同機会に、米国民の原発から50マイル(80キロメートル)退避についても質問を受けていたので、ついでにこれもついで触れておこう。昨日のAP「NRC: Japan nuke crisis 'static' but not yet stable」(参照)ではヤツコ委員長の見解をこう伝えていた。

On the 50-mile evacuation zone for U.S. citizens in Japan, Jaczko called his March 16 recommendation "prudent" and said it was based on projections for continued deterioration at the plant. The Japanese government had set a 12-mile evacuation zone, and the U.S. decision raised questions about U.S. officials' confidence in Tokyo's risk assessments.

在日米国市民の50マイル避難区域について、ヤツコは、3月16日の推奨を「慎重」と呼び、原発プラントで続いた悪化の影響によるものだと述べた。日本政府は12マイルの避難区域を設定したため、米国の決定は日本政府の危機評価の点で米国当局の信頼性に疑念を生じさせた。

"I'm still very comfortable" with the decision, Jaczko said.

この決定について「私はさほど心配していない」とヤツコは語った。

Asked whether he set up a double standard — one for nuclear plants in foreign countries and another for U.S. plants, where a 10-mile evacuation zone is the current standard — Jaczko said no.

米国原発であれば現状の規制では避難区域は10マイルなのに外国だと違うというのはご都合主義ではないかという問いに、ヤツコは、いいえと答えた。

"I wouldn't say that's a contradiction," he said, noting that the 10-mile U.S. evacuation zone refers to emergency planning prior to a nuclear disaster. If events warrant, a larger evacuation zone can be created.

「矛盾したことを述べたつもりはない」と彼は語り、10マイル避難区域は原子力災害になる前の緊急計画だと示唆した。当然の事態となれば、より広範囲な避難区域が設定されうる。

"Ultimately, decisions about protective actions (in the event of a nuclear disaster) are made by state and local authorities," he said, not the NRC.

「最終的には、(原子力災害時における)市民保護活動の決定は、州または地方自治体によってなされる」と彼は述べた。つまり、NRCが決定するのではない。


 ヤツコ委員長の見解は、微妙といえば微妙だが、NRCとしては2号炉の崩壊想定で50マイルと科学的に評価したことに自信を持っており、50マイルという決定は在日米政府機関よるものだとしている。問題があるとすれば、この広域設定によって米国市民がどのような不利益を被ったかが米国の地方行政に問われるというものだろう。
 話を水素爆発の原因に戻そう。ニューヨークタイムズ記事はこう報じている。

Mr. Jaczko also offered a new theory about the cause of the explosions that destroyed the secondary containment structures of several of the reactors. The prevailing theory has been that hydrogen gas was created when the reactor cores overheated and filled with steam instead of water; the steam reacts with the metal, which turns into a powder and then gives off hydrogen.

ヤツコ氏はまた、複数の原子炉建屋の爆発原因に新説を出した。優勢な説によれば、水素ガスが発生したのは、炉心が過熱し、水ではなく水蒸気に満たされ、その水蒸気が金属と反応し、粉塵化を経て水素を放出したとされている。

The Tokyo Electric Power Company, which operates the nuclear plant, intended to vent the excess steam as well as the hydrogen outside of the plant, but experts have suggested that when operators tried this, the vents ruptured, allowing the hydrogen to enter the secondary containments.

原子炉施設を操作する東京電力会社は、水素と同様、余分な蒸気をプラント外に放出(ベント)するつもりだったが、専門家の示唆によれば、この操作時に放出口が破裂し、水素が建屋に漏れててしまったということだ。

But Mr. Jaczko said Tuesday that the explosions in the secondary containments might have been caused by hydrogen created in the spent-fuel pools within those containments.

しかしヤツコ氏は水曜日に、原子炉建屋の爆発をおこした水素は、建屋内にある使用済み燃料プール火災から発生していたかもしれないと述べた。


 つまり、水素爆発の原因となる水素は、各建屋内の使用済み燃料プールから発生していた可能性をNRCは示唆している。
 この新説で、そうだったのかもしれないと胃にずしんと来る感じがしたのは、休止中の4号機の爆発が気になっていたからだ。
 もちろん4号機の爆発をもたらした水素の発生源については、使用済み燃料プールだと想定されていたし、3月15日に枝野幸男官房長官もそう指摘していた。15日付け「福島原発4号機の火災、枝野氏「水素爆発か。放射能が大気に」」(参照)より。

 枝野幸男官房長官は15日午前の記者会見で、東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第1原子力発電所4号機で火災が発生し、放射性物質が大気中に放出されていると発表した。
 枝野氏は火災の原因について「使用済み核燃料が熱を持ち、そこから水素が発生して水素爆発が起きたと推察される」と説明、消火作業を急ぐ考えを示した。4号機は震災発生時は休止中だった。

 もう少し詳細な推測としては3月16日付け毎日新聞記事「東日本大震災:福島4号機爆発「原因不明」 保安院や東電」(参照)では専門家からこう指摘されていた。

 4号機は11日の地震当時、定期点検で炉内構造物を交換するため、すべての燃料集合体を原子炉内から抜き出し、プールに貯蔵していた。
 このため、燃料の崩壊熱が他号機より高く、地震で電源が喪失しプールの水が冷却できなくなっていた。東電によると、通常約25度の水温は14日午前4時ごろ、84度と異常高温になり、その後、沸騰したとみられる。
 小山英之・元大阪府立大講師は「水が蒸発して、使用済み核燃料が露出、燃料を覆うジルコニウムが溶けだし、水素が発生、火災になった」と推測する。火災が起きるとジルコニウムがボロボロになり、燃料自体から放射性物質のセシウムなどが放出される。この現象を米原子力規制委員会(NRC)は「ジルコニウム・ファイア(火災)」と紹介し警告する。

 4号機爆発の水素が使用済み燃料プールに由来するとしても不思議ではない。
 問題は、1号機と3号機の水素爆発の水素は炉から、4号機は使用済み燃料プールからという、現在優勢な二元説にNRCが疑念を呈した点にある。別の言い方をすれば、1号機と3号機の爆発も使用済み燃料プールから発生したものではないのか?
 もちろん優勢説からの反論は容易い。1号機と3号機の使用済み燃料プールの温度は4号機ほど高くないので水素の発生はないか少ないというものだ。
 さらに別の角度からNRCへ疑念を向けることができる。NRCにとって使用済み燃料プールの問題は、日本の問題というより米国の原発事業の文脈を持っているからだ。ニューヨークタイムズ記事でも後段はその話題になっているが、6日付けブルームバーグ記事「米原子力政策見直し、最初の改善対象は使用済み核燃料プールの可能性」(参照)からも想像される。

 4月6日(ブルームバーグ):日本の原発事故を受けて原子力規制ルールの強化に取り組んでいる米国で、原子炉運営を手掛けるエクセロンやデューク・エナジーが最初に求められる最も多額の費用を要する改善点の一つは使用済み核燃料プールになる可能性がある。
 ワシントンの政策研究所の上席研究員を務めるロバート・アルバレス氏は、米国各地の原発の冷却用プールから数万トンの使用済み核燃料を撤去するには最大70億ドル(約5980億円)の費用がかかり、完了まで最長10年を要する見込みだと指摘した。
 米当局者らは、米国内の原子炉104基が東日本大震災と同程度の地震規模と津波に耐えられるかどうかを検証するため、安全システムの見直しを開始した。
 1万年間は放射性物質の放出が続くとされる使用済み核燃料の恒久的な貯蔵場所をどこにするかは、米当局が20年余り前から検討してきた問題だった。オバマ政権はネバダ州のユッカマウンテンに放射性廃棄物処理場を建設する計画を却下し、代替地を探すため委員会を昨年設置した。

 しかし、この点も文脈は逆かもしれない。NRCとしては福島第一原発の惨事から使用済み燃料プールの危険性を認識しなおしたとも言える。
 原子炉建屋が爆発して放射性物質が放出されている現状となっては、水素発生の起源の厳密化はさして重要でもないようにも見える。だが、もしNRCが指摘しているように、水素の発生源が一元的に使用済み燃料プールに由来するとすれば、今回の大惨事は、従来の原子炉の安全性科学の問題というよりも、なんであんなところ、つまり建屋の上部に使用済み燃料プールを設置したのかという、原子力行政に大きな問題が潜んでいたことになる。

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2011.04.11

放射性物質を含む瓦礫の撤去が始まる

 福島第一原子力発電所で放射性物質を含む瓦礫の撤去が始まった。この作業については米原子力規制委員会(NRC)による3月26日付けの秘密(Official Use Only)の評価書でも言及していたので関連を見ておきたい。
 NRC文書のリークは、5日付けニューヨークタイムズ記事「U.S. Sees Array of New Threats at Japan’s Nuclear Plant」(参照)のネタ元になっていたものだが、ネットを検索すると(参照)すでにいくつかのサイトで見つかる。しかしアレバ文書(参照)とは異なり、純正との対照もできず、入手経路も明らかではない。

 該当文書に部分的な欠落があるとしても、大幅に捏造されたものとは言い難い印象がある。先のニューヨークタイムズ記事の文言とも対応している。技術的にそっけない記述ではあるが読み進めるとなかなか興味深い。
 リークの理由をニューヨークタイムズは明らかにしていないが、事態の推移と文書内容から容易に想像されることは、3月26日時点で重要な課題だった炉への窒素注入だろう。この対応にぐずっていた日本側への強い要望の意味合いがあったかもしれない。
 米国側からの要望といえば、海水注入から真水注入への切り替えにも存在した。NRC文書では日本が実施した海水注入の問題点も指摘している。一号炉の評価より。


Damaged fuel that may have slumped to the bottom of the core and fuel in the lower region of the core is likely encased in salt and core flow is severely restricted and likely blocked.

炉底に崩落した可能性のある損傷燃料と炉心下部の燃料は結晶塩に覆われていることだろうし、炉内水流は厳しく限定されているか、詰まっているだろう。

The core spray nozzles are likely salted up restricting core spray flow. Injecting fresh water through the feedwater system is cooling the vessel but limited if any flow past the fuel. GE believes that water flow, if not blocked, should be filling the annulus region of the vessel to 2/3 core height.

炉の注水口は結晶塩で固められ、放水流量を限定しているだろう。水供給機構による淡水注入は容器を冷却するが、燃料に流れが当たったとしても限定的である。目詰まりがなければ、炉内容器環状部分の三分の二の高さまで水が流入するとジェネラルエレクトリック社は確信している。

There is likely no water level inside the core barrel. Natural circulation believed impeded by core damage. It is difficult to determine how much cooling is getting to the fuel. Vessel temperature readings are likely metal temperature which lags actual conditions.

炉容器内には水は存在していないだろう。炉損傷によって自然な水流が妨げられていると想定される。燃料にどれだけ冷却が至っているかを見極めることは難しい。容器温度表示によれば現状を停滞させるメタル温度であるようだ。


 誤読しているかもしれないが、NRC文書による1号炉の評価では、日本が海水を注入したことで注水口が結晶塩で固まって目詰まり状態になり、炉内は空焚きとなり、燃料は炉底部に崩落し結晶塩で覆われていると見られている。が、圧力容器の損傷はないとも見られている。
 注意事項にも海水注入の問題が指摘されている。

Hydrogen gas production is more prevalent in salt water than in fresh water. Oxygen from the injected seawater may come out of solution and create a hazardous atmosphere inside primary containment. The radiolysis of water will generate additional oxygen. Maintain venting capability.

水素ガス発生は淡水中より塩水中で優勢である。海水注入により酸素が発生し、一次格納容器(原子炉格納容器)に危険な状態が生じるだろう。水の放射線分解もまたさらなる酸素を発生させるだろう。ベント機能を維持せよ。


 淡水より海水のほうが酸素を発生させやすいという理由は私にはわからないが、正しいのであろう。水の放射線分解についても言及されている。
 NRC文書が指摘する海水注入問題に対応するように、米側の強い要請で米軍のバージ船による淡水が提供された。3月25日付け毎日新聞「福島第1原発:冷却用真水の補給で米軍がバージ船提供」(参照)より。

 自衛隊は高圧消防車で海水を使って放水してきたが、米側から「(塩水による)機材の腐食を防ぐには真水に変更すべきだ」との強い要請があり、活動のあり方を再検討。東電が復旧を進める「補給水系」の注水ポンプに真水を補給する方向に切り替えた。

 余談になるが、問題発生の3月11日時点で米国が冷却剤輸送を申し出たという話は、ホウ酸以外にパージ船による大量の淡水提供も含まれていたかもしれない。3月12日付け「在日米軍、地震被害の原発への冷却剤輸送は実施せず=米政府高官」(参照)より。

[ワシントン 11日 ロイター] 米政府高官は11日、東北地方太平洋沖地震で被害を受けた原子力発電所への在日米軍による冷却剤輸送は実施しなかったことを明らかにした。これより先、ヒラリー・クリントン米国務長官は、同原発に冷却剤を輸送したと述べていた。
 これについて同高官は、冷却材の供給について日本側から要請があり、米軍も同意し輸送を開始すると国務長官は聞かされていたもようだと説明した。その後、日本側から冷却材は不要との連絡があったものの、国務長官の耳に入っていなかったとしている。
 別の米政府当局者は、「結局、日本は自国で状況に対応できたとわれわれは理解している」と述べた。

 同種の対応だが、4月10日付け読売新聞「原発危機に初動から後手の政府、いらだつ米」では、表題のように米側の苛立ちと日本側の実質的な拒絶を伝えている。

 「米国の原子力の専門家を支援に当たらせる。首相官邸に常駐させたい」
 この日以降、ルース米駐日大使は枝野官房長官らに何度も電話をかけたが、枝野は「協力はありがたくお願いしたい。ただ、官邸の中に入るのは勘弁してほしい」と条件もつけた。

 海水注入の話題が多くなってしまったが、NRC文書にある推奨として窒素注入は注水の次に掲げられていた。1号炉についての推奨より。

2. Restore nitrogen purge capability. When restored, establish purge and vent cycle to minimize explosive potential.

窒素パージ機能を復元せよ。復元時に、爆発の可能性を最小化するためにバージとベントを確立せよ。


 日本側がこの機会に窒素注入を開始したのは、NRC文書の推奨に沿ったことになる。推奨の依拠は、主に注水についてと見られるが、"guidelines of SAMG-1, Primary Containment Flooding, Leg RC/F-4,"という指針である。NRCによる"Emergency Procedure Guidelines"に含まれるようだ。NRCとしては原子炉非常時に取るべき標準手順を状況に合わせてまとめている。
 対応が標準的なガイドラインに沿っているなら、おそらく日本側でも事前に熟知されていると見てよいだろうが、もしかすると米国側は日本が標準手順を踏まえていないと見ていたかもしれない。
 話の前段が長くなったが、ようやく実施されることになった瓦礫の撤去については、NRC文書では3号機と4号機の評価で言及されている。以下は4号機についてである。

Fuel particulates may have been ejected from the pool (based on information of neutron emitters found up to 1 mile from the units, and very high dose rate material that had to be bulldozed over between Units 3 and 4. It is also possible the material could have come from Unit 3).

燃料粉塵が使用済み燃料プールから飛び出している可能性がある(施設から1マイル離れたところに中性子線放射が検出されたとの情報、及びブルトーザーで均しておくべき3号機と4号機の間にある非常に高い線量率の物質による。これもまた3号機から飛び出た可能性のある物質である。)


 NRC文書は、使用済み燃料プールから燃料粉塵が1.5キロ先まで飛び散っている可能性と、使用済み燃料によると見られる高い放射性物質も散乱していることから、これらをブルトーザーで均す必要があるとしている。
 放射性物質を含んだ瓦礫の撤去だが、日本側では3月20日に戦車投入が検討されていた。3月21日付け朝日新聞記事「戦車2両、福島県内に到着 原発のがれき除去へ」(参照)より。

 福島第一原発で復旧作業の妨げとなっているがれき除去のため、防衛省は74式戦車2両を投入した。陸上自衛隊駒門駐屯地(静岡)を20日に出発し、21日朝、福島県内の待機場所に到着した。今後、がれきの撤去や車の通行が可能になるよう通路を切り開く作業をする。
 戦車の具体的な作業計画を立てるため、自衛隊は同日、化学防護車2台を原発構内に入れ、現地の状況を調べた。
 戦車の派遣は、主に3、4号機周辺に消防車などが入る経路や作業スペースを確保するのが目的。ブルドーザーのように車両前方に土などを排除する「排土板」がついている。放射線の濃度が高い場所でも、隊員が車両内にとどまったまま作業できるという。
 74式戦車は、全長9.4メートルで約38トン。4人乗りで、最高時速は53キロ。

 その後、3月22日付け産経新聞記事「防衛相、原発内での戦車使用「ケーブル切断リスクあり慎重に」」(参照)が問題を伝えた。

 北沢俊美防衛相は22日午前の記者会見で、陸上自衛隊の74式戦車2両による福島第1原発内のガレキ除去作業について「敷地内はさまざまなケーブルがあり、ガレキを排除していくときに切断するリスクがあるので、相当慎重にやらなければいけない」と述べた。
 74式戦車は21日朝、同原発から南に約20キロの放水作業拠点に到着。同日中は中央特殊武器防護隊の化学防護車2両が移動経路などの調査をしていた。
 関係者によると、東京電力側も戦車によるガレキ除去に難色を示しているという。

 戦車が福島原発まで到着したことは報道されたが、その活躍についての報道は見当たらない。3月26日付けNRC文書がブルトーザー利用に言及しているところからすると、大半の瓦礫はその間、放置されていたようにも思える。
 瓦礫撤去の報道はその後長く見かけなかったが、昨日報道があった。共同「福島原発、遠隔操作でがれき撤去 東京電力」(参照)より。

 東京電力は10日、福島第1原発を襲った津波や水素爆発による構内のがれきを撤去するため、モニター画面を見ながら重機を遠隔操作するシステムを導入したと発表した。
 敷地内では2、3号機の間や3号機西側の放射線量が毎時数百ミリシーベルトと高く、放射性物質が付着したがれきが放射線を出している可能性もあるという。東電は「こうした場所でも効率的に作業ができる」としている。

 報道からは、初めて瓦礫撤去活動が始まったような印象がある。また、高い放射線を発している場所は、(1)2号機と3号機の間、および(2)3号機西側とされ、NRC文書の指摘場所とは若干異なる。また、放射性物質が水素爆発に由来するとしても燃料プールからの散乱という指摘は日本側報道にはない。
 日経新聞「東電、遠隔操作でがれき撤去の画像公開 福島原発」(参照)では多少違う角度から報じている。

 東電によると、水素爆発などによるがれきの一部は高濃度の放射性物質が付着、復旧作業の妨げとなっている。特にがれきが多い2.3号機の間と3号機の内陸側では大気中から毎時200~300ミリシーベルトを検出。このためカメラを備えた油圧ショベルやダンプ車、ブルドーザーなどを無線で遠隔操作し、撤去したがれきをコンテナに入れて施設内の一時集積所に保管している。

 NRC文書にある使用済み燃料プールについての言及は日本の報道には見当たらず、むしろ1号機建屋と3号機建屋の爆発と関連付けて報じられている。
 読売新聞記事「重機を遠隔操作、放射能帯びたがれきを撤去」(参照)より。

 周辺は1、3号機で起きた水素爆発で飛び散り、放射性物質が付着したがれきが散乱。放射線量が毎時200~300ミリ・シーベルトに達する場所もあり、復旧作業を妨げてきた。

 NHK「原発 無人重機使いがれき撤去」(参照)も同様である。

福島第一原発では、1号機と3号機で起きた水素爆発で原子炉建屋の屋根や壁などが吹き飛んでがれきが散乱し、場所によっては1時間当たり数百ミリシーベルトという高い放射線量が計測されるなど、復旧作業の妨げになっています。

 撤去された瓦礫に燃料棒破片が含まれていなければ、NRC文書の評価は誤りだったことになる。

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2011.04.10

アレバ作成と見られる資料を眺める

 ネットにはすでに3月26日付けのNRC文書と思われるものがリークされており、その後もないものかと見ていたら、アレバ作成と見られる「The Fukushima Daiichi Incident」という資料がWikispooksというサイト(参照)にあった。ああ、これかあと思った。アレバのサイトには掲載されていない。
 資料といってもNRC文書とは異なり、プレゼンテーション用の資料であり、「Official Use Only(当局者の使用のみ)」として明記された秘密文書ではない。特に秘匿の文言は含まれていないが、後で触れるようにアレバとしては都合の悪い文書でもあるのだろう。
 制作者は「Dr. Matthias Braun - 01 April 2011」とあり、マティアス・ブラウン博士が4月1日に作成したもの。いわくを思うに、もしかするとエープリルフールという趣向もあるかもしれない。
 「ああ、これか」というのは、2日付けニューヨークタイムズ記事「From Afar, a Vivid Picture of Japan Crisis」(参照)に出て来た文書に相当すると見られるからだ。同記事だがこう始まる。


For the clearest picture of what is happening at Japan’s Fukushima Daiichi nuclear power plant, talk to scientists thousands of miles away.

日本の福島第一原子力発電所で起こっていることについて最もクリアな像を得るためには、数千マイルも彼方の科学者に話しかけなさい。


 このことは私も痛感していて、すでにエントリでも扱ってきたようにできるだけ欧米ソースから今回の事態を見るようにしている。

Thanks to the unfamiliar but sophisticated art of atomic forensics, experts around the world have been able to document the situation vividly. Over decades, they have become very good at illuminating the hidden workings of nuclear power plants from afar, turning scraps of information into detailed analyses.

原子力の検死官ならではの洗練された技法は馴染み深いものではないが、世界中の専門家は、その現状を鮮明に記述することできる。数十年の間に、彼らは遠隔地の原子力発電所に隠れている仕組みを解明することが非常に得意になり、断片情報を詳細な分析に変えている。

For example, an analysis by a French energy company revealed far more about the condition of the plant’s reactors than the Japanese have ever described: water levels at the reactor cores dropping by as much as three-quarters, and temperatures in those cores soaring to nearly 5,000 degrees Fahrenheit, hot enough to burn and melt the zirconium casings that protect the fuel rods.

例えば、フランスのエネルギー会社による分析は、日本人によるこれまでの説明よりも、プラント内の反応炉の状態についてはるかに多くのことを明らかにした。炉心が浸かる水はせいぜい四分の三ほどであり、炉心温度は華氏5000度にまで急上昇し、燃料棒被覆ジルコニウムのケースを燃焼・融解させるに足る温度になっている。


 言及されているエネルギー会社はアレバである。ということでアレバの話に移りたいのだが、紹介してこなかったがこの記事、読み返すとなかなか興味深いのでもう少し見てみよう。

These portraits of the Japanese disaster tend to be proprietary and confidential, and in some cases secret. One reason the assessments are enormously sensitive for industry and government is the relative lack of precedent: The atomic age has seen the construction of nearly 600 civilian power plants, but according to the World Nuclear Association, only three have undergone serious accidents in which their fuel cores melted down.

日本でのこの災害の描写は、内密であったり場合によっては秘密になりがちなものだ。産業や政府にとって評価が非常に扱いづらいものになる理由は、比較的前例がないためだ。原子力時代には約600の民間発電所が建築されたが、世界原子力協会によると、燃料が溶解する炉心溶融重大事故が起きたのは三例しかない。

Now, as a result of the crisis in Japan, the atomic simulations suggest that the number of serious accidents has suddenly doubled, with three of the reactors at the Fukushima Daiichi complex in some stage of meltdown. Even so, the public authorities have sought to avoid grim technical details that might trigger alarm or even panic.

現状はというと、日本のこの危機の結果、原子力想定によるものだが、福島第一複合原発でメルトダウン状態の3炉によって、重大事故の数が突然、2倍になった。事態がそうであれ、日本国家の諸機関は、警鐘、またはパニックすらなりうる残忍な技術情報をかわそうと努力してきた。

“They don’t want to go there,” said Robert Alvarez, a nuclear expert who, from 1993 to 1999, was a policy adviser to the secretary of energy. “The spin is all about reassurance.”

「彼らは、そこに辿り着きたくない」と、1993年から1999年までエネルギー省長官の政策アドバイザーだったロバート・アルヴァレズは語る。「情報操作はすべて安心のためである。」

If events in Japan unfold as they did at Three Mile Island in Pennsylvania, the forensic modeling could go on for some time.

日本での事態が、ペンシルベニア、スリーマイル島のように展開するならば、検死官の見立てはもうしばらく継続するだろう。


 ニューヨークタイムズにありがちな煽りの修辞に満ちているが、日本人としてはちょっと痛いものを感じざるを得ない部分はある。
 とはいえ、事態を政治の文脈にいろいろ置き換える人もいるなか、同記事でのポー(Li-chi Cliff Po)博士の言及は少しばかり慰めになるかもしれない。

“I don’t think there’s any mystery or foul play,” Dr. Po said of the disaster’s scale. “It’s just so bad.”

「私は、ミステリーも不正もないと思う」と災害の規模についてポー博士は語る。「ただ、あまりにひどいということだ。」


 余談ついでに、メルトダウンの定義みたいな部分あるので言及しておこう。

By definition, a meltdown is the severe overheating of the core of a nuclear reactor that results in either the partial or full liquefaction of its uranium fuel and supporting metal lattice, at times with the atmospheric release of deadly radiation. Partial meltdowns usually strike a core’s middle regions instead of the edge, where temperatures are typically lower.

定義上は、メルトダウン(炉心溶融)は、炉心の深刻な過熱によってウラン燃料と被覆金属束が部分的または全体的に液化に至ることであり、その際、相当の放射能が大気に放出される。部分的なメルトダウンは、通常炉心中部を襲い、比較的温度の低い炉心の端部は襲わない。


 アレバの話に戻るのだが、場所は3月21日スタンフォード大学のパネルディスカッションである。この会合については、おそらく該当ニューヨークタイムズ記事を参考にして書かれた印象の強い産経新聞記事「海外分析 政府発表より緻密」(参照)にこうある。

 米スタンフォード大学は3月21日、今回の福島第1原発事故と原子力発電の将来について考えるパネルディスカッションを開いたが、席上、フランスの世界最大の原子力産業複合企業アレヴァの関連企業のアラン・ハンセン副社長は「(福島原発で)一部溶融した核燃料棒の温度は、最高時には摂氏2700度に達していた」と発言した。これは専門家が聞けば、愕然とする内容だった。

 ニューヨークタイムズ記事ではこう描かれている。

Dr. Hanson, a nuclear engineer, presented a slide show that he said the company’s German unit had prepared. That division, he added, “has been analyzing this accident in great detail.”

各技術者ハンソン博士は、同社ドイツ部門が準備したと語るスライド・ショーでプレゼンテーションを実施した。この部門は「非常に詳細にこの事故を分析している」とも付け加えた。


 おそらくこれが該当のアレバの資料ではないかと思われるのだが、これに奇妙な後日譚がある。

Stanford, where Dr. Hanson is a visiting scholar, posted the slides online after the March presentation. At that time, each of the roughly 30 slides was marked with the Areva symbol or name, and each also gave the name of their author, Matthias Braun.

スタンフォード大学の客員教授ハンソン博士は、3月のプレゼンテーション後、該当スライドをインターネットに公開した。その時点では、30枚ほどのスライドにはアレバのシンボルと名称が記載され、一枚ごとに著者マティアス・ブラウンの名前もあった。

The posted document was later changed to remove all references to Areva, and Dr. Braun and Areva did not reply to questions about what simulation code or codes the company may have used to arrive at its analysis of the Fukushima disaster.

後日該当スライドからは、アレバへの参照がすべて除去され、ブラウン博士とアレバは、福島の災害分析に至るために同社が使っただろう模擬実験プログラムや各種プログラムについては回答していない。

“We cannot comment on that,” Jarret Adams, a spokesman for Areva, said of the slide presentation. The reason, he added, was “because it was not an officially released document.”

「私たちはそれについてコメントできせん」と、アレバ広報員ジャレット・アダムズはスライドのプレゼンテーションについて語った。理由は、「それが正式に公開された文書ではなかったからです」とのこと。


 該当プレゼンテーション資料なのだが、見ればわかるし、今となってはこの問題に関心を寄せる人にとってはさほど衝撃的な内容でもない。スライドの大半は、炉の変容について図で解説されたものだ。見ていると、図の部分だけをアニメションにしたらおもしろそうなので切り出してみた。

 炉ごとの差違についての言及については該当資料の英文に説明がある。
 特段に目新しい情報もないが、メルトダウンした部分は炉の底に落ちてなく、炉内の中央に鎮座しているようだ。おそらく炉の底抜けはないとアレバは見ているのだろう。この推測であれば、溶融部分が今後スパイクをおこせば蒸気爆発の可能性もないとも言えないが、現状の微妙な安定も説明しているように見える。
 2号炉の汚染源は圧力制御室と見ており、日本の保安院の見解に近い。と書きながら、時系列からして、もしかすると保安院はアレバのストーリーを参考にしているという逆の情報の流れもあるかもしれないなと疑問に思う。
 以前のエントリ-「ニューヨークタイムズが掲載した福島原発の放射線量グラフを眺める: 極東ブログ」(参照)で引用した、線量変化についてのニューヨークタイムズのグラフと同じものが、アレバ文書にもあり、ニューヨークタイムズより詳しい考察が加えられているが、疑問符なども記されていて解明という印象は受けない。

 NRC文書についても思ったことだが、アレバの資料についても現状の分析があれば読みたいものだとも思う。

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