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2011.04.02

米国エネルギー省スティーブン・チュー(Steven Chu)長官による福島原発の見立て

 米国は福島第一原発の現状をどのように見ているか。昨日、米国エネルギー省のスティーブン・チュー(Steven Chu)長官が興味深い見解を出した。これを受けた国内の報道も多少興味深いので、合わせて記録に留めておきたい。
 結論から言うと概要が掴みづらいのが読売新聞記事「1~4号機は安定…米長官「プールに水ある」」(参照)であった。


 【ワシントン=山田哲朗】米エネルギー省のスティーブン・チュー長官は1日、福島第一原発の使用済み核燃料プールの状態について、「1号機から4号機まですべてのプールに水があると考える」と述べ、安定しているとの見解を明らかにした。
 チュー長官は「すべてのプールで温度計測ができ、(数字は)中に水があることを示している」と述べた。
 燃料プールについては、米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長が3月中旬に米下院で4号機で「水がすべて沸騰し干上がっている」と証言したが、チュー長官の発言により日米の見解が一致した形となった。
 チュー長官は、ワシントン市内での米オンライン新聞主催の朝食会で発言した。
(2011年4月2日10時43分 読売新聞)

 チュー長官発言については、これ以外に読売新聞記事があるのかもしれないし、この記事はNRCヤツコ委員長の言明への反論という点に力点を置いたのかもしれない。しかし、以下に見る他ソースとの比較で奇妙な印象はある。「米オンライン新聞」についてもぼかされているが、クリスチャンサイエンスモニターである。
 朝日新聞社記事もこの話題に言及していたが、なぜかウォールストリートジャーナルからの報道としていた。「1号機核燃料「最大で7割損傷」 米エネルギー省認識」(参照)より。

2011年4月2日11時49分
 米エネルギー省(DOE)は1日、福島第一原発1号機、2号機の核燃料について「1号機は最大で70%、2号機は最大で3分の1が損傷している」との認識を明らかにした。米ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が同日報じた。
 報道によると、DOEのチュー長官は同日、福島第一原発について「依然、重大な懸念がある」と述べた。燃料の損傷具合については「かなり」としか言及しなかったが、具体的な損傷度合いは同紙がDOEに確認した。
 1979年の米スリーマイル島原発事故では、原発がトラブルで停止してから約1時間40分後に原子炉内の水が減って燃料棒が露出。原子炉の冷却機能が回復した十数時間後までに炉心全体の少なくとも45%が溶融したとされる。福島第一原発で地震発生時に運転中だった1~3号機は、いまだに炉心の冷却機能が回復せず、外部から水を入れて冷やす作業が続いている。
 また、同長官は1~4号機の核燃料プールは「日本政府高官とDOEの科学チームの議論の結果、全基のプールに水があると考えている」との認識を明らかにした。
 米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は3月16日、下院公聴会で4号機のプールについて「水がない」との認識を示したが、東京電力などは反論していた。(ワシントン=勝田敏彦)
     ◇
 東京電力は原子炉建屋の爆発などが続いた3月14~15日時点の1~3号機の燃料損傷の割合について、格納容器内の放射線量のデータから、それぞれ70、33、25%とする推定結果を25日に発表している。ただ、どのような損傷なのか、詳細は明らかにしていない。

 チュー長官の視点の重要性は読売新聞記事とは異なり、原子炉の状況認識について置かれている。元になるウォールストリートジャーナルの記事を見る前に、記事として注意したい点は、チュー長官の発言に対してウォールストリートジャーナルがDOEに確認を取った点を明記していることである。
 朝日新聞記事の元記事は「Energy Secretary Chu Says Reactor Core Is Damaged」(参照)である。すでに全訳が「福島第1原発、一部炉心は損傷=米エネルギー長官」(参照)として公開されている。重要と思われる部分を引用しておく。

 同省の報道官は、朝食会後、長官の記者団に対する発言内容を明確にした。それによると、長官の発言は1号機の燃料棒が70%も損傷しており、2号機の燃料棒は3分の1が損傷しているとの情報に言及したものという。(長官は朝食会では、3号機での「放射線量がかなりのレベル」にあると述べていた。また「米国に提供された日本からの情報」を引用し、2号機については「炉心の70%が損傷して最も深刻なメルトダウン状態」になっていると述べていた)

 ウォールストリートジャーナル記事ではDOEから確認を先行させ、クリスチャンサイエンスモニターでの話を括弧に入れている。
 ウォールストリートジャーナルとしての記事の重要点は以下になる。

 長官のこの発言は、3月11日に発生した東日本大震災で被災した同原発での深刻な事故をめぐり、日本の事故対策の評価が交錯していることを反映している。一方で、長官は使用済み燃料棒については、温度測定や計算などから一時貯蔵プールには水があることが示されており、1~4号機まで「制御されているようだ」と述べた。

 「日本の事故対策の評価が交錯している」の部分がわかりづらい。原文は"Dr. Chu's comments reflect a mixed assessment of Japanese efforts to halt a disaster at the plant"である。日本側からの情報をDOEとしても評価しづらいということだろう。
 読売新聞が取り上げた4号機プールについては、水があるとの認識だが、これが米原子力規制委員会(NRC)ヤツコ委員長発言後の放水によるものかについてもわかりづらい。なお、DOEのチュー長官とNRCのヤツコ委員長の意思疎通は良好と見られる。産経新聞記事「反原発運動も熟知 米原子力委のヤツコ氏 言動に注目集まる」(参照)より。

 コンビを組むエネルギー省のチュー長官の信任も厚い。米政治専門誌ポリティコ(電子版)は、「ヤツコ氏がNRC委員長を務めていること自体が、大統領の安全への強い思いの表れ」とするホワイトハウス高官の話を伝えている。

 元になるクリスチャンサイエンスモニター記事は「Is Japan crisis becoming a slow meltdown? No, says US Energy secretary. (video)」(参照)にあるが、ビデオの内容がメインで論評は少ない。
 ニューヨークタイムズもこの話題と「Reactor Core Was Severely Damaged, U.S. Official Says」(参照)で取り上げている。

Japanese officials have spoken of “partial meltdown” at some of the stricken reactors. But they have been less than specific, especially on the question of how close No. 1 — the most badly damaged reactor — came to a full meltdown.

日本政府の役所員、損傷した反応炉によっては「部分的なメルトダウン」があると説明してきた。しかし、最も損傷した反応炉である1号機について、完全なメルトダウンにどれほど近いのかという疑問に絞れば、まったく具体性はなかった。


 ニューヨークタイムズの視点としては、米国民としては部分的なメルトダウンというのだから、どれほどなのかということに関心があり、これにDOEが答えたという構図になっている。加えて言えば、結果的にスリーマイルと比べてどうかということへの答えにもなっている。メルトダウンの点で、福島原発(70%)はスリーマイル原発(45%)を越えたことも明確にされたことになった。
 チュー長官による現状の評価については、ニューヨークタイムズ記事には触れられていない。

“First and foremost, we are trying to make sure that fuller damage is not done,” he said.

「なりよしも、私たちは、これ以上の損傷がないかどうか確認しようとしているところだ」と彼は語った。


 これに対して、先のウォールストリートジャーナルでは他の部分の言及を当てている。

 長官によると、日本の当局者は米国の科学者とエンジニアらの支援を受け、放射性物質を含む蒸気を放出させずに原子炉を冷却する方法を模索している。
 長官は「望まれるのは、安定した状態に達することだ。炉心の腐食物はエネルギーを放出するが、そのエネルギーを除去することが必要だ。最初の1週間は最も重要な時期だ。それが過ぎた現在は、緩やかな段階に入りつつある」と述べた。

 別の言い方をすれば、蒸気が放出されれば放射性物質も放出されることであり、現状ではこれがまだ継続している。
 また現状は、危機的な1週間が経過し、「緩やかな段階に入りつつある("now you're entering a slower stage.")」としているので、慎重に対応すれば大きな惨禍は避けられるという含みはありそうだ。

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2011.04.01

安価な男性用ピルの登場で世界が大きく変わる

 経口避妊薬、ピルというと女性のものと思われがちだが、いよいよ男性用ピルが実用化される(米国およびその他の西側諸国では認可は未定)。しかも安価に販売されることになり、特に途上国での普及が望まれている。その開発の背景は生物多様性の問題とも関連して興味深い。
 ピルと言えば、なぜこれまで女性用だったのか。答えは存外に単純である。男性用がなかったからだ。ではなぜ、男性用ピルの開発が進展されなかったのか。理由は意外にも薬学や医学によるものではない。製薬会社の採算の問題である。
 グローバルポスト記事「Indonesia's birth control pill for men」(参照)では、その背景をこう説明していた。男性用ピルには素材の問題があるが、より大きな問題もあるとして。


But the larger impasse to male birth control pills has been pharmaceutical giants, said Elaine Lissner, director of the non-profit Male Contraception Information Project in San Francisco.

しかし男性用ピルの困難は巨大製薬会社にあったと、サンフランシスコNPO男性避妊情報プロジェクトのディレクターのエレーン・リスナーは語る。

Global demand for male birth control appears high, with a 2005 German survey revealing that 60 percent of men in Spain, Germany, Mexico and Brazil are willing to use a new male contraceptive.

2005年にドイツの会社が実施した調査によれば、男性用ピルの国際的な需要は非常に高いようだ。スペイン、ドイツ、メキシコ、およびブラジルでは、男性の60%が新しい避妊薬を使いたいとしている。

But pouring millions into developing a birth control pill for guys still isn’t attractive as a business decision, Lissner said.

しかし男性用ピルに巨費を投じるのは、ビジネスの視点からすると魅力的ではないとリスナーは語る。


 男性用ピルの潜在的な需要は高い。ではなぜ製薬会社がその開発に取り組まないのか。ドイツの製薬会社シエーリング(Schering)は5年前に男性用ピル開発に取り組んだが、打ち切りとなった。他に開発を試みた製薬会社も経営判断から中断させれた。なぜなのか。
 結論から言えば、女性用ピルの売上げを削ぎかねないからである。

A recent study by the U.S. government’s Centers for Disease Control and Prevention indicated that more than 80 percent of women who’ve ever had sex with a man used birth control pills at some point. A male birth control pill could eat into this massive market.

米国疾病対策センター(CDC)による最近の調査では、男性と性交経験のある女性の80%以上が、ある時点からピルを利用していた。男性用ピルは、この巨大な市場を侵食しかねないのである。


 状況を別の言葉で表現するなら、女性にピルを押しつけているのは市場の論理だと言える。経済による構造的な性の非対称性が存在しているとも言えるだろう。女性差別と見てもよいかもしれない。
 その意味で、今回の安価な男性用ピルの登場は、女性に対するピルの負担を減らす可能性がある。
 新しく登場する安価な男性用ピルとはどのようなものか。これはニューギニア原住民が維持してきた「ガンダルサ(gandarusa)」という植物に由来している。

On the remote Indonesian island of Papua, tribesmen have long noticed the curious effect of a shrub called “gandarusa.”

インドネシア辺境パプア島の部族は「ガンダルサ」と呼ばれる低木の奇妙な効果に昔から気づいている。

If you chew its leaves often enough, men say, your wife won’t get pregnant.

男がその葉を頻繁に噛むなら、その妻は妊娠しないであろうと言うのだ。


Gandarusa / Justicia gendarussa

 インドネシア政府はこの薬草に目を付け、海外の製薬会社からの要望を生物多様性を盾にし、自国製薬会社に開発を委ねた。結果、その成分から今回の新しい安価な男性用ピル「ガンダルサ」の製造に成功した。


Gandarusa Rp 150.000

 インドネシア政府のプロジェクトが支援した臨床試験からも、効果は確認されている。機序についても、男性の精子の活力を奪うことなく卵子の結合を阻害することが解明されている。
 気になる副作用はどうか。政府プロジェクトのスギリ・シャリエフ(Sugiri Syarief)氏はこう述べている。


Men taking the gandarusa pills typically regain the ability to impregnate after 72 days, Sugiri said. “There are no side effects,” he said, though his study notes that some men experienced a boosted sex drive.

ガンダルサ錠を服用している男性の場合、72日が過ぎれば、通常は受精能力を回復する。「副作用はまったくない」とスギリは語る。だが、研究によれば男性によっては、性欲の高まりを経験することもある。


 男性がパートナーの女性との間で妊娠を望むなら、ガンダルサ服用を停止し72日を待てばよいというのも朗報だが、男性にしてみると、パートナーを妊娠させることはなく、しかも性欲まで高まるというのはこの上もないメリットに見える。他に副作用はないのだろうか。
 疑問を投げかける研究がある。ニューギニア島とも呼ばれるパプア島はその中央に国境線があり、西側はインドネシアだが、東側はパプアニューギニア独立国である。そこに目を付けた米国の製薬会社がパプアニューギニア独立国の生物多様性の権限を譲渡してもらいガンダルサを独自に調査した。確かに避妊効果は見られるし、性欲の高まりという好ましい副作用もあるが、その勢いで性交した後、とてつもない虚脱感に襲われるらしい。
 未知の副作用と言えるものなのか。伝統的に利用してきた原住民から聞き取り調査をしたところ、それこそまさしく伝統的に知られた特性であり、その特性こそがこの植物の名前の由来なのだという……ガンダルサ。

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2011.03.30

シリアの複雑な現状

 形の上ではチュニジアから始まった中東の「民主化運動」がシリアにも波及した。そろそろ一つの転機を迎えているようなので言及しておこう。
 運動の始まりと言えるものは15日の首都ダマスカスのデモだが、数十人規模の小さいものだったとも伝えられている(参照)。20日には運動が広がり、これを弾圧するシリア政府によって死者も出た。「シリアでデモ隊に発砲、1人死亡か」(参照)より。


シリア南西部ダルア(Daraa)で20日、治安部隊がデモ隊に発砲し1人が死亡、100人以上が負傷したと、人権活動家が明らかにした。シリア当局はデモ参加者の死亡を否定している。

 実態はさらに深刻であったようだ。

 一方、現場にいた人権活動家によると、閣僚らがダルア入りしたことで市内は怒りで「噴火」し、集まった「1万人以上のデモ隊」に向けて治安部隊と私服警官が実弾と催涙弾を発砲。実弾で1人が死亡し、重体2人を含む100人以上が負傷したと話した。「催涙弾には毒性物質が含まれていた」とも述べている。

 政府による市民虐殺は23日の水曜日に頂点を極めたようだ。25日付けアムネスティ・インターナショナル「SYRIA DEATH TOLL CLIMBS AS PROTESTS SPREAD」(参照)ではこの1週間に55人の死者を伝えている。後で言及するテレグラフ社説では10日間に60人のデモ参加者が射殺されたとしている。さらに多くの死者が出たと見る向きもある。いわゆる「中東の民主化」という枠組みで見ても、政府による直接的なデモ参加の市民虐殺としてはかなりの規模と言えるだろう。
 25日には市民虐殺に危機感を抱いたフィナンシャルタイムズは社説「The Syrian revolt」(参照)はシリア政府が軟化するように警告していた。

Most immediately, if Mr Assad wants to avoid further bloodshed, he must restrain his forces. But beyond that, the government must address the underlying political and economic malaise that has sparked these protests.

至急の事態である。アサド氏がこれ以上の流血を避けたいならば軍を抑制しなければならない。さらにシリア政府は、抗議を引き起こした政治的かつ経済的な鬱憤に対処しなければならない。


 フィナンシャルタイムズの説得でないが、民主化運動の高まりと弾圧の行き詰まりを受けて、29日にオタリ内閣は総辞職した。WSJ「シリア大統領、内閣総辞職を受理-反対派は「不十分」と対決姿勢」(参照)より。

 シリアでは1週間以上にわたる反体制派デモなど政治的な混乱を受けて、オタリ内閣が29日、総辞職した。しかし政権反対派は、内閣総辞職だけでは政権に対する数多くの不満は解消されないと述べている。


 シリア国営通信SANAによると、同大統領は内閣を総辞職したオタリ首相に対し、新内閣指名まで暫定政権として継続するよう求めた。ただ、政府当局者は新内閣のメンバーがいつまでに発表されるか、どのような構成になるかを明らかにしなかった。

 政府側も多少折れた形になった。また、国内報道では見かけなかったが24日には公務員の給与引き上げの手も打っていた。
 米国側としても表向きはシリア政府の対応を好意的に見ているかのようにも見える。

 一方、ロンドンで開催されたリビア国際会議に出席したクリントン米国務長官は記者会見し、抑圧的な政治制度を改革するとの約束をアサド大統領が履行するよう求めると語った。同長官は「自国民のニーズに応じられるか否かは、シリア政府次第であり、アサド大統領をはじめとする指導者次第だ」と語った。

 今後の動向だが、民主化運動の流れとしてはこれで済みそうにはない気配はある。

 シリアでは内閣総辞職の発表は反対派の人々の間であまり熱狂的に受け止められていない。アサド大統領が改革の約束についてまだ自ら説明していないためだ。反対派は、アサド体制に対する不満は、政治的な自由から汚職撲滅に至るまで広範囲なもので、内閣総辞職だけでは全く不十分だとしている。

 動向の鍵の一つは米国の意向である。れいによってワシントンポストは勇ましい。23日付け「Opposing Syria’s crackdown」(参照)より。

After Wednesday’s massacre, Syrians are likely to feel still angrier — but they also will be watching the response of the outside world. That’s why it is essential that the United States and Syria’s partners in Europe act quickly to punish Mr. Assad’s behavior. Verbal condemnations will not be enough: The Obama administration should demand an international investigation of the killings in Daraa and join allies in insisting that those responsible be brought to justice. It should also look for ways to tighten U.S. sanctions on Damascus, including freezes on the assets of those involved in the repression as well as private companies linked to the regime.

水曜日の虐殺の後も、シリア人は以前怒りを感じていると思われるが、また外の世界の反応も見ているだろう。だからこそ、アサド氏の行動を罰するために、米国とヨーロッパ内のシリア支援国が迅速に行動することが重要である。口先介入は十分でないであろう。オバマ政権は、ダルア虐殺について国際調査を要求し、同盟国が結束し、虐殺の責任者が裁判にかけられることを強く主張すべきである。また、政権と結び付いた民間会社と同様、弾圧に関与した者たちの資産凍結を含め、シリア政府への米国制裁を厳格にする手法を探すべきである。


 リビア制裁と似たような論法だが微妙な差違もある。軍事行動はそれほど意識されていないし、シリア政府に巣くっている利権構造に関心を持っているようだ。
 アサド大統領についてはどうか。

For the past two years, the administration has pursued the futile strategy of trying to detach Mr. Assad from his alliances with Iran and Lebanon’s Hezbollah through diplomatic stroking and promises of improved relations. It recently dispatched an ambassador to Damascus through a recess appointment to avoid congressional objections. Now it is time to recognize that Syria’s ruler is an unredeemable thug - and that the incipient domestic uprising offers a potentially precious opportunity. The United States should side strongly with the people of Daraa and do everything possible to ensure that this time, Hama methods don’t work.

この2年の間オバマ政権は、シリアとの関係改善に外交的な飴と鞭を駆使し、シリアがイランとレバノンのヒズボラから疎遠になるようと空しい努力をしてきた。最近では議会からの反対を避けるため、議会休会中に大使をシリア政府に派遣した。だがもう、シリアの支配者は許し難い悪漢だと認める時であるし、胎動した民主化要求は潜在的な貴重なチャンスとなったと認める時である。米国は力強くダルアの人々に味方し、今度ばかりはハマの手法ではうまくいかないと確約するために可能なかぎりのことをなすべきである。


 米国の右派的な主張としては、アサド大統領は許されざるということではあるようだ。
 引用中に出てくる「ハマの手法」は同社説にも解説があるが、現アサド大統領の父ハフェズ・アサド前大統領が1982年、ハマで生じた反政府活動を軍を使って鎮圧し1万人から4万人も虐殺した事件である。ワシントンポストは言及していなが、この運動はムスリム同胞団が主導したもので、事件以降も同団体には厳しい弾圧が加えられた。
 今回もハマの手法が採用されるだろうか。そのようにも見えた。29日付け東京新聞「シリア 北部の拠点に軍投入」(参照)より。

反政府デモが激化するシリアで、アサド政権は二十七日、北部ラタキアに軍隊の投入を決めた。ラタキアはアサド大統領(45)の父ハフェズ・アサド前大統領(故人)の出身地であり、政権の最重要拠点とされる。先鋭化しつつあるデモ隊に対し、軍による武力鎮圧も辞さない構えだ。

 その後にオタリ内閣を総辞職させ政府側も沈静を狙っているは見える。
 しかし動向は非常に読みづらい。ワシントンポストのような右派的な動向に反してオバマ政権は、リビア動乱同様、極力介入を避けているように見える。
 シリア政府を牛耳るアサド家はシーア派の分派であるアラウィ派に属し、イランに近い。またそのことからもヒズボラに肩入れもしている。しかし国民の70パーセントはスンニ派であり、キリスト教徒も10パーセントいる。アラウィ派は8パーセントから12パーセントであり、構成的にはバーレーンの逆のようにもなっている。単純に考えれば、アサド家を潰して穏健なスンニ派国家に転身させることが米国の国益であるかのようにも見えるが、おそらくそのような介入をすれば、レバノンのように分裂した国家になり、危機は拡大するだろう。
 この論点を28日付けのテレグラフ社説「Syria in the balance」(参照)はかなり大胆に表現している。

As its planes and submarines destroy Col Muammar Gaddafi's ability to kill his own people, Britain is naturally preoccupied with Libya. But a much more significant struggle is taking place in Syria, where about 60 anti-government demonstrators have been shot dead over the past 10 days. Situated between Israel and Iran, Syria is at the core of conflict in the Middle East. By comparison, Libya is a side show.

カダフィ大佐が国民を殺害する力を英国の戦闘機と潜水艦で削いでいるので、英国民がリビアに夢中になるのもあたりまえだ。しかし、もっと重要な難題がシリアで発生している。この10日間に60人もの反体制運動家が射殺された。イスラエルとイランの中間に置かれたシリアは中東紛争の核心である。それに比べれば、リビアなど、ちょっとした座興である。


 シリアの問題は、ワシントンポストが騒ぎ立てるような虐殺に対する人道上の問題というより、中東紛争そのものに関わっているからである。

The unrest understandably worries Western governments. Will President Bashar al-Assad and his fellow Alawites cling grimly to power, possibly seeking to divert attention from domestic affairs by picking a fight with Israel?

不安定な状況は当然ながら西側諸国の政府を悩ませる。バシャール・アル・アサド大統領と仲間のアラウィ派は権力にしがみつくために、内政問題から気をそらそうとしてイスラエルに戦闘をふっかけるだろうか。


 冗談にしては悪すぎるが冗談とも言い難いところが不吉である。
 この問題にはまったく落としどころというものが見えない。イスラエルにしてみれば、予想外の不安定化は避けたいところだろうし、そうした気持ちを親イスラエルのオバマ政権も酌んで一緒に考えあぐねているのだろう。

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2011.03.29

夢の中国人コンサルタント

 このところ気の滅入るようなエントリーばかり書いているせいか、ツイッターで、また料理の話書いてくださいといったことを言われた。そうだなあ。料理とかボードゲームの話もないわけではないが、とふと先日の夢を思い出した。
 夢のチャーハン(参照)に似ている。残念ながら件の老師は出てこないのだが、日本語の達者な中国人中年のビジネスコンサルタントが出て来た。中国ビジネスの極意3点を日本人に教えましょうというのだ。へえ。いやいや、たかが夢の中のことなんだけどね。
 夢の話の前段はあまり覚えていない。「君、このセミナーのこれに出席してくれ」ということだったような。それで、はあ、と答えて50人ほどの殺風景な講演会に参加した。が、これが意外やなかなかよい話で、いいこと聞いたなあと思った。
 実際のところは自分の夢の話にすぎず、なんの元ネタもなし。つまり、まったくのでたらめもいいところ。でも、もしかすると、当たっていることもあるかもしれない。まあ、与太話。
 講師の名前は忘れた。孔さんだったかな。中国語っぽいナマリはあるけど、日本語は上手というか完璧。年齢は40代という感じ。グレーのスーツをたらっときて、頭は適当に七三分け。それはないだろという黒縁めがね。まったくカリスマ性はないのだが、妙にリラックスしていて、ほんとにいい話なんですよ、みなさんラッキーでしたねという雰囲気が出ている。
 中国ビジネスの極意3点、その1点目は、「押すときは面で押しましょう」というのだ。

1 押すときは面で押しましょう
 日本人のビジネスのやりかたを見ていると、これが一番という方法だという思い込みでぐいぐい押してくることが多いですね。あるいは、中国ビジネスでは人脈が大切だということで、いきなりひとつの人脈に賭けてくる。中国人はそういうことはしません。
 ひとつでないと二つというのもありますね。日本人の組織は同じ目標を持っているのに、なぜか派閥に別れて、矛盾した二つの方法でぐいぐいと押してくることがあります。やっている日本人はお互い競争心をもってやりがいがあるみたいですが、中国人から見ると、不審を抱かざるを得ません。
 中国でビジネスをするときは、面で押すのです。
 中国と限りませんよ、中国人のビジネスは面で押していくのです。政治もそうです。面というのは、一点で押さないことです。
 一点で押すと、どうなりますか(ここで彼は人差し指を示して、参加者のほうに突き刺すようにする)。一点で押していきますね。ここに障子がある。破けてしまいました。固いものがある。押すほうが折れてしまいました(指を痛がるジェスチャー)。
 二点ではどうですか(両手を参加者のほうに突き出す)。ぐーっと二点で押していく。いい感じです。どうなりますか(ここで彼は前につんのめる)。おっと、ころんでしまいました。二点ではバランスを崩して転んでしまいます。
 面を作って押すには三点が必要です。少なくとも三点で、じわじわと押していくのです。押しながらバランスをとって相手の力を見るのです(両手をひろげて顔と三点で参加者のほうに押していき、にこっと笑う)。ここまで押したらビジネスは成功です。
 面で押していけば相手は負けてもどこで負けたかは曖昧。失点は見えません。

2 相手を信じる前に相手の売り物を買いましょう
 2点目。
 日本人とビジネスをしていると、この中国人は信用できるのか、このビジネスの情報は揃っているのかといろいろ考えていますね。そして、その不信感が顔に出ます。中国人はこういう人を相手にしません。
 ではどうするのか。相手の売り物をまず買うのです。いい悪いではないですよ。中国人はたいてい何か売っています。これ買いませんか、というのがビジネスの原点なのです。
 でも、最初はこれ買って下さいとは言いません。相手が買うかどうか見ているのです。ですから、まずそれを買うのです。最初に、その人の顧客になる。そして、私はあなたの顧客ですよという立場を作ってから、相手に接するのです。
 そうすると、相手は売った分だけの対応します。それを見るのです。中国人は日本人みたいに口先で、ありがとうございましたとは言わないですが、売り物が買われたらそれなりにその分、その次は相手にメリットを返します。そこを見るのです。そこが信頼できるかの始まりです。
 何も売っていそうもない人だったら、その人の親族の売り物を買いましょう。親族も何も売ってないと思ったら、縁起を担いでその人の名前にちなんだものでも、その人の故郷の産物でも買いましょう。相手はそれになにか答えますよ。
 ビジネスは情報ではありません。まず関係の成立から。関係とは、相手のものをまず買ってみるということです。
 今日のお話が終わったら、出口にでこのセミナー主催会社の手帳を販売しているので、まずそれを買ってくださいね。

3 あなたが美味しいと思うものをご馳走しましょう
 中国人は食事にうるさいです。日本人がどんなに心づくしたつもりでも、振る舞うご馳走が美味しくなければ、不満を持ちます。日本人は、そういう細かいことはどうでもいいではないかと思いますね。それではだめです。
 どういうご馳走がよいのでしょう。あなたが美味しいと思うものをご馳走しましょう。
 相手がそれが嫌いだったらどうでしょう。中国人はこんなの食べないよと思うものを出していいのでしょうか。たとえば、あなたが心の底から、この納豆が美味しいと思うなら、どうしましょう。
 本当に自分が美味しいと思うなら出してごらんなさい。
 残念ながら、相手は、こんな不味いものは食べられない、こんな人との付き合いはおしまいだと思うかもしれません。そういうことはあります。しかし中国人にしてみると、最初からそういうつきあいは要らないのです。
 自分が本当に美味しいと思うものを心から信じて出して、相手がそれを理解したら、あなたが信頼されます。言葉を越えて信頼するでしょう。
 この納豆が本当に美味しいと思って自信があるなら、それをご馳走にしなさい。相手は美味しいと思わないかもしれないけど、そのあなたの自信は伝わりますよ。ビジネスのきついとき伝わるのはそこです。
 このあと食事会があります。私が美味しいと思う料理があります。ご参加ください。
 ご静聴ありがとうございました。

 ということで、夢でさらに食事会があった。うまかった。
 ということで、この話は全部、夢です。これが中国ビジネスの極意なのか、私にはとんとわかりませんので、ご注意。

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2011.03.28

どこから高濃度放射性物質が漏れたか、ワシントンポストを読む

 昨日の27日、福島第1原発2号機のタービン建屋地下にたまった水から1シーベルト/時を越える高濃度の放射性物質が検出された(参照)。今日は、国の原子力安全委員会が「1号機や3号機に比べて数十倍の濃度であり、一時、溶けた核燃料から放射性物質が漏れて格納容器の水に含まれ、何らかの経路で直接、流出してきたと推定される」(参照)との見解を出した。どこから漏れたのだろうか。13時34分付けのNHK「高濃度の水 格納容器からか」(参照)では、明らかにされていない。


福島第一原発では、1号機と3号機のタービン建屋にたまった水から高い濃度の放射性物質が検出されたのに続いて、2号機でも、27日、運転中の原子炉の水のおよそ10万倍に当たる放射性物質が検出されました。これについて、原子力安全委員会は、28日、「1号機や3号機に比べて数十倍の濃度であり、一時、溶けた核燃料から放射性物質が漏れて格納容器の水に含まれ、何らかの経路で直接、流出してきたと推定される」という見解をまとめました。

 実態を調べるにも放射線が強く、近寄ることもできないという状況なのだろう。漏出した経路について確定的なことは言えないというのも当然だろう。


財団法人福島県原子力広報協会
「ウランちゃんのなるほどアトム教室」より

 しかし、漏出についてなんらかの想定は成り立つはずで、その想定が可能なのは、このタイプの原子炉の設計者だろうと思っていたが、今日付けのワシントンポスト「Radiation levels at Japan nuclear plant reach new highs」(参照)に、まさにそれにあたる話があった。


The dangers in unit 2 merely add to the growing challenges. Radioactive water is pooling in four of Fukushima’s six turbine rooms, and engineers have no quick way to clean it up, although they have begun to try in unit 1.

2号機の危険が拡大する危機への挑戦にそのまま追加される。放射性のある水が福島のタービン室6室中4室たまっていて、技術者は、1号機において試行しているものの除去しようがない。

While a Tepco spokesman said Sunday that he did not know how the radioactive water was leaking from the reactor cores, Yukio Edano, chief cabinet secretary, said in a televised interview Sunday morning that the reactor itself had not been breached.

東電広報者は、放射性のある水がどのように炉心から漏れていたかはわからないと日曜日に述べる一方、主要閣僚である枝野幸男は、日曜日朝のテレビインタビューで反応炉自身は破損していないと述べた。

He said it was clear that water that could have been inside the unit 3 reactor had leaked but the reactor had not been breached. Still, he said, “Unfortunately, it seems there is no question that water, which could have been inside the reactor, is leaking."

彼は、3号機反応炉内と見られる水が漏れたが反応炉が破損していないことは明白であると述べた。それでも、「残念なことに、反応炉内と見られる水が漏れたのは疑いようがない」とも述べた。


 ここまでは日本で伝えられている話をまとめているのだが、この先に、漏出の経路が米国の設計技術者から語られる。

Unlike in newer reactor designs, the older boiling-water reactors at Daiichi are pierced by dozens of holes in the bottoms of their reactor vessels. Each hole allows one control rod - made of a neutron-absorbing material that quickly stops nuclear fission inside the reactor - to slide into the reactor from below, as happened when the earthquake shook the plant March 11. During normal operations, a graphite stopper covers each hole, sealing in highly radioactive primary cooling water, said Arnie Gundersen, a consultant at Fairewinds Associates with 40 years of experience overseeing boiling-water reactors.

設計が新式の反応炉異なり、より古い方式の福島第一の沸騰水型軽水炉は、反応炉容器の底が数十の穴によって貫通されている。この穴があることで、制御棒(反応炉内の核分裂を急速停止するために中性子吸収素材でできている)が下部から滑り込めるし、それが3月11日の地震の衝撃の際にプラントで生じたことだった。通常制御中は、黒鉛製の栓がこれらの穴を覆い、放射性がかなり高い第一冷却水を封じている。このように語るのは、フェアウインド・アソシエイツ顧問で沸騰水型軽水炉を監督して40年の経験を持つアーニー・ガンダーソンである。

But at temperatures above 350 degrees Fahrenheit, the graphite stoppers begin to melt.

しかし、華氏350度(摂氏176.6度)を越える温度で黒鉛製の栓は溶けはじめる。


 制御棒挿入用の穴をふさぐ栓は、炉内が177度を超えると劣化が始まるようだ。そんなに低い温度でなのかと疑問に思わないでもないが(図の説明にも同値があり黒鉛自体の融点ではないのかもしれない。また摂氏の間違いかもしれない)。

"Since it is likely that rubble from the broken fuel rods ... is collecting at the bottom of the reactor, the seals are being damaged by high temperature or high radiation," Gundersen said. As the graphite seals fail, water in the reactor will leak into a network of pipes in the containment buildings surrounding each reactor - the very buildings that have been heavily damaged by explosions. Gundersen said that this piping is probably compromised, leaving highly radioactive water to seep from the reactor vessels into broken pipes - and from there into the turbine buildings and beyond.

「破損した燃料棒などの残骸が反応炉の底に集まっている可能性があるので、この栓は高温または高い放射線で破損している」とガンダーソンは語る。黒鉛製の栓が破損するにつれ、反応炉内の水は、各反応炉を覆う封じ込め建造物内の配管網に漏れ出すだろう。この建造物はすでに爆発によってかなり損傷している。さらに、この配管におそらく障害があり、高い放射線を持つ水が反応炉容器から破損した配管にしみ出て、そこからタービン室やその外部にまで及んでいるのだろうと、ガンダーソンは語る。


 実際どうなっているかはわからないが、複数炉で似たような問題が発生しているのは炉の設計によるだろうとすると、機構的にはこの説明はかなり説得があるように思われる。
 ガンダーソン氏のフェアウインド・アソシエイツのサイトを見ると、その想定図も掲載されていた(参照)。


ガンダーソン氏の想定の一部

 おそらく日本の原子力安全委員会もこの推定を知っているだろうが、確証がないのだからわからないとするのは正しい。そしてこんな推定を国民が知っていても特段に国民には意味がないかもしれないとしても、まあ、それもそうなのかもしれない。

追記
 保安院からもようやく該当の指摘が出て来た。30日付け日経新聞「福島原発1~3号機「圧力容器に損傷」 原子力安全委」(参照)より。


 圧力容器は簡単にひびが入ったり、割れたりすることはないとされている。ただ燃料棒の真下の部分には核反応を抑える制御棒を出し入れするための穴があり、溶接部は弱い。経済産業省原子力安全・保安院は30日の会見で「制御棒を出し入れする部分が温度や圧力の変化で弱くなり、圧力容器から(水などが)漏れていることも考えられる」との見解を示した。

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