« 帰ってきたプーチン | トップページ | 北朝鮮崩壊時の最悪のシナリオとは »

2011.12.19

金正日・朝鮮民主主義人民共和国・総書記、死去

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日・総書記が死去した。北朝鮮の朝鮮中央テレビ報道によれば、17日8時30分、恒例の現地視察に向かう列車内で心筋梗塞を起こし、心原性ショックを併発して死去したとのこと。69歳だった。金正日氏は、核保有国を宣言し、核兵器及び弾道ミサイルの開発を推進し、韓国や日本に脅威を与える北朝鮮の最高指導者でもあった。その死は近隣諸国から世界にも大きな波紋を投げかけることになる。
 想定外の死であったと言えるだろうか。金氏は心臓や腎臓に疾患を抱えたうえ、糖尿病も患っていた。2008年8月には脳卒中で倒れ、死去が噂されもした。しかし翌2009年7月8日には金日成主席追悼大会出席の映像が報道され、存命ということになった。
 映像からは後遺症が見られ、米政府はこの時点で氏の余命は一年の可能性があると見ていた(参照)。その推測が確かであれば、2010年に寿命が尽きるかとも思えるが、2011年の今年、彼は中国やロシア訪問などもこなしていて、在韓米軍高官も金氏の健康状態は以前より改善しているとの見方を示していた(参照)。
 呼応するように、来年2012年は、故金日成主席生誕百年祭、さらに、金正日総書記の誕生日とされる2月16日には出生地とされる、白頭山の密営で「金総書記をたたえる国際大会」も計画されていた(参照)。
 こうした流れを見ると、健康に不安を抱えながらも、少なくとも北朝鮮政権内の一部では、金氏の死は想定されていない、突然の事態であったとも言える。まるで暗殺でもされたかのように。
 暗殺の可能性はあるだろうか。現状ではそれを臭わせる具体的な情報はない。だが、符牒のように思えないこともない背景もある。まず彼の父、金日成氏の死が想起される。
 1994年7月8日の金日成氏の死が暗示的である。金日成氏の死は公式には暗殺だとはされていない。だが、疑念が消え去ったわけではない。死因は執務中の過労からくる心筋梗塞と報じられた。以前から心疾患を抱え、82歳の高齢でもあることから、いつ死んでも不自然ではないとも言える。だが、過労の背景となる外交には重要な意味があった。
 1994年、北朝鮮が国際原子力機関(IAEA)を脱退し、プルトニウム生成可能な黒鉛炉と核開発を継続するとしたことに米国は怒り、北朝鮮空爆が検討された。戦争となっても不思議でもなく、ソウル市民避難も進められた。この危機を回避すべく、当時のビル・クリントン大統領の使者としてジミー・カーター元大統領が金日成氏と交渉し、米朝枠組み合意を結んだ。表面的には危機は脱したが、その合意終結時に金日成氏は急死したのである。
 後日の結果からすれば、米朝枠組み合意を北朝鮮は反故にしている。最初から履行する意志もなかったと見られる。とすれば、合意に加わった金日成氏を排除する政治的な理由がなかった言えるだろうか。
 金日成の急死が想起されるのは、今回の金正日氏の死にも似たような背景があるからだ。
 2日前の17日、北朝鮮は米国からの食糧提供の見返りに、核兵器開発に繋がるウラン濃縮停止の合意に達していた。産経新聞記事「北、「食糧」見返りにウラン濃縮停止 米朝暫定合意と韓国通信社報道」(参照)より。


 【ソウル=加藤達也】韓国の通信社、聯合ニュースは17日、米国が北朝鮮に対し、ビスケットなどの栄養補助食品を支援することで両国が暫定合意したと伝えた。外交筋の話として、支援総量は毎月2万トンずつ計24万トンになるとしている。また北朝鮮側は食糧支援の代わりに、6カ国協議再開の前提として日米韓が要求しているウラン濃縮停止などの事前措置の履行を受け入れたとも報じている。
 米朝は15、16の両日、北京で接触し、乳幼児の栄養支援の方法や配分状況の監視手段などについて協議した。聯合ニュースは、北朝鮮が米国側監視要員30~50人の受け入れを認めたもようだとしている。
 来週にも米朝は核問題に関する高官協議を開くとの見方があり、来年2月に6カ国協議が再開されるとの観測も出ている。ただ、北朝鮮が事前措置を日米韓の要求通りに履行するかどうかについて、6カ国協議筋の間には懐疑的な見方が根強い。協議筋は「北朝鮮の出方を中長期で慎重に見極める方針を放棄していない」としている。

 産経新聞以外に、同じく聯合ニュースを元にしているがAPも「N. Korea 'agrees to suspend uranium enrichment'」(参照)で報道している。AP報道によれば、この、食糧見返りによるウラン濃縮停止は、今週の木曜日・金曜日に北京での米中北朝鮮会議でアナウンスされることになっていた。
 16日付け毎日新聞「北朝鮮・核問題:ウラン濃縮、北朝鮮が中断受諾を示唆 先月、米専門家訪問団に」(参照)では、同内容を関係者筋として報道していた。また16日の時事「22日ごろ北京で米朝会談=北朝鮮、ウラン濃縮中断など譲歩―聯合ニュース」(参照)では米側の見通しも伝えていた。

韓国の聯合ニュースは16日、外交筋の話として、北京で22日ごろに核問題をめぐる米朝会談が行われる見通しだと伝えた。北朝鮮が米国に対し、ウラン濃縮活動の中断など日米韓が6カ国協議再開に先立ち履行するよう求めていた事前措置について、受け入れる用意があるとの意向を示したという。19日に米国が発表するとしている。
 米朝会談は7、10月に行われたが、事前措置について双方の溝が埋まらなかった。同ニュースは、今回の米朝会談では、北朝鮮が寧辺のウラン濃縮活動を中断し、これを検証するための国際原子力機関(IAEA)査察団の復帰を受け入れることで合意する可能性が高いとしており、この通りならば、6カ国協議再開に向けた大きな前進となる。同ニュースは、実務的調整を経た上で、6カ国協議は来年2月ごろに再開されるとの見通しを伝えている。 

 核開発停止に繋がる合意が実質結ばれたその日、17日に金正日氏は消えた。彼の父・金日成の急死と同じ構図が浮かび上がる。
 金親子の暗殺の可能性については現状では疑念に留まるが、金正日氏の急死がウラン濃縮活動停止合意の叛意に結びつくなら、この奇っ怪な構図はより鮮明になる。
 今後だが、北朝鮮の新体制がウラン濃縮活動停止の合意をどう扱うかで、その権力の構図も浮かび上がってくる。北朝鮮内部の権力構図の推定は、この合意の履行を注視して後に想定したほうがよいだろう。
 
 

|

« 帰ってきたプーチン | トップページ | 北朝鮮崩壊時の最悪のシナリオとは »

「時事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 金正日・朝鮮民主主義人民共和国・総書記、死去:

» 金正日総書記死去 [歌は世につれ世は歌につれ・・・みたいな。]
北朝鮮の朝鮮中央テレビと朝鮮中央放送、平壌放送は19日正午から特別放送を行い、最高指導者の金正日・朝鮮労働党総書記が17日午前8時半、積み重なる精神的・肉体的疲労のため、現地指導に向かう列車内で死去した、と伝えました。69歳でした。 ***♪金が逝ったなう♪ ミサイルを海に 撃てと吠えた君が 誰よりも 何よりも 独裁好きだった みんなしていつも あの海を見てたね 打ち上げた テポドンの 的に怯えたまま 一日中慌てた ノドンよりも距離を 長くしてずっと 撃っていたのが まるで無... [続きを読む]

受信: 2011.12.20 00:12

« 帰ってきたプーチン | トップページ | 北朝鮮崩壊時の最悪のシナリオとは »