沖縄そば
沖縄そばについてナイチャーの私がとやかく言うこともないようにも思うけど、沖縄に八年暮らし、少なくとも三日に一度は食ってたものだったので、それなりに思い出はある。この時分に思い出したのは、沖縄では年越し蕎麦に沖縄そばを食べるからだ。
沖縄では、沖縄そばのことを「すば」と言う。内地風に「そば」とも言う。とりわけ「沖縄そば」とは言わないように思うが、あちこち観光地化しているから、そうとも言い切れない。
沖縄そばが「そば」と呼ばれているのは、起源が「支那そば」にあるかららしい。つまりラーメンと先祖を同じくする。大正時代の内地文化が本土化につられて沖縄に入ってきたものだろう。ちなみに、同じころの食文化の影響におでんがあるが、沖縄のおでんについてはまた別の機会に。
沖縄そばの麺は、だからして、ラーメンの太麺と似ている。小麦粉にかんすいを加えて作る。ここで私は、あるオジー(初老男性)を思い出す。
沖縄では各所で「一番うまいそば」というのが話題になるが、私が聞いたオジーはその父親の手打ちが一番うまかったと力説した。オジーの父親はシベリア帰還であったが、もしかすると帰還した時の父親の思い出と合わさっているのかもしれない(沖縄人がシベリア生活というのも難儀であったろうな)。
オジー伝承・手打ち麺の作り方だが、かんすいは使わない。ガジュマルの木灰の上澄みをかんすいの代わりにする。現在では、この製法で作る沖縄そばを「木灰そば」と呼ぶことがある。麺は白い(中華麺が黄色くなるのは本来はかんすいのため。現在では着色)。歯触りがぷりっとして噛むとぷちっと切れて心地よい。麺も滋味深い。余談だが、沖縄の豆腐もにがりを使わない。海水をそのまま使うと当然にがり成分が含まれているからだ。
オジーによる麺生地の裁断だが、うどんと同じである。伸ばして畳んで包丁でざくざくと切っていくのである。職人ではないからそう細くは切れない。それが沖縄そばが太い理由である。
ちなみに私も手打ちをしたが、うどん同様(参照)、パスタマシンで作った。ガジュマルの木灰ではなくベーキングパウダーを少量使った。重曹でもよいが、ベーキングパウダーだとつるっと感が出る。塩は入れない。
沖縄そばの麺を手打ちする人は現代では、ほとんどいない。沖縄のどのスーパーマーケットでも沖縄そばの麺が売られているので、それを買うことになる。買うにあたっては何かとどこのがうまいかという話題にもなる。普通に茹で麺が一キロとかで売っている(くっつかないように油がまぶされている)。大勢集まって食うことが多いし、余ったらそのまま冷蔵庫で数日保存できる。
市販・沖縄そばの麺の形状は、うどん幅だがもう少し平たい。きしめんほど平べったい感じではない。それでも沖縄そばの麺が細くなったのは、この20年くらいの傾向のようだ。
そば汁は、基本は豚ダシと鰹ダシである。豚ダシにはわけがある。そばに載せる三枚肉の煮た汁をダシとして使うのである。
三枚肉とは皮付きバラ肉である。塊で買う。東坡肉やラフテーもそうだが、皮の部分がゼラチンっぽくてうまいのである。が、沖縄とても本物の三枚肉はそう手に入るものではない。沖縄の豚肉の多くはオランダとかからの輸入品が多く、皮なしの二枚肉になる。
これを塊のまま水煮にする。小一時間煮る。沸騰したときにはアクを取る。スロークッカーとかだと煮るプロセスが簡単になるし、アクをとったらシャトルシェフに入れておいても、それなりに煮える。
煮たロース塊は8ミリくらいにスライスして、醤油と砂糖で甘辛く味付けする。これが叉焼よろしく具になる。三枚肉ではなく、豚スペアリブにすると「そーきそば」になる。
他の具では、かまぼこが欠かせない。これが内地ではあまり見かけない。方言でいう「かまぶく」は内地のかまぼこみたいな、プラスチック消しゴミみたいな感じはない。おでんの具の練り物や笹かまぼこなんかに近い。おそらく、沖縄のかまぼこは内地の昔の製法なのではないか。とりあえず、内地で作るなら笹かまぼこで代用する。
具というのもなんだが、散らすネギも欠かせない。内地・関西のネギと同じで万能ネギである。きざんで載せる。他に、紅ショウガを載せることもある。ヒハツ(ヒハツモドキ)というコショウをかけたり、鷹の爪の泡盛漬けであるコーレーグースーを垂らすこともある。フーチバーを載せることもある。フーチバーはヨモギだが大きなスーパーでは野菜として売られている。内地のヨモギのように固くない。草餅の香りに近い。フーチバーを強調すると「フーチバーそば」になる。私の好物であった。
汁の話に戻る。豚バラを煮た汁に鰹節を加える。荒削りを使う。これに塩で調味して漉してできあがり。鰹はできれば、鰹節を削る。沖縄だと、大型スーパーには鰹節とそれをセルフで削る機械が装備されている。そこで削ってきたのを使う。昆布ダシをさらに加えてもよい。沖縄は昆布消費が全国一と言われることもある(正確ではない)。
かくして麺と汁と具が出来たのだが、まあ、こんな手間をかける現代沖縄人はあまりいない。どうするかというと、買ってきた麺に買ってきた汁を使うのである。薄めて使う汁が売っている。が、意外とできあいの汁は好まれず、もっと簡単に豚ダシ抜きで鰹節の汁だけで沖縄そばの汁にすることもある。具の三枚肉も出来合のが売られているのでそれを載せる。
以上の話はネットなんかでもよく見かけるだろうが、沖縄そばの基本の基本はあまり見かけないように思う。いかにサーブするかということだ。観光客は出された沖縄そばしか食べないから、食べさせる側の基本を知らない人が意外と多い。といってもあらためて言うほどのことでもないかもしれないが、ラーメンやうどんとは、ちと違う。
さて、具はある、そばもある(買ったのでもいい)、汁もある、とする。
じゃ、丼に麺を入れ汁を入れ具を載せればいいのではないか。それはそうだが、そのままだと麺は冷えているし、丼も冷えている。麺は十分温まってこそ味わい深くなるものだ。
まず汁を鍋で煮立てる。軽く沸騰させる。汁を一人分丼に注ぎ、一人分麺を入れ、しばし待つ。麺と丼を暖めるのである。そして冷えた汁だけを鍋に戻す。
汁が鍋で再び煮立つのを待ち、煮立ったら、再び麺を持った丼にかける。具を載せる。うさがみそーれー。
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コメント
>沖縄そばについてナイチャーの私がとやかく言うこともないようにも思うけど<
ふむ。fanalvent様のお言葉から、一昔前のウェブ掲示板の世界で「ナイチャー」と呼ばれた方を思い起こします。
だからどうだという訳ではありませんが、少し懐かしいかと。
投稿: itaruo | 2011.12.30 21:18