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2011.12.11

エジプト・クーデターの落としどころ

 「第二革命か」とも言われた11月下旬のエジプト、タハリール広場を主とする抗議運動はしぼみ、軍部のシナリオどおりに議会選挙が実施された。現状から今後の動向の関連をメモしておこう。
 議会選挙でイスラム政党が躍進することは予想通りのことだが、論点は軍部が権限移譲を行うかにある。
 単純な話、来年、軍部が権限移譲を行えば、この一連の争乱は結果的にクーデターとは言えないものに変貌する。軍部の権限移譲がなければ、歴史評価としてもただのクーデターで終わることになる。
 11月下旬の抗議運動は、そもそも軍部に支えられた暫定政府が、軍最高評議会の意向を受け、早々に独自に新憲法指針を出したことへの反発が発端であった。この指針では、軍予算について軍部に全決定権を持たせるとしていた。
 構図は選挙前の11月30日ワシントンポスト社説「Will Egypt’s generals respect the power of the vote?」(参照)が明快に描いている。


The full results of the vote won’t be known for some time, although well-organized Islamic parties, led by the Muslim Brotherhood, are widely expected to finish first. In the short term, the biggest winner will be Egypt’s ruling military council, which by staging an orderly and relatively free election in Cairo may have defused a new popular rebellion. Huge crowds that gathered in Tahrir Square last week and clashed bloodily with police and troops largely disappeared when the polls opened.

選挙結果は当分不明だろうが、ムスリム同胞団が率いる、組織化のよいイスラム政党が第一党になるだろう。しかし短期的には、最大の勝利者はエジプトを支配する軍事評議会となる。彼らは、通常手段で比較的自由な選挙をカイロで演出することで、新たな大衆抗議を沈静させてしまったかもしれない。投票が開始されるや、先週タハリール広場に集まり、警察や軍と血まみれになっても衝突した群衆の大半は消えた。


 11月下旬の抗議運動が失敗したことで、軍部による憲法指針は事実上確定した。

Facing charges both at home and abroad that it was subverting a promised transition to democracy, the generals can now claim that the process is back on course.

約束された民主化移行を反故としてきたとして国内外で批判されていたが、将軍たちは今や民主化プロセスに戻ったのだと主張できる。


 軍部の主張は本当か。この食わせ物のクーデター騒ぎがまだ継続しているだけなのか。
 ワシントンポスト社説は疑念を提示していた。軍部が民主化への権限移譲のプロセスにあると主張することに対して。

That claim could still prove deceptive. In addition to the more than 20 days of voting still to be managed, a successful election will require the military council to respect its results — which it has not yet committed to doing. The generals last week named a new prime minister — a 78-year-old veteran of the Mubarak regime — and have not yet agreed that the elected parliament will form its own cabinet.

この主張もまた欺瞞だと判明する可能性がある。選挙の成功は、20日以上かかる投票が管理されることに加え、軍事評議会が結果を尊重する必要がある。だが、軍事評議会はこの件について関与してこなかった。将軍たちは先週、ムバラク時代に経験がある78歳の新首相を任命したが、選出議員による議会が組閣することには同意していない。

They are also attempting to reverse a constitutional amendment, ratified by a popular vote just eight months ago, that gave the new parliament authority to select the members of a constitution-writing committee.

8か月前に一般投票で承認されたのだが、新憲法草案作成委員会選出の権限を新議会に与えるとする憲法改正を軍事評議会は覆そうと試みている。

Their aim, council chief Gen. Mohammed Hussein Tantawi baldly stated in a news conference Sunday, is to ensure that the military’s power remains unchallenged in the new political order, even after the promised handover of authority to an elected president in June.

軍部の目的は、軍事評議会のムハンマド・フセイン・タンタウィ将軍が日曜日の記者会見で言ってのけたように、来年6月に選出される大統領に権限が移譲された後も、政治の新体制において、軍部の権力が現状のまま確実に温存することにある。


 これこそ大がかりなクーデターの仕上げとも言えるものだ。
 現状についてだがウォールストリート・ジャーナル「イスラム政党の躍進で軍との関係複雑化=エジプト人民議会選挙」(参照)がわかりやすい。

 選挙管理委員会の4日の発表によると、サラフ主義(強硬なイスラム原理主義)の超保守派政党ヌール党が政治アナリストの予想を上回る24.4%の得票を獲得した。穏健なイスラム原理主義組織ムスリム同胞団系の自由公正党は、ほぼ予想通りの36.6%で、宗教色のないエジプト連合は13.4%にとどまった。この結果、イスラム系政党が得票率の60%超を確保した。イスラム政党有利の傾向は今後2回の投票でも続く見通しだ。
 アナリストによれば、新議会でイデオロギー上の対立が表面化すれば、議会が軍に対し強く当たれるかどうかについて、自由公正党が大きな責任を負うことになるとみられる。同党がサラフ主義政党とリベラル政党の相対立する要求をうまく吸収できれば、新議会は軍に強力に対抗できそうだ。


 軍最高評議会は、新議会が制定する新憲法で文民政府の決定から軍の予算や政治的立場を保護することを要求している。エジプト連合は自由公正党を嫌っているが、軍から議会への権限移行を望むならば、差し当たっては自由公正党と連携する必要性が出てこよう。

 イスラム政党が躍進したとはいえ、国民の一割のコプト教徒(キリスト教徒)を抱え、またイスラム色を脱したいとする世俗主義者も少なくないエジプトでは、国論をまとめることが基本的に難しい。そしてその困難さが与党に負わされることになり、与党が困難な妥協を求めることになる。
 問題はその妥協先はどういう方向に向くかということだ。別の言い方をすれば、イスラム政党が、暴力機関である軍部の独立性を奪取して、これを国家という暴力装置に収納する方向に動くかということになる。それには、当然ながら、軍部との対立構図を政治として描けるかにかかっている。
 無理だろうと私は思う。ウォールストリート・ジャーナルもその線で見ているようだ。

 しかし、イスラム諸政党は連立を組んで一致団結することには慎重。一方、リベラル諸政党は自由公正党とある程度距離を置く方針のため、軍最高評議会が議会を巧みに操る可能性もある。軍政の打倒を掲げるリベラル派は、ムスリム同胞団がここに来て軍に対し協調的な姿勢を見せていることに怒りを募らせている。

 ムスリム同胞団系の自由公正党が軍部と対立できるように政治の構成を取ることは困難であり、むしろ逆に与党が軍部と妥協・協調していく可能性が高い。このことは、先日の抗議活動でもすでに先行して見られた動向であった。
 11月下旬の抗議活動こそ革命の始まりかと見た、11月27日のNewsweek記事「Does Egypt's Real Revolution Start Now?(エジプトの真の革命が今始まったのか?)」(参照)は、クーデター政権完成の図柄をこう描いていた。

The high command, for its part, has worked hard to divide any potential opposition, trying to create what Prof. Robert Springborg, an expert on the Egyptian military at the U.S. Naval Postgraduate School, calls "a new political order in which it may agree to neither rule nor govern, but in which it in turn is neither ruled nor governed."

最高司令部としては、軍に歯向かう政治勢力の分断に注力し、新体制を形成しようとしている。それは、エジプト軍の専門家ロバート・スプリングボーグ米国海軍大学院教授によれば、「支配も統治もしない代わりに、支配も統治もされない組織」である。


 エジプト国家内でありながら、独立した国家的な組織をエジプト軍部は求めているというのだ。

There’s widespread suspicion that the traditional leadership of the once-outlawed Muslim Brotherhood is willing to cut deals with the high command to protect the generals’ prerogatives as long as the way is cleared for the Brotherhood to win elections. In any case, senior Brotherhood officials have not supported the protests.

非合法だったムスリム同胞団の古参指導者は、ムスリム同胞団が選挙に勝つなら将軍らの特権を保護するとして、最高司令部と取引を快く結んだという疑惑が広まっている。いずれにせよ、ムスリム同胞団役員は今回の抗議活動を支援してこなかった。


 この軍隊を保持したまま、あたかも皇帝のような特権者となる、軍事評議会のムハンマド・フセイン・タンタウィ将軍とはどのような人物か。

Foreign officers who have worked with Tantawi often refer to him as "the CEO of Military Inc." He is not only the minister of defense, he is the minister of military production, a position that oversees factories making everything from tanks to pasta, building toll roads and resorts, using conscripts as labor, and raking in millions of dollars that are never accounted for in public.

タンタウィと働いたことがある外国軍人は彼のことを「軍隊会社のCEO」と呼んでいる。彼は防衛大臣だけではなく軍需生産大臣も兼ねていて、戦車からパスタまで製造、有料道路からリゾート施設まで建設、徴集兵を使役し、国民に報告責任のない数百万ドルを稼ぎだすのである。


 欧米や、そして日本でも独裁者ムバラク前大統領が「エジプト革命」によって民衆によって打ち倒されたと語られた。さてその後の、国民と隔離された富と権力を保持する軍事評議会タンタウィ将軍とどちらが高潔であるだろうか。
 
 

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