オバマ米大統領によるイラク戦争終結宣言の背景
オバマ米大統領がイラク戦争の終結を宣言して正規兵を撤退させたものの、米国シビリアン1700人とその保護の民間軍事会社・武装要員5000人は常駐させた(参照)。イラクはどうなるのか。オバマ米大統領によるイラク戦争終結宣言の背景について、最近の動向から見ていこう。
一番気になるのは、10月下旬にイラク政府が公表した大粛清である。
故フセイン大統領を支えた当時の政権与党バース党員や同体制時の軍人615人が逮捕された。ニューヨークタイムズ報道によれば(参照)、理由は、在イラクの旧バース党員がクーデターを目論んでいるとの情報をリビア暫定政権指導部から得たからとされている。だが、クーデター計画を裏付ける証拠は提示されていない。同報道にもあるように口実に過ぎないだろう。
何の口実かといえば、スンニ派の弾圧である。
逮捕者の大半はスンニ派と見られる。スンニ派に対立するシーア派のマリキ首相が、米軍撤退を機にシーア派の政治勢力強化を図ろうとしたものである。しかも、たれこんだとされるリビア暫定政権指導部もシーア派である。シーア派はイラン政府とも繋がりがあると見てよいだろ。
マリキ首相は突然、変貌したわけではない。イラクの旧軍隊を解体した後、米国ブッシュ政権が関与する時代ではイラクの国内宥和を推進すべくバース党員にも雇用機会を与える立法がなされた。だが、米国がオバマ政権に変わるのと併行して、骨抜きにされていった。スンニ派の政治参加も停滞し、同時にシーア派の強化がなされてきた。いわば今回の粛清はその仕上げと言えるものだった。
9月26日にHuman Security Gatewayが発表した「Failing Oversight: Iraq's Unchecked Government」(参照PDF)からは、イラク政府は近年、腐敗を防げず権威主義的な傾向にあり、公共サービスも低下しているとしている。皮肉なことにこれらは、イラク戦争後の混乱や暴力によるものではなく、むしろ安定によってもたらされたようだ。
こうした状況下でなぜオバマ大統領は軍の撤退を実施したか。オバマ政権の公約でもあり、次期大統領選のための口実だから当然と思う向きもあるだろう。そこが難しい。
現実的に見れば、イラク政府も米国政府も内部で分裂した状態の悪しき帰結であった。ワシントンポスト「An end to the Iraq war? Only for the U.S.」(参照)が内情を伝えている。表面的には米国とイラクは協調しているように繕っているが内実は異なるとして。
In fact, both governments were internally divided. The majority of Iraqi leaders sought a continued U.S. troop presence as a check on Iran and a guarantor of a strong alliance — just like other American allies in the Persian Gulf.実際は、両政府は内部分裂していた。イラク指導層は、ペルシャ湾沿岸の米国同盟国同様、イランを監視し同盟の証として米軍の駐留継続の道を模索していた。
But Mr. Maliki found it hard to face down the Iranian-backed party in his government; he eventually brokered a bad compromise under which Iraq proposed that U.S. training forces remain but be denied the legal immunity the Pentagon insists on elsewhere in the world.
しかしマリキ氏は、政権内のイラン支持派と対決するのは困難だと見るや、たちの悪い妥協に至った。つまり、米国要員による軍指導員は残留させるが、米軍た各国で地位協定として結んでいる免責特権は認めないというのである。
That gave Mr. Obama a ready reason to side with White House advisers who had argued against a stay-on force all along.
マリキ氏の妥協案は、駐留に反対してきた政権顧問を利する理由をオバマ氏に与えた。
U.S. military commanders, with an eye on Iran, had planned for a troop contingent of up to 18,000. But civilian aides argued that U.S. and Iraqi security forces have demonstrated the ability to maintain control even as U.S. forces have pulled back; that Iraqis have resisted Iranian meddling and will continue to do so; and that the political system now works well enough to prevent a return to the sectarian warfare that raged before 2007.
米軍司令部は、イラン監視もあって、1万8000人の駐留を計画していたのだった。しかし、政権内の文民側は、米軍撤退後も、米国とイラクの治安部隊で統制可能であると主張した。イラクはこれまでもイランに抵抗してきたし今後も抵抗するだろう。イラクの政治体制も機能し、2007年以前に猛威を振るった宗派間闘争は防げるだろうというのである。
つまり、オバマ政権が公約だからイラク撤退したというより、イラク政権も米政権も意見対立があり、その妥協の産物として今回の撤退となったわけで、むしろ、要点は撤退よりも、米国シビリアン1700人とその保護の民間軍事会社・武装要員5000人の常駐にある。
オバマ政権内の文民側の予想のように推移するかといえば、すでに言及したように、すでに逆の動向にある。イラク内の宗派間闘争が進行し、さらにイランを中心とするシーア派勢力の影響力がリビアなどを経由して浸透しつつある。
先のワシントンポストは今回の撤退に疑念を寄せている。
The next year or two will show whether that calculation is correct. In the meantime Mr. Obama will surely boast on the campaign trail, as he did Friday at the White House, that he has fulfilled his 2008 pledge “to bring the war in Iraq to a responsible end.” End it will, for Americans if not for Iraqis; as for “responsible,” count us among the doubters.目論みどおりに進むかは来年か二年後にはわかるだろう。それまでの間、オバマ氏は、ホワイトハウスで金曜日で言ってのけたように、「イラク戦争に責任有る終結をもたらし」2008年の公約を実現したのだと自慢げに吹きまくるだろう。米国民には終結だろうがイラクの人々にはどうだろうか。「責任有る」を、われわれは疑っている。
次期米国大統領が誰になるのか。現下、爆笑シリーズの共和党候補漫談で共和党が自滅していくなか、じわじわとオバマ再選の色が濃くなっていく。オバマさんが撒いた失策を、オバマさんが尻を拭くということになりそうな気配である。
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