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2011.11.24

エジプト革命の始まり

 エジプトが再び争乱状態となった。これを第二革命と呼ぶ人もいるようだが、なんのことはない。前回は軍部のクーデターに過ぎず、民主化などほど遠い話であった。
 ムバラク政権に劣らぬエジプト軍政による悪行はすでに十分に露呈している。これがどれほど酷いものかは、アムネスティが公開した報告書「Broken Promises: Egypt's military rulers erode human rights」(参照)に詳しく描かれている。
 夜間外出禁止令を破ったり軍を侮辱したとして1万2千人も及ぶ市民が軍事法廷に送られた。ジャーナリストは軍の検察官に呼び出され、拘束され拷問を受けた。軍に抗議する市民に対しては、軍は武装した強盗を使って攻撃した。コプト教徒による抗議では軍は28人の市民を殺害した。
 この軍政が、いかさまな議会選挙(参照)を通して固定化されようとしているとき、市民が立ち上がる現在こそが、まさに革命の始まりなのである。
 だが、前回の軍部クーデター騒ぎに比べて、日本ではツイッターでの話題もあまり見かけず、ブログなどでもあまり話題を見かけない。今朝の朝日新聞社説「エジプト騒乱―若者たちの不満を聴け」(参照)に至っては、若者の立腹程度の話に矮小化している。


 3日間の衝突の後、軍最高司令官は「軍が権力にとどまる意思はない」と明言した。来年6月に大統領選挙をして、民政に移管すると約束した。暫定政府の辞任を認め、政治勢力との間で挙国一致内閣の発足で合意したことも明らかにした。
 若者たちは発表に納得せず、軍政を直ちに終わらせ、文民中心の救国政府の発足を求める。
 若い人たちの怒りは理解できる。だが、来週から始まる選挙の実施を優先し、そこで自分たちの主張を広げてほしい。

 軍政側の「明言」がどれほど裏切られたかについて、朝日新聞社説は、きれいにほっかむりしたままで、エジプト若者世代に共感する素振りを見せながら、いかさま民主主義への恭順を説いている。
 市民が軍に立ち向かうとき、どのような危険が伴うかと想定すれば、中国天安門事件や現在も続くシリアの弾圧を参考にしても、朝日新聞がそう説くことをまったく理解でないものでもない。
 市民側には正規軍に優る暴力もないのだから、軍を圧倒することはできない。また、ソ連崩壊のように、国軍もまた市民に立ち返って革命に参加するほど、軍側に民主化への熱意があるわけでもない。エジプト軍はそのものが一つの巨大な利権の体制でもあり、そもそもクーデター政権樹立の要因はこの体制の保身であった。
 ではこれから惨事になるのだろうか。いやすでに38人を超える死者を出して惨事ではある。さらに桁外れの軍の力が行使されるだろうか。
 そこまではいかないだろう。理由はすでに先々週あたりから、欧米紙の論調(例えば、参照)を見てもわかるが、米国によるエジプト軍への支援中断の脅しをかけている。エジプト軍側が惨事を引き起こせば、金策に詰まって体制そのものが孤立しかねない。軍側としては、じりじりとしたチキンゲームを続けて、若者を中心とする抗議活動が、国民世論から乖離している状態を待てばよい。
 では、抗議者たちはどうするのか。
 圧倒的な暴力の差から体制の転換は無理だろう。夜間に暴動が活性するのも、宵闇に乗ずるしか手がないからだ。
 実際のところ、現状の抗議の実質的な目的は、朝日新聞が薦めるところの議会選挙を阻止することではないか。
 そもそも今回の騒動のきっかけは、18日のムスリム同胞団による議会選挙への抗議から始まった。が、このムスリム同胞団の抗議は、若者の参加による抗議活動がエスカレートするにつれ、引いた。
 単純に見れば、議会選挙で第一党が予想されるムスリム同胞団が議会選挙にさほど抗議するメリットはないので、いわば軍側との駆け引きのためのブラフであったのだろう(参照)。ムスリム同胞団も軍側と同じように、若者を中心とする抗議から距離を置き、それが世論から遊離するのを待っているのである。
 つまり、現下の状況の本質は、軍のクーデター政権と協調しつつあるムスリム同胞団との実際的な妥協の体制を阻止することにかかっている。
 このことは同時に欧米側によるイスラム勢力の抑制にも合致していることから、前回のクーデター騒ぎのように、それなりの支援も入っているのではないか。
 短期的には、実質的な旧体制の復活が阻止できても、その先の体制の展望までは見えない。経済的にはいずれにせよ否定的に見えているにせよ。
 
 

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コメント

http://www.thetrumpet.com/?q=8838.7604.0.0
中東の革命は民主革命というよりはイスラム革命では?何故かメディアは隠している様な気がしてなりません。イスラム圏は政教分離、民主主義とは微妙に違う感じもするので、国家、民族、宗派を超えて大帝国になりそうな気もしています。トルコ、イランも加えてという事ですが。EUは挟み撃ち???

投稿: ヒロ | 2011.11.24 17:39

ムスリム同胞団の動向については、ニューズウィークコラムで酒井啓子さんも同じような見方をしてますね。http://www.newsweekjapan.jp/column/sakai/2011/11/post-416.php

投稿: 通りすがり | 2011.11.25 10:31

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