[書評]ブロードウェイ 夢と戦いの日々(高良結香)
高良結香さんの「ブロードウェイ 夢と戦いの日々」(参照)は2008年の出版。現在でも版を重ねたふうはないがどうだろうか。まだ絶版にはなっていないが版元がランダムハウスということもあって文庫化されるかはよくわからない。一つの時代の記録としても、また若い人に読み継がれるとよい、元気の出る書籍である。さらに米国のショービズの内側を日本人の目から描いたという点でも貴重な資料である。
ブロードウェイ 夢と戦いの日々 高良結香 |
高良結香さんの出身は沖縄の小禄である。米国に留学し、またダンスを学びながら一時帰国して小禄のツタヤなどでもバイトをしていたという。ハイスクールを出たときシュガーホールで手作りの公演もやったらしい。同時期に沖縄で暮らしていた自分も、小禄も佐敷によく行ったものだった。彼女とすれ違うようなシーンもあったのかもしれないなと連想した。
コーラスライン ニュー・ブロードウェイ キャスト・レコーディング |
ブロードウェイで活躍できるほどの彼女の英語力は幼児期からインターナショナル・スクールに通った成果だが、親の方針でもあったようだ。沖縄ならではの教育環境のようにも思えるが、自分の沖縄生活の経験からするとそう多いケースではない。ハーフの子で、どう見ても日本人っぽくなくて、その後のことを考えると英語ができたほうがいいということで通う子もないわけでもない。
そういえばふと思い出したが、南沙織もインターナショナル・スクールに通っていた。当然英語がぺらぺらで英会話の本とかも出していた。1978年の「シンシアの英会話レッスン―英語でおしゃべりしてみませんか」(参照)である。アマゾンで見ると入手できない。私のはたぶん実家の書架にまだあると思う。
高良さんの米国留学だが、普通にインターナショナル・スクールを出てから、ある意味普通に米国の大学に留学した。シェナンドア大学に進む。関連して有名な歌「シェナンドア」についても言及している。後に、照屋林賢氏プロデュースの「naked voice」(参照)でこの歌を歌っているが、当時の思いも込められているだろう。
大学はしかし卒業しなかった。ミュージカルに触れ、ダンスと音楽に憧れて単身ニューヨークでの暮らしを始める。仕事やレッスンやオーディションの日々。この、ある意味下積みといえる生活の話も面白い。ショービズに憧れる米国の青年や各国の青年たちがこうしてニューヨークで暮らしているのだなとわかる。映画か小説でも見ているようだ。
ショービズの世界に入ってからは、ユニオンについても、その内側からよく描いてある。ユニオンは、ごく簡単に言えば労組のことだし、賃金や労働条件の交渉などを扱うので労組という以外はないのだが、実際には日本の、結局大企業縦割りで左翼くさい労組とはまったく違う。私もわけあって米国のその手の団体に参加していたので内情を少し知っているが、ショービズにおけるユニオンの仕組みは本書によく描かれている。訴訟などが通例でもある社会だし、体の故障などの際の補償などでも、ユニオンがないとフリーランスはやっていけないし普通に技能者もやっていけない。日本もそういう社会になっていくというのに、しかも労組が政権取ったのに、まるで米国のユニオンのような流れは見えないところに、日本の暗澹たる未来があるのだが。
universal u |
9.11の彼女の内面への衝撃はその後も続き、その内的な問いかけから、彼女は自分の歌を作り出す。「今なら素直になれるよ」である。「universal u」(参照)に含まれている。iTMSでも購入できる。ちょっとアニメ声のような甘さと高音の若い女性らしいかすれもありながら、日本語の歌詞にまざる英語の発音は完璧で、声のブレもなく低音の響きもいい。録音スタイルからかブレスがきつく拾われているがちょっとエロくも少しあるし、盛り上げはちょっと青春心をちくちくさせて泣かせる。
高良さんの現在の活動については私はほとんど知らない。沖縄ベースで活躍されているのだろうか。ある一定以上の年代になったら、ユニオンでの経験などを活かして大学など学校の先生になるという道もあるのではないか。
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