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2011.11.20

[書評]イギリス料理のおいしいテクニック(長谷川恭子)

 イギリス料理は美味しいか? 私はイギリスに行ったこともないし、特にイギリス料理に馴染んだこともないが、米国料理と思って食べてた料理に含まれるイギリス料理的な部分から、また、小説やエッセイ、例えば村上春樹「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」(参照)などを読むに、不味いってことはないのでは、と思っていた。林望先生の「イギリスはおいしい」(参照)になると、逆にちと微妙なものが、あるが。

cover
イギリス料理の
おいしいテクニック
 で、イギリス料理は美味しいのか? 美味しいのである。疑いがすっきりと晴れたのは本書「イギリス料理のおいしいテクニック」(参照)を試してみたからだった。一時期、この本のレシピの料理ばかり作っていた。美味しいということもだが、料理その物も興味深かった。筆者、長谷川恭子さんの文献学的な研究の姿勢にも感動した。中世からの文献に当たって実際に創作して検証しているのである。
 残念なのは、今アマゾンを見ると絶版で中古にはプレミアムが付いていることだ。めちゃくちゃな価格とは言えないが自分の知るかぎり類書はないので、しかたないかなとも思う(多分、英書にもない)。図書館とかでは比較的見つかりやすい本ではないかと思う。
 具体的に何が美味しいのか? 美味しいということもだが、すでに定番料理になってしまったのが「レモン詰めローストチキン」。難しいことは特にない。いや全然難しくない。米国人の好きそうな秘伝のスパイスもない。スタッフィングとしてレモンを摘めて普通にオーブンでローストするだけなのである。レシピの秘訣みたいなのも特にないが、レモンは、丸のまま調理台で力を入れて転がして中が少しつぶれるようにする。そのあと、楊枝で20か所くらいぷちぷちと刺して汁が出やすくする。当然だが、レモンは農薬の少ないのを選ぶほうがいい。これをチキンに詰めて普通にオーブンでローストチキンにする。レモンの分だけ加熱は長くなる。レシピにはレモン2個とあるがチキンが小ぶりなら1個でいい。チキンの味付けは塩こしょうにオリーブオイルだけ。ローストができたらレモンを出してカットし、絞ってチキンにかけ、肉汁にも混ぜる。柑橘の香りとチキンが調和して美味しい。
 簡単な料理なのだが、一つだけ気になることがないわけではない。いや、本書の他のレシピにも言えることだが、時間がかかるのである。
 「レモン詰めローストチキン」なら180度で30分、上下を返して30分、200度に上げて20分。焼き上がったら休ませて15分。レモンを取り出す。掛かりきりの作業ではないが時間はかかる。たぶん、そこが現代的な料理ではないのだろう。
 私の好物でもあるが「タラのセヴィーチ」も時間がかかるといえば、かかる。鱈の切り身に塩こしょうして30分置く。これを軽くポワレ。そのあと、マリネするのだが冷蔵庫で3時間から12時間。マリネ液の作り方は省略するが特に難しいものでもない。が、何?その3時間から12時間って。
 たぶん、12時間というのは翌日食べるということだろうが、普通に食べるのにマリネ3時間というのは、現代風の調理だと長いようにも思える。マリネはそんなものであるのだが。
 本書の料理は手間のかかるものばかりではないが、手間への惜しみはない。料理ってそういうものなんだなというのと、その条件を廃してみると、現代風の料理とは違ったものが見えてくる。
 イギリスに料理の伝統はあるのかという問いに、本書は結果的に微妙な答えを出している。もちろん、ある。あるどころか、中世の料理書からも研究されているのだが、先の「タラのセヴィーチ」でもそうだが、セヴィーチは南米料理。それでイギリス料理なのか?ということだが、近世から世界帝国を築いていたのが大英帝国なのだから、それでいい。
 林望先生お得意のスコーンも当然掲載されている。それどこか、スコーンは生地なのであって、肉だのフルーツだの巻き込んだりして料理にする。うまいよ。本書には掲載されていないが、単純にウィンナソーセージを巻いてもいい。
cover
イギリス菓子の
クラシックレシピから
 著者・長谷川恭子さんはもう一冊「イギリス菓子のクラシックレシピから」(参照)というレシピ本も書いているが、こちらはお菓子に特化しているのだが、さらに文献的な考察が深まっていて、おそらく英米文学を学ぶ人にも必携ではないだろうか。掲載されているお菓子を食べてみたいというのは別としても。
 
 

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コメント

やる夫と食べるイギリス料理
http://bit.ly/vX4w4o
とか。

投稿: てんてけ | 2011.11.20 11:18

類書はないこともなくて、
シャーロックホームズの料理読本(ファニー・クラドック著 成田篤彦訳)というものもあります。
作ろうにも材料が手に入らないものが多く、特にイギリスにもジビエの習慣があるらしく、鴨や鹿、ライチョウまでレシピに出てくるのですが、実際に食卓に乗せるには、定期的に狩りの獲物の入手が必要で、今のイギリスでさえ作れるかどうか。
又、臓物料理として豚や羊の臓物を使ったレシピに一章を割いているのですが、これも日本では作るのは無理でしょう。ヨーロッパの肉食文化がいかに我々と隔たっているのか思い知らされます。
逆に再現しやすいのが飲み物の類で、当時は高価だったろうワインやブランデー・ラムなどを大量に使った飲み物(読む限りではカクテルとは言いかねる)が今では簡単に作れます。

投稿: F.Nakajima | 2011.11.20 14:50

類書には、
「ジェイン・オースティン料理読本」もありますね。

投稿: MUTI | 2011.11.21 20:38

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