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2011.10.23

[書評]信長協奏曲(石井あゆみ)

 「信長協奏曲(石井あゆみ)」(参照)が面白いというので、じゃあと注文してみたものの、表紙を見て怯んだ。

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信長協奏曲 1
 釣り文句の「ごくごく普通の今どき高校生サブロー。そんなサブローがひょんなことから飛ばされたのは、なんと戦国時代! そう、彼はタイムスリップしてしまったのである」を読んで後悔した。
 が、この程度の後悔、我が人生の後悔の峻峰に添えても微々たるものよ。ところが、はずれた。面白いのである。めったくそ面白い。というわけで、出ているだけ、5巻まで買って読んだ。大人はいいぞ。
 はっきり言ってタイムスリップの小細工は、狂言回しであって、良くも悪くもない。道三や弾正に充ててくるのも、まあどうでもよい。漫画は漫画。面白いのは、プロット(筋立て)とキャラとディテールである。
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信長協奏曲 2
 キャラで、これはすごいなというのは、秀吉である。秀吉ってこういうやつだったんだろうなという疑念があったのだが、それがするするほどけて快感になってくる。浅井攻めの際の殿軍(しんがり)とか、ああ、なるほどねという感じ。もちろん、真相がそうだったかという話ではなく、こういうふうに解釈するのは面白いじゃんかということ。
 プロットですごいな、まいったなと思ったのは、協奏曲(コンチェルト)という、モダンというだけの思いつきの命名ではないかという印象のタイトルの意味がきっちり開示される3巻目の末である。つまり、この物語の主人公はサブロー信長一人ではない。ここまでは前振りであったか。やるなあ。
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信長協奏曲 3
 ディテールもなかなか笑える。桶狭間の戦いの功労者に武士名をつけるところで、いいかげんに「やなだまさつな」が出てくるが、簗田政綱である。戦の後、サブローに「でも場所は桶狭間ではなくて田楽狭間だったな……」とかつぶやかせるのも笑える。信長記との異同を含めた議論を踏まえていて、これはかなり資料を読み込んでいるなと思わせる。竹千代に鯛の天麩羅食わせるところやエロ本の逸話も笑える。なにかとディテールは笑える。作者は女性らしいので、いわゆる「歴女」というのか、よくわからないが。
 作者については、公式サイト(参照)に、「1985年9月24日生まれ。神奈川県出身」とあるので、26歳ということになる。若いな。他に代表作もないようなので、これが代表作として意気込んで書かれたか、出版編集側でかなりリキを入れたかなのだが、結果がよければよいでしょう。
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信長協奏曲 4
 印象にすぎないが、歴史の読みのあたりは、作者ひとりによるのではなく、スタッフの練り込みかなという思いは残る。プロットは小池一夫風味もありそう。また、絵の構図も、武者絵などを参照している印象もあるが、これは他にも見たことある感じだなという印象は強く、絵自体の斬新さはあまり感じられない。漫画通の人なら、この絵のタッチはなになにと系統的に分析できるのではないか。しかし、それがどうたらという話でもない。
 いずれにせよ、面白くて、成功しているし、この先、20巻くらいは続きそうなで今後も楽しみ、というところなんだが、作者の資質は、ちょっとこの路線とは違うんじゃないかなという感じもした。ので、そのあたりも。
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信長協奏曲 5
 1巻の巻末に特別ミニ読切「吸血鬼タマクロー」という、いい意味でしょーもない短編がおまけで付いているのだが、これが、作者のギャグの資質をよく表している、という点で見ていくと、そのあたりの資質が、お市の方や上杉家の女忍の表現に反映されていることがわかる。その微妙に、女性的と言うとまたそれは少し違うのだが、あまり類例のない性的な表現の資質が感じられるのが、この作家の才能ではないか。それが今後の表現にうまく統合できるとよいと思う。帰蝶のキャラを膨らませるのは無理っぽいので、つまり、そのあたりを強烈にした女性のキャラが途中から出せるか。あるいは、この作品が成功裏に終わっても、あまりこの歴史物語路線に拘らないほうがよいのかもしれない。
 3巻の表紙裏というかカバーの折り返しに、作者のひとこととして「日本各地、行ってみたい場所はたくさんあるんですけど、旅行とか嫌いなもんでなかなかどこにも行けません。かなしいです。」とあるが、案外すでに行っているのかもしれないが、安土には行ってみるといいんじゃないか。僕は安土の水郷に行って、シーズンはずれのせいもあって、たまたま舟を一人借り切って、船頭さんにいろいろ話をきいたことがある。よかったすよ。
 
 

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コメント

ご紹介ありがとうございます。さっそく読んでみました。さくさくでしたが、誰でも知ってる話というだけでなく、独特のリズム感が良いんでしょうか。あと、この設定だと光秀は天海まで行っちゃうかも。

投稿: Sundaland | 2011.10.26 14:15

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