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2011.10.18

イランによる駐米サウジアラビア大使の暗殺計画疑惑

 イランが関与したと米国が告発する、駐米サウジアラビア大使の暗殺計画だが、非常に不可解な話である。結論からいうと、大きな枠組みで見るなら、イラン包囲網というより、サウジアラビアへの米国からの宥和策とイラン内部の問題の反映とではないかと思うが、オバマ政権の延命策として出されたなら非常に危険な火遊びとなりかねない。
 日本ではあまり話題になっていたふうはないが、報道がないわけでもなかった。NHK報道から確認しておこう。12日付けNHK「米 イラン関与の暗殺計画摘発」(参照)より。


 アメリカ司法省は、イランの革命防衛隊で特殊任務を担う部隊に所属する男が、駐米サウジアラビア大使の暗殺を企てたとして、イラン人の男など2人をテロ未遂などの罪で起訴したと発表しました。
 アメリカのホルダー司法長官は11日、記者会見し、「イランの政府機関の指示を受けて、アメリカ国内で他国の大使の暗殺を計画していた2人を起訴した」と述べました。起訴状によりますと、暗殺計画は、イラン革命防衛隊の特殊部隊「コッズ部隊」に所属する男が、アメリカ国籍を持つイラン系アメリカ人の男に指示していたもので、2人はテロ未遂などの罪で起訴されました。この2人は、ことし春以降、アメリカ国内で駐米サウジアラビア大使を暗殺することを企てていたということで、イラン系アメリカ人の男は、150万ドル(日本円でおよそ1億1500万円)の報酬を受けていたものの、先月、ニューヨーク州でFBI=アメリカ連邦捜査局に逮捕されました。暗殺計画の指示を出していたイランの特殊部隊の男は、今もイラン国内にいるということです。暗殺計画は、首都ワシントンで爆弾などを使って実行する筋書きになっていたということで、司法省は、裁判を通じてイラン政府が暗殺計画にどの程度関与していたかを解明し、イラン政府の責任を追及するとしています。
 アメリカ政府の発表について、イラン外務省のメフマンパラスト報道官は11日、声明を出し、「アメリカによって、でっちあげられたシナリオで、我々は強く否定する。この滑稽な見世物は、我々の分断をもくろむアメリカとイスラエルによる陰謀にすぎない」として全面的に否定したうえで、強く批判しました。また、イラン国営メディアも、「アメリカ政府は、イランを敵視する新たなプロパガンダを始めた。自分たちの国内問題から市民の目をそらすために、ねつ造したものだ」などと報じています。
 アメリカのクリントン国務長官は、11日、記者団に対し、「こうした行為は国際的に許されず、直ちにやめるべきだという強いメッセージを国際社会と協力して打ち出していく。国際社会が団結してイランをさらに孤立化させる必要がある」と述べ、イランへの圧力を強める姿勢を強調しました。一方、アメリカ政府の発表を受けて、サウジアラビア政府はワシントンにある大使館を通じて声明を発表し、「国際条約に違反し、人道にもとる卑劣な行為だ」としてイランを厳しく非難しました。また、サウジアラビアの政府高官は、ロイター通信の取材に対し、「看過できない事態であり、イラン駐在のサウジアラビア大使の召還はもちろんのこと、報復措置を検討するだろう」と述べました。サウジアラビア政府は、イランで主流を占めるイスラム教シーア派による反政府デモが国内で頻発したことから、イランによる内政干渉だと非難していた経緯もあり、両国の関係のさらなる悪化は必至とみられます。

 NHKが簡素に伝えようとしていることは理解できるが、この事件のうさんくささは、うまく表現されていない。12日時点ではNHKとしても判断しづらかったのかもしれないが、この事件にはメキシコの麻薬組織を偽装するといった奇妙な背景があり、これが実に、ばかばかしい印象を与える。12日のAFP「イランによるサウジ大使暗殺計画、米当局が阻止と発表」(参照)がそのあたりを上手に伝えている。

■「ハリウッド映画ばり」の暗殺計画
 9月29日にニューヨーク(New York)のジョン・F・ケネディ国際空港(John F. Kennedy International Airport)で身柄を拘束されたアルバブシアル容疑者は11日、ニューヨーク連邦地裁に出頭した。当局によると、アルバブシアル容疑者は、イラン政府筋の関与を供述したという。
 もう1人のシャクリ容疑者は逃亡を続けている。
 ある米高官が「ハリウッド映画ばり」だと表現した暗殺計画は、米当局に雇われた人物が「おびただしい数の」暗殺や殺人で知られるメキシコの麻薬組織のメンバーを装って容疑者らに近づき発覚したという。訴状によると容疑者たちは、サウジ大使を攻撃するための爆発物をこの麻薬組織から入手できると信じ込んだ。
 別の米高官によると、イラン当局はサウジ大使暗殺に続いて、その他の「人命に対する」攻撃も計画していたという。未確認だが、ワシントンD.C.(Washington D.C.)にあるサウジアラビア大使館とイスラエル大使館が標的となる可能性があったとの報道もある。 
 メキシコ当局は、米捜査当局と緊密に連携して協力したと発表した。これによると、アルバブシアル容疑者はメキシコに入国拒否され、ニューヨークへ空路で送り返されたところで米当局に拘束された。

 米国政府がメキシコの麻薬組織を装っておとり捜査をしたというのである。ありえないことではないし、麻薬関連ではおとり捜査は日常的にやっているだろうなとは思うが、こんな大きな話を釣り上げるものなのか、疑問が残る。
 通常、大きな外交問題に発展すと予想されれば、釣り上げても、対応を慎重に検討するだろう。その点、今回の米政府の発表は唐突であり、さほどの説得力もなかった。「なんなんだこれは?」というのが欧米ジャーナリズムの最初の反応であり、私もいくつか様子を見ていた。
 ワシントンポストも懐疑的なスタンスから入った。「Alleged assassination plot serves as a warning about Tehran」(参照)より。

THE OBAMA administration’s charge that senior Iranian officials plotted to kill the Saudi ambassador in Washington was greeted with a considerable amount of skepticism in some quarters of Washington and the Middle East.

イラン政府高官がサウジアラビア駐米大使殺害を目論んだとするオバマ政権による嫌疑は、オバマ政権内でも中近東でも場所によっては、かなりの疑念を投げかけられた。

Iran, argued some pundits, was unlikely to have undertaken such a brazen attack; it had little to gain by killing the ambassador; and, anyway, its clandestine operations were known to be far more skillful than the seemingly bumbling attempt to contract the assassination to a Mexican drug cartel.

そのような恥知らずの攻撃をイランが引き受けることはないだろうと指摘する評論家もいる。大使を暗殺しても得るものはほとんどなく、イランならメキシコの麻薬組織に下手を打ちそうな暗殺依頼するより、はるかに巧妙な秘密行動ができる。


 普通の反応としては、「なんだそのジョークは」という話である。
 ニューヨークタイムズも普通の反応を当初はしている。イランによる暗殺計画について、「The Charges Against Iran」(参照)より。

This plot appears extraordinarily brazen — the first major Iranian attack on American soil — and almost laughably sloppy.

イランによる最初の主要な米国本土攻撃となりえた、この陰謀は、恥知らずもにもほどがあるといったもので、ばかばかしくて笑っちゃうといったものである。


 ところが、ニューヨークタイムズはオバマ・マジックに目眩ましされいるというか、オバマ真理教に帰依してしまっているせいか、おかしな理解になる。

It is a relief that Mr. Obama will be the one to weigh the evidence and make the decisions, not his predecessor. He has proved his mettle with the raids that killed Osama bin Laden and other Al Qaeda leaders.

オバマ氏が、証拠を考慮し決定を下す。彼の前任者ではないので安心できる。彼は、オサマ・ビンラディンや他のアルカイダリーダーを急襲して殺害することで気概を示した。


 ニューヨークタイムズは、自分たちがブッシュ支持派だったら物事をどう見たかという他者への想像力を欠いている。オバマ大統領がすでにテロリストと化していることにも気がついていない(参照)。
 ブッシュ前大統領の決断の是非は歴史が審判すればよいが、その背景は歴史の進展とともに可視化してきている。
 今回の事件でも、暗殺の標的とされたアデル・ジュベイル駐米大使はサウジアラビアのアブドラ国王の外交政策顧問であり、2008年のウィキリークス公電で、サウジアラビアのアブドラ国王命で米政府に「蛇の首をへし折れ」として、イランへの軍事攻撃を要請した(参照)人物である。
 ここから当然、類推されることだが、公電のような半公開の情報ではないにせよ、実質ブッシュ政権を支えていた、サウジアラビアのお小姓役チェイニー元副大統領にも、同様にイラク攻撃はサウジアラビア側から示唆があっただろう。
 つまるところ今回の事件の大枠は、サウジアラビア対イランの緊張でもあり、この手のばか話を外交にまで持ち込めたのは、そもそもサウジアラビアの認可があったはずだ。実際、今回のオバマ政権の発表でもスンニ派諸国は、サウジアラビアに気遣ってすんなりと米政府支持側に回っている。
 サウジアラビア側は懸念だが、オバマ政権の現状ではイラクに軍事的空白ができかねないこともある。ウォールストリート・ジャーナルのふかし記事と言えないこともないが、「サウジとイランがイラクで代理戦争か―米軍撤退後に」(参照)が興味深い。

 サウジアラビアとイランとの間の緊張の高まりを受けて、今年末に米軍の少なくとも一部撤退が予定されているイラクで、サウジとイランの代理戦争が再発するのではないかとの懸念が強まっている。
 アラブの春の思わぬ影響の一つが、中東におけるサウジの支援国とイラン支援国との間の力の均衡が崩れたことだ。サウジはイランがバーレーンやイエメンで政情不安をあおっていると非難する一方、イランは反政府抗議行動を弾圧しているシリアを支援し、中東地域の民衆のイラン支持の低下に見舞われている。
 スンニ派が支配するサウジとシーア派のイランは、イラクでそれぞれの宗派を支持してきており、サウジとイランはイラクで新たな対立を引き起こす可能性が大きい。
 米政府が先週、イランが駐米サウジアラビア大使の暗殺を企てていたと明らかにしたことは、アラブ世界を震撼させた。スンニ派のアラブ諸国は、イランがイラクやレバノン、シリアなどで影響力を強めていると懸念を抱いている。イランは米政府の発表について、イランとサウジの緊張を呼び起こすためのでっち上げだと否定している。
 サウジは近年、イランによるシリアやレバノンに対する影響力の拡大を阻止しようと努めてきているが、成果をあげていない。サウジはイラクについては、シーア派主導の政権ではあるものの、米軍の大規模駐留がイランの影響力浸透の防波堤になっているとみてきた。
 サウジは、イラクでシーア派とスンニ派との宗派紛争が最高潮となった2006、07年にはイランが歴史的にはサウジの裏庭であるイラクに影響力を強めようとしているとみて、イラクのスンニ派武装勢力に対し積極的に資金援助を行った過去がある。
 アラブの当局者は、イランからイラクのシーア派への支援のパイプラインは強化されている一方、サウジによるイラクのスンニ派への支援網も簡単に復活するものだと指摘する。あるアラブの外交官は、「米軍が撤退すれば、イラクがサウジとイランの新たな競技場になる可能性がある」と述べる。

 言うまでもないが、湾岸戦争ではイラクはサウジアラビアに手を出していた。イラクのフセイン元大統領の野望はサウジアラビアを手中に収めてアラブ世界の盟主となることだったからである。サウジアラビアがそれを許すわけもない。また、サウジアラビアの絶対的な力はその圧倒的な原油埋蔵量にあるのだが、イラクにはそれに準じる原油が眠っており、その支配をサウジアラビアが看過するわけにはいかなかった。
 こうした大きな要因が、ブッシュ政権によるイラク戦争の背後にあり、ニューヨークタイムズがブッシュ大統領をコケにして済む話ではない。
 今回の暗殺疑惑だが、オバマ政権によるでっち上げだろうか。
 おそらくこれだけの威信を持って行われたことや、カネの流れの追跡やその後の経緯からも、まったくのでっち上げとは思われない。
 そうであれば、イランは何を考えているのかだが、端的に言えば、イラン内部の権力闘争の反映は想定されるだろう。この点については先のワシントンポスト社説も指摘していた。
 権力闘争という点で、もっとも大きな線に関係するのは、イランの最高指導者ハメネイ師である。日本語で読める記事としては日経「イラン最高指導者「大統領制変更も可能」(参照)がある。

イランの最高指導者ハメネイ師は16日の演説で、現在の大統領制度を変更し、議会の多数派政党が権力を握る議院内閣制などほかの制度に移行することも可能との考えを示した。イラン国営テレビが伝えた。アハマディネジャド大統領をけん制する狙いとの見方もあり、同大統領の立場が一層不安定になる可能性がある。


 ハメネイ師は今年に入り頻繁に閣僚を交代させようとしたアハマディネジャド大統領を批判。議会も大統領非難を強め、大統領は孤立する局面が目立っている。今回のハメネイ師の発言は、自らが選挙で選ばれた大統領より上位にあり、指導者選出の制度改革を決める力があることを改めて示す狙いがあるようだ。

 話を戻して、オバマ政権が、なぜここまで大きな話に吹かし上げたかについては、むしろ、この騒ぎ立て自体がオバマ政権の外交戦略と見るべきだし、サウジアラビアとの関連が明確である。
 と同時に、オバマ大統領再選の文脈も否定しがたい。その線で見るなら、ロビーに対する演出効果として対イスラエルの関連があるかもしれない。イスラエルはイランの核化を断固阻止する構えを続けている。
 いずれにせよ、今回の事態にオバマ政権の自己保全の意図が含まれていると、純然と扱うべき外交問題を混乱させる懸念が残る。この点は、フィナンシャルタイムズ「Bomb plots in Washington」(参照)の指摘が妥当である。

The alleged Iranian plot to assassinate the Saudi Arabian ambassador to the US is straight out of the pages of a spy thriller. Yet the allegations, while unproven at this stage, are deadly serious. If mishandled they could be explosive, not just in the US but also across the Middle East.

イランによるサウジアラビア駐米大使の暗殺疑惑、スパイ・サスペンス物語のまんまである。にもかかわらず、その意味合いは、現状では証明されたとは言い難いが、ひどく深刻である。適切な扱い方をしなければ、米国を吹っ飛ばすのみならず、中東をも吹っ飛ばすだろう。


 オバマ政権が対応を誤れば、ブッシュ政権がイラクに戦争を仕掛けた以上に、危険な事態にもなりかねない。
 
 

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