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2011.09.03

野田どじょう内閣発足

 野田どじょう内閣が発足した。人事を見てさして驚きはなかった。幹事長の輿石氏の起用ですら、なるほどねと思った。多少曖昧な推測になるが、どうも小沢氏は野田氏選出を読んでいたふうがある、というか、小沢・輿石ラインで野田側との妥協線があったように見える。その符牒がそもそも「どじょう」であったようだ。読売新聞「野田さんのドジョウ、輿石さん直伝・相田作品で」(参照)より。


 演説を聴いて野田氏への投票を決めた議員も少なくない。演説の核の一つとなった、自らを「ドジョウ」に例えたくだりは、書家・詩人の相田みつを氏の作品を下敷きにした。作品は、民主党の輿石東参院議員会長の紹介で知ったという。
 原典は、相田氏の単行本「おかげさん」に収録されている「どじょうがさ 金魚のまねすることねんだよなあ」という作品だ。野田氏はこの作品を「大好きな言葉」として引用し、「ドジョウにはドジョウの持ち味がある。金魚のまねをしてもできない。泥臭く、国民のために汗をかいて働いて、政治を前進させる。ドジョウの政治をとことんやり抜きたい」と語り、「飾らない人柄」を印象づけた。
 野田氏周辺によると、野田氏が8月上旬、輿石氏の国会内の事務所を訪れた際、輿石氏が「あれ、いいだろう」と壁に飾られた相田氏の作品を紹介したという。野田氏はその後、輿石氏に作品が入った本をプレゼントする気配りもみせた。

 読み過ぎのきらいもあるが、シャレを除いても輿石氏側との実質的な妥協の線はさぐられていて、これも率直にいえば、小沢氏がもっとも気にしている党資金を小沢氏の代理人の輿石氏に渡すということで、この時点で幹事長役は決まっていたということなのだろう。
 野田氏にしてみれば、それで小沢派を抑えることができるし、小沢・輿石氏にしてみれば党資金を牛耳れたのでウインウインということでもあるのだろう。上手な政治と言えないこともない。
 この暗黙の協定が存在するかどうかは、朝日新聞社説がいち早く察知していたが、岡田克也前幹事長が決めた「300万円以上の組織対策費を個人に出す場合は外部監査の対象にする」というルールを輿石氏が継承するかでわかる。しないでしょ。
 かくして、それだけ決まれば後は些末に近い。
 やや意外だったのはもれなく付いてくると思われた与謝野馨氏の入閣がなかったことだが、おやこれはどうしたことか、などと疑問に思うまでもなかった。
 野田代表の選出時に与謝野氏は「政策の連続性が担保できた。ほっとしている」(参照)と述べ、野田氏への信任をさも語るようにも見えたが、与謝野馨前経済財政担当相で、その後継の経済財政担当相はどうなったのかと見れば、与謝野氏の思惑もわかる。古川元久経済財政担当相である。元大蔵官僚で霞が関パイプに通じる適任者である。あはは。与謝野さん、いい仕事したな。
 その他の閣僚メンツについては、また女性閣僚が二名という惨状。野田氏を筆頭に40歳の細野氏など若い政治家が印象的だが、平均年齢は58.3歳。菅内閣が59歳、鳩山内閣が60.7歳。なんだか古色蒼然の感のあった鳩山内閣より2歳ほど若い程度。新入閣は10人。ちなみに鳩山内閣では14人。個別に見ていくと、自民党時代のように党内派閥を考慮しましたねというくらいでさしたる特徴はない。
 前原氏が外務相か防衛相に就くかとも思ったがそれもなく、政調会長となった。実際のところ、外務・防衛については民主党では党内意見集約が最初に問われるし、同盟国はほぼ匙を投げているので、これでよかったのかもしれない。財務相が安住淳氏で驚きの声も聞かれたが、ここは風通しの良い間を配するのが日本文化というものだ。財務相の声もしぐさもわかりやすくなりました。
 ないものねだりをしてもしかたがないので、これでやると野田首相が決めたのだから、うまくいくことを願いたい。それに、よい面もある。
 政調を据え、さらに自民党政権のように「法案事前審査制」を導入を目指していることだ。以前のエントリー「民主党鳩山政権はなぜ失敗したのか: 極東ブログ」(参照)や「小沢独裁を機構的に押さえる政調の復活はよかった: 極東ブログ」(参照)でも触れたが、民主党政権の本質的な問題である。
 報道を拾っておく。読売新聞「民主党、法案事前審査制を導入へ」(参照)より。

 民主党は2日、政府提出法案の閣議決定前に党側が了承を与える事実上の「事前審査制」導入を柱とした、政策決定システム見直しの原案をまとめた。
 「政策にかかわる党議決定の審議に際して、部門会議などに付託する」と明記。政府提出法案を政策調査会の下部組織である「部門会議」が審査し、了承しなければ閣議決定ができないとした。
 部門会議の結論は、前原政調会長ら政調幹部と政府代表の官房副長官らによる協議で了承を得て「党議」とすることも盛り込んだ。党側は「これで政策決定の政府・与党一元化は維持される」(政調幹部)としているが、実質的には党による事前審査の仕組みとなる。

 これで、小沢派の暴走や党内造反を防げるし、自民党時代のように官僚も政治がしやすくなる。
 当然、当初、民主党が政調の代わりに構想した国家戦略局だか国家戦略室だかは不要になるので、事業仕分でさっさと廃止するとよい。ついでに、古川元久国家戦略担当相も廃するとなおよしではあるが、本人いわく「もう一度、戦略局への格上げを目指したい」(参照)なので、兼任の経済財政担当相として国家戦略局を増税ヘッドクォーターにするのかもしれない。


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コメント

最初から腰が引けていますよ。

野党の協力を得るのに失敗して、解散総選挙になるのもやむなし、という布陣の内閣。

安住、細野、玄葉といった若手閣僚は、総選挙になっても当選させて、今後の党の種石に温存するために起用したと思います。

小宮山厚生労働大臣は、比例ではもう当選できないから、これまでの働きのごほうびをくれてやったというところでしょう。

本当になにかひと働きする気があるなら、こういう場合には、外務大臣は、民間から起用してもいいはず。

出発点からもう「ぶん投げ内閣」。私に言わせればね。

投稿: enneagram | 2011.09.03 15:20

国家戦略室は「国家戦略会議」として、経済財政諮問会議の衣替えに活用されるようです。
エコポイントや子ども手当などと同じく、自民政権の政策を実質的に引き継ぐことになるのでしょう。
揶揄はともかく、これは2つの点で優れていると考えます。
第一に、hamachan氏が書かれているように、政・財・労のトップによる政策調整機関であること。とくに、労働界のトップが加わるのは、自民時代の経済財政諮問会議より優れている点です。
第二に、あちこちで書かれているように、日銀と政府の政策調整ができること。これは経済財政諮問会議と同じ機能ですが、政権交代以降久しく失われていた重要な機能です。

(参照)
政官民で「国家戦略会議」 首相方針、経済財政の司令塔に
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-d428.html

投稿: snoozy | 2011.09.04 10:19

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