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2011.08.01

オスロ事件の印象

 もうさほどニュースにも上らなくなったオスロ事件だが、あれはなんだったのだろうか。亡くなられた方を哀悼したい。
 私が当初連想したのは三菱重工爆破事件とテルアビブ空港乱射事件だった。菅首相の世代の日本人が引き起こした事件と言ってよいのではないか。日本人もやりそうな事件だなとまず思った。
 英米圏はどう受け止めているのだろうか。渦中、いくつかニュースにあたってみると、彼らはオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件を連想しているようだった。ティモシー・マクベイがよく引き合いに出されていた。なるほど、類似点はある。
 その後、容疑者がインターネットにアップロードしたとされる1500ページもの文書にユナボマーの引用があるというのも話題になあり、その線の話や、また「ターナー日記(The Turner Diaries)」を引いた論評なども見かけた。なんとか、この事件を物語り的に理解したいということなのだろう。
 日本ではというと、移民排斥の右派思想が暴走したというストーリーが好まれていた。容疑者が会いたい人物として、麻生太郎を上げていたので、これ幸いと右派的な傾向と結びつけている短絡な反応もツイッターなどでよく見かけた。
 容疑者が一番会いたい人物が教皇で、自身もテンプル騎士団になぞられているのだから、まずキリスト教の文脈でもありそうなものだが、人はそれぞれ自分の正義に都合のいい勝手な物語を事件に投げかけていた。不安で思想的に誰かを攻撃したいという心情があるのかもしれないが、それこそがこの事件と相似の印象を与えてもいた。
 そしておそらく、それがこの事件の副作用的な本質なのかもしれないが、そうした物語の読みはたいがい、ハズれている。
 この事件はなんなのか。
 ネットを探ると該当の1500ページの文書は容易く入手できた。ワードで書いたものがPDF化されていた。パラパラと読むだけでわかるが、端的に言うと、コピペ集だった。
 容疑者自身の文章もあるにはあるが、危険思想といったほどの思想的な趣はない。一種の文明史観の亜流のような印象があり、日本でいうと、意外と「ネオリベ」をキーワードに批判している一群の評論のような、反グローバルな思想に近い。
 他、想像の逸脱は諸処にあるものの、神秘主義やオカルトが強く漂うということはないようだった。もっとも、同じく公開されたユーチューブの映像のほうは、寄せ集めた映像のせいか、かなり馬鹿馬鹿しさが漂っている。
 該当文書で多数引用されているのは、Fjordmanというブロガーによる議論である。ブロガーといっても、この人はそれなりに体系的な思索をする人で、日本で言ったら西尾幹二に近い印象を持った。事件後だが、Fjordman自身もこれには迷惑を覚えたようで、自分はこの血なまぐさい事件には関係ないですよといった声明を出していた。
 容疑者の右派思想とされている根にあるものは、多分にこのFjordmanの思想なのだが、大手のメディアでもブログなどでも、それを論じ分ける人は見かけなかったように思う。それも不思議といえば不思議な印象を受けた。みなさん、現物を読まなかったのだろうか。
 つまらない文章だなと思いつつ、私はパラパラと捲っていた。が、さすがにこれは奇っ怪だなと思ったのは、今回利用した爆弾を製造していく日記の部分である。そこには、計画的に、緻密に、素材を集めて、実験して作成していく勤勉な人のようすがあった。これもどことなく業務日誌といった風情に近い。作っているものは市民社会を爆破するとんでもないものなのだが、文章に狂気が漂うというふうでもない。
 巻末近くは、面白いというのもなんだが、想定問答集が載っている。容疑者にインタビューしているといった趣向で、先の麻生太郎の名前もそこにあるのだが、これを読めば、まあ、ご当人有名人物気取りでいる心情がわかって、痛い。
 メディアに流布されている写真も、この文書の巻末に写真集としてまとめられていたもので、それを見ても、普通に立派になったボクちゃん幻想が滲んでいる。

 本人談では、数世紀にわたるイスラム教徒によるヨーロッパへの植民地化を終わらせるための革命を準備した先制攻撃だというのだが、一歩一歩念入りに作り上げちゃった幻想なのではないのか。
 なんというのか、地味に着実にポジティブに事業計画を遂行していくことで、せっせと自己幻想がきちんと成長していって、どっかで引き返せなくなっていったのではないかという印象が私にはある。方向性が違っていたら、鳥かなんかを神風特攻隊に模したスマートフォン向けゲーム会社でも作って成功していたかもしれない、といったような。
 BBCには容疑者の学生時代の知人の談話があった(参照)。学生時代の友人は、容疑者の写真を見てご当人だと認めつつも、そんなやつではなかったんだがなあという話になっている。
 重大な犯罪者の過去を探ってもなにもないという類型の一つのようだが、その話を聞きつつ、描かれる青年の凡庸さが、むしろ、あの文書の凡庸さと釣り合っている。
 学生時代の思い出で容疑者で多少変わった点といえば、ウエイトリフティングへの固着があったことだ。そのあたりも、今回の爆弾作りと似ている印象はぬぐえない。他にも「コールオブデューティ、モダン・ウォーフェア2(Call of Duty: Modern Warfare 2)」 といったゲームが好きだと漏らしていたようだし、そのあたり、うへえ気持ちわるいなコイツ、といった像も描けないわけでもない。でも、そんなやつは世界にごろごろしている。
 容疑者の個人史などもいろいろ研究もされるのだろうが、なんとなくの印象だが、大事件を説明する、詰めの決定的な要素というのは出てこないのではないか。
 「継続は力なり」、赤尾の豆単に載っていた言葉ではなかったかと思うが、凡庸な人間でも継続していけば力がつくといった意味だった。今回の容疑者を見ていると、凡庸な人間が、小さな継続していくと大きな狂気になるのではないかとも思える。
 むしろ狂気というのを見るなら、地味にこつこつ1500ページのコピペ集を作ってしまうという律儀さにあるかもしれない。それをいうなら、きちんとブログを何年も書き続けている人間なんていうのも、ご同輩。

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コメント

オスロしい事件ですね・・・(再録)

投稿: gm | 2011.08.02 15:23

参考資料は面倒なんで一切見てませんが(コラ!)、なんか見当つきますねえ。
ローマ法王に会いたいとか、プロテスタントが多い筈のノルウェーでカソリック的だし、テンプル騎士団となると十字軍的色合いも見える。というか十字軍にでもなった気で移民排斥に走った。
真面目に爆発物製造日記書いてるというのも、コツコツ真面目なタイプで、なんか有名になりたいんですぅ、みたいな願望も見えて。

日本人でなら韓国中国から不法滞在してる人間がキライで、在日組がきらいで、そして国の有り様も真面目に嘆いている。というタイプですね。ある種「ねらーでよく居るだろうと言われるネトウヨタイプ」ってやつですか。
日本人だとこれで爆発物製造にまではなかなか突っ走らないでしょうけど、たまにいる爆弾マニア(大概は自宅で誤爆しちゃう)ぽくもあり。
敢えて言うのなら日本でなら秋葉原連続殺傷の加藤被告が似てるかもしれませんが、かれは個人的な不満とかストレスが暴発したわけで、十字軍的意識はありませんでしたから。

アメリカでなら、イラン革命直後のイスラム嫌いが暴発した感じかもしれませんが、アメリカでなら移民街で銃乱射してもワシントンで爆破はやりませんからねえ。
そういうところはやっぱりお国柄でしょうか。

投稿: とおりすがりの。 | 2011.08.07 00:45

 これもおまけ。 日経ビジネスオンライン。
「滅私奉公」から「活私開公」へ http://t.co/H52FHiq

福島の話でオスロ話から行くとは思わなかったけど、なかなか面白い分析でした。

投稿: とおりすがりの。 | 2011.08.07 22:30

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