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2011.08.20

茶会党(ティーパーティー)バッシングという都合のいい物語

 ブッシュ政権時代、米国メディアによる政権への批判は激しいものだった。なぜかそれに便乗してブッシュ政権を叩けばいいとした日本のメディアもあり、滑稽だった。それが昨今では茶会党(ティーパーティー)叩きになっているように見える。こうした、どこかに悪のグループがいて叩けばいいとする短絡な政治観には困惑するし、メディアが図に乗るのは問題である。兆候が見えるうちに指摘してしておいたほうがよいだろう。言うまでもないし言っても無駄かもしれないが、私は茶会党を支持するわけではない。メディアが暴走しているときは市民が批判したほうがいいだろうと思うだけである。
 理不尽な茶会党叩きという点でわかりやすい記事があった。毎日新聞「米保守革命:第1部・ティーパーティーの実像/2 非妥協で政治が機能不全」(参照)である。こう切り出されている。


 米国で広がる草の根保守運動「ティーパーティー(茶会運動)」は、安易に妥協しない強硬姿勢がしばしば批判される。茶会の掲げる「原則論」が対立陣営との摩擦を呼び、政治が機能不全に陥りつつあるのが米中西部のウィスコンシン州だ。

 つまり、茶会党の強硬姿勢が対立陣営との摩擦を引き起こし、政治が機能不全になる、というのが記事の主題である。
 「しばしば批判される」と他人事にようにしているが前後の文脈からすれば、茶会党への批判記事と理解してもよいだろ。
 では、いかなる、茶会党の強硬姿勢が、対立陣営との摩擦を引き起こし、政治が機能不全になったのだろうか。その具体的な事例の事実関係はどうだろうか。見ていこう。

 州東部にある人口4万人の田舎町フォンデュラック。町中心部にあるレクリエーション施設に今月初旬、大型バスが乗りつけた。茶色の車体に描かれた全米地図と、「ティーパーティー・エクスプレス」の金文字が人目を引く。
 エクスプレスは、茶会運動の拡大を支えてきた代表的な団体の一つだ。昨年11月の中間選挙では「小さな政府」を目指す議員らを応援するため、全米をバスが走り回った。ウィスコンシン入りの目的は、リコール(解職)された共和党の州上院議員6人の出直し選挙を応援するためだ。

 ドキュメンタリー風の台詞はどうでもよい修辞である。事実関係を見ると、リコール(解職)された共和党の州上院議員6人の出直し選挙を応援するために茶会党が乗り出したということがまずある。
 「茶会党の強硬姿勢は対立陣営との摩擦を引き起こし、政治が機能不全になる」という主題からすれば、文脈上当然、共和党の州上院議員6人の出直し選挙が政治の機能不全ということになる。だがそのあたりから、もし茶会党=悪の組織とでもいうような短絡的な前提を置かなければ、常識的に考えて奇妙な話に思える。
 実際はどういう背景なのだろうか。

 州財政削減を公約に掲げた知事は昨年、茶会の支持を受けて当選。就任すると、州政府職員削減を視野に公務員の団体交渉権を剥奪する法案を提出した。反発する労組は州都マディソンの議事堂を占拠。民主党上院議員14人は定数不足に持ち込んで採決を阻止しようと隣のイリノイ州に「逃亡」した。
 結局、議会規則上、採決する方法が見つかり、法案は共和党議員の賛成多数で可決、成立した。しかし、与野党対立は収束せず、民主党と労組は共和党議員のリコール運動を繰り広げ、6人が辞職に追い込まれたのだ。

 話の発端は、茶会党支持の知事が公務員の団体交渉権を剥奪する法案を提出したことだ。当然、提出しただけで議会で議論される前のことだ。これに労組が反発して議事堂を占拠し、さらに民主党上院議員14人が「逃亡」し定数不足で採決を阻止しようとした。
 つまり、労組と民主党が議会手順を踏みにじり、議論を封じるという強攻策に出たということである。
 そしてそれが失敗すると今度は、労組と民主党は共和党議員のリコール運動を展開し、6人の共和党議員を辞職させた。リコールは民主主義の手続き上正当な制度であるから、それ自体は強攻策とも言えないが、文脈的には強硬な手段と見てもよいだろう。言うまでもなく、この強攻手段に出たのは、労組と民主党である。
 あれ?
 これはどう見ても、「強硬姿勢は対立陣営との摩擦を引き起こし、政治を機能不全」にしたのは、労組と民主党ではないか。
 毎日新聞記事の主張はまったく逆ではないか。
 なぜ、毎日新聞はこんなヘンテコな記事を出したのだろうか。
 おそらく、「公務員の団体交渉権を剥奪する法案を提出」ということが絶対的な悪といった前提になっているから、それに対して、非民主主義的な強攻策に訴えた労組と民主党は正しいとでもいうのだろう。スターウォーズみたいな発想だろう。そして、そもそもの強硬姿勢は「公務員の団体交渉権を剥奪する法案を提出」だというのだろう。そう仮定しないと理解はできない。
 しかしもし、そういう仮定でのロジックであるなら、「公務員の団体交渉権を剥奪する法案を提出」が間違っているということが、第一に支援される論点でなくてはならない。
 ところが、その論点が記事でどう支援されているかというと、次の一点である。

一方、世論調査によると、公務員の団体交渉権停止については州民の過半数が反対しているという。

 毎日新聞記事による茶会党叩きの根拠は、世論調査なのである。司法上の問題ではない。まして、議会運営の不当でもない。論拠は薄い。
 毎日新聞記事の論点も混乱するほかはない。というか、この部分は詐術に近い。

 今月9日のリコール選挙で共和党は6議席中4議席を維持し、上院(定数33)で過半数を確保した。「いま大事なのは雇用創出であり、共和も民主もない。協力できることから始めたい」。リコールされた後、そう話していたランディー・ホッパー議員(45)は惜敗、雇用創出に取り組む機会は失われた。

 話をすんなり読むなら、労組と民主党の強攻策でリコールされた共和党議員が返り咲いたのは、「ティーパーティー・エクスプレス」大型バスによる茶会党の運動であり、それこそが強攻であり、政治混乱を引き起こし、雇用創出機会も失われたというのだが、この話は、嘘と論点の錯綜である。錯綜というのは、雇用創出はまず当面の問題ではないということだ。
 ではどこが嘘なのか。
 フィナンシャルタイムズ「Obama needs a triple A campaign」(参照)が簡素に事態を伝えているので参照するとわかる。

The state’s GOP governor has assaulted public-sector unions; Democrats and their union allies responded with well-funded attacks on Republicans they saw as beatable. But they won only two out of six seats targeted – contests that the Republicans should have lost for other reasons anyway – and failed to topple the GOP’s state Senate majority. Democrats are not winning this argument.

ウィスコンシン州の共和党知事は公共部門の労働組合を攻撃した。対するに、民主党と労組の同盟は、共和党を打ちのめすことができると見て、潤沢な資金を元に応じた。ところが、民主党が勝ち得たのは、目標としていた6議席のうちの2議席にすぎなかった。しかもこの2議席については別の理由から共和党ですら失うと見られていたものだった。かくして、上院議員共和党多数の転換に失敗した。民主党はこの問題に勝ち得ていない。


 フィナンシャルタイムズが述べているように、真相は、労組と民主党が組織とカネにものを言わせて共和党議員潰しでリコール運動に持ち込んだが、返り討ちにあったというだけの話である。労組と民主党が議会手順を混乱させて政争にしたが、しっぺ返しを食らったということだ。その負け惜しみに、茶会党の宣伝カーなどを持ち出して茶会党を悪に見立てているだけなのである。
 政治の世界はスターウォーズではないのだから、悪を見立てるといった短絡な話にしないほうがよい。

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コメント

この話題についてはアメリカ在住のカカシさんが丁寧にフォローしていますね。エントリーを二つ紹介します。

ウィスコンシン州知事全面勝利、明るみに出た民主党と労組の腐敗ぶ
http://biglizards.net/strawberryblog/archives/2011/03/post_1191.html

一般選挙まで待てない、ウィスコンシンの労働組合の共和党議員大量弾劾選挙の結果はといえば、、
http://biglizards.net/strawberryblog/archives/2011/08/post_1272.html

反ティー・パーティーのスタンスを取るのは報道機関の自由でしょうが、正確な動向を伝えて欲しいものです。

投稿: ペペロンチーノ | 2011.08.20 19:18

茶会党の諸々の政治課題への対応は兎も角、その活動の根底に流れているであろう精神が、米国の強さの源であると思います。

誤:政党な制度である
正:正当な制度である

投稿: 泥舟 | 2011.08.20 23:40

たいぽ?
> リコールは民主主義の手続き上政党な制度であるから、

「政党な制度」

投稿: 774 | 2011.08.21 11:29

誤記、修正しました。ご指摘、ありがとうございます。

投稿: finalvent | 2011.08.21 11:35

そもそもウィスコンシン知事が「公務員の団体交渉権を剥奪する」というのは、知事の選挙公約には「一切」含まれていませんでした。ですので当の公務員でさえこの知事に一票を投じた人もたくさんいるわけです。世論的には「公約違反だ」ということで最初から「悪」の見方が存在したわけです。この部分について知事は当初「選挙活動中公言していた」と発言していましたが、そういった発言記録は一切なく、それを反対派や識者に反論された後には「ハッキリとはそう言ってはいないが、そういう意味を含めていた」と言い直しています。それで知事に投票した市民などは「こんなことをするとは思ってもいなかった」と公務員以外にも州の半数が怒ったわけです。

>当然、提出しただけで議会で議論される前のことだ。

知事を初め、共和党議員はこのbillを1週間という短い期間でセネットとハウスを通そうをしました。共和党議員の数は多いですから民主党の票なしで通せますから。民主党は「話し合い」を要求したのですが、知事と共和党は「compromise するつもりは一切ない」と公言し、議論もなにも出来ない状態でした。民主党議員はイリノイに逃亡したこと、また組合や市民がこれだけ激高した背景には、知事が通そうとしたbillには公務員の団体交渉権剥奪などはほんの一部で、それ以外にも知事が勝手に他州の会社に農地を売り払える権利を持つようにするとか、それまでウィスコンシン州で進めてきたリサイクルシステムを逆戻りする(予算をなくした)法案があったり、また低所得者や障害を持つ人たちが使えるバジャーケアというシステムを大幅に縮小する、などなど以外にも、知事が勝手に人事をアポイントできる(今までは議会の決定が必要だった)ようになる案件もとても多かったため、反対側の意見を聞こうともせず「絶対意見を変えない」と言い張る知事に反対する人間が多かったんです。
「州は破産状態だから公務員の給料を下げる/公立学校の予算を削る」と言ったにもかかわらず、公立学校の予算を800ミリオン削り、そのくせに総予算額は昨年より約1ビリオン近く増えたという状態の上、次々に共和党議員の身内や、以前の部下に州の要職を与え、「お金がない」と言ったにもかかわらず新しくポストにつかせた身内には(これも今は知事が独自にアポイントできるので)前の職員より何割増(最近発覚したミルウォーキー時代の部下は前任者より60%も給料を増やして州の要職につかせていた)ものサラリーをあげていることなども反対派市民の反感を買っています。
知事は自分もリコールの危機にある現在になって「compromiseするところはするし、話し合いにも応じる」と軟化しているのですが、その態度を2月の時点で示せていれば、こんなに州がまっぷたつに分かれてしまうこともなかったのでは、という意見も多く聞かれます。

ティーパーティーに関しては、特に今年に入ってからは仲間の共和党議員の中にも反共感する人間が増えてきているのが事実なので(以前より更に右に寄り過ぎているとの意見で)、日本でそのような報道がされるのも理解できます。

ちなみに私は共和党でも民主党でもなくインディペンデントの立場で今まで来ていますが、昨今の共和党の「妥協はしない」という頑な態度には共感できないでいます。
共和党支持者は民主党と組合に反感を持った意見が多いし、民主党支持者は共和党や知事に関して反感を持った意見が多く(当然ですが)州は本当のまっぷたつの意見に分かれてしまっていますので、11月から始まるであろう知事リコール(知事に投票した公務員などは公約違反だと言っていますから)の先行きがどうなるか、と言った感じです。

投稿: ひよこ | 2011.09.22 09:54

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過去に何回も取り上げている極東ブログの「茶会党(ティーパーティー)バッシングという都合のいい物語」を読んだ。 今月行われた、ウィスコンシン州の共和党議員リコール選挙の事を的確に分析している。 新聞は見出しではなく、ベタ記事を丹念に読めば正確な状況が把握...... [続きを読む]

受信: 2011.08.20 21:07

» 日本メディアによる米ティーパーティー叩き [In the Strawberry Field]
読者のSatoさんから、日本メディアによる米茶会党バッシングに関する記事の紹介があったので、こちらでも紹介しておこう。 この話を書いているのは極東ブログ。 ブッシュ政権時代、米国メディアによる政権への批判は激しいものだった。なぜかそれに便乗してブッシュ政権を叩けばいいとした日本のメディアもあり、滑稽だった。それが昨今では茶会党(ティーパーティー)叩きになっているように見える。 つまるところ、日本のメディアはアメリカメディアの報道を日本語で焼き直ししているに過ぎないというカカシの主張がティーパーティー... [続きを読む]

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