新首相に寄せる欧米の視点
民主代表選挙前になるがワシントン・ポストが日本の政権をメリーゴーラウンドに例えていた。国内紙にも言及が多少あった。一例を引こう。共同「菅首相:退陣表明 日本政治はメリーゴーラウンド 毎年トップ交代に米紙苦言」(参照)より。
【ワシントン共同】米紙ワシントン・ポストは27日、菅直人首相の退陣表明で日本の政権が再び短命で終わることを受け「日本政治の回転木馬」と題した論説記事を掲載、現状が「優れた政治制度への過渡期か、継続的な衰退の症状か、答えられるのは日本だけだ」と主張した。
記事は、日本の政治状況について「ねじれ国会」により、米議会と同じ「行き詰まり状態」になっていることに加え「毎年大統領が選ばれる特徴がある」と指摘。政治が不安定なため、「日本は能力以下の仕事しかしていない」とした。
2009年に政権交代があった日本が「2大政党制か、多党制かにたどり着くまでの道は平たんでない」と分析した。
ワシントンポスト社説の要約としては簡素にまとまっているが、該当の社説にはもう少し陰影があった。「A political merry-go-round in Japan」(参照)がそれである。
WHEN JAPAN suffered its terrible earthquake in March, there was hope for a silver lining: Perhaps the squabbling, ineffectual leadership class in Tokyo would pull together and rally to the cause of reconstruction.日本が3月、深刻な地震被害にあった時期には、好転の兆しとなる希望もあった。政権内で足の引っ張り合いをして、仕事をしない指導者たちでも、復興の大義に向けて力を合わせるのではないかと思われていた。
So far, no such luck. Ordinary people affected by the quake won the world’s admiration with their mixture of neighborliness and quiet determination. Japan’s leaders, by contrast, seemed confused, often absent, at times ill-informed and at times misinforming.
だが今に至るも、そのような幸運はない。震災の影響を受けた日本の庶民は、助け合いの精神と言葉少ない決意をもって世界の人々の称賛を得たが、日本の指導者たちは混乱しているようでもあり、しばしば放心し、時には誤報や誤解にまみれていたようだ。
Instead, the earthquake has given rise to a kind of anti-nuclear populism, with leaders promising to reduce Japan’s reliance on the atom without providing any road map for doing so.合意形成ができないどころか、地震によって反原発といった大衆迎合主義が沸き起こり、日本の指導者達は、実施の見込みもないまま、原発依存を削減すると約束した。
On Friday the populist-in-chief on that score, Prime Minister Naoto Kan, resigned — becoming the sixth Japanese leader to step down in five years.
金曜日には、大衆迎合主義の筆頭たる菅直人首相が辞任し、この5年で6人目となる首相が登場することになる。
米国としてはあきれてものが言えないという状態でもあるが、特に計画性のない反原発を大衆迎合主義と見ていることと、その筆頭にあるが菅首相であると見ていることがわかる。
米国にとって日本の迷走が問題となるのは、単純に東アジアの権力バランスである。
This matters, and not just to Japan. As a rising China challenges democracies throughout East and Southeast Asia, Japan, with the world’s third-largest economy after the United States and China, should be helping to provide balance.日本の迷走は日本だけの問題ではない。東アジアや東南アジア全般にわたり、民主主義を脅かす中国が台頭するなかで、米国、中国に次ぐ第三の経済大国である日本は、権力バランスに貢献すべきである。
現実的にはこの問題で東アジアや東南アジアの大半が日本を見限りつつあり、ベトナムやフィリピンなどは個別に米国と組んで対中戦略に乗り出している。
当然ながら米国としては前原氏に着目していた。ワシントン・ポスト社説も候補では前原氏の名前のみを取り上げていた。
The party will choose a new leader Monday, and a number of experienced candidates have emerged, including former foreign minister Seiji Maehara, who helped keep the U.S.-Japan relationship on an even keel during the DPJ’s rocky first year in 2009-10.民主党は月曜日に新代表を選出するが、挙がっている候補には、民主党が多難だった2009年から2010年に、日米関係の安定に務めた前原誠司氏もいる。
率直に言ってもいい時期ではあると思うので簡単に書くと、例の尖閣諸島・中国漁船衝突事件で采配をふるった前原氏は米国側の意向を酌んだものだったし、これで前原氏は米側の信頼を購入した。
今回のワシントンポスト社説も、ようするに、首相なんかだれがなってもよいと諦めの境地にあるものの、外交または軍事の部門には前原氏を抜擢せよということだ。前原氏の突然の立候補もそうした文脈にあったのだろう。
別の言い方をすれば日本の首相が誰になるかというのは、もはやジョークの範疇であり、問われると鼻から牛乳状態になることは、NHK「米報道官 日本首相交代巡り“苦笑”」(参照)も報じていた。
29日、国務省で開かれた記者会見の中で、新たな民主党の代表に野田財務大臣が選ばれたことを巡り、記者の1人が、国務省が日本の総理大臣が交代するたびに似たようなコメントを読み上げていることを念頭に「いつも同じことを言うから抗議しなければ」と冗談を言うと、会見を行っていたヌーランド報道官が一瞬笑いをこらえられなくなる一幕がありました。
ワシントンポスト社説に戻ると、共同のまとめにあるように、日本の問題は日本が答えることになるとしながら、多少の同情も寄せている。
Mr. Kan’s Democratic Party of Japan in 2009 unseated a party that had ruled pretty much uninterrupted for a half-century, so rookie mistakes should not surprise. Japan could be driving over inevitable bumps on the road to a competitive two-party or multi-party democracy, reshaping the bureaucratic state that had presided, most recently, over two decades of stagnation.菅氏率いる2009年の民主党は、半世紀も政権政党として持続した自民党を退けた。ぽっとでに間違いがつきものなのは驚くほどのことではない。日本は二大政党か多政党の民主主義に至るでこぼこ道を進んでいるのかもしれないし、その進行には、現在に至るこの20年の低迷を引き起こした官僚主義の補修も伴うだろう。
米国としては、日本を生暖かく見守るという風情であるが、それでも日本の官僚主義を敵視ている点は興味深い。端的にいえば、今回でも、財務相傀儡がぽこんと飛び出てくるように、日本はいまだに官僚主義国家として米国には映っている。
米国的な見方が欧米の合意かというと、多少のずれがフィナンシャルタイムズの社説「Japan’s latest leader」(参照)に見られる。日本が曲がりなりにも国家を運営しているのは官僚のおかげだとしている。
The country continues to be managed pretty well thanks to its strong, professional bureaucracy.日本がまがりなりとも快調であるのは、その強固で専門的な官僚のおかげである。
公平に見ればそうとしか言えない。だがこう続く。
But it is strategically adrift. The big questions of how it rebuilds after the tsunami, how it manages its debt, how it eradicates deflation and how it deals with China have been postponed or fudged.しかし国家戦略的に見れば、漂流の状態にある。津波後の復興、赤字の管理、デフレの払拭、中国との駆け引き、こうした大きな課題は引き延ばしや目眩ましでやり過ごしてきた。
The doomsayers, however, will be disappointed. Japan is well enough run to defy their most dire predictions. But that is despite the political pantomime, not because of it. To do better, Japan badly needs political stability.
そうはいっても、悲観論者は失望することになるだろう。政治的な演出に関わらず、日本はその最悪の運命に立ち向かう余力をもって運営されている。改善に向かうには、日本は政治的な安定が欠かせない。
端的に言えば、日本の政治に求められるのは安定だけであり、もっと露骨にいえば、政治家が政治に口出ししないことだ。官僚に実直な仕事をさせるしか、現下の日本の運営はできない。
身も蓋もないといえば身も蓋もないが、フィナンシャルタイムズの言うように考えれば希望がないわけでもない。
日本がこの難局を乗り切れば、後世の歴史家は言うであろう、野田大仏はただの置物ではない、その建立事業は国家鎮護のためであった、と。
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