[書籍]性格のパワー 世界最先端の心理学研究でここまで解明された(村上宣寛)
本書「性格のパワー 世界最先端の心理学研究でここまで解明された」(参照)は、版元と形状からして「「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た」(参照)、「IQってホントは何なんだ? 知能をめぐる神話と真実」(参照)に続く、村上宣寛氏による心理学批判のシリーズ3のようにも見えるし、私などもそういう思いで読んだのだが、前二著に比べると、攻撃力というのも変だがパワーはやや弱く、性格学説について無難にまとめたという印象を受けた(注を見てもそれは納得できる)。
![]() 性格のパワー 世界最先端の心理学研究で ここまで解明された 村上宣寛 |
本書執筆の動機は後書きによれば、宮城音弥氏の岩波新書青版390「性格」(参照)の現代版を依頼されたとのことだ。当然村上氏も宮城氏の「性格」を再読し、「残念ながら、再読しても得るものは何もなかった。すべての章が時代遅れで、当時は正しいと信じられていたが、今日では否定された学説や知識ばかりだった」と記している。そうであろうと思うが、得るものがゼロとも私などは言いがたい。ジュール・ベルヌの小説などを読むとその時代の性格学による人物描写などもあり、当時は人の性格はそのように考えられていたのだなと、宮城氏の本をしこたま読んだ私などは理解できる。とはいえ、科学的な意味合いはゼロだと言っていい。
宮城音弥氏は私には懐かしい学者である。氏による岩波新書の解説書を私は中学生時代に大半を読んでいる。「天才 (岩波新書青版621)」(参照)や「神秘の世界―超心理学入門 (岩波新書青版435)」(参照)、「夢(岩波新書青版843)」(参照)、「精神分析入門 (岩波新書青版347)」(参照)などは、まさに中学生向きの面白い書籍だった。今読めばどれも滑稽にしか思えないが、「愛と憎しみ―その心理と病理 (岩波新書青版483)」(参照)は、今でも名著だと思っている。この本を読んで人生に大きな影響を受けた。愛とは何かという問いにまとわりつく虚妄を排して本質を強く描くところがあった。
村上氏の本書なのだが、これまでの氏の書籍を読んでいる読者にはそれほど新しい展開はない。また心理学と性格について現代の動向を知っている人にとっても、ごく妥当な水準に思える。ただ、その妥当な水準が広く了解されているかというと、血液型性格分類などが政治家などの口から出るようにかなり低次なレベルにあるとは言えるだろう。
本書が「性格」についての概説を目指したのはわかるが、実効性のあるビッグファイブだけに絞ってより深化させたほうが面白かったのではないだろうか。本書の帯に「あなたの性格特性をテストする「ビッグ・ファイブ」を掲載」とあり、たしかに掲載されているのだが、村上氏が作成した「主要5因子性格検査」のような信頼性のチェックや自動的に解釈できる部分などが、この掲載形式では実現できていないので、読者がビッグファイブの威力を実感するのは難しいのではないか。
なお、同検査ソフトだが、数年前だが検査を販売していた版元に問い合わせたところフリーソフトと同じですと回答を得たことがある。Windows7でも動くのだが、基本的にプリンタ出力用になっているので、旧来のパソコンの心得のない人だと使いづらい。欲を言えば、本書の版元がFLASHなどに移植して本書とタイアップ的にすればよかったのではないかとも思える。と、提案しながら、実際にそうされるとかなり影響力があって、それも問題かもしれないとも思えてきた。
帯にはこういうキャッチもある。
・幸福感は健康や所得とほとんど関係がなく、かなりの部分が遺伝で決まってしまう
・協調性は職業上の成功にとってマイナス要因
・親の養育態度は子供の性格形成にほぼ無関係
前2点はビッグファイブの延長にある。
この問題、つまり、ビッグファイブの5因子と遺伝の関係をどう見るかということだが、前提は「特定個人の内部の遺伝子の影響力」というものを特定する手法は存在していないということだ。遺伝子という実体への還元は方法論上不可能で、その機能の統計的な影響力が問われるだけである。「遺伝率」という場合は、「外向性特性の遺伝率が五〇%であるとすると、データ収集の対象となった全集団の外向性特性の得点の散らばり(全分散)のなかで、遺伝による得点の分散が五〇%であることを意味する」。つまり、もとから特定の個人の遺伝的特性は問われない。
煩瑣になるのはしかたがなく、また日常的に言えば必ず無理解に至るような部分があるのだが、それでも、性格については、大半が遺伝的に決まると言っていいというのが先の帯の意味である。
そして、人生に幸福感を覚えるかどうかは、健康であるとか所得が多いとかではなく、まあ、赤ちゃんのときからだいたい決まっているものだとしてよいだろう。図に乗ったような駄言になるが、結果的に「ある人間にとってその人生を生きるということ」が所与であるなら、幸福であるかどうかは、あまり意味があるものでもない。このあたり、得心すると人生観はけっこう変わる。
主観的幸福感に最も大きな影響を与えるのは、ビッグ・ファイブという性格特性の背後にある遺伝的要因である。おそらく影響力は五〇%を超えると思われる。情緒が安定して、外交的な人は、主観的幸福感が高くなる傾向がある。
どうすれば、幸福になれるのだろうか。幸福感は遺伝的要因の影響が強いが、人生のパートナーを見つけ、仕事や余暇活動などに積極的に関われば、かなり改善されるのではないだろうか。
たぶんそういうことなのだろうが、このあたりは、村上氏の推測であって、この部分について科学的に言えることはまだない。
ビッグ・ファイブは、寿命、離婚、勤務成績、職業での成功、政治的態度などにも深い関係があった。我々は自分の性格特性を基にして、生活方式を変更し、パートナーを選び、仕事を選び、人生を変えるのかもしれない。しかし、この種の因果的分析は、現在、研究の途上にある。
その研究は結ぶだろうか。
おそらく結ぶのではないかと予想される。つまり、自分の性格というものをビッグ・ファイブで理解して、結婚相手や仕事を選択することで、より幸福な人生を得られる確率のようなものが上がるだろう。
さて、そういう人生を生きたいだろうか?
私はそうも思わない。不幸やつらい人生や失敗というのには、なんか別の意味があるんじゃないかと思って生きて来たし、そうして生きてみたいと思っている。
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