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2011.07.22

[書評]コーパス100!で英会話|コーパス・フレーズ練習帳(投野由紀夫)

 投野由紀夫先生のコーパス英語の書籍は他にもいろいろあるし、実用性という点では本書「コーパス100!で英会話|コーパス・フレーズ練習帳」(参照)以外にもお薦めしたい本はある。でも、この本は少し毛色が違い、知的にも面白い。たぶん、英語が苦手な人にとっても英語が得意な人にとっても、へぇと改めて思うところが多いのではないか。高校生も社会人にも興味深い内容だろう。

cover
コーパス100!で英会話
コーパス・フレーズ練習帳
投野由紀夫
 コーパスというのは、文例を集めたデータベースのことで、自然言語の解析で、実際の言語現象からという方法論をとる際に基点となるものだ。その分、どのようにコーパスを形成するかが難しいとも言えるし、投野先生の専門はそこにあるのではないかと思うが、学問的な部分の著書は見かけないのが少し残念でもある。余談だが、コーパスには屍体という意味もあり、現代英語では解剖学用語の含みがあるが、モーツアルトのアヴェ・ヴェルム・コルプス(Ave verum corpus)の"corpus"つまり、聖体の体のも同じ語源の言葉を使う。
 ようするに、コーパスというのは、英語のネイティブが実際に英語をどう使っているかというのを自然科学的に調査するというふうに理解してもよいだろう。本書は、それを英語の基本動詞100についてまとめたものだ。
 何が面白いのか。基本動詞100は、本当に基本動詞なので、中学でも学ぶ範囲のものだし、たいていの人はその意味も知っている語彙ばかりである。ところが、その現実の用例の傾向には、日本人にはやや意外に思える部分があり、その部分はどうやら意味の了解にも反映しているように見える。
 例えば、"have"。"I have a pen"のhaveである。意味は「持っている」だが、ではさて、何を持っているのだろうか。いろんなものを持つことができるけど、haveという動詞で持っていることが言明される対象は何か? そんな特定の傾向ものがあるのかという疑問すら持たなかった人もいるだろうし、ネイティブにしてみてもそんな疑問は持たないだろう。ところがコーパスを解析すると、haveの対象は頻度でリスト化でき、上位にはある傾向が現れる。何か? 時間や経験なのである。

  1. have a good[hard/great] time / have no time
  2. have an/no idea
  3. have a/the chance to DO
  4. have a look
  5. have nothing to do

 本書には書かれていないが、これらを見ていると、日本語表現で語感として対応するのは、「~たことある」「~てた」とあたりだろうか。いずれにせよ、「持つ」「所有する」というのとは違う(もちろん、その語義的な意味はあるのだけど)。ふと思うのだが、"I have a pen"というときでも、「ええと、俺、たしかペン持ってます」というふうなシチュエーションで経験の対象となるのではないか。
 "make"なども後置する名詞で見ていくと、へぇという傾向が現れる。

  1. make a/the decision
  2. make the/a point (of ...)
  3. make a difference
  4. make a lot of
  5. be able to make ...

 「作る」というと、decision、point、differenceなど心的な作為性の対象が頻度の上位に上がる。そしてこのリストからはわかりづらいが、money、friend、noiseというようなものを作るときは、a lot ofを介するようだ。どうやら、具体的な物や感覚対象を作るときは、その量的な閾値が意識されている。
 使役動詞の一種として学校英語では教えられることも多い"get+名詞+to DO"で、DOに何が多く出現するかを見ていくと、使役性のgetの含みが見えてくる。

  1. get 名詞 to come/go
  2. get 名詞 to think/understand
  3. get 名詞 to talk/listen/say
  4. get 名詞 to work/start
  5. get 名詞 to sign/agree/accept

 直接的に使役的な含みというより、主体が労苦して他者の行為を促すという含みがありそうだ。日本語だと「~てもらう」だろうか。本書では言及されていないのだが、"The heat has gotten to me."のgetの含みもこの用例と関係がありそうだ。
 気になるのは、これらのgetがどの程度口語的な表現なのかだ。フォーマルだとどう言い換えられるのかというのは本書からはわからない。このあたりはコーパスのテクニカルな扱いの問題になるだろう。
 本書の元になったのは、2009年のNHKの語学講座「コーパス100!で英会話」であり、私はこれをよく見ていた。福田萌さんとマシューまさるバロンさんの掛け合いが楽しい番組だった。特に、マシューさんがかなりの才人で楽しかった。声もルックスもよく普通に二枚目でとおるのにボケがすばらしい。たまに「親父によく言われましたよ」話があり面白かった。この人が本を書いたら絶対に読みますね。お兄さんの関連で語れない部分はあるのかもしれないけど、それ以外でもかなり面白そうだ。

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コメント

特許明細書の英語は、法律英語ですから、ラテン語文例直訳体やギリシャ語の語源の単語が多いんですよ。

文章を読んでいて、本当に疲労します。(笑)

投稿: enneagram | 2011.07.23 08:17

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