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2011.06.04

フィナンシャルタイムズが見た日本政治の手詰まり

 フィナンシャルタイムズ社説に昨今の日本の政局の話題、「The indecision of Naoto Kan」(参照)が載っていた。同意するところ多しということで、これ、翻訳が出ないならブログのネタにでもするかなと思ったら、日経新聞に翻訳が出ていた。「収束見えぬ民主の内紛 改革の機 台無しに(FT) 」(参照)である。まあ、読めばわかることなんだが、意訳のような感じがするので、ちょっと原文との対比をしておこう。日経の訳抜け部分は太字にした(意図して抜けたとも思われないけど)。

  ※ ※ ※

When Naoto Kan came to power as Japan’s prime minister, he promised strong and decisive leadership. Recent events show how far short of that ideal he has fallen.

(日経訳)菅直人首相は1年前の就任時に、強力で決断できるリーダーシップを国民に公約した。しかし、ここ数日のごたごたは、首相がいかにその理想からかけ離れてしまったかを如実に示している。

(試訳)日本の総理大臣として政権を握ったとき菅直人は、強くそして決定力のあるリーダーシップを約束した。だが最近の出来事を見れば、その理想の道程のどのあたりで行き倒れになっているかがわかる。

Any hope that Mr Kan’s victory in a confidence vote on Thursday might bring about a period of much-needed political stability looks lost. In seeking the support of his colleagues, a number of whom wanted to oust him, the premier gave some sort of undertaking to step down at an ill-defined point in the future. Far from healing the splits in his party, this has simply exacerbated them and has turned Mr Kan into something akin to a lame duck.

(日経訳)「菅降ろし」の動きが強まる与党・民主党内をまとめようと、首相は震災対応などで「一定のめどをつけた時点で退陣する」というあいまいな約束で事態を収めようとした。ところが、むしろ状況を悪化させ、自身を事実上の「レームダック」に追い込んでしまった。

(試訳)木曜日の信任投票に菅氏が勝利することで、必要とされる政治の安定期間がもたらされるのではないかという期待があったが、消えたようだ。彼の辞任を求める同僚が少ないなかで支援を取り付けようとして、菅首相は辞任すると安請け合いをしたが時期は曖昧にした。その結果、彼が率いる民主党の分裂を平癒するどころか逆に悪化させ、菅氏を死に体同然にしてしまった。

Whether he can, or should, continue in office is moot. It is difficult to see how in his weakened state Mr Kan can reach out even to dissidents in his own party, let alone the opposition, in order to address the many serious challenges that Japan now faces.

(日経訳)菅氏続投の是非には議論の余地がある。弱体化した菅政権が党内造反派、ましてや野党に働き掛け日本が直面する様々な深刻な問題の解決を目指せるとは考えにくい。

(試訳)彼の政権は維持できるのか、それとも維持すべきなのかなど、机上の空論である。日本が直面している深刻な課題に取り組むのに、この衰弱した状態では、野党はもちろん党内対立者にどこまで菅氏が話を取り付けることができるのか、わからないのだ。

What is depressingly clear is that there seems no end to the bickering and infighting that has roiled his Democratic Party of Japan since it took power in 2009. Far from focusing their political energies on the reconstruction and relief effort needed after the tsunami and nuclear accident, Japanese politicians seem set on a further bout of self-absorption.

(日経訳)2009年の政権奪取以来続く民主党の内紛は収まる気配を見せない。震災と津波被害からの復旧・復興と東京電力福島第1原子力発電所の事故の収束に全力を注がねばならないこの時期に、日本の政治家は自己本位の政争に明け暮れているように見える。

(試訳)あまりに明白で憂鬱になってくるが、2009年の政権交代以降民主党内から沸き起こる口論と内紛には終わりが見えない。津波と原子力事故後に求められる救援・復興活動のために政治を注力させるのとはほど遠く、日本の政治家はわがままの暴走をしているようだ。

Some of the blame must attach to the DPJ. Since assuming power, it has squandered its opportunity to change Japanese politics for the better by sweeping away the bureaucratic system that had kept its predecessor, the Liberal Democratic party, in power for more than half a century. Little headway has been made in building the more accountable system that was promised. Instead the DPJ has subsided into the sort of factionalism that plagued the LDP. Mr Kan faced a leadership challenge last year and his predecessor as DPJ leader and prime minister, Yukio Hatoyama, lasted just months. Reforms have taken a back seat.

(日経訳)民主党にも責任の一端はある。現野党の自由民主党が半世紀以上にわたり政権を独占することを可能にしたのは、日本の官僚制度だ。民主党は政権を奪取し、問題点を根本的に見直し、政治改革を実現する機会があったのに台無しにしてしまった。
 民主党が公約した責任ある政治制度の構築は遅々として進まず、むしろかつての自民党ばりの派閥政治が横行している。

(試訳)民主党には非難される点がある。民主党は政権を獲得したというのに、半世紀にもわたる自民党政権を支えた官僚機構を刷新して日本の政治を改革するという機会を浪費してきたのだ。公約された、よりアカウンタビリティ(応答責任)ある制度構築へは前進なきに等しい。代わりに、自民党の宿痾であった派閥主義のような状態に陥りつつある。民主党を指導する総理として鳩山由紀夫は数か月しか保たなかったように、菅氏も昨年、指導者としての異議に晒された。改革は後退してきた。

But it is not just the DPJ that has failed the country. The wider political class must share the blame. It had been hoped that the tragic events of March 11, which left 24,000 dead or lost, might have instilled in lawmakers a new sense of unity and purpose, and that this in turn might contribute to break ing Japan’s 20-year long malaise. The public’s selfless and stoic response was truly moving.

(日経訳)責任は他党にもある。震災と原発事故が政治家の心に団結心と目的意識を植え付け、それを持ってすれば日本の「失われた20年」も取り戻せるとの期待が当初はあった。震災直後に日本人が見せた無私・禁欲の精神は世界を感動させた。

(試訳)しかし国を誤らせてきたのは民主党ばかりではない。政界も非難されねばならない。2万4千人もの死傷者を出した3月11日の悲劇的な災害で、国会議員も団結と目的の意識を持つようになり、それが20年の長きにわたる日本病快癒のきっかけになるかもしれないと期待されたものだった。国民の献身と沈着な対応は真に感動をもたらした。

Sadly this spirit does not appear to have penetrated the stone walls of the Diet where politicians squabble endlessly over the baubles of office and place. Until this changes, no end to Japan’s political impasse is in sight.

(日経訳)だが国会議事堂の厚い壁はそんな気高い精神すらはね返した。政治家は安っぽい地位・権限を巡る際限ない口論に今も余念がない。ここが変わらなければ政治の行き詰まりを打開する見通しなど到底立たない。

(試訳)情けない話だが、国民の心意気は国会議事堂の石の壁に阻まれ、議事堂の中では、職務と地位という見せかけだましの獲得に延々と口論を続けている。この事態が変わるまで、日本政治の手詰まりは終わらない。

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コメント

accountabilityは「説明責任」が適切な訳だと思います。具体的な意味は、選挙によって国民から実行する政策の内容についてmandate(負託)を受けた政府が、それを実行できた場合はよしとしてとして、できなかった場合には、国民に対してなぜできなかったのかを説明し、次の選挙で審判を仰ぐ、というようなものですし。

民主党もマニフェストを明示し、実行できない場合には責任を取る政治を日本に導入するという理念を前回の衆議院議員選挙では掲げていたんですけどね。まったく残念な状況になってしまいました。

投稿: akira | 2011.06.04 13:16

ほんとうに、鳩山とか菅とか、一番首相になってはいけない人たちばかりが首相になってしまいました。

国民の不明が原因です。

投稿: enneagram | 2011.06.05 11:51

 私の残飯炒飯をやらないのと腕前の優雅さがいいですね。先日の酷評は先日まで、で収まって好感。ただ、腕(試訳)が勝ち過ぎてコメント欄で異議を受けるのはどうかと思いますし、それを(まだやってないだけかもしれないけど)反映するケースが少ないのも、どうかと。

 民主党のあれこれについて言うなら「民主党もマニフェストを明示し、実行できない場合には責任を取る政治を日本に導入するという理念を前回の衆議院議員選挙では掲げていたんですけどね」(akioさんコメントより引用)←これが昨今の迷走劇でとんだ嘘っぱちに堕してしまったのが最大の問題だと思いますよ。

 自民時代に散々やって「宿痾」とまで評された愚劣さを「糺すと言った側がより以上にやる」のはブラックユーモアの度が過ぎます。それだけでも民主党は下野すべきなんですよ。しないと意味が無い。

 敵対者を騙すまでならまだしも、味方を騙し自分(身内)をも騙す。そういう人たちの愚劣な争いが日本の復興を妨げているのが昨今の情勢なのだから、2週間の政治空白も被災地の政治不参加も断腸の思いで受け入れて「一旦清算する」こと。それが民主党最大の存在意義(現にそれで政権交替したでしょ?)なのに、やらない。

 もうこの時点でね。終わりですよ。投了。「玉が詰んだら盤外に逃げればいいじゃない」をやっちゃった打ち手(菅)の言うことなんか誰が信用しますか。『稲中卓球部』のネタやってんじゃねーんだよ、としか。

投稿: 野ぐ | 2011.06.06 22:57

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 菅さんがファイナンシャルタイムズから「優柔不断」と言われ、まあそうかなと思っているだけに辛いところだと黙っていたが、日経が、そのFT記事の翻訳を出したので、それに触れながら今の日本の情勢も書いておく... [続きを読む]

受信: 2011.06.05 05:54

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