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2011.06.02

残念ながら簡単に言うとアラブの春は失敗

 5月26日と27日の2日間、フランス・ドービルで開催された主要国首脳会議(G8)の話題として、日本ではしかたがないとも言えるが、福島第一原発の対応が注目された。が、その他の話題もあった。欧州経済危機や、最近はすっかり忘れ去れたかのような地球温暖化、またインターネットのあり方なども議論された。そうしたなかで最後の締めともなった大きな話題が「アラブの春」、つまりアラブ諸国の民主化だった。いや、「中東に民主化が望まれる」とかいうたるい話ではない、ようするに、エジプトとチュニジアへの資金援助の話だった。なぜ資金援助が必要になったのか。この件について適切な解説報道を日本では見かけなかったように思えた。なぜ資金援助? 残念ながら、簡単に言うと、アラブの春は失敗したからである。
 簡単に事実確認から。WSJ「G8、「アラブの春」支援に200億ドル―総額400億ドルの援助」(参照)より。


 ノルマンジー地方の海辺のリゾート地で2日間の討議を終えたホスト国・フランスのサルコジ大統領は、イスラム世界の民主化のモデルとなるエジプト、チュニジア両国への支援総額は、世界銀行などの国際金融機関と個別国まで含めれば400億ドル(約3.2兆円)に達するとの見通しを示した。G8首脳はまた中東・北アフリカ地域の今後の繁栄には各国でより清廉な政府の樹立が重要との認識で一致した。

 なぜそれほどの支援が必要なのか。記事はこう続く。

「わが国には(民主化)成功のための全ての要素はある。しかし実際の成功にたどり着くには資金援助がほしい」。サミットに参加したチュニジアのカイドセブシ暫定首相はこう述べ、さらに同国の民主化成功が「イスラム世界と民主主義が相容れないものではないことの証明となる」と話した。

 チュニジアでは民主化は道半だから資金が必要だということ。つまり資金がなければ、民主化はできない状況になっている。失敗したということだ、簡単に言うと。エジプトもそういうことなのだが、この記事では触れていない。
 29日付けフィナンシャルタイムズ社説「Funding the north African aid corps」(参照)にも似たような修辞が使われていた。

Three months after a wave of popular discontent swept away dictatorships in Tunisia and Egypt, the Arab spring’s revolutionary tide is ebbing. The brutal regimes in Libya, Syria, and Yemen have shown beyond doubt that they are ready to murder as many of their people as necessary to cling to power. To give hope to the brave souls still opposing these despots, it is crucial that the relative successes of Egypt’s and Tunisia’s revolutions are consolidated.

大衆の不満の波がチュニジアとエジプトの独裁政権を押し流して三か月、アラブの春という革命の潮は引いている。リビア、シリア、およびイエメンの野蛮な政権は、権力固執の必要に合わせて自国民を虐殺する用意があることを明確に示してきた。独裁者に勇気を持って抗う人に希望を与えるには、比較的成功した部類のエジプトとチュニジアの革命をより確実にすることが決定的に重要である。


 修辞を除けば、中東民主化は失敗し、チュニジアとエジプトが独裁に滑り込まないためには、見物人は寺銭を払えよということ。
 なんでこんなにもエジプトは困窮したのか。単純な話、国家がぐらついたからだ。

The package sends the right signal at the start of a huge task; but much more money will be needed. With tourists and foreign investors still shunning the area for fear of unrest, and public order not fully restored, the economic situation is deteriorating fast. Egypt has burnt through $8bn (more than 20 per cent) of its foreign exchange reserves since January. Unemployment has surged. The IMF reckons that oil-importing Arab nations will need $160bn in external financing over the next three years to stay afloat.

However, even $160bn will do little good if it is not spent effectively.

欧米からの送金は中東民主化という大事業着手に正しいメッセージになる。とはいえ、さらなるカネも必要になる。観光客も国外投資家も政情不安を恐れてこの地域を避け、社会秩序も十分に回復していないので経済状況は急速に悪化している。エジプトは1月以来、外貨準備の80億ドル(20パーセント以上)を使い果たした。失業も増加した。原油を輸入に頼るアラブ諸国は向こう3年の切り盛りに1600億ドルの外貨調達が必要になると国際通貨基金は見ている。

しかし、効率よく使わなければ1600億ドルでも足りないだろう。


 エジプト経済が予想どおり破綻に向かっている。中間層や新興富裕層を破壊したのでこのままでは経済効率が回復するわけもない。支援金も焼け石に水となる。
 もちろんそんなことは欧米も理解しているから、カネは旧ソ連諸国支援に実績のある欧州復興開発銀行に任せた。
 表層的に考えるなら、エジプトに新しく中間層や新興富裕層の育成が求められるのが、それこそが、この「エジプト革命」とやらの本質に阻まれている。

Yet while full liberalisation will eventually bring Egypt and Tunisia the economic freedoms their people desire, the fragility of their economies argues for cautious change. This means that, for all their economic inefficiency, food subsidies and public job schemes should be retained in the short term. Premature cessation of such welfare policies could spark serious unrest.

十分な自由化が国民の望む経済的な自由を結果的にもたらすとしても、経済は脆弱で変化には注意を要する。どういうことかというと、経済が非効率であろうが、短期的には、食費の補助金と公的部門の職業計画が維持されるべきなのだ。福祉政策を安易な考えで早急に停止すると深刻な社会不安となる。


 実際のところ民主化どころではない。社会不安から国家の崩壊を招かないためには海外からの資金注入が必要だったということだ。
 すでにエジプトの社会不安は危険な兆候を示している。もっとも悲惨な例はエイプ内のキリスト教徒(コプト教徒)への弾圧である。5月7日、カイロで暴動が起こり、コプト教会が放火され、10人の死者と200人の負傷者が出た(参照)。なぜ軍部が防げなかったのか。
 防がなかった側面すらもある。クーデター後の国家運営にヘマをしている軍政が大衆の不満の矛先をムバラク前大統領やキリスト教徒に向けさせている。5月12日のワシントンポスト社説「The threat posed by religious violence in Egypt」(参照)は惨劇をこう見ている。

That was the sort of behavior one could expect from an authoritarian regime that probably preferred having public anger directed at the Copts than at more appropriate targets, such as the government itself.

この手の活動は独裁政権から容易に想定されるものであり、政府に向けらるべきはずの人々の怒りをコプト教徒へ向けることが好まれたのである。


 ムバラク政権の末期と同じことを軍政がやりだした。しかも、それは大衆の怒りをそらすためだった。軍政もまた、暴力装置として国家に収納されるべき諸暴力の統制を失い始めている。
 おそらく対イスラエル政策の変更もそうした軍政による大衆迎合の一環ではないかと懸念され、そのまま諸暴力の統制が失われることを欧米が、イスラエルの手前もあるのだろうが恐れ出して、まずはみかじめ料でも差し出すかということになったのがフランス・ドービルの主要国首脳会議であった。
 菅首相がそれに気がついていたかはわからないが、日本国民も気がついてないかもしれないのでさしたる違和感はない。

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コメント

つまり西欧社会とエジプト人にとって最良の選択だったのはムバラク政権下の緩やかな民主化だったということかな。まぁ一旦行動始めた人々を前にそれを言っても恐怖にかられて無理だろうけど。
惜しむらくは旧政権内で暫時民主化を推める議論やスケジュールが公表されてたらどうなったんだろう。担保は証人として西側先進国が持つの?
リビアやイエメン、シリア政府がそういうアナウンスを始めたら、反政府側は取り込まれるか梯子を外されるのだろうね。
中国並に経済的発展をしても20年は民主化が遅れる筈だから、そりゃそれらは民主化しない、つまり欧米への移民圧力になるってことか。

投稿: ト | 2011.06.03 09:54

資金援助は早い、非民主の新しい支配層を生むだけ、
選挙の後なら可、

総選挙後G8の気に入らない政権でも資金援助するか?
答え=しない!

つまり欧米の都合の良い政権を作るため、この時期の
資金援助が必要なのです。

中東がらみは米のキ教保守派の動きに注視のこと。

投稿: jun | 2011.09.24 11:02

いや失敗とか成功とかあまり意味は無いです
アメリカヨーロッパは中東をドル漬けに出来ればそれでいいんですよ

投稿: アラブのドル | 2012.09.15 21:53

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