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2011.06.26

オバマ大統領によるリビア米軍介入を米国下院が否定

 北大西洋条約機構(NATO)が主導するという建前のリビアへの軍事介入に対して、限定的関与とオバマ大統領が称する米軍の軍事行動を認めるべきか。この問題が米国議会で問われた。表現がまどろっこしくなるのは、真相をオバマ流の修辞で糊塗するからである。ざっくり言えば、NATOを米軍が率いている戦争をオバマ大統領が独断で実行している状態に米国民が疑念を持っているということだ。
 それはそうだろう。どう見ても、オバマ大統領は、国会を無視して戦争をやらかしているという点でブッシュ前大統領のイラク戦争よりひどい軍事暴走である。リビアの軍事介入が人道的であるというなら、政府による虐殺の続くシリアを傍観しているダブスタはどうなのだろうか。
 なるほど諸議論はあり、オバマ大統領は巧妙に議論を紛糾させているが、大筋から見るなら、米国の政治制度では、宣戦布告の権利を有するのは連邦議会でる。有事には大統領の決断が優先されるとしても、作戦開始から48時間以内に議会に報告することが義務付けられており、戦争権限法(The War Powers Resolution of 1973)では、「戦争行為突入時または切迫した戦争行為に巻き込まれた状況が明白であれば("into hostilities or into situations where imminent involvement in hostilities is clearly indicated")」、報告後最大90日以内に議会が宣戦布告しない場合、大統領は軍を撤退させなければならない。
 リビアでの軍事活動はこの限界を超えた。
 下院本会議では、オバマ大統領が独断したリビアでの軍事活動について、1年間の期限付きで認める法案を、123対295という大差で否決した。大統領の暴走は許さないとしたのである。当然そうであれば、この戦争を静止すべく予算も絶てばよいのだが、現状の戦費支出を差し止める法案は180対238で否決された(参照)。戦争というのは予算を絶つことで国会が静止できるものだ。余談めくが、日本の戦争でも近衛内閣時代に戦費予算を可決した国会に戦争の最終的な責任があることは明白である。
 オバマ大統領の戦争の独断を否定した反面、戦費予算を認めるという米国議会の決議は矛盾した結果のように見える。下院での否決を受けて、上院では民主党のケリー外交委員長や共和党のマケイン軍事委員会筆頭理事など有力議員が同様の決議案を提出し来週審議する予定だが、可決されることはないだろう。
 結果はどうなるのか。今回の下院決議には法的拘束力はないとされるので、現実の米軍軍事活動に直接の影響は出ない。総合すると、実質的には1年以内にリビア戦争から手を引けと米国民が考えていると理解できそうだ。
 いずれにせよ、オバマ大統領の与党である民主党ですら4割が反対票を投じたことから、米国民がいかに大統領の権限というものを恐れている実態がよくわかる事例ともなった。また余談だが、大統領の権力を抑え込むことが民主制度というものであり、米国が日本に授けた日本憲法ではさらにこうした権力がそもそも生じないように仕組まれている。
 米国議会の決議によって、実質的にオバマ大統領の詭弁も暴露されたとも言える。この点については、リビア戦争肯定の論調を張っているニューヨークタイムズですら認めざるを得なかった。「Libya and the War Powers Act」(参照)より。リビア戦争に敗北しない大義を強調しつつも。


The White House’s argument for not doing so borders on sophistry — that “U.S. operations do not involve sustained fighting or active exchanges of fire with hostile forces, nor do they involve the presence of U.S. ground troops,” and thus are not the sort of “hostilities” covered by the act.

「戦時の軍として、継続的戦闘や活発な戦闘状態にはなく、米陸軍は戦闘に巻き込まれていない」として、よって戦争権限法の「戦争行為」には該当しないとする米国政権の議論は、敗北を避けるためであれ、詭弁の縁にある。


 オバマ政権の言い分が正しければ、戦争権限法が連想される議会決議もありえなかったが、そこまで議会を無視できず、オバマ大統領は詭弁の縁から詭弁にずり落ちた。

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コメント

下院での議決となると、戦争の根拠を議論しなくてはならなくなるからでしょう。9.11は大統領発令であった為、イラクに核兵器が無いとの主張も無視されて開戦されました。
米国は戦争中毒の国で軍事利権が強いのでしょう。
大統領に戦争権限があった方が、大統領を脅迫するだけで、
戦争可能なので彼らにとって都合が良いと言われています。
オバマが好戦派という感じはしませんが、無理に断れば、
ケネディの様に殺される事もあるのでその辺りは難しい
のだと思います。

投稿: 匿名 | 2011.06.26 18:24

…戦争というのは予算を絶つことで国会が静止できるものだ。余談めくが、日本の戦争でも近衛内閣時代に戦費予算を可決した国会に戦争の最終的な責任があることは明白である…

後段は「帝国議会」ではありませんか?細かくて済みません。

投稿: kansatsusha | 2011.06.27 09:17

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 今朝、日が変わって直ぐにピックアップした読売の「米のリビア作戦「認めず」…米下院が決議」(参照)の記事によると、オバマ氏の暴走にちょっとブレーキがかかったようで安堵した。オバマ大統領はこれまでの経過... [続きを読む]

受信: 2011.06.26 17:59

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