« [書評]震災恐慌!~経済無策で恐慌がくる!(田中秀臣・上念司) | トップページ | オバマ大統領によるリビア米軍介入を米国下院が否定 »

2011.06.25

ハクティビスト(hacktivist)、「正義」を問うハッカー

 ハッカーというと愉快犯的な動機が連想されがちだが、独善的な「正義」を動機とするタイプのハッカーとして「ハクティビスト」が注目されている。7700万人の顧客情報が流出したとされる、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のハッキング事件も欧米では「ハクティビスト」として話題になっていた。

ハッカー(hacker)+活動家(activist)=ハクティビスト(hacktivist)
 「ハクティビスト(hacktivist)」は、「ハッカー(hacker)」と「政治的な活動家(activist)」を合わせた新語。政治的な目的意識をもってハッキング活動を行う人やグループを指している。英辞郎には「政治的ハッカー」という訳語もあった。
 類似の用語「サイバーテロリスト(cyberterrorist)」は破壊という活動に焦点があるが、「ハクティビスト」は意図が注目される。米国外交公電の暴露で注目を集めたウィキリークス(Wikileaks)もハクティビストの文脈にある。
 ハクティビストについては6月20日、米国公共ラジオNPRが「ハクティビストを追い詰める(Going After 'Hacktivists')」(参照)で取り上げ、英国BBCも、6月22日「ハクティビストを好むのは誰か(Who loves the hacktivists?)」(参照)として取り上げていた。欧米圏でも現在の話題のようだ。

ソニーの個人情報流出事件とラルズセック(LulzSec)
 PlayStationネットワーク(PSN)から7700万人の顧客情報が流出した4月末のハッキング事件は世界に衝撃を与えたが、このソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のハッキング事件もハクティビストの文脈で報道された。
 6月2日にはソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントもハッキングされ、100万人もの顧客情報が流出したが、この事件では「ラルズセック(LulzSec)」と称するハッカー集団が犯行声明を出していた。


ラルズセック

 ラルズセック(LulzSec)は"Lulz Security"の略である。"Lulz"という見慣れない英単語は、"Laugh Out Loud(大声で笑う)"を意味する略語"LOL"の音読をスペリングに戻したものだ。日本の掲示板などでよく使われる、文末の小文字で笑いを表す"w"や、"(爆笑)"といった表現に近い。
 ラルズセックの犯行声明は、ハクティビストとして以前から有名だった集団「アノニマス(Anonymous)」と類似性や関連性があるとして注目された。
 その「アノニマス」だが、英語の意味は「匿名」である。しかしこのハッカー集団は普通に「匿名」を強調するのではない。それに伴うガイ・フォークス(Guy Fawkes)の仮面のシンボルに意味がある。


ガイ・フォークス(Guy Fawkes)の仮面

 この仮面は、2005年の製作のワーナー・ブラザーズ映画「Vフォー・ヴェンデッタ(V for Vendetta)」(参照)で有名になった。同物語では、第三次世界大戦で米国が崩壊し、全体主義国家化した英国に抵抗する政治的活動家が描かれているが、そのヒーローが「匿名」としてガイ・フォークスの仮面を付けている。

捕まえてみると19歳の少年?
 ラルズセックは6月17日、テキスト情報の共有サービス「Pastebin.com」に声明文(参照)を出し、米公共放送サービス(PBS)、ソニー、Fox、米連邦捜査局(FBI)、米中央情報局(CIA)などを攻撃したと語った。興味深いのは、"Sony again, and of course our good friend Sony.(再びソニーに。もちろん私たちの良き友人ソニーに)"とソニーが強調されている点だ。
 犯行声明が出されてから事件は急速に展開し、6月20日夜、英国警察は米連邦捜査局(FBI)との合同捜査で、ラルズセックにつながりがあると見られる、英南東部ウィックフォードに住む少年19歳の少年を逮捕した。
 少年とラルズセックの関係は明確にされていない。少年の逮捕後もラルズセックを称するハッカー集団の声明や活動は続き、23日にはブラジル政府も攻撃を受けている。

ハクティビストの目的は何か?
 ラルズセックの声明文には愉快犯的な動機が読み取れるが、事件の全体を一連の流れで見ると、政治的な意図をもったハクティビストとしての特徴も浮かび上がってくる。
 第一の特徴はすでに述べたように、映画「Vフォー・ヴェンデッタ」といった物語から連想される、「全体主義としての政府や権力に抵抗することが正義だ」という主張が潜んでいることである。第二の特徴はその前提でもあるが、攻撃される側が全体主義的な悪と見なされることである。
 具体的に、ラルズセックがソニーを執拗に攻撃した理由を、その文脈から見ていくと、PlayStation3(PS3)の閉鎖性が気がかりになる。
 PS3は非公認ソフトが実行できない仕組みになっているが、通称「脱獄(Jeilbreak)」と呼ばれるプロテクト解除ツールを使うことで非公開ソフトも利用可能になる。非公開ソフトには海賊版のゲームなども含まれることから、SCEは2月16日、脱獄ツールを使った利用者をライセンス違反とし、保証を無効にするとした。さらに、PlayStation Network(PSN)のアクセスを停止するとも警告(参照)した。
 この警告が全体主義的だとしてアノニマスの怒りを買い、ソニーへの宣戦布告(参照)に至った。ラルズセックはこの文脈から出現しきた。


アノニマスによる挑戦

 ハクティビストの「正義」は独善的ではあるが、脱獄ツールに厳しいという点では、アップルのiPhone用アプリも同様である。しかし、アップルに対するハクティビストの攻撃は現状聞かない。アップル側のセキュリティ対策が整っていることもあるだろうが、アップルは案外、ハクティビストの「正義」に巧妙に対応しているからではないだろうか。
 ハクティビストの独善的な「正義」に向き合うために、企業は自社の「正義」を上手にアピールする時代になるかもしれない。

|

« [書評]震災恐慌!~経済無策で恐慌がくる!(田中秀臣・上念司) | トップページ | オバマ大統領によるリビア米軍介入を米国下院が否定 »

「ネット」カテゴリの記事

コメント

資本主義社会がどうしても退治できないのがバブルとマルチ商法。

電脳社会につきものなのが情報テロリスト。

対症療法しかないと覚悟しないといけないんじゃないかな。

投稿: enneagram | 2011.06.25 10:37

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ハクティビスト(hacktivist)、「正義」を問うハッカー:

» アップル社はどうしてハクティビスト(hacktivist)、「正義」を問うハッカーに攻撃されないのだろうか [godmotherの料理レシピ日記]
 「ハクティビスト(hacktivist)」。これ、初めて聞いた言葉。ハクビシンという畑を荒らす動物いるが、それに似た何かと思った。これは、英語らしい。らしいと言うのは、この言葉が誕生した背景は、ハッ... [続きを読む]

受信: 2011.06.25 14:08

« [書評]震災恐慌!~経済無策で恐慌がくる!(田中秀臣・上念司) | トップページ | オバマ大統領によるリビア米軍介入を米国下院が否定 »