« 米国大統領はなぜアイルランド詣でをするのか | トップページ | [書評]日本復興計画(大前研一) »

2011.05.01

メア氏問題の背景

 この問題は表層的に論じられている奥のほうに、つまり米国政府内になんらかの問題がありそうなわりにそこが見えないので言及しても意味がないと思って控えていたけど、さすがに連続するとばっちりにうんざりしてきたので、少し補足しておこうかと思う。
 とばっちりというのは例えばこういうのである(参照)。


usi4444 沖縄, finalvent 講義を聴いた英語のネイティブ・スピーカーである学生達や准教授が差別的だと感じたのに、finalventさんは何で必死に誤魔化そうとしているの? 2011/05/01

 「これはひどい」で悪名高きはてなブックマークコメントのひとつであり、コメント先は「メア氏講義メモ私訳: 極東ブログ」(参照)である。私訳したのは、「ごまかしとゆすり」というメディアの訳語が一人歩きしているので、この時点で可能なかぎり妥当な文脈を捉えてみようとしただけにすぎない。私のメディアに対する警戒感がわかる人なら、またやってるねくらいの話である。
 このコメントだがツイッターに連動しているわけでもなく返信もできないので、ブログのお作法としてはスルーしとけばいいだけのことなのだが、それにしても「finalventさんは何で必死に誤魔化そうとしているの?」は、呆れた。あれを思い出す、「ねえ君、最近は奥さんを殴るのやめた?」
 さて、どう答えますか。イエスかノーかで答えるとすると、イエスなら「うん、やめた」、ノーなら「いや、やめてない」。どっちも殴ってるんやんかぁ、である。つまり、そういう愚劣な修辞疑問であり、こういうのを匿名に近いコメント欄に書くのはどうなんでしょというだけのことではある。
 だからそんなことはどうでもいいし、私はなにも「必死に誤魔化そう」としているわけでもないが、こう書くと「ほら内心では誤魔化そうとしている」「信仰告白」「山本七平メソッド」とか愉快な展開になりそうだが、関心はそちらではなく、「講義を聴いた英語のネイティブ・スピーカーである学生達や准教授が差別的だと感じたのに」のほうにある。実はそこにも問題がある。このノートの信憑性についてだ。
 私の評価としては、このノートの信憑性は低い。理由は簡単で、このノートはメア氏の講義を聴講した5人の共同作業の合議で出来ているからだ。証言の信憑性を問うなら、合議は排除されなくてはならない。後で述べるが、今回のメア氏問題の最初の報道であり、おそらく報道を開始したのは共同通信であると思われるが、共同通信がジャーナリズムたろうとするのであれば、まずこの5人への聞き取りをして、さらに他の聴講者からの聞き取りもしなければならない。次にジャーナリズムの観点でそれを共同通信の責任で提出しなければならない。そこがなされずして、この合議の他方だけの証言が出て来たことに、私などは恐怖を感じざるを得ない。
 特定の集団から合議で出された証言は、比喩的に言うのだが、共謀のような性格をもちうる。その点ですでに信憑性が低いのである。こんなことは聖書の編纂史を多少なりとも知っている人間には常識であって、多数の写本が同じことを語っていても、それは、同一教団の内部文書か、ただのコピー的な写本でしかなく、たった1つの別系列の写本が原典に近いことがありうる。
 さらに問題なのは、これも裁判を想定してもらえばわかることだが、メア氏本人からの釈明がこの時点では一切登場していないことだ。メア氏からの証言は出ていない。なのにこの一方からの証言だけが真実であるかのように喧伝されるのは、魔女裁判と同じ構造をしていることになる。これは私などにはぞっとする事態であり、finalventさんが必死であるかのように見えるなら、魔女裁判の構図を避けたいがためであり、誰も進言しないのなら、私がDevil's advocate(参照)になるかというわけである。かくして、福島居住者の差別のように放射能汚染ではないえんがちょ汚染で私もバッシングされることになった。というか、こう考えてみると私がバッシングされなければ、この魔女狩りの構図は見えてこない。
 幸いというかメア氏本人の証言がようやく出て来た。WSJの「【ビデオ】沖縄発言は誤解=米国務省メア元日本部長が反論 - Japan Real Time」(参照)である。これで形なりでも双方の証言が登場したとほっとして、次のように私は感想を書いた(参照)。

 実際の講義がどうであったかは、依然わからないが当人談話が聞けるのはよいことだ。
 びっくりしたのだが、あの流布された、5人で作成された講義ノートは講義後2か月後に作成されたとメア氏が述べていることだ。
 私はあのノートの信憑性はかなり薄いと見ている。いつ作成されたかもわからないし、作成された経緯、つまり原資料がどういう構成になっているかもわからないからだ。

 するとこれに対してこう、はてなブックマークコメントが付く(参照

kanose 国際 なんでメア氏を積極的に擁護しようとしているのか、よくわからん…。誰か解説を! 2011/04/26
zu2 「私自身もA4判のノート10ページにわたってびっしりとメモを取っており....一字一句とまでは言わないが、重要な部分は間違いなくメア氏の発言通りだ」 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-176165-storytopic-3.html 2011/04/17
a-lex666 2011/04/17
Cujo これはひどい, blog 『5人で作成された講義ノートは講義後2か月後に作成された』つまりその必要があると彼らがその時期に考えたということくらいだわな信ぴょう性とまったく無関係に言えるとするならば。 2011/04/17
Tez アレな人シリーズ メアが罪滅しとばかりにUSAIDの調整役を買ってでてそのごひっそりと依願退職したことを以て擁護するのかと思ったら斜め上だった.富田メモ状態. 2011/04/177 clicks
lakehill 端的に言ってこの人のダメさがなんなのか判った気がする 2011/04/16
custardtarte これはひどい, ブロガー, finalvent 七平メソッド…でいいのかしら? 2011/04/16
Apeman 信仰告白乙。 2011/04/1694 clicks
opposer 詭弁当おじさんの殺活孔芸が炸裂というお話 2011/04/16
buhikun 沖縄, 基地, 日米関係, ブロガー, これはひどい, 呆れた ポジショントーク乙/※欄必死やな(嘲 2011/04/166 clicks
Cunliffe あほか, これはひどい 事実に反してまで誰に肩入れするかでその人の政治的立場がわかる。これはそのいい例。 2011/04/16
dj19 メアの発言を鵜呑みにしてるが、同席していた指導教官のデービッド・バイン准教授が「私も丁寧にメモを取ったが、報道の根拠となった学生作成の発言録は極めて正確だ」とすでに指摘済み。 2011/04/16 16

 双方の意見から事実を考えようという発想はこれらのコメントには見られない。信仰告白乙は誰に言うべきか。ごらんのとおり、私へのバッシングの文言が目立つ。
 以上は前振りであって、メア氏発言の発言の背景ではない。すでにメディア関係者には既知のことではあると思うが、知らない人もいるかもしれないので、厳密なものではないが、簡単に背景まとめておこう。言うまでもないが、私はメア氏を擁護したいのではなく、ジャーナリズムのありかたに関心がある。
 メア氏発言報道の構図がわかりやすいのは3月11日付け読売新聞記事「「ゆすり」発言 米、異例スピード更迭 沖縄、怒り収まらず」である。ネットには掲載されていなかったようだ。

 「今朝の一連の会談は、いろいろな理由で、ほろ苦いものだった」
 キャンベル米国務次官補は10日、松本外相、北沢防衛相らに陳謝を重ねた後、在京米大使館で記者会見に臨むと、冒頭、力無く切り出した。
 春の大型連休中の開催で最終調整中の「日米安保協議委員会(2プラス2)」に向け日米同盟の修復を急ぐ米政府にとって、メア氏が起こした騒動は「米側が同盟を機能まひさせる原因を作ったという意味で、耐え難いものだった」(日米関係筋)という。
 異例のスピードでの「メア更迭」の決断は、普天間移設問題をはじめとする日米間の懸案に対する影響を最小限に食い止めるための苦肉の策だった。
 米政府は当初、報道されたメア氏の発言は「正確でない」(キャンベル次官補)としていた。だが、10日の会見で「国務省はメア氏の実際の発言内容を確認したのか」と尋ねられると、キャンベル氏は「この場では詳細に立ち入らない。我々の望みは、この一件を乗り越えることだ」と答え、報道内容の真偽の確認より、日米関係の早急な立て直しを最優先させている様子をにじませた。
 メア氏は駐沖縄米総領事時代の2009年、当時の小沢民主党代表が「米海軍第7艦隊で米国のプレゼンスは十分だ」と発言した際、「空軍、海兵隊、陸軍の役割をわかっていない」と記者会見で発言。米側で唯一小沢氏に公然とかみつくなど、外交官らしからぬ率直な物言いで知られていた。
 メア氏側は昨年12月に行った大学生への講義について「オフレコだった」としているが、結果的に発言内容は外部に流出した。一部の米メディアは、一連の動きの背景には、学生らが参加した沖縄への学習ツアーは、沖縄の在日米軍基地の閉鎖を呼びかける市民団体代表を務める日本人大学院生による企画だったことと無関係でないと指摘している。周辺によると、メア氏は、学生たちと反基地市民団体とのつながりについて、報道が出た後に知り、絶句したという。
 国務省筋によると、報道後の聞き取り調査で、メア氏は「私の発言の趣旨と全然違う」と釈明したという。
 発言録を作った米大学生は読売新聞の取材に、「5人の学生がとったそれぞれのメモを突き合わせており、間違いない」とする一方、「発言録は沖縄でのツアーを取材した通信社からの再取材を受け、1月から2月にかけて作成した」と述べ、講義から約2か月後に学生たちの記憶やメモに残っていた部分を再構成したものだったことを認めた。しかし、すでに日本国内でメア氏の発言が事実として伝えられ、沖縄県民の反米感情には火が付いている。
 米民主党外交筋はこう指摘する。「どんなに釈明しても、後の祭りでしかない。脇が甘かった」

 読売新聞報道が正確かどうかはわからないが、メア氏発言の真偽は米政府による政治判断から検証されていないとしてもよいだろう。
 興味深いのは、次の2点の指摘である。(1)一部メディアがメア氏発言の元になった学習ツアーが、沖縄の在日米軍基地の閉鎖を呼びかける市民団体代表を務める日本人大学院生による企画だったとしていること、(2)メア氏発言として流布された文書は沖縄でのツアーを取材した通信社からの再取材を受け、5人の学生によってメア氏の講義の2か月後に作成されたこと、である。
 一点目については「一部の米メディア」がなにかが問題となるが、有名どころで対応するのはForeing Policy「State Department Japan hand loses post as Campbell goes on Tokyo apology tour」(参照)であろう。

What Maher didn't know at the time of his meeting was that this was no ordinary group of American University students. One leader of the group was a Japanese activist who works hard to build opposition to any U.S. basing on Okinawa. That activist, Sayo Saruta, was one of two student leaders for the group of mostly American AU students and participated in the meeting at the State Department. Maher didn't know that the group was led by an anti-base activist until the memo was leaked this week.

メアが彼の講義の会合時に知らなかったことは、これがアメリカ大学生グループとしては通常からかけはなれていたことだった。グループのリーダーのひとりは、沖縄に米軍基地を作らせないように活動する日本の活動家であった。この活動家、猿田佐世が、アメリカ大学の米人学生大半をたばねる二人のリーダーの一人であり、国防省会合に出席した。メアは、今週メモがリーク報道されるまで、このグループが反基地活動家によって導かれたことは知らなかった。

The State Department could have known Saruta's agenda had they just done a little research. She is a very public critic of U.S. military bases in Japan. The website for the students' Japan trip identifies her as "the leader of the Network for Okinawa, an organization calling for the closure of bases in Okinawa."

国務省が多少なりとも事前調査をしていたなら、猿田の行動計画も知る事になっていただろう。彼女は日本で米軍基地の非常に公的な批判者である。学生らの日本への旅行のためのウェブサイトは、彼女のことを「在沖米軍基地閉鎖を求める組織、沖縄のネットワークのリーダー」としている。


 この米報道は本当だろうか。昨年12月10日の琉球新報に対応する記事「米軍基地戦跡訪問へ 米大学生ら意欲的討論」(参照)がある。

 【米ワシントン=与那嶺路代本紙特派員】ワシントンDCにあるアメリカン大学の学生ら15人が18日から27日まで沖縄を訪れ、米軍基地や戦跡を回る。沖縄に関心のある学生らが発案した手作り企画で、同大でも沖縄のスタディーツアーは初めて。出発を前に学生らは沖縄の情報収集、討論などに意欲的に取り組んでいる。
 アメリカン大学はDCの首都3大学の一つで、学生が世界各地の社会問題を体験する企画を積極的に推奨する。学生が立案した企画が大学に承認されると、単位が認められる。帰国後も関連ボランティア活動を続けることが義務付けられている。大学からの補助がないため、立案から資金集め、実行、帰国後の取り組みまで全て学生のみで行う。
 同大学に通う猿田佐世さん(大学院生)が、米国で沖縄の基地問題の関心の低さに驚き、学生らに知ってもらおうと発案した。賛同者を集め、6月に大学に企画を提案、競争率の高い試験に受かり承認された。
 沖縄では南部戦跡や普天間飛行場、嘉手納基地などの米軍施設、辺野古の座り込み現場などを訪れる。沖縄国際大学の学生との意見交換も予定している。
 日本語を勉強し、沖縄のことを知ったというエリン・チャンドラーさん(大学院生)は「環境問題、特にジュゴン保護を気に掛けている。米国に、沖縄の平和への闘いを妨げる権利はない。米国の民主主義を信じている」と強調。県系4世のミヤギ・トーリーさん(3年)は「ワシントンと東京には沖縄が見えていない。日本が重要な同盟国であるなら、沖縄もパートナーとして扱うべきだ」と話す。
 引率するデービット・バイン准教授は「外国軍の基地と隣り合わせで生活するということをどう思うか、学生に考えてほしい」と期待を込める。学生らは毎週金曜日に集まり、議論や旅程の調整などを行っている。旅費を稼ぐため構内でピザを売ったり、寄付金集めに奔走している。最近はウェブサイトも立ち上げた。アドレスはhttp://altbreakokinawa.blogspot.com/

 意図といい期日といいその他の詳細についても対応しているので、メア氏講義の元となったツアーがこれに相当すると見てよいだろう。Foreing Policyの報道はこの部分で正しいだろう。
 その上で、Foreing Policyが挙げている猿田氏以外のリーダーは「引率するデービット・バイン准教授」と見てよいかもしれない。いずれにせよ、デービット・バイン准教授が、メア氏発言の元になった講義参加ツアーの指導者であることは確かであり、当然ながら猿田氏との考え方の合意は取れていただろう。
 デービット・バイン准教授はWSJに映像メディアとして掲載されたメア氏本人の反論に対して、4月17日の共同通信「「信じがたい発言」バイン准教授 メア氏「捏造」に反論」(参照)で次のように語っている。

 「沖縄はゆすりの名人で怠惰」などの発言で米国務省の日本部長を更迭され、退職したケビン・メア氏が米紙の取材に「発言録は捏造(ねつぞう)」などと述べたことに対し、アメリカン大のデービッド・バイン准教授は共同通信に「メア氏は再び信じ難い発言をした」と述べ、発言の詳細をさらに明らかにして反論した。バイン准教授は昨年末、学生を引率して国務省を訪れ、ともにメア氏の発言を聞いている。
 まず学生たちが作成した発言録(A4判3ページ)について「私自身もA4判のノート10ページにわたってびっしりとメモを取っており、それに照らして慎重に確認した。一字一句とまでは言わないが、重要な部分は間違いなくメア氏の発言通りだ」とあらためて強調した。
 また、自身のメモに基づくメア氏の発言の詳細として「日本人全体がゆすり文化の中にある。まさにゆすりであり、それが日本文化の一面だ」と述べた後に「沖縄はその名人であり、沖縄戦における犠牲や米軍基地の存在に日本政府が感じている罪(の意識)を利用している」と述べたと指摘した。
 さらに、メア氏は沖縄を米領プエルトリコにたとえ、沖縄の人はプエルトリコ人のように「肌が浅黒くて背が低く、(言葉に)なまりがある」と差別発言をしていたことも明らかにした。
 発言録を作成した学生もメア氏の「捏造」発言に「うそをついているとしか言いようがない」「今後も日米外交に関与しようと画策しているのではと懸念する」などと述べている。
 メア氏は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に「なぜ発言が歪曲(わいきょく)されたかは分からないが、反基地運動が関わっている」「沖縄の人が怠惰などという言葉は使っていない。発言録は捏造」などと述べている。(共同通信編集委員 石山永一郎)

 デービッド・バイン准教授が、共同通信によって報道された合議証言に対して中立的な立場であれば、その信憑性は高いが、以上の経緯を見ると、デービッド・バイン准教授と共同通信はこのリーク報道の関係者であり、よってここからは信憑性の議論はできない。
 読売新聞が指摘している二点目について、その報道の経緯だが、一連の報道の開始は6日である。6日付け共同通信「メア米日本部長が差別的発言 「沖縄はごまかしの名人で怠惰」」(参照)が、初報道のように見える。

 米国務省のメア日本部長(前駐沖縄総領事)が昨年末、米大学生らに国務省内で行った講義で、日本人は合意重視の和の文化を「ゆすりの手段に使う」「沖縄はごまかしの名人で怠惰」などと発言していたことが6日までに分かった。
 メア氏は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題など日米交渉に実務者として深く関与、移設先を同県名護市の辺野古崎地区とした現行案決着を米側で強く主張してきた人物の一人。発言は差別的で、日本と沖縄への基本認識が問われる内容だ。
 沖縄については、日本政府に対する「ごまかしとゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも栽培できない」などと発言。
(共同通信)

 7日付け共同通信「米国務省:和の文化「ゆすりの手段」 メア日本部長が発言」(参照)はこのロングバージョンのようだ。

 米国務省のメア日本部長(前駐沖縄総領事)が昨年末、米大学生らに国務省内で行った講義で、日本人は合意重視の和の文化を「ゆすりの手段に使う」「沖縄はごまかしの名人で怠惰」などと発言していたことが6日までに分かった。
 メア氏は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題など日米交渉に実務者として深く関与、移設先を同県名護市の辺野古崎地区とした現行案決着を米側で強く主張してきた人物の一人。発言は差別的で、日本と沖縄への基本認識が問われる内容だ。
 講義を聞いた複数の学生がメモを基に作成した「発言録」(A4判3ページ)によると、メア氏は「日本の和の文化とは常に合意を追い求める」と説明したうえで「日本人は合意文化をゆすりの手段に使う。合意を追い求めるふりをしながら、できるだけ多くの金を得ようとする」と述べた。
 沖縄については、日本政府に対する「ごまかしとゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも栽培できない」などと発言。普天間飛行場は「(住宅地に近い)福岡空港や伊丹空港と同じ」で特別に危険でないとし、日本政府は仲井真弘多・沖縄県知事に「お金が欲しいならサインしろ」と言うべきだと述べている。
 メア氏は共同通信の取材に、講義は「オフレコ(公開しないこと)で行った」とし、発言録は「正確でも完全でもない」としている。
 講義は米首都ワシントンのアメリカン大の学生ら14人に対し、彼らが東京と沖縄へ約2週間の研修旅行に出発する直前の昨年12月3日、大学側の要請で行われた。
 発言録を作成した学生たちは「メア氏は間違いなくこのように言った」と証言。「米政府の地位ある人物の偏見に満ちた言葉にとても驚いた」「人種差別的発言と感じた」などと話している。(共同)

 これらの共同通信による報道およびその後に、朝日新聞など大手紙の報道が続くことから、メア氏発言問題は、共同通信が掘り出した報道であると見てよいだろう。
 先の読売新聞報道と付き合わせると、メア氏発言は、猿田氏やバイン准教授らによるツアーを取材した共同通信が「再取材」を行い、メア氏発言の元になった講義の二か月後に共同通信の求めで作成されと見てよいだろう。つまり、共同通信も報道に関わる第三者ではなく当事者なのである。
 以上の経緯からすると、先の共同通信編集委員石山永一郎氏の署名記事も、証言の信憑性や評価を考える上では、重要性の低い証言となる。「再取材」という点からはおそらく、石山氏と猿田氏、バイン准教授の事前の関連も疑われる。
 メア氏発言の信憑性を問うのであれば、共同通信が猿田氏らのツアーにどのように関わり、再取材がどのように成されたか、また、メア氏発言とされるテキストがどのように作成されたか(人選および原資料の提出)が先行されるだろう。次に、メア氏への、共同通信以外によるジャーナリズムによる追究が当然求められるはずだ。
 しかし、この事件の全貌は、共同通信でも問題視されていないだろうし、おそらく解明もされないだろう。冒頭述べたように政治的な問題が関係しているからだ。4月21日付け産経新聞「ポトマック通信 「栄転」より退職」(参照)にその示唆がある。

 沖縄県民を侮辱したとして米国務省日本部長を更迭され、4月6日付で同省を依願退職したケビン・メア氏。15日、来日中の同氏に米国から国際電話で話を聞くことができた。
 “侮辱発言”を否定したメア氏は「日本で一番嫌われ者の米国人になるのが耐えられなかった」と語った。電話口から伝わってきたのは「米軍基地再編を妨げようとするグループ」への憤り以上に、事実関係を確認しないまま早期の幕引きを図った国務省のスタインバーグ副長官への不信感だった。
 記者証があれば役所の中を比較的自由に歩ける日本と違い、国務省や国防総省内では記者会見以外で取材対象に肉薄するのは容易ではない。役所内の人間模様を探るのは至難の業で、退職したとはいえ、ここまで内実を赤裸々に明かしてくれたのには正直驚いた。
 メア氏は、欧州の米大使館への「栄転」を条件に口止めされていた。にもかかわらず、プロ外交官としての立場を捨ててまで依願退職の道を選んだのは「汚名を返上するには退職するしかなかった」からだ。
 中国寄りで知られたスタインバーグ氏は近く国務省を退任し、大学教授に「栄転」する。メア氏には日本人の妻がおり、娘がいる。今回の一件では、家族が一番つらい思いをしたのではないか。(佐々木類)

 私自身は、はてなコメントで私をメア氏の擁護者だと罵倒するコメントに反して、この記事執筆の佐々木氏のようなメア氏への同情的な感想は持たない。真相がまったく解明されていない時点で、どちらかに肩入れすることはできない。
 しかし興味深いのは、「国務省のスタインバーグ副長官」のスタンスである。先のForeing Policyに示唆があるが、今回の「失態」の原因は脇の甘いメア氏というより(言うまでもないがメア氏の失言は今回に限らない(参照))、国務省としては在沖米軍反対活動家の身元調査もせずメア氏の講義に参加させたことを基本的な失態と見ている可能性があり、それが問題であれば責が問われるのは、スタインバーグ副長官であろう。その意味では、構図としては、メア氏への対応は、国務省が責任を被らないようなツメバラでもあったようにも見える。


|

« 米国大統領はなぜアイルランド詣でをするのか | トップページ | [書評]日本復興計画(大前研一) »

「時事」カテゴリの記事

コメント

地震や津波を戦争、地域紛争と同類のトラブルと考えてみると、メア氏のコメントのうち、

-軍隊がなければ世界はより平和になると三分の一人々が信じているのです。そんな人々と対話することは不可能です。

- 米軍と自衛隊は違った考え方をしています。米軍は軍展開の可能性の準備訓練していますが、自衛隊は軍展開の現実的な準備としての訓練はしていません。
 
の部分の方が震災後は衝撃的に思えます。
想定外という言葉には(特に今回は)嫌気がさします。
その想定外のことで、何人の命、どれほどの国富が失われたのか。沖縄の基地問題の必要性と、我が国の安全保障の必要性を同じ平面で、混ぜ合わせて、両者とも葬ろうというのは身の危険を感じます。

投稿: small island | 2011.05.01 11:07

ヘー面白いな。一読み手としては風景のように無視してたけどこの手のネガコメの目的は何だろう。
1)このブログの影響力の毀損
これは難しいだろう。
2)ブロガーの消耗
これは一番ありえる。
3)レッテル貼り・カテゴライズ化
冷静な中道ってセクト連中には扱い憎いんちゃいます?

メア氏の講義から例えばモンロー主義的な在外米軍基地反対派を最初から取り除くいう考えは寧ろメリットよりデメリットの方が大きいのと違いますかね。

投稿: ト | 2011.05.01 16:29

福島のことで日本の安全保障には米軍は全く必要ではなくなつた。
海岸に並んで居る原発を幾つか破壊すれば良いことが世界中で知られてしまつた訳だから。

投稿: αγ | 2011.05.02 01:48

エントリの本筋じゃないですけど。

http://twitter.com/#!/daijapan/status/30266311170854913

会話が苦手な人が信じている事が三つある。反論は自分への攻撃、人は見下すか見下されるかしかない、意見が同じである事が仲良くなる事。会話が上手な人はそれらに従わない。許容し、裁かず、自尊する


http://medt00lz.s59.xrea.com/wp/archives/1123

扇動にはコツがある。賛成する人、反対する人は等しくカモであって、「勉強する人」が、扇動者がもっとも注意すべき敵になってくる。

投稿: | 2011.05.02 15:24

学習ツアーが、沖縄の在日米軍基地の閉鎖を呼びかける市民団体代表を務める日本人大学院生による企画だったとしていること・・・
Student Trip Leaders: Sayo Saruta and Jessica Torres・・・
http://www.american.edu/ocl/volunteer/Alternative-Breaks-Japan-2010.cfm

投稿: | 2011.08.22 08:36

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: メア氏問題の背景:

» メア氏発言が分かりにくかった背景とメディアへの警戒感 [godmotherの料理レシピ日記]
 メア氏発言で私の気がかりは、二つあった。それも、大騒ぎするほどのこともないと当初はあまり関心がなかったが、一つは、メア氏が学生相手の講義で沖縄を侮辱した発言をしたと報じられた直後、メア氏のコメントを... [続きを読む]

受信: 2011.05.02 05:52

« 米国大統領はなぜアイルランド詣でをするのか | トップページ | [書評]日本復興計画(大前研一) »