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2011.04.10

アレバ作成と見られる資料を眺める

 ネットにはすでに3月26日付けのNRC文書と思われるものがリークされており、その後もないものかと見ていたら、アレバ作成と見られる「The Fukushima Daiichi Incident」という資料がWikispooksというサイト(参照)にあった。ああ、これかあと思った。アレバのサイトには掲載されていない。
 資料といってもNRC文書とは異なり、プレゼンテーション用の資料であり、「Official Use Only(当局者の使用のみ)」として明記された秘密文書ではない。特に秘匿の文言は含まれていないが、後で触れるようにアレバとしては都合の悪い文書でもあるのだろう。
 制作者は「Dr. Matthias Braun - 01 April 2011」とあり、マティアス・ブラウン博士が4月1日に作成したもの。いわくを思うに、もしかするとエープリルフールという趣向もあるかもしれない。
 「ああ、これか」というのは、2日付けニューヨークタイムズ記事「From Afar, a Vivid Picture of Japan Crisis」(参照)に出て来た文書に相当すると見られるからだ。同記事だがこう始まる。


For the clearest picture of what is happening at Japan’s Fukushima Daiichi nuclear power plant, talk to scientists thousands of miles away.

日本の福島第一原子力発電所で起こっていることについて最もクリアな像を得るためには、数千マイルも彼方の科学者に話しかけなさい。


 このことは私も痛感していて、すでにエントリでも扱ってきたようにできるだけ欧米ソースから今回の事態を見るようにしている。

Thanks to the unfamiliar but sophisticated art of atomic forensics, experts around the world have been able to document the situation vividly. Over decades, they have become very good at illuminating the hidden workings of nuclear power plants from afar, turning scraps of information into detailed analyses.

原子力の検死官ならではの洗練された技法は馴染み深いものではないが、世界中の専門家は、その現状を鮮明に記述することできる。数十年の間に、彼らは遠隔地の原子力発電所に隠れている仕組みを解明することが非常に得意になり、断片情報を詳細な分析に変えている。

For example, an analysis by a French energy company revealed far more about the condition of the plant’s reactors than the Japanese have ever described: water levels at the reactor cores dropping by as much as three-quarters, and temperatures in those cores soaring to nearly 5,000 degrees Fahrenheit, hot enough to burn and melt the zirconium casings that protect the fuel rods.

例えば、フランスのエネルギー会社による分析は、日本人によるこれまでの説明よりも、プラント内の反応炉の状態についてはるかに多くのことを明らかにした。炉心が浸かる水はせいぜい四分の三ほどであり、炉心温度は華氏5000度にまで急上昇し、燃料棒被覆ジルコニウムのケースを燃焼・融解させるに足る温度になっている。


 言及されているエネルギー会社はアレバである。ということでアレバの話に移りたいのだが、紹介してこなかったがこの記事、読み返すとなかなか興味深いのでもう少し見てみよう。

These portraits of the Japanese disaster tend to be proprietary and confidential, and in some cases secret. One reason the assessments are enormously sensitive for industry and government is the relative lack of precedent: The atomic age has seen the construction of nearly 600 civilian power plants, but according to the World Nuclear Association, only three have undergone serious accidents in which their fuel cores melted down.

日本でのこの災害の描写は、内密であったり場合によっては秘密になりがちなものだ。産業や政府にとって評価が非常に扱いづらいものになる理由は、比較的前例がないためだ。原子力時代には約600の民間発電所が建築されたが、世界原子力協会によると、燃料が溶解する炉心溶融重大事故が起きたのは三例しかない。

Now, as a result of the crisis in Japan, the atomic simulations suggest that the number of serious accidents has suddenly doubled, with three of the reactors at the Fukushima Daiichi complex in some stage of meltdown. Even so, the public authorities have sought to avoid grim technical details that might trigger alarm or even panic.

現状はというと、日本のこの危機の結果、原子力想定によるものだが、福島第一複合原発でメルトダウン状態の3炉によって、重大事故の数が突然、2倍になった。事態がそうであれ、日本国家の諸機関は、警鐘、またはパニックすらなりうる残忍な技術情報をかわそうと努力してきた。

“They don’t want to go there,” said Robert Alvarez, a nuclear expert who, from 1993 to 1999, was a policy adviser to the secretary of energy. “The spin is all about reassurance.”

「彼らは、そこに辿り着きたくない」と、1993年から1999年までエネルギー省長官の政策アドバイザーだったロバート・アルヴァレズは語る。「情報操作はすべて安心のためである。」

If events in Japan unfold as they did at Three Mile Island in Pennsylvania, the forensic modeling could go on for some time.

日本での事態が、ペンシルベニア、スリーマイル島のように展開するならば、検死官の見立てはもうしばらく継続するだろう。


 ニューヨークタイムズにありがちな煽りの修辞に満ちているが、日本人としてはちょっと痛いものを感じざるを得ない部分はある。
 とはいえ、事態を政治の文脈にいろいろ置き換える人もいるなか、同記事でのポー(Li-chi Cliff Po)博士の言及は少しばかり慰めになるかもしれない。

“I don’t think there’s any mystery or foul play,” Dr. Po said of the disaster’s scale. “It’s just so bad.”

「私は、ミステリーも不正もないと思う」と災害の規模についてポー博士は語る。「ただ、あまりにひどいということだ。」


 余談ついでに、メルトダウンの定義みたいな部分あるので言及しておこう。

By definition, a meltdown is the severe overheating of the core of a nuclear reactor that results in either the partial or full liquefaction of its uranium fuel and supporting metal lattice, at times with the atmospheric release of deadly radiation. Partial meltdowns usually strike a core’s middle regions instead of the edge, where temperatures are typically lower.

定義上は、メルトダウン(炉心溶融)は、炉心の深刻な過熱によってウラン燃料と被覆金属束が部分的または全体的に液化に至ることであり、その際、相当の放射能が大気に放出される。部分的なメルトダウンは、通常炉心中部を襲い、比較的温度の低い炉心の端部は襲わない。


 アレバの話に戻るのだが、場所は3月21日スタンフォード大学のパネルディスカッションである。この会合については、おそらく該当ニューヨークタイムズ記事を参考にして書かれた印象の強い産経新聞記事「海外分析 政府発表より緻密」(参照)にこうある。

 米スタンフォード大学は3月21日、今回の福島第1原発事故と原子力発電の将来について考えるパネルディスカッションを開いたが、席上、フランスの世界最大の原子力産業複合企業アレヴァの関連企業のアラン・ハンセン副社長は「(福島原発で)一部溶融した核燃料棒の温度は、最高時には摂氏2700度に達していた」と発言した。これは専門家が聞けば、愕然とする内容だった。

 ニューヨークタイムズ記事ではこう描かれている。

Dr. Hanson, a nuclear engineer, presented a slide show that he said the company’s German unit had prepared. That division, he added, “has been analyzing this accident in great detail.”

各技術者ハンソン博士は、同社ドイツ部門が準備したと語るスライド・ショーでプレゼンテーションを実施した。この部門は「非常に詳細にこの事故を分析している」とも付け加えた。


 おそらくこれが該当のアレバの資料ではないかと思われるのだが、これに奇妙な後日譚がある。

Stanford, where Dr. Hanson is a visiting scholar, posted the slides online after the March presentation. At that time, each of the roughly 30 slides was marked with the Areva symbol or name, and each also gave the name of their author, Matthias Braun.

スタンフォード大学の客員教授ハンソン博士は、3月のプレゼンテーション後、該当スライドをインターネットに公開した。その時点では、30枚ほどのスライドにはアレバのシンボルと名称が記載され、一枚ごとに著者マティアス・ブラウンの名前もあった。

The posted document was later changed to remove all references to Areva, and Dr. Braun and Areva did not reply to questions about what simulation code or codes the company may have used to arrive at its analysis of the Fukushima disaster.

後日該当スライドからは、アレバへの参照がすべて除去され、ブラウン博士とアレバは、福島の災害分析に至るために同社が使っただろう模擬実験プログラムや各種プログラムについては回答していない。

“We cannot comment on that,” Jarret Adams, a spokesman for Areva, said of the slide presentation. The reason, he added, was “because it was not an officially released document.”

「私たちはそれについてコメントできせん」と、アレバ広報員ジャレット・アダムズはスライドのプレゼンテーションについて語った。理由は、「それが正式に公開された文書ではなかったからです」とのこと。


 該当プレゼンテーション資料なのだが、見ればわかるし、今となってはこの問題に関心を寄せる人にとってはさほど衝撃的な内容でもない。スライドの大半は、炉の変容について図で解説されたものだ。見ていると、図の部分だけをアニメションにしたらおもしろそうなので切り出してみた。

 炉ごとの差違についての言及については該当資料の英文に説明がある。
 特段に目新しい情報もないが、メルトダウンした部分は炉の底に落ちてなく、炉内の中央に鎮座しているようだ。おそらく炉の底抜けはないとアレバは見ているのだろう。この推測であれば、溶融部分が今後スパイクをおこせば蒸気爆発の可能性もないとも言えないが、現状の微妙な安定も説明しているように見える。
 2号炉の汚染源は圧力制御室と見ており、日本の保安院の見解に近い。と書きながら、時系列からして、もしかすると保安院はアレバのストーリーを参考にしているという逆の情報の流れもあるかもしれないなと疑問に思う。
 以前のエントリ-「ニューヨークタイムズが掲載した福島原発の放射線量グラフを眺める: 極東ブログ」(参照)で引用した、線量変化についてのニューヨークタイムズのグラフと同じものが、アレバ文書にもあり、ニューヨークタイムズより詳しい考察が加えられているが、疑問符なども記されていて解明という印象は受けない。

 NRC文書についても思ったことだが、アレバの資料についても現状の分析があれば読みたいものだとも思う。

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コメント

うんうんアニメわかりやすい.六個の発電機とグラフをあわせて毎日公開してれば隠蔽とか言われなかったのにね.
メルトダウンってちょっとでも逝っちゃったらそう表現されるのですね,まえは,ドボドボに底にたまった状態かと思ってた.

投稿: KI | 2011.04.10 21:26

 私も今回の騒ぎでメルトダウンの定義を調べ直しました。
 極東ブログさん界隈では判りませんが、あちこちでまあ不用意に使われてましたね。定義に照らし合わせれば文章として間違ってはいないのですが、その後の話題の展開を見ていると、読み手の中にはメルトダウンという言葉で映画のチャイナ・シンドロームを思い出して想像を膨らませた人が少なからずいたのではないかと思います。書き手のほうにも確信犯的に書いている人もいたのではないかな。

投稿: | 2011.04.11 03:04

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