米国にせっつかれて福島第一原発20キロ圏内でようやく放射線測定始まる
原発事故について現下はまだ緊急事態であり、人災的要因などの追究は後日でもいいように思うのだが、さすがにこれはがっくりきたので記しておきたい。ようやく福島第一原発から半径20キロ以内大気中の放射線量の測定が開始になったことだ。しかも、米国からの要請なのである。
ニュース記事を拾っておこう。3日5時4分NHK「20キロ内でも放射線量測定」(参照)より。
福島第一原子力発電所の周辺での放射性物質の拡散状況について、政府と東京電力は、これまで調査を行っていなかった、原発から半径20キロ以内の地域についても、新たに大気中の放射線量の測定を始めました。
これまで公式には調査がなされていなかったというのが事実、というのを確認しておきたい。
なぜこれまで測定しなかったのか。
福島第一原子力発電所の周辺での放射性物質の拡散状況について、政府と東京電力は、これまで、原発の敷地内や、「避難指示」が出されている半径20キロより外側の地域で、大気中の放射線量の測定を行っていますが、半径20キロ以内では、ほとんどの住民が避難を終えていることや、測定には被ばくの危険性が高まることなどから、詳しい測定を行っていませんでした。
理由は2点とされている。
(1) すでに20km以内は住民が避難しているので測定する必要はない
(2) 測定すると被爆の危険性が高まる。
理由になっていないと思われる。(1)については、一定期間の測定があれば、一時帰宅の可能性の検討できるし、該当環境の被害の累積的な状況がわかるはずだ。明らかに有益な情報となる。
被爆の危険性とする(2)だが、すでに原発現場で作業されている方との比較で考えても対応は可能であろうし、原発近くの線量が高いのであれば、例えば5km圏内は測定しないということでもよいだろう。
陰謀論的に考えたくはないが、これまで計測してこなかった理由は、緊急時ということは当然あるとしても、それ以外にも避けたい理由はあったのだろう。
ではなぜ実施されるようになったかというと米国からの要請である。
しかし、福島第一原発の対応を検討する日米協議の中で、アメリカ側は「放射性物質の拡散状況を調べるためには、調査が不十分だ」と指摘し、これを受けて、政府と東京電力は、原発から半径20キロ以内でも、およそ30の地点で、新たに大気中の放射線量の測定を始めました。
米国側からの要請がなければ、こうした政治決断ができなかったというのが、一番がっくりくるところだ。
新しく計測される結果も公表される見通しは低そうだ。
調査結果は公表されていませんが、これまでの測定では、原発の北西方向にある福島県浪江町の調査地点で、1時間当たり50マイクロシーベルトを超える、やや高い放射線量を計測した一方、原発の北の方向にある南相馬市の調査地点では、1時間当たり1マイクロシーベルトを下回ったということで、半径20キロ以内でも地域によってばらつきがあるということです。政府は、よりきめ細かいデータを把握し、アメリカ側と情報共有を進めるとともに、今後の対応策の判断材料に役立てたいとしています。
20km圏内の情報を開示するかについては、政府判断もあるだろう。逆にいえばそう問われるのがいやで計測しなかったのかもしれないと穿って考える余地を残してしまう。
米国がこのちょっかいを出した背景は、すでに米国エネルギー省(DOE)が米軍機や地上観測データから算出した福島第一原発周辺の放射線量の推定値を公表しており、セシウム137など今後累積していく放射性物質の問題を含めて、このまま日本側が沈黙し、米国側だけの情報となっては、日米共同作業および世界に向けての公報という点で問題があると判断したためだろう。日本政府はその判断ができそうにないと見切ったということでもある。
DOEの公開データは「The Situation in Japan」(参照)で誰でも閲覧できる。現状では29日更新された24日と26日のデータが公開されている。

The Situation in Japan
DOEの地図には福島第一原発から同心円状の円が2つ描かれていているが、内側が13海里(約24km)、外側が25海里(約46.3km)ということで、大ざっぱに25km圏内と45km圏内と見てよいだろう。
地図上色分けされた放射線量の単位、mR/hrは10マイクロシーベル/時である。北西方向40km圏内に黄色からオレンジ色の2mR/hrの領域があることが見て取れる。ミリシーベルト/年に換算すると(24時間×365日)、約175.2ミリシーベルト/年となる。なお、国際放射線防護委員会(ICRP)は緊急事態発生時の一時的な緩和基準として20ミリシーベルト/年を日本政府向けに声明を出している(参照)。
日本政府側からは原発周辺放射線量の情報は出てこない可能性が高いが、現状のDOE情報を見るかぎり、現状については居住については、問題がありそうだ。
原発の状況を見て、政府は今後も慎重な対応が必要になることは言うまでもないが、安定的に推移していけば、一時帰宅などの対応も求められることはあるだろう。
追記
コメント欄にてご指摘いただき、mR/hrの計算を勘違いしていたことに気がついた。居住の安全性についても誤解していたので本文を訂正した。併せて、マイルを海里に直し換算しなおした。
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コメント
mR/hr=ミリレム毎時=10マイクロシーベル毎時ではないでしょうか?
投稿: | 2011.04.03 12:50
mRem=10uSvじゃないですか
投稿: naruse | 2011.04.03 13:35
単位計算のご指摘ありがとうございました。本文を訂正しました。
投稿: finalvent | 2011.04.03 15:40
いつもブログ記事楽しみにしています。
DOEの測定値は参考になりますね。
細かいところですが、DOE資料中外側の円の距離単位はNautical Milesになってるので、25海里(約46km)でしょうか。
投稿: | 2011.04.03 15:53
「海里」のご指摘ありがとうございました。通常のマイルで換算していたので、本文訂正しました。
投稿: finalvent | 2011.04.03 16:00
作業員がいるJヴィレッジが原発から15kmほどの距離にあります。
なにか関係があるかもしれませんね。
投稿: | 2011.04.03 17:36
SPEEDIの画像には、20キロ以内の積算値も出てたような気がしたんですが、あれはもっと離れた地点での測定値から逆算したってことなんでしょうか。それとも見間違いかな??
投稿: 柾武史 | 2011.04.04 12:32
民間にやらしてるから
20Km圏内に入らせる
事ができないんじゃね?
投稿: ヒロシ | 2011.04.12 10:01