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2011.03.19

ミッション「二階から目薬」の背景

 福島原発事故について事態は依然深刻な状態にあるなか、後の検証ためになるかもしれない気になる点を備忘のためにメモしておきたい。
 気になるのは、福島第1原子力発電所4号機の使用済み燃料プールの水について、米国時間の16日、米原子力規制委員会(NPC)グレゴリー・ヤツコ(Gregory Jaczko)委員長が米下院エネルギー・商業委員会で、すでに無くなっていると証言したこと、日本政府による、あるとする見解が相違しているように見えることである。
 ヤツコ委員長の証言はNPR「No Water In Spent Fuel Pool Of Japan Plant」(参照)からの孫引きだと次のとおりである。


"There is no water in the spent fuel pool and we believe that radiation levels are extremely high, which could possibly impact the ability to take corrective measures,"

「使用済み燃料プールには水が全く存在せず、私たちは、放射能レベルが極めて高いと信じている。この放射能レベルは是正措置を取る能力に影響を与うる。」


 国内の報道では、共同は「福島原発「事態悪化」と米委員長 燃料プール、大半の水なし」(参照)で伝えた。

【ワシントン共同】米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は16日の上院公聴会で、火災が発生した福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールについて、大部分の水がなくなっているとの見解を示した。
 同プール内の水が失われると燃料棒がむき出しになり、放射性物質の放出が加速される可能性がある。
 委員長は原発事故に関し「事態が悪化している」と指摘。こうした認識が、原発から80キロ圏内に滞在する米国民への避難勧告につながったとした。
 NRCは現場に専門家を派遣している。委員長は「情報は限られているが、信頼できる情報を提供するよう心掛けている」と強調した。

 ヤツコ委員長証言と共同の記事と付き合わせると、証言では"no water"が共同では「大部分の水がなくなっている」となっている。その差違はよくわからない。
 読売新聞記事「米原子力委員長「4号機プールに水ないと思う」」(参照)では次のように伝えている。

 【ワシントン=山田哲朗】米原子力規制委員会(NRC)のグレゴリー・ヤツコ委員長は16日、米下院エネルギー・商業委員会で証言し、福島第一原発4号機について「使用済み燃料プールの水はすべて沸騰し、なくなっていると思う」との見解を明らかにした。
 使用済み燃料棒が露出した結果、「放射線レベルは極めて高く、復旧作業に影響する可能性がある」とも指摘した。具体的な人体への影響については、「かなり短い時間で致命的になるレベルだ」と述べた。
 ヤツコ委員長の発言は、東京に派遣した米国の専門家チームからの情報を基にしているとみられる。米当局が、日本政府や東京電力よりも、原子炉の状況について悲観的な見方をしていることを示した。
(2011年3月17日10時04分 読売新聞)

 ヤツコ委員長証言を詳細に見ていないので、読売新聞記事の「すべて沸騰し」の由来はよくわからない。
 ブルームバーグ記事ではヤツコ委員長証言の背景にも言及している。「米NRC委員長:福島原発の核燃料プール、水なくなったとの発言確認」(参照)より。

 3月16日(ブルームバーグ):米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は、東日本大震災で被災した福島第1原子力発電所の原子炉の一つで使用済み核燃料プールの水がすべてなくなったとの下院委員会での発言を確認した。
 ヤツコ委員長は上下両院の委員会で証言後に記者団に対し、「問題の原子炉への対応に携わり、原発関係者と協力している米国のチームが日本にいる」と述べ、「それが情報源だ」と説明した。
 AP通信によると、日本の当局は福島第1原発4号機について、水がすべてなくなったことを否定し、安定していると指摘している。

 ヤツコ委員長証言の情報源は在日米国側チームによるらしい。
 これに対して日本側の対応だが、東電は水があったとしている。NHK「“4号機のプール 水あった”」(参照)より。

3月17日 12時38分
東京電力によりますと、17日、自衛隊のヘリコプターが上空から福島第一原子力発電所の状況について調べたところ、4号機の使用済み燃料プールには、水がある様子が確認されたということです。入っている水の量についてはまだ、確認できていないということです。また3号機には蒸気が立ちこめていたということで、16日の自衛隊のヘリコプターを使った上空からの水を入れる作業は、3号機から始めることに決めたということです。

 ブルームバーグ記事「東電:ヘリコプターを飛ばし使用済み燃料プールの水位を確認」(参照)も参照しておこう。

 3月17日(ブルームバーグ):東京電力は17日、記者団に対しヘリコプターを飛ばし福島第一原子力発電所3、4号機の使用済み燃料プールの水位を確認すると発表した。同社社原子力設備管理部の小林照明課長が明らかにした。
  福島第一原発の放水に関しては、同社広報の吉田薫氏によると、4号機の燃料プールのほうが水が少ない可能性があるが、3号機のほうが放水しやすい状態にあるため、3号機の放水を優先するという。

 東電側はヤツコ委員長証言に反論するためにヘリコプターによる確認を取ったとも言えるだろう。どちらが正しいのだろうか?
 日本ではこの問題、つまり東電側の発表と米国議会証言との差違についてそれほど議論にならなかったように思われる。おそらく、ヘリコプターによる確認ができたので、それが正しいとされたのではないだろうか。またヤツコ委員長も東電側の応答をいったん了承したかにも見えた。
 この点について朝鮮日報の記事「東日本巨大地震:核燃料保管プールに水はあるのか」(参照)は疑問を投げかけていた。

 米側の主張に対して東京電力は「4号機の状況は非常に安定している」として直ちにに反論した。東京電力は17日午後にヘリコプターから撮影した4号機の映像を公開した際「プールの水面とみられる部分が映っていた」と主張した。映像によると、4号機は片方の壁に半分ほど穴が開いており、そこから絡み合った鉄骨が露出していた。穴からは燃料棒を移動させるのに使う緑色のクレーンが見え、その後ろには白く光る部分があった。原子炉の構造から推測すると、この光る部分は使用済み燃料棒を保管するプールのある位置だ。東京電力は「この白く光る部分はプールの水面とみられる。4号機のプールには水が残っているため、放水作業は3号機から開始する」と説明した。
 このように日本が強く反論すると、ヤツコ委員長は17日に行われたホワイトハウスでの会見で「プールの水がなくなったとするNRCの見解は、あの時点で入手していた情報に基づくものだ。冷却作業が進められれば、危機的状況になるまではしばらく時間があるだろう」として発言を修正した。
 しかし、4号機の映像を見たソウル大学原子核工学科の黄一淳(ファン・イルスン)教授は「水があるのなら、画面のように明るく光らないだろうし、また蒸気も発生しているはずだが、そのような映像はなかった」とした上で「明るく見える部分は、燃料棒の一部が空気中に露出したものではないか」と指摘した。4号機の使用済み燃料棒保管プールに水はないとするNRCの発表の方が、より信頼できるということだ。黄教授は「この映像を根拠に東京電力が4号機に放水作業を行わないのなら、これは理解に苦しむ」と述べた。

 東電側のその写真をどう判断するかは難しい。日本国内でジャーナリズムによる検証はなされたかについては私は知らない。
 4号機の経緯について振り返ってみよう。15日付け朝日新聞記事「4号機、水が蒸発し水素爆発か 燃料棒露出の可能性も」(参照)より。

 福島第一原発4号機でも15日午前6時ごろに大きな音が発生した。東京電力が確認したところ、原子炉建屋の5階屋根付近に損傷がみられた。さらに午前9時38分ごろ、原子炉建屋4階北西部付近で出火を確認。正午前までに鎮火した。


 通常、プールの温度は40度以下で管理している。ところが、14日午後4時18分時点では約85度まで上昇していた。燃料の周囲を満たしている水が蒸発、燃料棒がむき出しになって水素が発生した可能性がある。ただ、運転停止後時間がたっており、発熱量は小さめだという。実際にむき出しになったかどうかは、確認できていない。

 東電ヘリコプターでは3号機では水蒸気が確認されているが、4号機では水があるとしていながら、写真から水蒸気はないとしている。
 問題が錯綜するのは、朝鮮日報記事にもあるようにヤツコ委員長は17日、考えを「修正」したかに見えることだ。表面的には東電の説明を飲んだかたちにも見える。
 この点について、17日付けウォールストリートジャーナルは「Did NRC’s Jaczko Misspeak?」(参照)で、ヤツコ委員長証言は誤りだったかいう切り口で取り上げている。だが、微妙な記事である。

At a White House briefing Thursday, Mr. Jaczko declined to repeat that statement, but he did not retract it, either.

木曜日のホワイトハウスにおけるブリーフィングで、ヤツコ氏は、(4号機プールに水はないとする)言明を繰り返すことは辞退したが、撤回もしなかった。


 これをどう見るかは難しい。政治的な判断かもしれない。枝野官房長官の会見も考慮に入れるほうがよいだろう。まず、17日午前11時半の会見(参照)より。

 ――米国の原子力規制委員会委員長が議会で、福島第一原発4号機について使用済み燃料プールの水はすべてなくなっている、と証言。日本政府の情報に基づいての証言なのか。
 おそらくそのご発言などがあって以降だと思うが、私どもの方から米国の専門家にこちらのより詳細な情報を提供して、すり合わせというか、認識が統一されているのかどうか整理させていただいている。
 この間、米国の専門家の皆さんには、できるだけタイムリーにこちらのもっている情報を提供して、分析をいただいて、そうした分析も参考にしながら対応しているところだ。どうしても若干様々なものをお渡しをするなどについての時間的ずれが生じている。
 特に4号機に現に水があるのかどうかについての情報については、若干米側に伝達するのに時間的な差があったという報告は受けている。

 「そのご発言などがあって以降だと思う」としているが、ヤツコ委員長証言以降を指すのだろう。表面的に読めば、日本側は4号機に水があるとしているが、米側にその伝達が遅れたかのように読める。つまり、日本政府としては4号機プールに水があるとしている情報を米国に伝えなかったために、米国側が誤認したということになる。ヤツコ委員長証言を否定していることになる。
 そうであれば、米側を説得するために東電ヘリコプター写真があったということになる。
 ところで、米側は東電よりも詳しい情報をすでに得ていたのではないだろうか。
 このあたりから時系列が複雑になるのだが、17日に米国は無人偵察機グローバルホークを福島原発に飛ばせた。産経新聞記事「米無人偵察機が原発内部を撮影へ きょうにも投入」(参照)より。

【ワシントン=佐々木類】放射能漏れが深刻化する福島第1原発の建物内部の実態把握のため、米軍が17日にも無人偵察機グローバルホークを投入することになった。現場レベルの原発事故対策としては初めての本格的な日米協力になる。米国防総省高官が16日、明らかにした。

 さらに米国はU2偵察機も投入している。「福島第1原発にU2偵察機も投入 米が内部解析と報道」(参照)より。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は18日、米軍が無人偵察機グローバルホークに加えてU2偵察機を投入、東京電力福島第1原発の原子炉建屋内部の解析などに当たっていると報じた。民間専門家は、スパイ衛星も使われている可能性があるとしている。

 この精密な写真は日本側に渡された。毎日新聞「東日本大震災:福島第1原発事故 米軍無人機の映像、日本政府が公開に慎重」(参照)より。

 日本政府が、米空軍無人偵察機「グローバルホーク」が撮影した福島第1原発上空の映像の提供を受けながら、公開に慎重姿勢を見せていることが関係者の証言で分かった。米軍側は「あくまで日本側の判断」とし、提供した映像の公開を承認している。
 無人機が搭載する高性能のカメラは「車のナンバーが読み取れるほど鮮明」(米空軍)で、映像は原発施設の内部状況をほぼリアルタイムでとらえており、専門家の分析にも役立つ可能性が高いという。


 だが日本側は、映像を保有したまま公開していない。同米空軍基地では、米国の原発専門家らが映像を詳細に分析しているという。

 映像には4号機のプールの映像も含まれているだろうし、水の有無の判断が可能になるはずだ。公開して、東電ヘリコプター写真と付き合わせて見ると、ヤツコ委員長証言と東電のどちらが正しいかはわかるはずだ。
 興味深いのはこうした情報収集は、米側ではこれが初めてではなかったようだ。同記事にはこう指摘されている。

米空軍は日本政府からの要請を受け、グアムのアンダーセン空軍基地に配備されている最新鋭のグローバルホーク(翼幅約40メートル、全長15メートル)を震災の翌12日から、被災地周辺に飛行させている。多量の放射性物質が検知されている福島第1原発上空では自衛隊機の飛行が困難なため、グローバルホークが24時間態勢で撮影。衛星通信を介して映像を米カリフォルニア州の米空軍基地に送信し、日本政府側にも提供している。

 時事「無人偵察機で福島原発撮影=冷却対策、日本と情報共有-米空軍」(参照)も同種の内容を伝えている。

ーク」を投入し、放射能漏れが続く福島第1原発の上空付近を飛行させて撮影していたことが16日、分かった。米空軍筋が明らかにした。

 東電がヘリコプターを飛ばした17日以前から東電ヘリコプター写真より精細な情報を米国側がもっていたと考えてよいだろう。そして、それがヤツコ委員長証言の情報に繋がっていたいたと考えられる。
 この時系列で考えるなら、日本政府側としては、4号機プールの状況がわからず、東電に打診したところ水はあるという応答を得て公式見解としたところ、それに矛盾するヤツコ委員長証言が出てきた。17日、東電はヘリコプターを飛ばして水があるという写真を得た。しかし枝野官房長官が述べたように、この時点ですでに日米両政府で摺り合わせは始まっていて、米国側の写真も存在していた。東電ヘリコプター写真と米側の写真を日本政府は付き合わせたことだろう。米国側は17日にもグローバルホークを飛ばしたのもその背景があったためだろう。
 ヤツコ委員長の対応を考える上で、19日の枝野官房長官の会見(参照)も見ておこう。

――原発4号機の使用済み燃料棒プール。「水が残っている」日本側と、「破損しているから水をためるのは困難だ」とする米国。どちらの見解が正しいのか。
 私は専門家ではないので、私自身の見解はここでは意味がないことだ。そのうえで、我が国の専門家のみなさんが分析した認識と、米国の専門家のみなさんが分析している認識については、これは日々ディスカッションをしてすりあわせをしてきている。今言った米国の認識というのは、ある一定時間前の認識として、そうした認識があったということは聞いているが、時々刻々様々な状況についての情報がはいるなかで、4号機について「一定の水が入っていて、それによって冷却に一定の効果がなされている」ということについては、よりその可能性が高いという報告をこの間受けている。

 従来からの政府の建前上、4号機プールに「一定の水が入っていて」の可能性としているが、可能性に留めて、米国側のとの認識のすりあわせが優先されている。
 米側の対応からすると、4号機のプールには水はないと推論するほうが妥当なようだが、以上の経緯の推定は、東電の意見が日本政府に及ぶのを米国側から強くヴィトーしたかに見えるプロセスなので、4号機プールの状態自体の情報からは独立している。
 19日付け共同「米専門家、4号機プールに亀裂か 冷却困難も、と指摘」(参照)を想定すると、枝野官房長官の建前の可能性は低そうにも思える。

【ロサンゼルス共同】米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)は18日、東日本大震災で被災した福島第1原発4号機について、使用済み燃料プールに亀裂が入り、冷却水が漏れている可能性があると報じた。米原子力規制委員会(NRC)の複数の原発専門家の分析として伝えた。
 亀裂の場所などは特定していないが、同紙は、漏えいが事実とすれば放水などによる冷却作業が一層難しくなり、「打つ手のない」(米物理学者)状況に追い込まれると指摘している。
 こうした分析について、枝野幸男官房長官は19日夕の記者会見で「(米側には)以前そういう認識があったと聞いている」と述べた。その上で「時々刻々さまざまな情報が入っている中で、4号機には一定の水が入っている可能性が高いという報告を受けている」と説明した。
 NRCの専門家は同紙に対し「(地震発生から)数日だけで、これほどの量の冷却水が蒸発するのは疑わしい」との見方を示した。亀裂の原因としては、地震の強い揺れや、それによる機材の落下が考えられるという。
 ニューヨーク・タイムズ紙(同)も、原子力企業幹部による同様の分析を紹介。米政府当局者は、4号機の建屋で15日発生した火災が完全に鎮火したかどうか確信を持てていないと伝えた。

 ヤツコ委員長証言以降進められた日米政府間の摺り合わせの間、「おそれいりますがしばらくそのままでお待ち下さい」になることもなくスペクタクルな、決死のミッション「二階から目薬」が実行されていた。対象は3号機である。朝日新聞「陸自ヘリ、水投下4回で終了 今後は陸上から放水」(参照)より。

 放射性物質放出の恐れがある東京電力福島第一原発3号機の使用済み燃料貯蔵プールを冷却するため、陸上自衛隊のヘリコプター2機が17日午前9時48分から計4回、上空から3号機に向け、水を投下した。17日午後には自衛隊と警視庁も地上から放水を始める方向で準備を進めており、原発の外からの冷却作業が本格化する。 
 ヘリ4機は17日朝、仙台市の陸自霞目駐屯地から出発。UH60ヘリ1機が上空から原発周辺の放射線量を調査した結果、1機あたり計40分間まで作業が可能だとして、CH47ヘリ1機が投下を指揮し、同2機が午前9時48分から午前10時まで、バケツ(容量7.5トン)でくみ上げた海水を交互に投下した。
 北沢俊美防衛相は投下を受け17日午前11時半ごろから記者会見し、「今日は限度だという判断で決心した」と、このまま3号機を放置するのは難しい段階にあったとの認識を示し、「3号機に間違いなく水はかかっている。成功を期待している」と述べた。今後、地上からの放水の効果などを見て、必要に応じて上空から追加して水を投下することも検討するという。

 任務に当たったかたにはひたすら頭の下がる思いがする。産経新聞「北沢防衛相、「決断」丸投げ 現職自衛官が悲痛な寄稿」(参照)より。

 福島第1原発への海水投下をめぐり、北沢俊美防衛相が任務決断の責任を折木良一統合幕僚長に転嫁するかのような発言をしたことに対し、自衛隊内から反発の声が上がっている。
 北沢氏は陸上自衛隊のヘリが17日に原発3号機に海水を投下した後、「私と菅直人首相が昨日(16日)話し合いをするなかで結論に達した」と政治主導を強調する一方で、「首相と私の重い決断を、統合幕僚長が判断し、自ら決心した」と述べた。
 この発言について、ある自衛隊幹部は「隊員の身に危険があるときほど大臣の命令だと強調すべきだが、逆に統幕長に責任を押しつけた」と批判する。北沢氏は17、18両日の2度の会見でヘリの乗員をねぎらう言葉も一言も発しなかった。
 首相も最高指揮官たる自覚はない。首相は17日夕、官邸での会議で「危険な中での作戦を実行された隊員はじめ自衛隊のみなさんに心から感謝を申し上げます」と述べたが、地震発生以来、一度も防衛省を激励に訪れたことはない。

 自衛隊のかたのご苦労に感謝したい。効果については、仮に放水まで打つ手がないための無理な策であったかもしれないとしても、私も問えない。
 壮大なるミッション「二階から目薬」は3号機を対象になされた。4号機でなかったのは、政府としてはそこにすでに水があるからであろう。
 もしそこに水を撒いたらどうなったかについては、16日付けのロイター記事「Analysis: Japan nuclear crisis reaches new levels」(参照)では、ヤツコ証言を巡る識者の意見としてこう伝えていた。

Arnie Gundersen, a 29-year veteran of the nuclear industry who has worked on reactors similar to the Daiichi plant and is now chief engineer at Fairewinds Associates Inc, warned that dropping water on the spent fuel pool could make matters worse.

第1プラントに似た反応炉で働いたことがあり、現在フェアウインズアソシエーツ社の技師長をしている、原子力産業で29年の経験を積んできたアーニー・ガンダーソンは、使用済み燃料プールに水を投下すれば事態が悪化しうると警告した。

"It's a bad idea to drop water onto the fuel racks. You could get an inadvertent criticality. That means you could have a nuclear reaction, similar to that in a reactor core, in the fuel pool," Gundersen said.

「燃料棚に水を投下するのはまずい考えです。予想外の臨界になるかもしれない。つまり、核反応を起こしかねないのですよ。燃料プールのなかで原子炉内に似たことになります」とガンダーソンは語った。


 そうなる可能性があるかについて私にはわからない。
 4号機への放水は今日は実施されなかったようだ。19日15時29分更新の日経新聞記事「2号機に電源接続へ 福島第1原発、3号機は放水続行」(参照)には、こう書かれていた。。

一方、防衛省は自衛隊の消防車による4号機への放水作業を19日午後以降に実施する方向で検討を始めた。自衛隊が17、18両日に放水した3号機は東京消防庁などの放水態勢が整ったので任せ、放射性物質飛散の危険がある別の原子炉に放水対象を移す。

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コメント

枝葉末節ですが、Arnie Gundersen氏について。彼は「29歳」ではなく、「原子力業界に29年間(恐らく正確には39年間)従事した人物」だと思います。

http://www.fairewinds.com/content/who-we-are

上掲のWebページにはGundersen夫妻の紹介があり、Arnieは愛称で正式な氏名はArnold Gundersenであることが分かります。写真があるので年齢も推測できます。従事年数については、ロイターの記事では「a 29-year veteran」ですが、Fairwindsの方では「39-years of nuclear power engineering experience」となっています。ロイターの「29」はTypoかなと思います。

投稿: living | 2011.03.20 00:42

 まぁ、いちいち、コメントよこした人間に答える必要はないと思いますが、「1号機では核反応の制御ができてない・制御棒が機能していないという仮説が立ちうる。」ということについては、どうお考えなのでしょう。

 現時点で、三号機を集中的に放水しているということ、つまり、優先順位を三号機にしているということですが。四号機の燃料プールはどうなっているのでしょうね。
 
 今回のエントリー、横のものを縦にしてもしょうがないでしょう?
 
 それにしても、「ミッション『二階から目薬』の背景」という、エントリーのタイトル、現場で線量を考慮しつつ作業に当たっている作業員の方にとても失礼ではありませんか?「背景」なんか、全然語られていないし。
 デリカシーあるのでしょうか。
 それとも、相応の理由があるのですか?

投稿: 永作 | 2011.03.20 00:44

livingさん、ご指摘ありがとうございます。「29年の」と訂正しました。

投稿: finalvent | 2011.03.20 06:51

永作さんへ。該当エントリに、その後の関連報道の資料を追記してあります。ご参考にしてください。

投稿: finalvent | 2011.03.20 06:52

結局、東電の希望的観測と隠蔽体質というフィルターがある限り、グローバルホークがどんなデータをそこで拾ったか公開されない限り、四号炉に水が無くなってると考える方が私には合理的なような気がします。
ただ政府の発表には単に事実ということよりその結果について責任がありここにも考査が入らざる得ないでしょう。
当たり前ですがその場合でも治安関係で自衛隊幕僚と警察トップにはなるべく正確な状況や数字は提供しているのかなぁと仮免首脳陣への不安も吐露したいです。

投稿: ト | 2011.03.20 06:53

で,Arnie Gundersenってなにもの?

投稿: KI | 2011.03.20 12:27

いつもは明快な極東ブログですが、今回は、日本発の事件の海外の報道の弱点というものにはまってしまった可能性があると思います。通常の場合、海外メディアの方が情報・知識とも豊富ですが、今回のことについては必ずしもそうとは限らないということではないでしょうか。

今日の朝日新聞の報道では、防衛庁の調査でプールには水かかる可能性が高いことが指摘されています。
http://www.asahi.com/national/update/0320/TKY201103190458.html

もちろん、日本政府と東京電力の事故後の情報公開が非常にずさんで、海外の不信をかったことが要因だと考えます。
日本の避難勧告の半径と米国の避難勧告の半径が違うことが典型だと思います。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110319-OYT1T00097.htm

なお、ニューヨークタイムズによれば、3号機の燃料が、プルトニウムを含むmox燃料であることに懸念を表明していますが、これについて、日本でまったく報道がないことは、逆にどうしてなのか不思議で疑心暗鬼になります。

投稿: yunusu2011 | 2011.03.20 19:15

ちなみに20日夜のNHKスペシャルにて、福島第一原発1〜6号機の状態の説明に用いていたパネル図には、4号機のプールのみ水が描かれていませんでした。
NHKはNRCの見解を支持しているように思えます。

投稿: | 2011.03.21 03:32

>グローバルホークがどんなデータをそこで拾ったか公開されない限り、四号炉に水が無くなってると考える方が私には合理的なような気がします。

米軍はグローバルホークやU2で収集したデータの公開を行ったことは後にも先にも一回のみ、キューバ危機のときのミサイル基地の写真だけです。
イラク戦争のときでさえ、開戦理由に使った写真は解像度の低い衛星写真でしかありません。あれよりもっと高解像度の写真があるはずなのですが、公開されたことがありません。

大体、グローバルホークにしてもU2にしても、超高度から広域偵察に使う機体であって、特定の建築物を精密に測定する任務には不向きです。

結局、こういう場合に一番状況を判っているのは、命を張って現場に張り付いて一々確認を取っている人間なのであって、安全な地点からあれこれ想像をたくましくしている人間は、いくら知識があっても、正確な情報をもらえないのでは役にはたたない。

投稿: F.Nakajima | 2011.03.21 14:36

wikipediaの英語版を見るに、われらがArnieはかなり胡散臭い人物のようですね。

又、このようなblogも発見しました。
http://atomicinsights.blogspot.com/2010/02/is-arnie-gundersen-devious-or-dumb-or.html

投稿: F.Nakajima | 2011.03.21 14:45

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