どこから高濃度放射性物質が漏れたか、ワシントンポストを読む
昨日の27日、福島第1原発2号機のタービン建屋地下にたまった水から1シーベルト/時を越える高濃度の放射性物質が検出された(参照)。今日は、国の原子力安全委員会が「1号機や3号機に比べて数十倍の濃度であり、一時、溶けた核燃料から放射性物質が漏れて格納容器の水に含まれ、何らかの経路で直接、流出してきたと推定される」(参照)との見解を出した。どこから漏れたのだろうか。13時34分付けのNHK「高濃度の水 格納容器からか」(参照)では、明らかにされていない。
福島第一原発では、1号機と3号機のタービン建屋にたまった水から高い濃度の放射性物質が検出されたのに続いて、2号機でも、27日、運転中の原子炉の水のおよそ10万倍に当たる放射性物質が検出されました。これについて、原子力安全委員会は、28日、「1号機や3号機に比べて数十倍の濃度であり、一時、溶けた核燃料から放射性物質が漏れて格納容器の水に含まれ、何らかの経路で直接、流出してきたと推定される」という見解をまとめました。
実態を調べるにも放射線が強く、近寄ることもできないという状況なのだろう。漏出した経路について確定的なことは言えないというのも当然だろう。
財団法人福島県原子力広報協会
「ウランちゃんのなるほどアトム教室」より
しかし、漏出についてなんらかの想定は成り立つはずで、その想定が可能なのは、このタイプの原子炉の設計者だろうと思っていたが、今日付けのワシントンポスト「Radiation levels at Japan nuclear plant reach new highs」(参照)に、まさにそれにあたる話があった。
The dangers in unit 2 merely add to the growing challenges. Radioactive water is pooling in four of Fukushima’s six turbine rooms, and engineers have no quick way to clean it up, although they have begun to try in unit 1.2号機の危険が拡大する危機への挑戦にそのまま追加される。放射性のある水が福島のタービン室6室中4室たまっていて、技術者は、1号機において試行しているものの除去しようがない。
While a Tepco spokesman said Sunday that he did not know how the radioactive water was leaking from the reactor cores, Yukio Edano, chief cabinet secretary, said in a televised interview Sunday morning that the reactor itself had not been breached.
東電広報者は、放射性のある水がどのように炉心から漏れていたかはわからないと日曜日に述べる一方、主要閣僚である枝野幸男は、日曜日朝のテレビインタビューで反応炉自身は破損していないと述べた。
He said it was clear that water that could have been inside the unit 3 reactor had leaked but the reactor had not been breached. Still, he said, “Unfortunately, it seems there is no question that water, which could have been inside the reactor, is leaking."
彼は、3号機反応炉内と見られる水が漏れたが反応炉が破損していないことは明白であると述べた。それでも、「残念なことに、反応炉内と見られる水が漏れたのは疑いようがない」とも述べた。
ここまでは日本で伝えられている話をまとめているのだが、この先に、漏出の経路が米国の設計技術者から語られる。
Unlike in newer reactor designs, the older boiling-water reactors at Daiichi are pierced by dozens of holes in the bottoms of their reactor vessels. Each hole allows one control rod - made of a neutron-absorbing material that quickly stops nuclear fission inside the reactor - to slide into the reactor from below, as happened when the earthquake shook the plant March 11. During normal operations, a graphite stopper covers each hole, sealing in highly radioactive primary cooling water, said Arnie Gundersen, a consultant at Fairewinds Associates with 40 years of experience overseeing boiling-water reactors.設計が新式の反応炉異なり、より古い方式の福島第一の沸騰水型軽水炉は、反応炉容器の底が数十の穴によって貫通されている。この穴があることで、制御棒(反応炉内の核分裂を急速停止するために中性子吸収素材でできている)が下部から滑り込めるし、それが3月11日の地震の衝撃の際にプラントで生じたことだった。通常制御中は、黒鉛製の栓がこれらの穴を覆い、放射性がかなり高い第一冷却水を封じている。このように語るのは、フェアウインド・アソシエイツ顧問で沸騰水型軽水炉を監督して40年の経験を持つアーニー・ガンダーソンである。
But at temperatures above 350 degrees Fahrenheit, the graphite stoppers begin to melt.
しかし、華氏350度(摂氏176.6度)を越える温度で黒鉛製の栓は溶けはじめる。
制御棒挿入用の穴をふさぐ栓は、炉内が177度を超えると劣化が始まるようだ。そんなに低い温度でなのかと疑問に思わないでもないが(図の説明にも同値があり黒鉛自体の融点ではないのかもしれない。また摂氏の間違いかもしれない)。
"Since it is likely that rubble from the broken fuel rods ... is collecting at the bottom of the reactor, the seals are being damaged by high temperature or high radiation," Gundersen said. As the graphite seals fail, water in the reactor will leak into a network of pipes in the containment buildings surrounding each reactor - the very buildings that have been heavily damaged by explosions. Gundersen said that this piping is probably compromised, leaving highly radioactive water to seep from the reactor vessels into broken pipes - and from there into the turbine buildings and beyond.「破損した燃料棒などの残骸が反応炉の底に集まっている可能性があるので、この栓は高温または高い放射線で破損している」とガンダーソンは語る。黒鉛製の栓が破損するにつれ、反応炉内の水は、各反応炉を覆う封じ込め建造物内の配管網に漏れ出すだろう。この建造物はすでに爆発によってかなり損傷している。さらに、この配管におそらく障害があり、高い放射線を持つ水が反応炉容器から破損した配管にしみ出て、そこからタービン室やその外部にまで及んでいるのだろうと、ガンダーソンは語る。
実際どうなっているかはわからないが、複数炉で似たような問題が発生しているのは炉の設計によるだろうとすると、機構的にはこの説明はかなり説得があるように思われる。
ガンダーソン氏のフェアウインド・アソシエイツのサイトを見ると、その想定図も掲載されていた(参照)。
ガンダーソン氏の想定の一部
おそらく日本の原子力安全委員会もこの推定を知っているだろうが、確証がないのだからわからないとするのは正しい。そしてこんな推定を国民が知っていても特段に国民には意味がないかもしれないとしても、まあ、それもそうなのかもしれない。
追記
保安院からもようやく該当の指摘が出て来た。30日付け日経新聞「福島原発1~3号機「圧力容器に損傷」 原子力安全委」(参照)より。
圧力容器は簡単にひびが入ったり、割れたりすることはないとされている。ただ燃料棒の真下の部分には核反応を抑える制御棒を出し入れするための穴があり、溶接部は弱い。経済産業省原子力安全・保安院は30日の会見で「制御棒を出し入れする部分が温度や圧力の変化で弱くなり、圧力容器から(水などが)漏れていることも考えられる」との見解を示した。
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コメント
その記事には封じ込めについての選択肢は示されていなかったのでしょうか?深刻でも解決策があればいいですが、なかったら......。
投稿: QQQ | 2011.03.28 20:26
極東さん、
結局何言いたいのですか?
投稿: neko | 2011.03.29 08:32
「ミッション『二階から目薬の背景』」では、追加の資料ご呈示ありがとうございました。
私がピンぼけなのかも知れませんが。
各エントリー、あなたが航海する意図がよくわかりません。
民草の蒙を啓く?ドメドメなマスコミが伝えない情報を提供する?
しこうして、なにゆえ、突然中国人コンサルタントの話に?
もちろん、個人のブログですから、エントリーのテーマは、ご随意にですが。
とはいえ、本エントリーも、福島第一原子力発電所の件で、やきもきしている方の知りたいことについて-つまり、原子炉冷却系が果たして、自立的に再稼働するや否や?-ということではありませんでした。
この時点で、「どっから漏れてるの?」は、まぁ、タービン建屋の高濃度の排水で発電所内の各系統を再起動させるための電源ケーブルの引き回しがどうなるかということからすれば、まぁ、重要なのかも知れませsんが、ちょっとピンぼけな印象。
いま、関心が集まっているのは、発電所に外部電源が届き、さて、発電所内の(原子炉建屋内だけではなくタービン建屋内の)各機器・各系統が、どの程度(ゼロ・イチでないことを願います)復旧するかではないかと。
もちろん、もちろん、あなたの興味の赴くままに、エントリーを立てればいい話なのですが。
とはいえ、(べつに、読者の興味関心に応える必要はないと思いますが)、なんとなく、エントリーの立て方が、へんてこだなぁ、と思う次第。
まぁ、これもまた、一(テンポラリな)読者の感想ですから、ご放念ください。
燃料溶融に関する、翻訳記事とご自身のコメント、混在していて、とても読みにくいのはteke noteして下さい。混乱を招くのではないかと思料。
今回の事故、とりあえず、1F1~4は、制御棒により緊急停止して、再臨界はとりあえずない「だろう」と思っておりますが、たしかに、長期戦にはなろうかとは思います。
長々と失礼。
nekoさんのコメントにもあるように、海外メディアあるいは、エキスパート(のインタビュー記事)の照会に主眼があるのか、あなたに何か伝えたいことがあるのか、よくわからない。
とはいえ、横のものを縦にして頂けるのは、英語不如意の方には、役に立つのでしょう。
投稿: 永作 | 2011.03.30 01:56
で、finalvent さんは、安全なところに疎開されたんでしょうか?首都圏の住民を避難させる現実的な疎開プランがありますか?また現状はそうすべき危険な状況でしょうか?一人暮らしの暇な初老のブロガは気楽でいいですね。
投稿: YT | 2011.03.30 04:37
ほんとうに、不親切。
「放射性汚染はALIで考える。化学系の汚染のADIとは考え方が違う。」
acceptable daly intakeはわかりますが、ALIって何でしょうか?
lifetme?
不用意に略語を使うというのは、わかる人だけにはわかればよろしいと?
まぁ、ブログを読まなければよろしいのでしょうが、半可通というか、ブログの記事を得々としてお書きになるのであれば、その知識のバックグランドをきちんとお示しになった方がよろしいのではないかと思いますが。
特定の話題についてエントリーを書くと絡まれて堪らないなどとぼやいていらっしゃいますが、それもしょうがないのではないですか?
少なくとも「細々とした議論」ではないイッシューに関して、無責任と思いますね。
投稿: 永作 | 2011.04.02 18:55