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2011.03.26

ニューヨークタイムズが掲載した福島原発の放射線量グラフを眺める

 福島原発事故関連で多少気になることがあるので、備忘のために記載しておきたい。話題は、15日に実施された福島第一原発2号機の蒸気放出とその後についてである。
 このところ野菜や水道水への放射性物質汚染が話題になっているが、これはいつどのように発生したのだろうか。何度となく繰り返される原子炉の圧力調整による蒸気放出や使用済み核燃料などが疑われる。実際にはどうだったのだろうか。
 原発外部の放射線量について、経時的に見やすくまとめているニューヨークタイムズの「Radiation at Fukushima Daiichi」(参照)のグラフを見ると、第一原発の正門付近における放射線量で、15日と16日にかけて3度ほど、かなり高い山があることがわかる。この時点でかなりの放射性物質が放出されたのだろうと推測される。これはなんだったったかと過去のニュースを振り返って見て、いくつか疑問が湧いた。

 グラフ情報の由来だが、「Sources: Tepco; International Atomic Energy Agency; Federal Aviation Administration; Nuclear Regulatory Commission」とある。東京電力、IAEA(国際原子力機関)、米国連邦航空局、米国原子力規制委員会の4者である。東電は日本企業でデータは公開されているはずだ。IAEAのデータは日本政府から送付されたものだろう。表紙が話題となったAERA最新号の記事を見ると、そのデータは国内には公開されていないとのこと。軽い疑問ではあるが、この2者だけで15日から16日かけての放射線量の増加がわかったのだろうか。別の言い方をすれば、米国側の情報である米国連邦航空局及び米国原子力規制委員会の情報はグラフのどこに反映されているのだろうか。それらはよくわからないが、4者の情報を総合したグラフという点で精度は高いのではないだろうか。
 気になる15日から16日の放射線量の増加だが、対応する事態としてまず想起されるのは、2号機の問題とそれによって施した圧力調節だろう。記事を見ていくと15日1時34分付けの朝日新聞「2号機、高濃度放射性物質を放出 福島第一原発」(参照)が報じている。


 東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)の2号機で14日、原子炉内の水位が低下、燃料棒全体が水から露出して空だき状態になり、炉心溶融が否定できない状態になった。いったんは回復したが再度露出し、蒸気を排出する弁も閉まって水を補給しにくくなった。格納容器内の圧力を下げ、海水を注入できるようにするため、15日午前0時過ぎ、放射性物質を高濃度に含む蒸気の外気への放出に踏み切った。

 14日に2号機が危機的な状況になり、その深夜15日午前0時に蒸気放出を行ったということである。結果はどうであったか。

 枝野幸男官房長官は同日午後9時すぎの記者会見で、燃料棒が露出した1~3号機の炉心溶融について「可能性は高い。三つとも」と述べた。
 午後9時37分には第一原発の正門付近の放射線量が1時間あたり3130マイクロシーベルトと、これまでの最高を記録した。
 15日午前0時には、10キロ南にある第二原発でも、放射線の量が1時間あたり113マイクロシーベルトに上昇した。放出の影響とみられるという。
 14日午前に起きた3号機の爆発で経済産業省原子力安全・保安院は一時、20キロ圏内に残っていた住民に建物内への避難を要請したが、周辺の放射線量のデータに大きな変化は確認されなかった。東電によると、自衛隊員4人を含む11人が負傷し、うち6人について放射性物質の付着を確認した。

 この記事を振り返って考えるとよくわからない点がある。14日の夜9時に枝野官房長官が会見を行った頃は、第一原発の正門付近は3130μシーベルトである。この時点では放出は行われていない。
 15日午前0時には、10キロメートル南の第二原発で113μシーベルトであったとして、この放出影響を記事は伝えているのだが、第一原発の正門付近については語られていない。
 同事態について3月15日2時38分の読売新聞記事「福島第一2号機、燃料棒すべて露出…冷却水消失」(参照)は、14日午後11時からの動向としてこう伝えている。

 その後、水位は回復したが、同日午後11時ごろ、原子炉の冷却水が再びなくなり、燃料棒が完全に露出した状態になった。原子炉から格納容器に蒸気を逃がす二つの弁が完全に閉まり、原子炉内の蒸気圧力が上昇し、海水の注入ができなくなった。
 東電は、15日午前0時2分から格納容器内の蒸気を外部に放出する新たな弁を開けた。この弁から外部に放出する蒸気には、原子炉内から直接出た蒸気が含まれており、これまでに放出された蒸気より放射能が高い。

 この記事には放射線についての言及はない。
 2号機はどうなったのだろうか。気になる記事があった。16日22時19分付け読売新聞記事「危険の兆候か、2号機の圧力なぜ急低下」(参照)である。

 2号機の原子炉は、今回の地震で緊急停止して以来、炉内の燃料を冷やす冷却水の不足が復旧できていない。2度にわたって冷却水を失い、燃料体すべてが露出したこともある。15日朝の爆発で、原子炉本体である「圧力容器」を覆う「格納容器」が損傷した可能性もある。過熱と冷却水不足で炉心溶融が懸念される1~3号機のなかで、もっとも深刻な原子炉ともいえる。
 2号機の圧力容器内の圧力は、15日午後から下がり始め、同日午前の約3気圧(大気圧の3倍)から、16日には大気圧のレベルにまで落ちた。格納容器も、15日午前まで大気圧の7倍程度を維持していたが、午後から急激に下がり始め、16日には大気圧を下回る数値を示した。
 圧力低下の原因としてまず考えられるのは、圧力容器、格納容器ともに密閉性が破れたことだ。すき間を開けた窓のように、内と外とで空気などの行き来が自由になる。東京電力は、少なくとも格納容器については、気密が破れた可能性があるとみている。
 だが、この場合は、大気圧と同じになったところで減圧は止まるはずだ。格納容器内の圧力が大気圧より低いのなら、格納容器はまだ気密を保っているとも考えられる。しかし、それは格納容器の損傷が指摘されていることと矛盾する。格納容器、あるいは両方の圧力計が壊れている可能性もある。
 もう一つは、連日の冷却水注入の努力が効いて、両容器内の温度が下がり、内圧が一気に下がった可能性だ。だが、依然として冷却水の量は少なく、圧力容器や格納容器の気密が保たれたまま圧力が急に下がったとは考えにくい。
(2011年3月16日22時19分 読売新聞)

 振り返ってみるとこれもよくわからない記事である。事態がそもそもわからないということが前提になるが、深夜の蒸気放出に言及していないのは奇妙な印象を与える。2号機について記事から窺える、おそらく確かなことは、16日になって「内部圧力が急激に低下した」ということと15日の朝に爆発があったことだ。
 これをニューヨークタイムズのグラフに付き合わせて見る前に、過去を振り返ってみてもう一点、奇妙な記事を見つけた。21日付けの産経新聞記事「東電、蒸気放出の実施日を訂正」(参照)である。

 東京電力は21日、福島第1原発2号機で原子炉格納容器内の放射性物質を含む蒸気を外に逃がした操作について、実施したのは15日午前0時からの数分間だったと発表、「16日から17日にかけて実施した」との20日の説明を訂正した。
 格納容器につながる「圧力抑制プール」内の水を通さずに蒸気を直接逃がすため、放射性物質をより多く放出する方法だった。

 産経新聞記事が伝えるところでは、21日になるまで東電は14日から15日への深夜の蒸気放出を正確に説明していなかったというのだ。さっと読むと、よほどの勘違いか情報の隠蔽のような印象も受けるが、先に朝日新聞記事と読売新聞記事でも言及があったように、14日から15日深夜の蒸気放出は衆知のことなので、東電側のミスと考えるのが妥当のようにも思われる。
 むしろこの記事が正しければぞっとするのだが、「「圧力抑制プール」内の水を通さずに蒸気を直接逃がすため、放射性物質をより多く放出する方法」ということで、ドライベントだったということだ。ドライベントについては、20日、保安員から3号機への実施の可能性があるとアナウンスされたものの、実施が見送られ、まだ実施されていないと私は記憶していた。産経新聞記事が正しければ、ドライベントはすでに14日から15日深夜に実施されていたことになるし、それに伴って多量の放射性物質が放出されたと見てよさそうでもある。
 ここでニューヨークタイムズのグラフを再度眺めると、14日から15日にかけては特段の変化はない。グラフをよく見ると、14日の午後10頃に正門付近で4ミリシーベルト/時の山がある。ドライベントの前の放出であろう。あるいは実際のドライベントはこの時刻になされのかもしれない。
 15日の突出した山の直前には「Explosion at Reactor No.2」と記されている。これは災害対策本部の情報(参照PDF)を見ると「15日06:10 異常音発生」とある、日本時間15日午前6時の2号機の爆発である。
 この15日の正門での突出した放射線量のピークは12ミリシーベルトに及んでいる。これには「Fire near Reactor No.4」とも書かれているので、4号機の使用済み燃料プール火災の影響もあるかもしれない。
 続く、グラフ上15日から16日の大きな2つのピークにはキャプションはない。大きな事象としては2号機の爆発と4号機の使用済み燃料プール火災が想定されるのではないだろうか。どちらの影響が強いかはグラフからは読み取れない。明確に報告されていない事象があったのかもしれない。
 その後、これらの突出したピークは収まっているかに見える。あるいは記載されていないのかもしれない。その後は、4ミリシーベルトほどの本部(main office)の放射線量のグラフが続く。この連山の冒頭には「Militerary helicopters dumps seawater on Reactor No.3」とある。3号機の使用済み燃料プールへの放水が関連しているという印象は受ける。

追記(2011.3.30)
 グラフの読み方を間違えていたのでそれに合わせて本文を訂正した。当初時刻が日本での事象とずれているように思えたので米国時間で書かれているかと思ったが、各事象の時刻と突き合わせてみると日本時間で描かれてと見てよさそうだ。

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コメント

飯田哲也さんのISEPが作成しているモニタリングデータのグラフは、東電のデータのみのようですが、15日16日は跳ね上がってますね。 http://bit.ly/gYrZc7

投稿: deepseaman | 2011.03.27 04:28

書き込みは初めてになります。各県の放射線量を重ねてチャート(グラフ)化している者です。
http://twitpic.com/4db1y6 [グラフ]

各地で距離がありながら15日午前一斉に急上昇し始めます。
これはもしや原発(付近)から発生したガンマ線が直接各地の放射線カウンタに
届いたせいではないかと考えます。

NTタイムズや環境エネルギー政策研究所の原発付近の放射線量を示したグラフと
上昇のタイミングの相関性が高く、発生後ピークが持続しない点は共通です。
放射性元素が各地に到達しそこで放射されたものならタイミングも違えば、雨で
放射性元素が落下して放射線量が増した21日午後からの推移の様に減少はもっと
なだらかの筈です。

それからですが、茨城県北部でお互いが近い3箇所(北茨城市(青)、高萩市(緑)、
久慈郡大子町(赤))で測定される放射線量が随分と異なります。大子町は海岸部から
少し離れた山間の地区であり、他方北茨城市と高萩市は海沿いの地区です。大子町は
北風が森に阻まれ、一方で風が海沿いに沿って南下した結果が北茨城市と高萩市で
高い計測値を示すに至っている様に見受けられます。

投稿: BeChart6uI | 2011.03.27 14:37

逃亡先は決まりましたか?
沖縄はだれかに占領されちゃいそうだし,南極は紫外線が強いだろうなあ.うちの近所は暖かいけど,電気はしょっちゅう切れるし,食べ物はおいしいけれどヘルシーじゃないこと確実.

NYTの図はわかりやすいけど,国産マスコミはこんなもの見せてくれないのかな?

投稿: KI | 2011.03.27 15:02

ふ~ん、
4号機の火災のときに線量が突出してるの?
って言うことは、
そのときすでに、
http://ribf.riken.jp/~koji/monreal.pdf
の「Meltdown + fuel fire」(p.26)の状態なのかな?
---
2号機は、
同pdfの「Meltdown + containment failure」(p.25)の解釈でよいのかな?
---
1号機と3号機はどうなんだろ。
2号機と同様で、
漏れ具合が少ない程度かな?

投稿: 774 | 2011.03.27 15:34

目に見えることは人間の力で改善できるが、目に見えないことを解決しなければ、真の復興にはならない。そして、同じ惨劇を繰返さなければならなくなる。
私たちが、今、しなければいけないことは、『救世主スバル元首様』に、救いを求めることだ。
  もう、時間がない!!
http://www.kyuseishu.com/tanuma-tu-koku.html

投稿: ヒカル | 2011.03.28 19:55

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» ニューヨークタイムズの放射線量グラフで4号機の火災を検証してみた [godmotherの料理レシピ日記]
 昨日、Twitterからピックアップしたニューヨークタイムズ掲載の福島原発の放射線量グラフを見た時、一瞬にして目が点になってしまった。数字が提示する危険度というより、見た通り、グラフのピークが14日... [続きを読む]

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