« [書評]移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋) | トップページ | 最近聞いているジブリの歌のカバーとか »

2011.03.04

[書評]宇宙は何でできているのか(村山斉)

 「宇宙は何でできているのか(村山斉)」(参照)は昨年秋に出た本でそのころ書店に平積みにあったのが気になり、年明けになってふと思い出して別の本のついでなんとなくアマゾンで買ったものの、さらに積ん読状態だったが先日読んだ。

cover
宇宙は何でできているのか
村山斉
 普通の読書人が一読すればわかるが、そして書名のコンセプトが違うというものでもないが、2008年のノーベル物理学賞受賞の南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏の業績の意味を一般向けに説いて下さいという幻冬舎の企画だったのではないかと察せされる。また著者の側からすると、当時民主党のめちゃくちゃで削られていく科学研究予算に反対するための科学啓蒙の意図もあったのではないかとも思われる。
 ですます体で書かれていることもだが、口述書き起こしを思わせる語り口調で、あたかもNHKあたりの教養番組焼き直し書籍の印象も与える。ところどころ、これも編集が頼んだのではないかなと思わせるが、著者一流のユーモアやギャグが添えてあり、心和む。総じて読みやすく、あとで知ったのだがけっこう売れた本らしい。評価も高かったというのも頷ける。
 内容はというと、先に南部博士らの名前を挙げたが、彼らが活躍していた1970年代を知っている科学少年としては、「ああ、懐かしい話だなあ」という印象のある素粒子論である。最終章は別にすると、どちらかといえば、物理学的な部分についてはやや退屈な印象がある。が、同時に、理論は先行していても実際の科学的な知識として人類が共有していくには、実験というものが持つ大きな意味合いも再確認できるあたりの、理論と実験のクロニカルな関係について、本書はとても上手に解き明かしている。
 現代物理学の知見を上手にまとめているかというと、概ねそうだと言ってもよいが、基本となる量子力学とアインシュタイン理論については、要点のつまみ食いに、エピソードで色を添えているという感じで、たとえば、量子力学のコペンハーゲン解釈などの説明もあるにはあるが、これで一般向けにわかるのだろうかという疑問も残った。
 終章を除くと、雑誌「ニュートン」とかで図解しそうな話題なのだが、この終章「第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎」は別の意味で微妙な感じだった。率直にいうと、ここだけ解説された新書があるとよいと思うし、探せばあるのかもしれないが、どうなのだろう。「ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く(リサ・ランドール)」(参照)か、佐藤勝彦氏の著作あたりだろうか。
 私の関心点は2つある。一つは統一理論である。本書でも端的に描かれている。

 詳しい説明を省いて言うと、この超ひも理論は、重力を含めた4つの力を1つの理論で統一できる可能性を秘めています。標準模型では電気力と弱い力が統一されそうですが、そこに強い力を含めた「大統一理論」はまだ確立されていません。ところが超ひも理論は、そこに重力まで加えて、すべての物理学者が夢見る完全な力の統一を実現できるかもしれないのです。

 重力をどう理論化するかということが、結局のところ物理学のテロス(目的)と言ってもいいのだろう。本書の書名のように「宇宙は何でできているのか」という問いかけに対して、アトミックに「それは素粒子です」というのでは、実は答えにはなっていない。にも関わらず、本書ではその部分が最終的にぼやけた印象はある。冒頭でも述べたように、南部博士らの研究や科学研究費といった日本の文脈があるというのは理解できないでもないが。
 もう一つは、これも結論的な言い方をすると、重力の問題に帰すると思われるが、終章の題にもある暗黒物質・暗黒エネルギーをどう捉えるかということなる。もちろん、その部分こそ、未知であり、理論的には本書の表現を借りるなら「何でもアリ」ということだいうこともわからないでもない。
 科学少年のなれの果ての私としては、科学的であるということは、既知の知見を知識として振り回すことではなく、宇宙とはなんだろうか、暗黒物質とはなんだろうか、暗黒エネルギーとはなんだろうか、という問いを出して、それに、さっぱりわからない、では「何でもアリ」というくらいに想像力豊かに考え、そして実験してみようじゃないか、ということだと思う。
 宇宙のエネルギーの73%は得体の知れない暗黒エネルギーという事実は、人間の知を困惑させるとともに、科学が人間の知に問いかける最上のなにかを持っている。その部分への本質的な愛情が実に上手に表現されているという点では、なるほど本書はよくできている。

|

« [書評]移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋) | トップページ | 最近聞いているジブリの歌のカバーとか »

「書評」カテゴリの記事

コメント

もともと著者は研究のアウトリーチ活動には非常に積極的で、ノーベル賞解説だとか科研費削減対策だとか一過性の発想で出されたものではないと思います。もちろん、出版が可能になったのはそのような時流が背景にあったからでしょうが。
著者の一般向け講演会に出席すればわかりますが、ユーモアやギャグは別に頼まれてやっているものでもなく、著者のプレゼンテーションには必ず織り込まれているものです。科学への愛情が伝わってくる語り口と相俟って、講演を聴いた人はかなりの確率で村山ファンになると思います。

投稿: 三国 | 2011.03.05 11:38

村山様。
素朴な質問があります。
宇宙工学について何の知識もありませんが宇宙に詳しい方にぜひ一度お尋ねしたいことがありました。ジャクサ?でしたか一度問い合わせした記憶がありますがうまくかわされたように思います。
【質問】
ビックバンはほんとうに起こったのでしょうか?ひょっとしたら、ビックバンが無かったと仮定したら辻褄があうことがたくさんあるのではないでしょうか?私のかじった知識によれば、ビッグバンは、現在膨張し続けている宇宙の膨張率から時間軸を逆に戻していくことでビックバンがあったと仮定されている?というのがあると思いますがハッブルの法則?でしたか時間軸を戻すことが前提になっていたと思うのですが
私は、宇宙はもともと存在していたものであって、何かを起因として出来上がったものではないんじゃないかと思っています。そもそも時間というのは、人間があったほうが都合がいいので1日を勝手に24時間と決めただけで時間という概念はあっても実際そんざいしているものなのでしょうか?実際存在しない時間をいくら戻したところでそれに意味はもたない気がしております。変な質問で申し訳ありませんが別に回答がほしいという訳ではありません。きっと私には難しすぎて、貴重な意見をいただいても理解できないと思います。私にビッグバンを否定できる知識があれば面白いかなと思いました。貴重な時間をありがとうございました。

投稿: ○○○ | 2011.03.22 20:23

本よんだよー、でもそこらへん高卒バカではわかんないけどw
ところで、本見た感じのことですが、宇宙が10の27mでビッグバンのtが10-44sならあと17ms見つかってないんだ(ごめんなさいただの酔っ払いです)
ばかな算数です
でほかには
暗黒場って素数のあつまりのような感じが・・・

私には理解できないようなそれかもような不思議な世界ですね。もう1回読みます(でも解らないけど)

見つけてください宇宙を


投稿: きむきむ | 2011.05.11 22:29

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]宇宙は何でできているのか(村山斉):

« [書評]移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋) | トップページ | 最近聞いているジブリの歌のカバーとか »