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2011.03.30

シリアの複雑な現状

 形の上ではチュニジアから始まった中東の「民主化運動」がシリアにも波及した。そろそろ一つの転機を迎えているようなので言及しておこう。
 運動の始まりと言えるものは15日の首都ダマスカスのデモだが、数十人規模の小さいものだったとも伝えられている(参照)。20日には運動が広がり、これを弾圧するシリア政府によって死者も出た。「シリアでデモ隊に発砲、1人死亡か」(参照)より。


シリア南西部ダルア(Daraa)で20日、治安部隊がデモ隊に発砲し1人が死亡、100人以上が負傷したと、人権活動家が明らかにした。シリア当局はデモ参加者の死亡を否定している。

 実態はさらに深刻であったようだ。

 一方、現場にいた人権活動家によると、閣僚らがダルア入りしたことで市内は怒りで「噴火」し、集まった「1万人以上のデモ隊」に向けて治安部隊と私服警官が実弾と催涙弾を発砲。実弾で1人が死亡し、重体2人を含む100人以上が負傷したと話した。「催涙弾には毒性物質が含まれていた」とも述べている。

 政府による市民虐殺は23日の水曜日に頂点を極めたようだ。25日付けアムネスティ・インターナショナル「SYRIA DEATH TOLL CLIMBS AS PROTESTS SPREAD」(参照)ではこの1週間に55人の死者を伝えている。後で言及するテレグラフ社説では10日間に60人のデモ参加者が射殺されたとしている。さらに多くの死者が出たと見る向きもある。いわゆる「中東の民主化」という枠組みで見ても、政府による直接的なデモ参加の市民虐殺としてはかなりの規模と言えるだろう。
 25日には市民虐殺に危機感を抱いたフィナンシャルタイムズは社説「The Syrian revolt」(参照)はシリア政府が軟化するように警告していた。

Most immediately, if Mr Assad wants to avoid further bloodshed, he must restrain his forces. But beyond that, the government must address the underlying political and economic malaise that has sparked these protests.

至急の事態である。アサド氏がこれ以上の流血を避けたいならば軍を抑制しなければならない。さらにシリア政府は、抗議を引き起こした政治的かつ経済的な鬱憤に対処しなければならない。


 フィナンシャルタイムズの説得でないが、民主化運動の高まりと弾圧の行き詰まりを受けて、29日にオタリ内閣は総辞職した。WSJ「シリア大統領、内閣総辞職を受理-反対派は「不十分」と対決姿勢」(参照)より。

 シリアでは1週間以上にわたる反体制派デモなど政治的な混乱を受けて、オタリ内閣が29日、総辞職した。しかし政権反対派は、内閣総辞職だけでは政権に対する数多くの不満は解消されないと述べている。


 シリア国営通信SANAによると、同大統領は内閣を総辞職したオタリ首相に対し、新内閣指名まで暫定政権として継続するよう求めた。ただ、政府当局者は新内閣のメンバーがいつまでに発表されるか、どのような構成になるかを明らかにしなかった。

 政府側も多少折れた形になった。また、国内報道では見かけなかったが24日には公務員の給与引き上げの手も打っていた。
 米国側としても表向きはシリア政府の対応を好意的に見ているかのようにも見える。

 一方、ロンドンで開催されたリビア国際会議に出席したクリントン米国務長官は記者会見し、抑圧的な政治制度を改革するとの約束をアサド大統領が履行するよう求めると語った。同長官は「自国民のニーズに応じられるか否かは、シリア政府次第であり、アサド大統領をはじめとする指導者次第だ」と語った。

 今後の動向だが、民主化運動の流れとしてはこれで済みそうにはない気配はある。

 シリアでは内閣総辞職の発表は反対派の人々の間であまり熱狂的に受け止められていない。アサド大統領が改革の約束についてまだ自ら説明していないためだ。反対派は、アサド体制に対する不満は、政治的な自由から汚職撲滅に至るまで広範囲なもので、内閣総辞職だけでは全く不十分だとしている。

 動向の鍵の一つは米国の意向である。れいによってワシントンポストは勇ましい。23日付け「Opposing Syria’s crackdown」(参照)より。

After Wednesday’s massacre, Syrians are likely to feel still angrier — but they also will be watching the response of the outside world. That’s why it is essential that the United States and Syria’s partners in Europe act quickly to punish Mr. Assad’s behavior. Verbal condemnations will not be enough: The Obama administration should demand an international investigation of the killings in Daraa and join allies in insisting that those responsible be brought to justice. It should also look for ways to tighten U.S. sanctions on Damascus, including freezes on the assets of those involved in the repression as well as private companies linked to the regime.

水曜日の虐殺の後も、シリア人は以前怒りを感じていると思われるが、また外の世界の反応も見ているだろう。だからこそ、アサド氏の行動を罰するために、米国とヨーロッパ内のシリア支援国が迅速に行動することが重要である。口先介入は十分でないであろう。オバマ政権は、ダルア虐殺について国際調査を要求し、同盟国が結束し、虐殺の責任者が裁判にかけられることを強く主張すべきである。また、政権と結び付いた民間会社と同様、弾圧に関与した者たちの資産凍結を含め、シリア政府への米国制裁を厳格にする手法を探すべきである。


 リビア制裁と似たような論法だが微妙な差違もある。軍事行動はそれほど意識されていないし、シリア政府に巣くっている利権構造に関心を持っているようだ。
 アサド大統領についてはどうか。

For the past two years, the administration has pursued the futile strategy of trying to detach Mr. Assad from his alliances with Iran and Lebanon’s Hezbollah through diplomatic stroking and promises of improved relations. It recently dispatched an ambassador to Damascus through a recess appointment to avoid congressional objections. Now it is time to recognize that Syria’s ruler is an unredeemable thug - and that the incipient domestic uprising offers a potentially precious opportunity. The United States should side strongly with the people of Daraa and do everything possible to ensure that this time, Hama methods don’t work.

この2年の間オバマ政権は、シリアとの関係改善に外交的な飴と鞭を駆使し、シリアがイランとレバノンのヒズボラから疎遠になるようと空しい努力をしてきた。最近では議会からの反対を避けるため、議会休会中に大使をシリア政府に派遣した。だがもう、シリアの支配者は許し難い悪漢だと認める時であるし、胎動した民主化要求は潜在的な貴重なチャンスとなったと認める時である。米国は力強くダルアの人々に味方し、今度ばかりはハマの手法ではうまくいかないと確約するために可能なかぎりのことをなすべきである。


 米国の右派的な主張としては、アサド大統領は許されざるということではあるようだ。
 引用中に出てくる「ハマの手法」は同社説にも解説があるが、現アサド大統領の父ハフェズ・アサド前大統領が1982年、ハマで生じた反政府活動を軍を使って鎮圧し1万人から4万人も虐殺した事件である。ワシントンポストは言及していなが、この運動はムスリム同胞団が主導したもので、事件以降も同団体には厳しい弾圧が加えられた。
 今回もハマの手法が採用されるだろうか。そのようにも見えた。29日付け東京新聞「シリア 北部の拠点に軍投入」(参照)より。

反政府デモが激化するシリアで、アサド政権は二十七日、北部ラタキアに軍隊の投入を決めた。ラタキアはアサド大統領(45)の父ハフェズ・アサド前大統領(故人)の出身地であり、政権の最重要拠点とされる。先鋭化しつつあるデモ隊に対し、軍による武力鎮圧も辞さない構えだ。

 その後にオタリ内閣を総辞職させ政府側も沈静を狙っているは見える。
 しかし動向は非常に読みづらい。ワシントンポストのような右派的な動向に反してオバマ政権は、リビア動乱同様、極力介入を避けているように見える。
 シリア政府を牛耳るアサド家はシーア派の分派であるアラウィ派に属し、イランに近い。またそのことからもヒズボラに肩入れもしている。しかし国民の70パーセントはスンニ派であり、キリスト教徒も10パーセントいる。アラウィ派は8パーセントから12パーセントであり、構成的にはバーレーンの逆のようにもなっている。単純に考えれば、アサド家を潰して穏健なスンニ派国家に転身させることが米国の国益であるかのようにも見えるが、おそらくそのような介入をすれば、レバノンのように分裂した国家になり、危機は拡大するだろう。
 この論点を28日付けのテレグラフ社説「Syria in the balance」(参照)はかなり大胆に表現している。

As its planes and submarines destroy Col Muammar Gaddafi's ability to kill his own people, Britain is naturally preoccupied with Libya. But a much more significant struggle is taking place in Syria, where about 60 anti-government demonstrators have been shot dead over the past 10 days. Situated between Israel and Iran, Syria is at the core of conflict in the Middle East. By comparison, Libya is a side show.

カダフィ大佐が国民を殺害する力を英国の戦闘機と潜水艦で削いでいるので、英国民がリビアに夢中になるのもあたりまえだ。しかし、もっと重要な難題がシリアで発生している。この10日間に60人もの反体制運動家が射殺された。イスラエルとイランの中間に置かれたシリアは中東紛争の核心である。それに比べれば、リビアなど、ちょっとした座興である。


 シリアの問題は、ワシントンポストが騒ぎ立てるような虐殺に対する人道上の問題というより、中東紛争そのものに関わっているからである。

The unrest understandably worries Western governments. Will President Bashar al-Assad and his fellow Alawites cling grimly to power, possibly seeking to divert attention from domestic affairs by picking a fight with Israel?

不安定な状況は当然ながら西側諸国の政府を悩ませる。バシャール・アル・アサド大統領と仲間のアラウィ派は権力にしがみつくために、内政問題から気をそらそうとしてイスラエルに戦闘をふっかけるだろうか。


 冗談にしては悪すぎるが冗談とも言い難いところが不吉である。
 この問題にはまったく落としどころというものが見えない。イスラエルにしてみれば、予想外の不安定化は避けたいところだろうし、そうした気持ちを親イスラエルのオバマ政権も酌んで一緒に考えあぐねているのだろう。

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