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2011.03.30

シリアの複雑な現状

 形の上ではチュニジアから始まった中東の「民主化運動」がシリアにも波及した。そろそろ一つの転機を迎えているようなので言及しておこう。
 運動の始まりと言えるものは15日の首都ダマスカスのデモだが、数十人規模の小さいものだったとも伝えられている(参照)。20日には運動が広がり、これを弾圧するシリア政府によって死者も出た。「シリアでデモ隊に発砲、1人死亡か」(参照)より。


シリア南西部ダルア(Daraa)で20日、治安部隊がデモ隊に発砲し1人が死亡、100人以上が負傷したと、人権活動家が明らかにした。シリア当局はデモ参加者の死亡を否定している。

 実態はさらに深刻であったようだ。

 一方、現場にいた人権活動家によると、閣僚らがダルア入りしたことで市内は怒りで「噴火」し、集まった「1万人以上のデモ隊」に向けて治安部隊と私服警官が実弾と催涙弾を発砲。実弾で1人が死亡し、重体2人を含む100人以上が負傷したと話した。「催涙弾には毒性物質が含まれていた」とも述べている。

 政府による市民虐殺は23日の水曜日に頂点を極めたようだ。25日付けアムネスティ・インターナショナル「SYRIA DEATH TOLL CLIMBS AS PROTESTS SPREAD」(参照)ではこの1週間に55人の死者を伝えている。後で言及するテレグラフ社説では10日間に60人のデモ参加者が射殺されたとしている。さらに多くの死者が出たと見る向きもある。いわゆる「中東の民主化」という枠組みで見ても、政府による直接的なデモ参加の市民虐殺としてはかなりの規模と言えるだろう。
 25日には市民虐殺に危機感を抱いたフィナンシャルタイムズは社説「The Syrian revolt」(参照)はシリア政府が軟化するように警告していた。

Most immediately, if Mr Assad wants to avoid further bloodshed, he must restrain his forces. But beyond that, the government must address the underlying political and economic malaise that has sparked these protests.

至急の事態である。アサド氏がこれ以上の流血を避けたいならば軍を抑制しなければならない。さらにシリア政府は、抗議を引き起こした政治的かつ経済的な鬱憤に対処しなければならない。


 フィナンシャルタイムズの説得でないが、民主化運動の高まりと弾圧の行き詰まりを受けて、29日にオタリ内閣は総辞職した。WSJ「シリア大統領、内閣総辞職を受理-反対派は「不十分」と対決姿勢」(参照)より。

 シリアでは1週間以上にわたる反体制派デモなど政治的な混乱を受けて、オタリ内閣が29日、総辞職した。しかし政権反対派は、内閣総辞職だけでは政権に対する数多くの不満は解消されないと述べている。


 シリア国営通信SANAによると、同大統領は内閣を総辞職したオタリ首相に対し、新内閣指名まで暫定政権として継続するよう求めた。ただ、政府当局者は新内閣のメンバーがいつまでに発表されるか、どのような構成になるかを明らかにしなかった。

 政府側も多少折れた形になった。また、国内報道では見かけなかったが24日には公務員の給与引き上げの手も打っていた。
 米国側としても表向きはシリア政府の対応を好意的に見ているかのようにも見える。

 一方、ロンドンで開催されたリビア国際会議に出席したクリントン米国務長官は記者会見し、抑圧的な政治制度を改革するとの約束をアサド大統領が履行するよう求めると語った。同長官は「自国民のニーズに応じられるか否かは、シリア政府次第であり、アサド大統領をはじめとする指導者次第だ」と語った。

 今後の動向だが、民主化運動の流れとしてはこれで済みそうにはない気配はある。

 シリアでは内閣総辞職の発表は反対派の人々の間であまり熱狂的に受け止められていない。アサド大統領が改革の約束についてまだ自ら説明していないためだ。反対派は、アサド体制に対する不満は、政治的な自由から汚職撲滅に至るまで広範囲なもので、内閣総辞職だけでは全く不十分だとしている。

 動向の鍵の一つは米国の意向である。れいによってワシントンポストは勇ましい。23日付け「Opposing Syria’s crackdown」(参照)より。

After Wednesday’s massacre, Syrians are likely to feel still angrier — but they also will be watching the response of the outside world. That’s why it is essential that the United States and Syria’s partners in Europe act quickly to punish Mr. Assad’s behavior. Verbal condemnations will not be enough: The Obama administration should demand an international investigation of the killings in Daraa and join allies in insisting that those responsible be brought to justice. It should also look for ways to tighten U.S. sanctions on Damascus, including freezes on the assets of those involved in the repression as well as private companies linked to the regime.

水曜日の虐殺の後も、シリア人は以前怒りを感じていると思われるが、また外の世界の反応も見ているだろう。だからこそ、アサド氏の行動を罰するために、米国とヨーロッパ内のシリア支援国が迅速に行動することが重要である。口先介入は十分でないであろう。オバマ政権は、ダルア虐殺について国際調査を要求し、同盟国が結束し、虐殺の責任者が裁判にかけられることを強く主張すべきである。また、政権と結び付いた民間会社と同様、弾圧に関与した者たちの資産凍結を含め、シリア政府への米国制裁を厳格にする手法を探すべきである。


 リビア制裁と似たような論法だが微妙な差違もある。軍事行動はそれほど意識されていないし、シリア政府に巣くっている利権構造に関心を持っているようだ。
 アサド大統領についてはどうか。

For the past two years, the administration has pursued the futile strategy of trying to detach Mr. Assad from his alliances with Iran and Lebanon’s Hezbollah through diplomatic stroking and promises of improved relations. It recently dispatched an ambassador to Damascus through a recess appointment to avoid congressional objections. Now it is time to recognize that Syria’s ruler is an unredeemable thug - and that the incipient domestic uprising offers a potentially precious opportunity. The United States should side strongly with the people of Daraa and do everything possible to ensure that this time, Hama methods don’t work.

この2年の間オバマ政権は、シリアとの関係改善に外交的な飴と鞭を駆使し、シリアがイランとレバノンのヒズボラから疎遠になるようと空しい努力をしてきた。最近では議会からの反対を避けるため、議会休会中に大使をシリア政府に派遣した。だがもう、シリアの支配者は許し難い悪漢だと認める時であるし、胎動した民主化要求は潜在的な貴重なチャンスとなったと認める時である。米国は力強くダルアの人々に味方し、今度ばかりはハマの手法ではうまくいかないと確約するために可能なかぎりのことをなすべきである。


 米国の右派的な主張としては、アサド大統領は許されざるということではあるようだ。
 引用中に出てくる「ハマの手法」は同社説にも解説があるが、現アサド大統領の父ハフェズ・アサド前大統領が1982年、ハマで生じた反政府活動を軍を使って鎮圧し1万人から4万人も虐殺した事件である。ワシントンポストは言及していなが、この運動はムスリム同胞団が主導したもので、事件以降も同団体には厳しい弾圧が加えられた。
 今回もハマの手法が採用されるだろうか。そのようにも見えた。29日付け東京新聞「シリア 北部の拠点に軍投入」(参照)より。

反政府デモが激化するシリアで、アサド政権は二十七日、北部ラタキアに軍隊の投入を決めた。ラタキアはアサド大統領(45)の父ハフェズ・アサド前大統領(故人)の出身地であり、政権の最重要拠点とされる。先鋭化しつつあるデモ隊に対し、軍による武力鎮圧も辞さない構えだ。

 その後にオタリ内閣を総辞職させ政府側も沈静を狙っているは見える。
 しかし動向は非常に読みづらい。ワシントンポストのような右派的な動向に反してオバマ政権は、リビア動乱同様、極力介入を避けているように見える。
 シリア政府を牛耳るアサド家はシーア派の分派であるアラウィ派に属し、イランに近い。またそのことからもヒズボラに肩入れもしている。しかし国民の70パーセントはスンニ派であり、キリスト教徒も10パーセントいる。アラウィ派は8パーセントから12パーセントであり、構成的にはバーレーンの逆のようにもなっている。単純に考えれば、アサド家を潰して穏健なスンニ派国家に転身させることが米国の国益であるかのようにも見えるが、おそらくそのような介入をすれば、レバノンのように分裂した国家になり、危機は拡大するだろう。
 この論点を28日付けのテレグラフ社説「Syria in the balance」(参照)はかなり大胆に表現している。

As its planes and submarines destroy Col Muammar Gaddafi's ability to kill his own people, Britain is naturally preoccupied with Libya. But a much more significant struggle is taking place in Syria, where about 60 anti-government demonstrators have been shot dead over the past 10 days. Situated between Israel and Iran, Syria is at the core of conflict in the Middle East. By comparison, Libya is a side show.

カダフィ大佐が国民を殺害する力を英国の戦闘機と潜水艦で削いでいるので、英国民がリビアに夢中になるのもあたりまえだ。しかし、もっと重要な難題がシリアで発生している。この10日間に60人もの反体制運動家が射殺された。イスラエルとイランの中間に置かれたシリアは中東紛争の核心である。それに比べれば、リビアなど、ちょっとした座興である。


 シリアの問題は、ワシントンポストが騒ぎ立てるような虐殺に対する人道上の問題というより、中東紛争そのものに関わっているからである。

The unrest understandably worries Western governments. Will President Bashar al-Assad and his fellow Alawites cling grimly to power, possibly seeking to divert attention from domestic affairs by picking a fight with Israel?

不安定な状況は当然ながら西側諸国の政府を悩ませる。バシャール・アル・アサド大統領と仲間のアラウィ派は権力にしがみつくために、内政問題から気をそらそうとしてイスラエルに戦闘をふっかけるだろうか。


 冗談にしては悪すぎるが冗談とも言い難いところが不吉である。
 この問題にはまったく落としどころというものが見えない。イスラエルにしてみれば、予想外の不安定化は避けたいところだろうし、そうした気持ちを親イスラエルのオバマ政権も酌んで一緒に考えあぐねているのだろう。

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2011.03.29

夢の中国人コンサルタント

 このところ気の滅入るようなエントリーばかり書いているせいか、ツイッターで、また料理の話書いてくださいといったことを言われた。そうだなあ。料理とかボードゲームの話もないわけではないが、とふと先日の夢を思い出した。
 夢のチャーハン(参照)に似ている。残念ながら件の老師は出てこないのだが、日本語の達者な中国人中年のビジネスコンサルタントが出て来た。中国ビジネスの極意3点を日本人に教えましょうというのだ。へえ。いやいや、たかが夢の中のことなんだけどね。
 夢の話の前段はあまり覚えていない。「君、このセミナーのこれに出席してくれ」ということだったような。それで、はあ、と答えて50人ほどの殺風景な講演会に参加した。が、これが意外やなかなかよい話で、いいこと聞いたなあと思った。
 実際のところは自分の夢の話にすぎず、なんの元ネタもなし。つまり、まったくのでたらめもいいところ。でも、もしかすると、当たっていることもあるかもしれない。まあ、与太話。
 講師の名前は忘れた。孔さんだったかな。中国語っぽいナマリはあるけど、日本語は上手というか完璧。年齢は40代という感じ。グレーのスーツをたらっときて、頭は適当に七三分け。それはないだろという黒縁めがね。まったくカリスマ性はないのだが、妙にリラックスしていて、ほんとにいい話なんですよ、みなさんラッキーでしたねという雰囲気が出ている。
 中国ビジネスの極意3点、その1点目は、「押すときは面で押しましょう」というのだ。

1 押すときは面で押しましょう
 日本人のビジネスのやりかたを見ていると、これが一番という方法だという思い込みでぐいぐい押してくることが多いですね。あるいは、中国ビジネスでは人脈が大切だということで、いきなりひとつの人脈に賭けてくる。中国人はそういうことはしません。
 ひとつでないと二つというのもありますね。日本人の組織は同じ目標を持っているのに、なぜか派閥に別れて、矛盾した二つの方法でぐいぐいと押してくることがあります。やっている日本人はお互い競争心をもってやりがいがあるみたいですが、中国人から見ると、不審を抱かざるを得ません。
 中国でビジネスをするときは、面で押すのです。
 中国と限りませんよ、中国人のビジネスは面で押していくのです。政治もそうです。面というのは、一点で押さないことです。
 一点で押すと、どうなりますか(ここで彼は人差し指を示して、参加者のほうに突き刺すようにする)。一点で押していきますね。ここに障子がある。破けてしまいました。固いものがある。押すほうが折れてしまいました(指を痛がるジェスチャー)。
 二点ではどうですか(両手を参加者のほうに突き出す)。ぐーっと二点で押していく。いい感じです。どうなりますか(ここで彼は前につんのめる)。おっと、ころんでしまいました。二点ではバランスを崩して転んでしまいます。
 面を作って押すには三点が必要です。少なくとも三点で、じわじわと押していくのです。押しながらバランスをとって相手の力を見るのです(両手をひろげて顔と三点で参加者のほうに押していき、にこっと笑う)。ここまで押したらビジネスは成功です。
 面で押していけば相手は負けてもどこで負けたかは曖昧。失点は見えません。

2 相手を信じる前に相手の売り物を買いましょう
 2点目。
 日本人とビジネスをしていると、この中国人は信用できるのか、このビジネスの情報は揃っているのかといろいろ考えていますね。そして、その不信感が顔に出ます。中国人はこういう人を相手にしません。
 ではどうするのか。相手の売り物をまず買うのです。いい悪いではないですよ。中国人はたいてい何か売っています。これ買いませんか、というのがビジネスの原点なのです。
 でも、最初はこれ買って下さいとは言いません。相手が買うかどうか見ているのです。ですから、まずそれを買うのです。最初に、その人の顧客になる。そして、私はあなたの顧客ですよという立場を作ってから、相手に接するのです。
 そうすると、相手は売った分だけの対応します。それを見るのです。中国人は日本人みたいに口先で、ありがとうございましたとは言わないですが、売り物が買われたらそれなりにその分、その次は相手にメリットを返します。そこを見るのです。そこが信頼できるかの始まりです。
 何も売っていそうもない人だったら、その人の親族の売り物を買いましょう。親族も何も売ってないと思ったら、縁起を担いでその人の名前にちなんだものでも、その人の故郷の産物でも買いましょう。相手はそれになにか答えますよ。
 ビジネスは情報ではありません。まず関係の成立から。関係とは、相手のものをまず買ってみるということです。
 今日のお話が終わったら、出口にでこのセミナー主催会社の手帳を販売しているので、まずそれを買ってくださいね。

3 あなたが美味しいと思うものをご馳走しましょう
 中国人は食事にうるさいです。日本人がどんなに心づくしたつもりでも、振る舞うご馳走が美味しくなければ、不満を持ちます。日本人は、そういう細かいことはどうでもいいではないかと思いますね。それではだめです。
 どういうご馳走がよいのでしょう。あなたが美味しいと思うものをご馳走しましょう。
 相手がそれが嫌いだったらどうでしょう。中国人はこんなの食べないよと思うものを出していいのでしょうか。たとえば、あなたが心の底から、この納豆が美味しいと思うなら、どうしましょう。
 本当に自分が美味しいと思うなら出してごらんなさい。
 残念ながら、相手は、こんな不味いものは食べられない、こんな人との付き合いはおしまいだと思うかもしれません。そういうことはあります。しかし中国人にしてみると、最初からそういうつきあいは要らないのです。
 自分が本当に美味しいと思うものを心から信じて出して、相手がそれを理解したら、あなたが信頼されます。言葉を越えて信頼するでしょう。
 この納豆が本当に美味しいと思って自信があるなら、それをご馳走にしなさい。相手は美味しいと思わないかもしれないけど、そのあなたの自信は伝わりますよ。ビジネスのきついとき伝わるのはそこです。
 このあと食事会があります。私が美味しいと思う料理があります。ご参加ください。
 ご静聴ありがとうございました。

 ということで、夢でさらに食事会があった。うまかった。
 ということで、この話は全部、夢です。これが中国ビジネスの極意なのか、私にはとんとわかりませんので、ご注意。

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2011.03.28

どこから高濃度放射性物質が漏れたか、ワシントンポストを読む

 昨日の27日、福島第1原発2号機のタービン建屋地下にたまった水から1シーベルト/時を越える高濃度の放射性物質が検出された(参照)。今日は、国の原子力安全委員会が「1号機や3号機に比べて数十倍の濃度であり、一時、溶けた核燃料から放射性物質が漏れて格納容器の水に含まれ、何らかの経路で直接、流出してきたと推定される」(参照)との見解を出した。どこから漏れたのだろうか。13時34分付けのNHK「高濃度の水 格納容器からか」(参照)では、明らかにされていない。


福島第一原発では、1号機と3号機のタービン建屋にたまった水から高い濃度の放射性物質が検出されたのに続いて、2号機でも、27日、運転中の原子炉の水のおよそ10万倍に当たる放射性物質が検出されました。これについて、原子力安全委員会は、28日、「1号機や3号機に比べて数十倍の濃度であり、一時、溶けた核燃料から放射性物質が漏れて格納容器の水に含まれ、何らかの経路で直接、流出してきたと推定される」という見解をまとめました。

 実態を調べるにも放射線が強く、近寄ることもできないという状況なのだろう。漏出した経路について確定的なことは言えないというのも当然だろう。


財団法人福島県原子力広報協会
「ウランちゃんのなるほどアトム教室」より

 しかし、漏出についてなんらかの想定は成り立つはずで、その想定が可能なのは、このタイプの原子炉の設計者だろうと思っていたが、今日付けのワシントンポスト「Radiation levels at Japan nuclear plant reach new highs」(参照)に、まさにそれにあたる話があった。


The dangers in unit 2 merely add to the growing challenges. Radioactive water is pooling in four of Fukushima’s six turbine rooms, and engineers have no quick way to clean it up, although they have begun to try in unit 1.

2号機の危険が拡大する危機への挑戦にそのまま追加される。放射性のある水が福島のタービン室6室中4室たまっていて、技術者は、1号機において試行しているものの除去しようがない。

While a Tepco spokesman said Sunday that he did not know how the radioactive water was leaking from the reactor cores, Yukio Edano, chief cabinet secretary, said in a televised interview Sunday morning that the reactor itself had not been breached.

東電広報者は、放射性のある水がどのように炉心から漏れていたかはわからないと日曜日に述べる一方、主要閣僚である枝野幸男は、日曜日朝のテレビインタビューで反応炉自身は破損していないと述べた。

He said it was clear that water that could have been inside the unit 3 reactor had leaked but the reactor had not been breached. Still, he said, “Unfortunately, it seems there is no question that water, which could have been inside the reactor, is leaking."

彼は、3号機反応炉内と見られる水が漏れたが反応炉が破損していないことは明白であると述べた。それでも、「残念なことに、反応炉内と見られる水が漏れたのは疑いようがない」とも述べた。


 ここまでは日本で伝えられている話をまとめているのだが、この先に、漏出の経路が米国の設計技術者から語られる。

Unlike in newer reactor designs, the older boiling-water reactors at Daiichi are pierced by dozens of holes in the bottoms of their reactor vessels. Each hole allows one control rod - made of a neutron-absorbing material that quickly stops nuclear fission inside the reactor - to slide into the reactor from below, as happened when the earthquake shook the plant March 11. During normal operations, a graphite stopper covers each hole, sealing in highly radioactive primary cooling water, said Arnie Gundersen, a consultant at Fairewinds Associates with 40 years of experience overseeing boiling-water reactors.

設計が新式の反応炉異なり、より古い方式の福島第一の沸騰水型軽水炉は、反応炉容器の底が数十の穴によって貫通されている。この穴があることで、制御棒(反応炉内の核分裂を急速停止するために中性子吸収素材でできている)が下部から滑り込めるし、それが3月11日の地震の衝撃の際にプラントで生じたことだった。通常制御中は、黒鉛製の栓がこれらの穴を覆い、放射性がかなり高い第一冷却水を封じている。このように語るのは、フェアウインド・アソシエイツ顧問で沸騰水型軽水炉を監督して40年の経験を持つアーニー・ガンダーソンである。

But at temperatures above 350 degrees Fahrenheit, the graphite stoppers begin to melt.

しかし、華氏350度(摂氏176.6度)を越える温度で黒鉛製の栓は溶けはじめる。


 制御棒挿入用の穴をふさぐ栓は、炉内が177度を超えると劣化が始まるようだ。そんなに低い温度でなのかと疑問に思わないでもないが(図の説明にも同値があり黒鉛自体の融点ではないのかもしれない。また摂氏の間違いかもしれない)。

"Since it is likely that rubble from the broken fuel rods ... is collecting at the bottom of the reactor, the seals are being damaged by high temperature or high radiation," Gundersen said. As the graphite seals fail, water in the reactor will leak into a network of pipes in the containment buildings surrounding each reactor - the very buildings that have been heavily damaged by explosions. Gundersen said that this piping is probably compromised, leaving highly radioactive water to seep from the reactor vessels into broken pipes - and from there into the turbine buildings and beyond.

「破損した燃料棒などの残骸が反応炉の底に集まっている可能性があるので、この栓は高温または高い放射線で破損している」とガンダーソンは語る。黒鉛製の栓が破損するにつれ、反応炉内の水は、各反応炉を覆う封じ込め建造物内の配管網に漏れ出すだろう。この建造物はすでに爆発によってかなり損傷している。さらに、この配管におそらく障害があり、高い放射線を持つ水が反応炉容器から破損した配管にしみ出て、そこからタービン室やその外部にまで及んでいるのだろうと、ガンダーソンは語る。


 実際どうなっているかはわからないが、複数炉で似たような問題が発生しているのは炉の設計によるだろうとすると、機構的にはこの説明はかなり説得があるように思われる。
 ガンダーソン氏のフェアウインド・アソシエイツのサイトを見ると、その想定図も掲載されていた(参照)。


ガンダーソン氏の想定の一部

 おそらく日本の原子力安全委員会もこの推定を知っているだろうが、確証がないのだからわからないとするのは正しい。そしてこんな推定を国民が知っていても特段に国民には意味がないかもしれないとしても、まあ、それもそうなのかもしれない。

追記
 保安院からもようやく該当の指摘が出て来た。30日付け日経新聞「福島原発1~3号機「圧力容器に損傷」 原子力安全委」(参照)より。


 圧力容器は簡単にひびが入ったり、割れたりすることはないとされている。ただ燃料棒の真下の部分には核反応を抑える制御棒を出し入れするための穴があり、溶接部は弱い。経済産業省原子力安全・保安院は30日の会見で「制御棒を出し入れする部分が温度や圧力の変化で弱くなり、圧力容器から(水などが)漏れていることも考えられる」との見解を示した。

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2011.03.26

ニューヨークタイムズが掲載した福島原発の放射線量グラフを眺める

 福島原発事故関連で多少気になることがあるので、備忘のために記載しておきたい。話題は、15日に実施された福島第一原発2号機の蒸気放出とその後についてである。
 このところ野菜や水道水への放射性物質汚染が話題になっているが、これはいつどのように発生したのだろうか。何度となく繰り返される原子炉の圧力調整による蒸気放出や使用済み核燃料などが疑われる。実際にはどうだったのだろうか。
 原発外部の放射線量について、経時的に見やすくまとめているニューヨークタイムズの「Radiation at Fukushima Daiichi」(参照)のグラフを見ると、第一原発の正門付近における放射線量で、15日と16日にかけて3度ほど、かなり高い山があることがわかる。この時点でかなりの放射性物質が放出されたのだろうと推測される。これはなんだったったかと過去のニュースを振り返って見て、いくつか疑問が湧いた。

 グラフ情報の由来だが、「Sources: Tepco; International Atomic Energy Agency; Federal Aviation Administration; Nuclear Regulatory Commission」とある。東京電力、IAEA(国際原子力機関)、米国連邦航空局、米国原子力規制委員会の4者である。東電は日本企業でデータは公開されているはずだ。IAEAのデータは日本政府から送付されたものだろう。表紙が話題となったAERA最新号の記事を見ると、そのデータは国内には公開されていないとのこと。軽い疑問ではあるが、この2者だけで15日から16日かけての放射線量の増加がわかったのだろうか。別の言い方をすれば、米国側の情報である米国連邦航空局及び米国原子力規制委員会の情報はグラフのどこに反映されているのだろうか。それらはよくわからないが、4者の情報を総合したグラフという点で精度は高いのではないだろうか。
 気になる15日から16日の放射線量の増加だが、対応する事態としてまず想起されるのは、2号機の問題とそれによって施した圧力調節だろう。記事を見ていくと15日1時34分付けの朝日新聞「2号機、高濃度放射性物質を放出 福島第一原発」(参照)が報じている。


 東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所(福島県大熊町、双葉町)の2号機で14日、原子炉内の水位が低下、燃料棒全体が水から露出して空だき状態になり、炉心溶融が否定できない状態になった。いったんは回復したが再度露出し、蒸気を排出する弁も閉まって水を補給しにくくなった。格納容器内の圧力を下げ、海水を注入できるようにするため、15日午前0時過ぎ、放射性物質を高濃度に含む蒸気の外気への放出に踏み切った。

 14日に2号機が危機的な状況になり、その深夜15日午前0時に蒸気放出を行ったということである。結果はどうであったか。

 枝野幸男官房長官は同日午後9時すぎの記者会見で、燃料棒が露出した1~3号機の炉心溶融について「可能性は高い。三つとも」と述べた。
 午後9時37分には第一原発の正門付近の放射線量が1時間あたり3130マイクロシーベルトと、これまでの最高を記録した。
 15日午前0時には、10キロ南にある第二原発でも、放射線の量が1時間あたり113マイクロシーベルトに上昇した。放出の影響とみられるという。
 14日午前に起きた3号機の爆発で経済産業省原子力安全・保安院は一時、20キロ圏内に残っていた住民に建物内への避難を要請したが、周辺の放射線量のデータに大きな変化は確認されなかった。東電によると、自衛隊員4人を含む11人が負傷し、うち6人について放射性物質の付着を確認した。

 この記事を振り返って考えるとよくわからない点がある。14日の夜9時に枝野官房長官が会見を行った頃は、第一原発の正門付近は3130μシーベルトである。この時点では放出は行われていない。
 15日午前0時には、10キロメートル南の第二原発で113μシーベルトであったとして、この放出影響を記事は伝えているのだが、第一原発の正門付近については語られていない。
 同事態について3月15日2時38分の読売新聞記事「福島第一2号機、燃料棒すべて露出…冷却水消失」(参照)は、14日午後11時からの動向としてこう伝えている。

 その後、水位は回復したが、同日午後11時ごろ、原子炉の冷却水が再びなくなり、燃料棒が完全に露出した状態になった。原子炉から格納容器に蒸気を逃がす二つの弁が完全に閉まり、原子炉内の蒸気圧力が上昇し、海水の注入ができなくなった。
 東電は、15日午前0時2分から格納容器内の蒸気を外部に放出する新たな弁を開けた。この弁から外部に放出する蒸気には、原子炉内から直接出た蒸気が含まれており、これまでに放出された蒸気より放射能が高い。

 この記事には放射線についての言及はない。
 2号機はどうなったのだろうか。気になる記事があった。16日22時19分付け読売新聞記事「危険の兆候か、2号機の圧力なぜ急低下」(参照)である。

 2号機の原子炉は、今回の地震で緊急停止して以来、炉内の燃料を冷やす冷却水の不足が復旧できていない。2度にわたって冷却水を失い、燃料体すべてが露出したこともある。15日朝の爆発で、原子炉本体である「圧力容器」を覆う「格納容器」が損傷した可能性もある。過熱と冷却水不足で炉心溶融が懸念される1~3号機のなかで、もっとも深刻な原子炉ともいえる。
 2号機の圧力容器内の圧力は、15日午後から下がり始め、同日午前の約3気圧(大気圧の3倍)から、16日には大気圧のレベルにまで落ちた。格納容器も、15日午前まで大気圧の7倍程度を維持していたが、午後から急激に下がり始め、16日には大気圧を下回る数値を示した。
 圧力低下の原因としてまず考えられるのは、圧力容器、格納容器ともに密閉性が破れたことだ。すき間を開けた窓のように、内と外とで空気などの行き来が自由になる。東京電力は、少なくとも格納容器については、気密が破れた可能性があるとみている。
 だが、この場合は、大気圧と同じになったところで減圧は止まるはずだ。格納容器内の圧力が大気圧より低いのなら、格納容器はまだ気密を保っているとも考えられる。しかし、それは格納容器の損傷が指摘されていることと矛盾する。格納容器、あるいは両方の圧力計が壊れている可能性もある。
 もう一つは、連日の冷却水注入の努力が効いて、両容器内の温度が下がり、内圧が一気に下がった可能性だ。だが、依然として冷却水の量は少なく、圧力容器や格納容器の気密が保たれたまま圧力が急に下がったとは考えにくい。
(2011年3月16日22時19分 読売新聞)

 振り返ってみるとこれもよくわからない記事である。事態がそもそもわからないということが前提になるが、深夜の蒸気放出に言及していないのは奇妙な印象を与える。2号機について記事から窺える、おそらく確かなことは、16日になって「内部圧力が急激に低下した」ということと15日の朝に爆発があったことだ。
 これをニューヨークタイムズのグラフに付き合わせて見る前に、過去を振り返ってみてもう一点、奇妙な記事を見つけた。21日付けの産経新聞記事「東電、蒸気放出の実施日を訂正」(参照)である。

 東京電力は21日、福島第1原発2号機で原子炉格納容器内の放射性物質を含む蒸気を外に逃がした操作について、実施したのは15日午前0時からの数分間だったと発表、「16日から17日にかけて実施した」との20日の説明を訂正した。
 格納容器につながる「圧力抑制プール」内の水を通さずに蒸気を直接逃がすため、放射性物質をより多く放出する方法だった。

 産経新聞記事が伝えるところでは、21日になるまで東電は14日から15日への深夜の蒸気放出を正確に説明していなかったというのだ。さっと読むと、よほどの勘違いか情報の隠蔽のような印象も受けるが、先に朝日新聞記事と読売新聞記事でも言及があったように、14日から15日深夜の蒸気放出は衆知のことなので、東電側のミスと考えるのが妥当のようにも思われる。
 むしろこの記事が正しければぞっとするのだが、「「圧力抑制プール」内の水を通さずに蒸気を直接逃がすため、放射性物質をより多く放出する方法」ということで、ドライベントだったということだ。ドライベントについては、20日、保安員から3号機への実施の可能性があるとアナウンスされたものの、実施が見送られ、まだ実施されていないと私は記憶していた。産経新聞記事が正しければ、ドライベントはすでに14日から15日深夜に実施されていたことになるし、それに伴って多量の放射性物質が放出されたと見てよさそうでもある。
 ここでニューヨークタイムズのグラフを再度眺めると、14日から15日にかけては特段の変化はない。グラフをよく見ると、14日の午後10頃に正門付近で4ミリシーベルト/時の山がある。ドライベントの前の放出であろう。あるいは実際のドライベントはこの時刻になされのかもしれない。
 15日の突出した山の直前には「Explosion at Reactor No.2」と記されている。これは災害対策本部の情報(参照PDF)を見ると「15日06:10 異常音発生」とある、日本時間15日午前6時の2号機の爆発である。
 この15日の正門での突出した放射線量のピークは12ミリシーベルトに及んでいる。これには「Fire near Reactor No.4」とも書かれているので、4号機の使用済み燃料プール火災の影響もあるかもしれない。
 続く、グラフ上15日から16日の大きな2つのピークにはキャプションはない。大きな事象としては2号機の爆発と4号機の使用済み燃料プール火災が想定されるのではないだろうか。どちらの影響が強いかはグラフからは読み取れない。明確に報告されていない事象があったのかもしれない。
 その後、これらの突出したピークは収まっているかに見える。あるいは記載されていないのかもしれない。その後は、4ミリシーベルトほどの本部(main office)の放射線量のグラフが続く。この連山の冒頭には「Militerary helicopters dumps seawater on Reactor No.3」とある。3号機の使用済み燃料プールへの放水が関連しているという印象は受ける。

追記(2011.3.30)
 グラフの読み方を間違えていたのでそれに合わせて本文を訂正した。当初時刻が日本での事象とずれているように思えたので米国時間で書かれているかと思ったが、各事象の時刻と突き合わせてみると日本時間で描かれてと見てよさそうだ。

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2011.03.25

[書評]慈悲と天秤 死刑囚・小林竜司との対話(岡崎正尚)

 今日、小林竜司被告(26)の死刑が確定した。NHKでは「大学生リンチ殺人」と報じていたが、他の報道やウィキペディアでは「東大阪集団暴行殺人事件」(参照)とも呼ばれてもいる。2006年6月19日、東大阪大学学生ら2人が小林被告が主導するとされる集団からリンチを受け、生き埋めによって殺害された事件である。

cover
慈悲と天秤
死刑囚・小林竜司との対話
岡崎正尚著作
 小林被告は1審・2審でも死刑となり上告していたが、今日、最高裁判所第2小法廷で上告が退けられ、死刑が確定した。千葉勝美裁判長は「ショベルカーで穴を掘り、2人を生き埋めにした残虐非道な犯行で、死刑はやむを得ない」と述べた(参照)。
 本書「慈悲と天秤 死刑囚・小林竜司との対話(岡崎正尚)」(参照)は、副題にあるように、その小林竜司被告との対話を元に、日本大学法科大学院在学中の岡崎正尚氏が描いた作品である。岡崎氏は1985年生まれで、生年からすると小林竜司被告と同い年であろう。本書を、私は不思議な友情の物語として読んだ。不思議というのは、死刑囚と弁護士を目指す同い年の二人が法を介して向き合う友情という意味ではない。法という国家の仕組みをどこかしら二人が越えていく姿を結果的に描き出している点だ。
 著者岡崎氏はこの事件について、小林被告が死刑に相当するだろうかという疑念を持ちながら、2009年から小林氏に接しはじめ、文通や面談を通して交流を深めていく。そこには誰が読んでもある友情の成立を見るだろうし、その友情から著者岡崎氏が小林被告に対して、言い方は悪いが肩入れし、なんとかその死刑を阻止できたらと願うようになることを知る。なんとか死刑を阻止したいという思いが本書に溢れている。
 だがそれは、私がこの種類の本で心に留めた広津和郎氏や伊佐千尋氏の手法とは違う。冤罪を証明としているのではなく減刑を目的としているから違うというのではない。むしろ、その減刑への理路は、これも厳しい言い方になるかもしれないが、いち読者としての私から見ても失敗している。岡崎氏もそこにだけ主眼を置いているのでもない。むしろ、同年近い青年同士の、ある曖昧に見える交流から、自分の友だちを殺さないで欲しいという心情の物語となっていく。
 その心情に共感できるだろうか。私は本書を読みながら、ふたつのせめぎ合いを感じた。
 ひとつは、読みながら、拙い言い方ではあるが、落ちこぼれダメ人間として内省される岡崎氏への共感の軸をどう受け止めるべきかということである。本書は、「死刑囚・小林竜司との対話」でありながら、著者岡崎青年の青年の彷徨と蹉跌の物語でもあり、読み方によってはかなりくどい自分語りが開陳されていく。しかもそれが死刑囚への心情への接近の手法のようにもなっている。
 こうした自己意識の持ち方は、私自身にはかなり近い心性があるので、強い牽引力とそして当然といっても言いのだが、そこから離反する青春の敗残経験からの忌避感がある。私は青年ではなく、青年の心情を捨てて生きてたのだからこんな物語には共感しがたいという思いがあり、同時にそこに潜む虚偽感にも気がつき、心が痛む。読みながら、岡崎氏の状況や心情に自分の青春を重ねざるを得ないし、また彼らの交流から開示される小林被告の青年的な内面にも私の心は共感し痛むことになる。私が青年であれば、岡崎氏のように小林被告に友情を感得し、その独自な潔癖さを自分のものとして受け取って懊悩するだろう。
 つまり、そこなのだ。岡崎氏のこの奇妙な接近法によって描かれるのは、潔癖な青年の持つある自罰的な自滅的な絶望なのだ。
 それはある種の自殺にも見え、その構図のなかでは正義面した国家の死刑という制度が、その自殺の幇助にすら見えてくる。私の中で、ほぼ死にかけていた内面の青年が語り出す、そうやっておまえだって精神的に自殺してきたじゃないか、正義に荷担して殺すというのが国家というものではないか、と。
 もうひとつは、端的なところ、私はだまされているのではないかという疑念である。よろしい、小林被告も著者岡崎氏も純粋な人間である。罪は罪だが状況にあっては誰も犯しうるものだと私は心情的に納得しそうになる。そうなのか? 世界の光は本当にそのように照らされているのか? 端的に言えば、小林被告は死刑を言い渡されたから小猫になったが、事件を顧みればわかるように、そして千葉勝美最高裁裁判長が言うように、いくら改悛しても、犯した罪は残虐極まりない。単純に死刑が相当というだけの話ではないのか。
 どのような事件だったのか。
 本書では事件をなんども多面的に描くのだが、その核心は微妙に読み取りづらい。それはこの事件そのものが持つ奇妙さにもよっている。
 発端は青春にありがちな痴情と暴力である。A男の彼女が、別のB男とメールのやりとりをしていた。A男は、彼女を取られたとB男を憎み、とっちめようと仲間で暴行を加えた。よくある話である。この事件の発端では、この暴行に恐喝が加わった。カネを出さないと暴力団によって海に沈めるか山に埋めるというのである。
 B男こと徳満への暴行・恐喝に、徳満の友人である佐藤も巻き込まれた。そのことが、小林被告がこの事件に関与するきっかけとなった。
 困惑した佐藤は、友人の廣畑に電話をかけ、廣畑はこの話を、佐藤の親友である小林に伝えた。小林は当初暴力団が背後にある事件に関わることはできないと、佐藤に対して警察に被害届を出すように説得し、佐藤も警察に被害届を出した。ここで大人が入って終われば、陳腐な痛い青春の物語であった。
 だが、廣畑は報復を考えた。カネを払うと見せかけて、A男に仕返しをしてやれということである。これに小林も加わることになり、おびき出してA男に暴行を加え、埋めた。その後さらに暴力団とつながりがあるとみられたA男の友人C男も埋めて殺した。裁判の結果からすると、小林主導の殺害事件となった。
 事件の人間関係の読み取りを私は間違えているかもしれないが、いずれにせよ、小林は親友の危機にのめり込んでいったことは確かで、その心情と犯行を、著者岡崎氏は突き詰めようとしている。
 だが、そこは私には率直に言って、本書が十分な説明になっているとは言い難い。なぜ、小林被告が犯行の主導であったかは別としても殺害に関与しているのは確かで、その犯罪は犯罪として、現行の法では死刑は相当なのではないか。そこの判断がもうひとつのせめぎあいになるところだ。
 小林がどのように主導したかは、もちろん裁判のプロセスとしては描かれている。しかし、本書を読むとわかるが、小林はそれを是認しているわけではない。殺人をしたのは事実なのだからその罪をすべて引き受けて死ぬというだけの態度である。本書を読むことで、逆になぜこの小林被告がこの陰惨な事件を引き起こしたのか、その内面の核は理解しづらくなる。
 本書は最後に、この事件が3年ほど遅れ、裁判員裁判であれば、小林被告が死刑ではなく、無期懲役の判決ではなかったかと問いけている。
 その問いかけについてであれば、私には疑問はない。私が裁判員であれば小林被告に死刑を求めない。私が死刑廃止論者になったからではない。この判決を私は間違っていると思う。どこが間違っているのか。主犯の認定を含め十分な審議がなされず、死刑という名目で、青年特有の、ある種の絶望からくる自殺を幇助したような形になっているのは、大人として間違いだと思うからだ。

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2011.03.24

東京都水道の放射性物質汚染

 東京都の水道の放射性物質汚染が明らかになり、大きな事件と認識された。世の中を見つめるブログとしても渦中から記録しておきたい。
 昨日東京都は、葛飾区にある金町浄水場水道水から1kgあたり210ベクレルの放射性ヨウ素を検出したと発表した。この量は、今回泥縄式ではあるが設けられた国の安全基準からすると、乳児の飲み水について2倍を越えるため、東京都23区と多摩地域5市で乳児に水道水を与えることを控えるように呼びかけた。これを受けて夕方5時過ぎの枝野幸男官房長官の会見でも言及された(参照)。


 そうしたなかで本日、東京の上水場の一部から、一般的には基準値には達してないが、乳児の摂取を考慮した場合には摂取を控えることが望ましいという基準値を超えた、210ベクレル/キログラム、乳児の水道水摂取基準は100ベクレル/キログラムなので、これをこえる数値がモニタリングされた。この基準値は、長期にわたり摂取した場合でも健康影響が生じないよう設定されたもの。たまたま数回、あるいは数日こうした数値を超えたものを摂取しても、直ちにはもとより、将来にわたっても健康への影響が出る可能性はない、そういった非常に安全性の高い水準を設定している。そうしたなかであるけども、こうした状況は残念ながら一定期間続くことが想定されているなかにあっては、特に乳児の健康に万が一にも影響を与えることのないようにという万全の措置として、粉ミルクをつくる際、調整する際に水道水を使わないことが望ましいということをお願いしたもの。念のため、大人や普通の子どもが飲用する分には全く基準値以下で問題ないし、生活用水としての利用もこれまで通りで問題はない。なお、この乳児を抱えている家庭のみなさんが困らないよう、現在国と東京都水道局の間で対応策を協議しているところだ。

 今回の水道の放射性物質汚染は小規模とはいえるが社会パニックとなり都内のミネラルウォーターは売り切れた。浄水器についても同様なのではないだろうか。
 実際問題として、乳児を抱えている家庭はどう対応したよいのだろうか。東京都側からはすでに「代替となる飲用水が確保できない場合には、摂取しても差し支えありません」という指針が出されていたが、枝野官房長官の会見からは対応策は明確には見えなかった。そのため、さらに社会不安が増長されたようにも見えた。長くなるが、関連部分をすべて引用しておこう。ここから乳児を抱えた家庭が対応できただろうか。

 ――数値は今後上がっていくか。ほかの首都圏、他で出てくるか。
 今まさに、原発の状況がご承知の通りだから、健康に影響を与えるような事態になってないように、それをしっかり把握するよう各方面、様々な分野でモニタリングを精力的に進めて頂いているところ。これは様々な要因が合わさって実際に基準値を超える数字が出る、出てこないなどがある。一概に距離だけで判定できるものではない。従って、いま水道の水について出ているのは、昨日報告した福島県の一部と東京の今回の上水場だが、それ以外のところもしっかりとモニタリングしている。万が一にも予測しないような数値の上昇があれば、しっかりと把握して対応できるように備えている。
 ――具体的にどれくらい飲んだら影響があるのか。
 具体的な詳細は、専門家のみなさんの詳細で科学的な説明を、厚労省になるかと思うが、報告させ尋ねてもらえば。基本的にこの基準値は、この数値・基準値の放射線量を持ったものを1年間、通常の使用で飲料に使った場合であっても人体に影響を与えないという線で、非常に安全を考慮した数値でつくっている。そういったレベルに達するまでは、少なくとも問題はない。
 ――使用自粛呼びかけというが、国が東京都に何らかの措置をとりうるのか。
 様々な現在各地で行っているモニターとか、放医研(放射線医学総合研究所)など始めとして専門家についても、当然東京都も直接専門家と相談していると思う。放医研や原子力安全委など国の関係の専門家のみなさんの知見とかさまざまな点で協力すべきところは協力して、都の水道局において万全の措置を頂けるような態勢をつくりたい。
 ――乳幼児家庭の対策は。すでに水の買いだめが始まっているが、どうする。
 具体策は、これは東京都水道局と相談しているが、主体的には東京都で最終的に判断される。最終的に都の方で決定したら、都の方から報告されるのが筋かなと思っている。水などの買いだめは、ぜひ被災地に宮城とか岩手のみなさん始め、いま飲料水を災害の結果として確保して送っているのに、いろいろなみなさんにお力ぞえ頂いて、ご尽力頂いている状況なので、ぜひ必要な分を超えて買い求めるのは、そうしたみなさんのためにも自粛をしてもらえたらありがたいと思う。
 ――一定期間想定されるというのは、原発がこういう現状である限りは当分続くということか。
 可能性の問題であり、何度も申し上げている通り、気象条件などに大きく影響される。原子力発電所の状況、状態についても、今後できるだけ冷却を安定させ、これを安定的に冷却をし続けるということで事態の収束をはかるべく努力をしているところだが、それにあわせて原子力発電所から外に出る放射性物質の量をいかにモニタリングし、なおかつ抑えていくかも、冷却が安定的に進んでいく中では、やっていかなければならない。ただこれについては、いつごろどうなっていくかは、今あまり予断をもって申し上げられる状況にはないので、できるだけそれを急いで原子力発電所から放射性物質が外に出る状況をできるだけ少なくして押さえ込んでいくということに、少なくとも一定の期間はかかるということが、私から申し上げられる今の段階でのことだと思っている。

 会見にはいちおう、「たまたま数回、あるいは数日こうした数値を超えたものを摂取しても、直ちにはもとより、将来にわたっても健康への影響が出る可能性はない」とはあり、ここから乳児に摂取させてもよいと読み取ることができるが、明瞭とは言い難いのではないか。
 この間、安全な水を求める話題はツイッターでも飛び交った。煮沸すればよいという意見が一時、専門家から出たが、これは誤りでもあった。
 都側はペットボトルで安全な水を提供するとの対応をした(参照)が、国との協調ではなく石原慎太郎都知事の決断であったようだ。
 今日になって、汚染値は79ベクレルとなり規制値を下回ったため、東京都は1歳未満の乳児を対象にした水道水の摂取制限を解除したが(参照)、汚染発生の元と見られる福島原発の状態によっては今後またこうした事態にはなりうるだろう。
 今回の問題だが、前日の22日の時点で福島県では発生していた。「福島第1原発:水道水からヨウ素 乳児へのミルク禁止通知」(参照)より。

 厚生労働省は22日、福島県内の5市町の水道水で国の基準を超える放射性ヨウ素が検出されたとして、水道水で粉ミルクを溶かしたり、乳児に飲ませないよう対象自治体に通知した。今回の震災で乳児向けの飲用水についての規制は初めて。
 対象となったのは▽伊達市(1キログラム当たり120ベクレル・21日)▽郡山市(同150ベクレル・21日)▽田村市(同348ベクレル・17日、161ベクレル・19日)▽南相馬市(同220ベクレル・21日)▽川俣町(同293ベクレル・18日、同130ベクレル・21日)。政府の原子力災害対策本部が財団法人・日本分析センターなどに依頼し、16~19日に6カ所、21日に77カ所で採取して調べた。

 当然東京での事態も国側でも前日から想定してはいただろうが、対応がまずかった面は否定しづらい。
 今回の泥縄式基準だが、興味深い背景がある。
 まず、東京都水道局の今回の正式な報告「第17報 水道水の放射能測定結果について」(参照)を見ておこう。

平成23年3月23日
水道局
 このたび、東京都水道局金町浄水場の浄水(水道水)から、下表のとおり、食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値100Bq/キログラム(※乳児による水道水の摂取に係る対応について[平成23年3月21日健水発第2号厚生労働省健康局水道課長通知])を超過する濃度の放射性ヨウ素が測定されました。※別紙(PDF形式:103KB)参照
 23区及び一部の多摩地域の都民の皆さまには、乳児による水道水の摂取を控えて頂くように、お願いいたします。
 なお、この数値は、長期にわたり摂取した場合の健康影響を考慮して設定されたものであり、代替となる飲用水が確保できない場合には、摂取しても差し支えありません。
 今後も、濃度の変動を引き続き監視し、公表してまいります。

 東京都水道局からの報告は定期的になされている。そこで問題が発生する以前になる、17日の「第11報」(参照)を比較として見ると、次のように記載されている。

平成23年3月17日
水道局
 東京都水道局で測定した水道水の放射能の測定結果をお知らせします。
 当局では、これまでも放射能の測定を毎年実施してきましたが、福島第一原子力発電所において放射性物質漏洩事故が発生したことから、臨時に測定を行いました。その結果、当局がお客さまにお届けする水道水の放射能の測定値は、これまで測定してきたレベルと同程度であり、問題はありません。
 なお、今後も継続して測定を行い、結果をホームページでお知らせします。
測定結果の概要
 測定結果はいずれも、人が一生涯にわたって水道水を飲み続けても健康影響が生じないレベルを示しているWHO飲料水水質ガイドライン(第3版)の値注1を下回っています(解説を参照)。

 この「人が一生涯にわたって水道水を飲み続けても健康影響が生じないレベルを示しているWHO飲料水水質ガイドライン(第3版)」の値ついてだが、注は次のとおりである。

(注1) WHO飲料水水質ガイドラインの値は、全α放射能では0.5Bq/リットル、全β放射能では1Bq/リットルです。
(注2) 金町浄水場における過去20年間の測定値は、0.0~0.5Bq/リットルです。
(注) Bq(ベクレル)/リットルとは、水1リットル中の放射性物質が放射線を出す能力を表す単位です。

 その後にかなり詳しい解説がある。

解説
 わが国では、放射能に関する水道水質基準等は定められていません。
 ただし、放射性物質漏洩事故等が発生した場合、緊急時モニタリングが実施されるエリア(今回の場合は福島県)については、関係地方公共団体の原子力防災担当部局が中心となって緊急時モニタリングが実施されます。原子力安全委員会により示された指標値を超える飲食物が見つかった場合は、政府の原子力災害対策本部が摂取制限の実施等を検討する仕組みになっています。
 一方、当局が放射能に関して水道水の安全性の評価の根拠としているWHO飲料水水質ガイドラインは、世界保健機関(WHO)が定めたもので、一生涯にわたって水道水を飲み続けても健康影響が生じないレベルを示しており、各国の水質基準等の参考にされています。
 本ガイドラインは、福島県のような緊急時には適用されるものではなく、当局の水道施設など、平常時として浄水処理を実施している日常の運転条件に適用するものとされています。
 ガイドラインでは、まず、全放射能(全α及び全β放射能)を繰り返して測定し、その値が、全α放射能では0.5Bq/リットル、全β放射能では1Bq/リットルを超える場合に限って、個々の放射性核種について分析を行うべきであるとされています(下図参照)。

 いろいろと興味深いことがわかる。
 まず、日本には、放射能に関する水道水質基準が存在していないことである。次に、関連しているが、放射性物質漏洩事故等が発生した場合は、「原子力安全委員会により示された指標値」が検討されて、「政府の原子力災害対策本部が摂取制限の実施等を検討する」ということで、今回の事態になった。「原子力安全委員会により示された指標値」もまた、今回泥縄式に作られたものであったようだ。
 が、この設定値も国際的な基準を満たしていることになっているらしい。WHO(世界保健機関)が22日に発表した大震災に関する報告書「Japan earthquake and tsunami Situation Report No. 13(SITREP NO 13)」(参照)によれば、基準の10倍の厳しさがあるように見える。

The Nuclear Safety Commission of Japan, a unit of the Government of Japan established the guideline value for restriction of intake of drinking water as:

日本政府の部署である日本原子力安全委員会は、飲料水の摂取の制限に以下の指針値を確立した。

I-131* 300Bq/kg
Cesium-134, -137* 200Bq/kg

ヨウ素131 300 Bq/kg
セシウム134,137 200 Bq/kg

* MHLW advised that materials exceeding 100 Bq/kg are not used in milk supplied for use in powdered baby formula or for direct drinking to baby.

厚生労働省は、100 Bq/kgを越える物質は、乳児用粉ミルクへの使用や乳児への直接飲料としてのミルク補給に使用しないよう示唆した。

It should also be noted that the Japanese guideline value is an order lower than the internationally agreed Operational Intervention Levels (OIL's) for I-131 (3,000 Bq/kg), Cs-134 (1,000 Bq/kg) and Cs-137 (2,000 Bq/kg). Iodine-131 is not a significant source of radiation because of its low specific activity (ref. IAEA General Safety Guide No. 2: http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1467_web.pdf)

日本の指針値は国際的に承認された、ヨウ素131(3,000 Bq/kg)、セシウム134(1,000 Bq/kg)、セシウム137 (2,000 Bq/kg)である作業介入レベル(OIL)より一桁小さい。ヨウ素131は低い比放射能特定ゆえ、重要な放射線源にはならない。( IAEA General Safety Guide No. 2 を参照。)


 10倍もの厳しさの原点となっているのは、作業介入レベル(OIL)とのことである。
 そこで、この資料の1つとなる「原子力あるいは放射線緊急事態におけるモニタリングの一般的手順(IAEA-TECDOC-1092)」(参照PDF)を参照し、「表VI 原子炉事故における作業介入レベル」を見ると、「大地沈着物中の目印となる放射性核種濃度」で「ミルクと水」を見ると、ヨウ素131では、OIL6で、2kBq/m2となっている。単位はベクレル/平方メートルなので該当するのだろうか。OIL8では、0.1kBq/kgとなって。これは、1キログラム辺り100ベクレルということである。
 私が資料の読み方を間違っているのかもしれないし、参照すべき文献が違うのかもしれないが、この文書から作業介入レベル(OIL)から見てると、基準となる3000 Bq/kgは見当たらない。
 原子力安全委員会第15回原子力施設等防災専門部会の「平成18年度原子力安全委員会委託事業 「緊急事態対応判断基準等に関する調査」について」(参照PDF)を見ると、「飲食物摂取制限の介入レベル」の表に「飲料水、牛乳・乳製品:ヨウ素:、セシウム: 300 Bq/kg」とあり、出典は「防災指針」となっている。基本は「ほとんどいつでも正当化されるレベル:年回避実効線量10mSv(1食品あたり)」とのことらしい。こちらの資料の結論から見ると、今回の300 Bq/kgは妥当のようにも見える。この出典となる防災指針はわからないが、平成22年8月改定・原子力安全委員会「原子力施設等の防災対策について」(参照PDF)には、「飲食物摂取制限に関する指標」の飲料水・牛乳について、「3×10^2 Bq/kg以上」とあり整合はしている。放射性ヨウ素については興味深い記述もあった。

放射性ヨウ素について
ICRP Publication 63 等の国際的動向を踏まえ、甲状腺(等価)線量50mSv/年を基礎として、飲料水、牛乳・乳製品及び野菜類(根菜、芋類を除く。)の3つの食品カテゴリーについて指標を策定した。なお、3つの食品カテゴリー以外の穀類、肉類等を除いたのは、放射性ヨウ素は半減期が短く、これらの食品においては、食品中への蓄積や人体への移行の程度が小さいからである。
3つの食品カテゴリーに関する摂取制限指標を算定するに当たっては、まず、3つの食品カテゴリー以外の食品の摂取を考慮して、50mSv/年の2/3を基準とし、これを3つの食品カテゴリーに均等に1/3ずつ割り当てた。次に我が国における食品の摂取量を考慮して、それぞれの甲状腺(等価)線量に相当する各食品カテゴリー毎の摂取制限指標(単位摂取量当たりの放射能)を算出した。

 意外とざっくりと、飲料水・牛乳・乳製品及び野菜類の3つで50mSv/年の2/3を分けましたということのようだ。これって科学的な根拠となるのか疑問がないといえば嘘になる。
 しかし、今回の規制根拠を疑うほどのことはない。それでも一歩踏み込んでなぜそれが安全基準なのかということはわかりづらい印象を持った。また、こういう問題は、わかりやすいまとめがあるほうがよいのではないのかとも思った。もしそういう文書があれば、読んでみたい。

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2011.03.22

[書評]日本改革宣言(東国原英夫)

 11日の地震のとき、ちょうど東国原英夫前宮崎県知事による、コンビニ販売の書籍「日本改革宣言」を読んでいた。東国原氏、というか私にはいまだに「そのまんま東さん」という感じなので、東さんと呼ぶかな。東さんは、14日に都知事選への出馬を発表するとのことだったように記憶している。が、発表はなく断念されたか延期された。この大災害を考慮し、別の機会を選ぼうとされたのではないかと個人的には思っていたが、ツイッターなどを見ると石原都知事が4選出馬を表明したので尻込みしたという話もあり、意外にも思ったが、そういう見方もあるのかもしれない。結局、先ほど、立候補された。
 震災前になるが、私は今回の都知事選では石原さんには投票しないつもりでいた。大きな権力を持つ要職に4選なんてするものじゃないし、まして当選したら80歳を越える。輿石東参議院議員じゃあるまいし、80歳まで政治家なんかすることはないだろうと思っていた。
 私が今回の選挙で石原氏を支持していないことくらい、エントリー「石原慎太郎・東京都知事によるとされる「天罰」発言のこと: 極東ブログ」(参照)を読めば普通にわかってもらえるだろうとも思っていた。が、意外にもそうでもない。フェースブックの向こうをはって「これはひどい」ボタンで有名な、はてなブックマークをちらと見るとこんな感じである。


sandayuu これはひどい, 石原慎太郎 こういう風に延々と屁理屈を展開させないと擁護できない時点でどうしようもない。 2011/03/20
hgt 頑張って擁護 2011/03/19
dj19 石原慎太郎 どう擁護したって、”津波で「日本人の心の垢」を「押し流す」必要がある”という愚民視した発言は消えないし、ポピュリズム政治家の代表格である石原がポピュリズムを批判したつもりになっているというのも痛いねぇ 2011/03/19
kanose 不思議 finalventさんって、関心がないと言いながら、擁護すること多いよねー 2011/03/19

 いやあ、どこをどう読むとあのエントリーで石原知事擁護になるのだろう。
 私が言いたかったのは、この御仁、従来から延々と強力失言マシンなんだから、いくら季節柄とはいえ、今回のこんな低レベルの言葉狩りみたいなバッシングしても意味ないし、こんなレベルの言葉狩りしても石原都知事批判にはなってないでしょ、くだらないなあ、ということだったのだが。わからないものなのかな。
 あるいは、石原都知事の「天罰」失言でバッシングの人々に同調してバッシングしないと、バッシングの矛先は同調しない人に向かうということなのか。だったら、それってファシズムじゃないのか。
 震災以降のネットの言論を見ていてもそういう、ファシズム的な傾向が感じられて気持ち悪い。例えば、個別の発言者をデマゴーグ見立てて、寄って集ってバッシングして屠ろうとする傾向がある。これは、その屠り候補にしばしば上る自分としても、実に気持ち悪いものだ。
 開かれたネットなのだから、デマがあれば個別に指摘すればいいし、デマばっかり流すデマゴーグがいるなら、にこやかに無視すればいいだろう。なのにそれができないのは、バッシングの側に参加していないと、こんどは自分がバッシングされるんじゃないかという恐怖が支配しているからではないか。
 また、これこれの発言者の発言は信頼できるといったリストを掲げているネットの御教祖様も出現する。それって仕組みだけみれば、妄信の宗教ではないか。震災や原発事故で不安に駆られてしまうのはわからないではないが、こういう心理的傾向は怖いものだと思う。
 と、話がそれてしまったが、私としては、都知事選に石原氏は外していたので、では誰に投票するかなと、そういう候補のなかの一人として、そのまんま東さんをちょっと考えなおすかなというしだいだった。で、どうか。
 率直なところ悩んでいる。
 この大震災で私は、政局はいったんモラトリアムにすべきだと考えている。国政でいうなら、民主党政権でよいし菅首相でよい。政府があれば御の字の部類。同じ理屈でいうなら、都知事選も延期するのがよいだろうと考えている。
 しかしそれができないなら、とりあえず向こう1年くらいは石原都知事の継続でもいいだろうし、と。なので都知事選が活発になり、その空気に不穏なものを感じたらモラトリアムの意味で石原知事に投票するかもしれないと、考えあぐねている。一回当選したら1年で済むわけもないのが困ったことだが。
 と、また話がそれたが、本書「日本改革宣言」はどうだったか。
 だまされたとは言わないが、都知事選の話はまったく出てこない。というか、これを読む限り、地方分権の話はあるものの、基本線としては国政が意識されている。書名「日本改革宣言」のとおりである。東さん、衆院に出るのが願望なのではないかと思ったほどだ。

 だが、困難だとわかっていても人は、やらなければならない時には、行動を起こさなければならない。このままでは、この国は衰微衰退していくだけだ。現状維持は衰退を意味する。残された猶予は少ない。
 私もそのために、微力ながら、尽力したい。
 世の中も社会も政権与党も変わっていく中で、行政、霞ヶ関だけが変わらないのはやはり異常だ。この国をよくするために、旧来の仕組みや枠組みを早急に変えなければならないというのが私の考えだ。


(前略)日本はこのまま行けば近い将来、確実に崩壊するからだ。この10~20年で国の活力を示す指数は軒並み下がってきている。特に今後の10年、15年が国家存亡の鍵を握ることになるだろう。

 都知事に彼を推す人たちはいるのかもしれないけど、彼自身は地方行政よりも国政に意識が向いているのではないか。
 こういうと悪いけど、それで都知事選挙に出るなら、宮崎県知事はある意味で政治家としての通過点のキャリアなので、都知事もまた同様に通過点のキャリアにして、ペログリ田中さんみたいに国政に挑みたいということなのだろうか。私は基本的に、東さんを支持しているわけでもないので、よくわからないところだ。
 本書での東さんの主張だが、僕の印象では、今は懐かしい在りし日の民主党の主張である。合掌。小沢一郎さんの懐メロ「日本改造計画」とさして変わらない。官僚支配をただしして政治主導にする。私もこの考え方を90年代から支持してきたので、その意味では東さんの言いたいことのは、すらすらと理解できるように思えた。
 で、今や、その夢の残骸を見ている。私は、ブログでも記してきたが、政権交代の前からこの残骸は見えた。それでも、ここまでひどいとは思わなかったし、鳩山前首相があれほどの天才的な人だとも想定しなかった。
 かつての民主党理念、あるいは、小沢さん本人がもう語らなくなった、あの規制緩和・構造改革・減税を掲げてきた小沢イズムと言ってもよいかもしれないが、その理念が今の日本に必要だろうか。率直なところ、これも私にはよくわからない。
 ただ少なくとも東さんの財政タカ派的な考えには賛同しがたい。

 国の借金は後何年かで1000兆円を越える。現在国民の金融資産が1400兆円と言われているが、住宅ローンなどの借金や不動産等を差し引くとおよそ1000兆円になる。つまり、間もなく国と地方の借金が国民の個人の金融資産を越えるということになるのだ。今後、日本はどうなってしまうのか。

 残念ながらまったく同意できない。
 対称的な比較で言えば、舛添要一さんのツイッターの提言に私は同意する(参照)。

このデフレの時期に、震災復興のための増税はダメです。それよりも、20兆円規模の国債を日銀に引き受けさせたほうが効果があります。これは、国会の議決でできますので、全力をあげあす。日銀は反対するでしょうが、日本の命運がかかっています。

 とはいえ、東さんの本を読むとわかるが、彼はかなり頭の切れる人なので、きちんと筋立てていけば舛添さんの提言も理解できるだろう。震災で大きな衝撃を受けた日本について、どのような経済政策が必要なのかということも理解されるのではないか。その意味では、本書の限界でのみ東さんを理解するものではないだろう。
 本書が普通に書籍としておもしろいのは、彼の宮崎県知事時代の体験談である。入札改革、宮崎県品ブランドの普及、鶏インフルエンザ、そして口蹄疫。知事の側から見た興味深い話がある。読み応えがあるし、本人談の結果的な自慢話を差し引いても、この人の知事の手腕は大したものだと思わせる。その意味で、この人なら東京都知事の役はこなせるなという印象は得られる。
 私が本書で関心を持ったのは、しかし、まったく別で、同い年の男としての、共感と嫉妬と悔恨とそういうごちゃごちゃした文学的な思いである。
 嫉妬、と書いたが、同い年の女優、かとうかずこさんと結婚したことだ。コメディアンのくせして「なんとなく、クリスタル」の主役と結婚しやがってうらやましいぞということだ。「美女と野獣」とも言われたものだ。いや、それだけではない。きちんと美女をくどき落とせる男っていうのは偉いな、悔しいのぉと思った。1990年、当時、32歳の東さん、すでに前頭にはその未来も輝いていたんだぞ。
 なのでその離婚にはがっかりした。一男一女のパパだろう。かとうさんが「政治活動する人は生理的に受け付ず、一緒に居るのも嫌」というのがよくわかる。なのになぜ、歯を食いしばり、君は行くのか、というのが私の東さんへの関心のコアのひとつである。その話は、本書には書かれていない。(子供たちから尊敬される父になりたいんじゃないだろうか。)
 もうひとつの関心はいわゆる「淫行事件」である。1998年、東京都内イメクラが16歳の少女、つまり未成年の従業員を使っていたが、彼女がその客として、東さんを供述。東さんとしては、まさか相手が16歳とは知らずということで事情聴取で終わり、犯罪歴にはならなかった。妻のかとうは、まあ、許した。世間の目もあって、東は一年謹慎ということになったが、翌年、仲間の頭を蹴ったとして暴行容疑で書類送検されている。僕は、だめだこいつと思ったものだった。
 本書では通称「淫行事件」も触れられている。まあ、別段事件でもないのだが、世間の目もあって避けるわけにもいかないだろう。

 あの時、姉に電話をしたら「うちには高校生の娘がおるとよ! あんた、いい加減にせんね!」と、ものすごく怒られた。おふくろがその後ろで、声を殺して泣いているのがわかった。

 美人女優の奥さんがいて42歳にもなって16歳の娘さんと淫行というのは、洒落にもならないなと思うが、そう思う私なんぞはそんな甲斐性がないから世の誘惑から免れているだけだろう。己の卑小さを顧みれば責める気にもならないし、なんだかんだいっても、秀吉の妻みたいに奥さんが許している以上、男としてはたいしたもんじゃないかとも思う。
 東さんは、それが契機となり大学で勉強しなおして政治家になるということだが、私はなんとなく嘘くさい感じがしていたものだったが、本書を読んで、なるほどと、一種感動したエピソードがある。

 そして、謹慎期間中の1999年の大晦日、紅白歌合戦にまた、とんねるず率いる「野猿」が出演した。新しい形で紅白に出演し、ブラウン管狭しと大暴れする彼らのパフォーマンスを見ていると、「この人たちにはかなわない」と思った時のことが鮮明に頭に浮かんだ。
 だが、それはずっと頭の隅にあった小さい頃からのもうひとつの夢がぱっと大きくなった瞬間だった。
 お笑いの世界でかなわないと思う人がいるんだったら、自分は違う世界に活路を見出そう、このままひとつの夢を実現できないまま人生を終えたら必ず後悔する。そんなのは絶対に嫌だ。方向転換するなら今しかない。

 今ふと思ったのだが、43歳というのは後厄ではなかったかな。満年齢で数えるものでもないが、男の人生で、なにかがボキっと折れる時期でもある。私なんかもボキっと折れた。私の場合は、死ぬかとも思った。それを越えても折れつづけて、活路を見出すどころではなく、生きるのがやっとだった。だから、活路を見いだせるだけいいじゃないかと思うし、そこは東さんの偉いところでもあるし、それで成功するなら、天命というものだろうと素直に思う。
 人生のその、なんというのか負けたなあ俺はという山だか谷だか越えない人間に私は共感しない。頭のいい人もいる。強い人もいる。しかし、敗北の意味をきちんと人生に織り込めない人生には意味がないと思う。
 その点では、東さんに共感もしている。まあ、投票するかどうかは別だけどね。

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2011.03.21

枝野官房長官曰く、汚染ホウレンソウによる被曝はCTスキャン1回分の5分の1

 震災以降の枝野官房長官の会見はわかりやすく、聞き取りやすい。巷や海外で「枝野首相」と誤認とも洒落ともつかない呼称が出てきてしまうのもしかたないし、民主党の支持の高まりにも影響しているのかもしれない。ただ、多少だが気になった点があるのでメモしておきたい。
 気になったのは、枝野幸男官房長官の19日夕方の記者会見で、茨城県産ホウレンソウから食品衛生基準法上の暫定基準値を超える放射線量が検出されたと発表した、その説明の仕方についてである。正確な発言を見ておこう。朝日新聞「枝野官房長官の会見全文〈19日午後4時過ぎ〉」(参照)より。


 もう一点、ホウレンソウ、牛乳についての報告です。福島県内で採取された牛乳、そして茨城県内で採取されたホウレンソウの検体から、食品衛生法上の暫定基準値を超える放射線量が検出をされたという報告がありました。一つは、昨日の17時半ごろ、福島県の原子力センター福島支所の緊急時モニタリングにおいて、一農場から採取された原乳から食品衛生法上の暫定規制値を超える数値が検出されました。本日、午前11時、茨城県環境放射線監視センターの検査で、ホウレンソウ6検体から食品衛生法上の暫定規制値を超える数値が検出されたとの情報がもたらされました。
 このため、厚生労働省において、本日未明、福島県に対し、また本日昼、茨城県に対し、関係情報を調査の上、食品衛生法に基づき、当該検体の入手先、同一ロットの流通先の調査、結果によっては販売の禁止など、食品衛生法に基づく必要な措置を講じるよう依頼をしたところです。国としては、福島第一原子力発電所災害との関連を想定しつつ、原子力災害特別措置法の枠組みの下で、さらなる調査を行って参ります。その上で、その調査結果の分析、評価をしっかりと行い、一定地域の摂取制限や出荷規制などの対応が必要であるかどうか、必要であるとすればどの範囲とするかなどについて、早急に検討を出してまいりたいと考えております。

 ホウレンソウと牛乳から食品衛生法の基準を超える放射線量が検出されたということは問題であるが、その対処は明確に指示されているので、国民の健康には被害を与えない。また、国がきちんとした対処にあたれば、懸念される風評被害についても対応できるだろう。
 ではどの程度の放射線量であったかについて、枝野官房長官はこう説明している。

 なお、今回検出された放射性物質濃度の牛乳を仮に日本人の平均摂取量で、一年間摂取し続けた場合の被曝(ひばく)線量はCTスキャン1回程度のものであり、ホウレンソウについても、日本人の年平均摂取量で一年間摂取したとして、CTスキャン1回分のさらに5分の1程度であるという報告を受けております。

 医療検査に用いられるCTスキャンは安全が確立されており、しかもその5分の1であればさらに安全であるという修辞で枝野官房長官が語られているのではないかと思う。
 これを聞いて私が困惑したのは、内部被曝と外部被曝が混乱しているのではないかということだった。ホウレンソウは、外部被曝を懸念するべき対象ではない。つまり、手に取って鑑賞したり鼻を近づけてその香りを嗅ぐといったものではなく、食べるものなので、被害があるとすれば内部被曝になる。実際、チェルノブイリ原発事故でも被害は汚染食品を介した内部被曝が問題であった。
 私の疑問は、内部被曝の安全性を、CTスキャンの被曝の量で比較するものだろうか?ということで、もしかすると、私が無知な愚問を抱いているのかもしれない。たとえば、内部被曝の危険性に換算して枝野官房長官が語られているのかもしれない。追記: 「実効線量係数」で換算されているらしい。本文追記及びコメント欄を参照のこと。
 ここで比較されているCTスキャン1回分の放射線量だが、ウォールストリートジャーナルによるシーベルトの説明報道では「6900マイクロSv(6.9ミリSv)程度」(参照)とあり、その5分の1であれば、1380μシーベルトつまり、1.38ミリシーベルトとなる。
 他方、産経新聞記事「放射能検出の生鮮品「影響ないレベル」 専門家、過剰反応戒める」(参照)ではこう解説されている。

 厚生労働省の発表では今回検出された放射性物質で最も高かったのは、茨城県高萩市のホウレンソウから検出されたヨウ素で、1キロあたり1万5020ベクレル。
 放射線医学総合研究所(千葉市)の吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーによると、このホウレンソウの数値を人体への影響を示す単位である「シーベルト」に換算した場合、0・24ミリシーベルトになる。
 人体に影響があるのは一度に100ミリシーベルトを受けたときとされており、小鉢一人前のホウレンソウを100グラムと仮定すると、今回のホウレンソウは4200人分を口にしないと人体に影響を及ぼさない計算になる。
 吉田リーダーは「妊婦や子供など、放射性物質の影響が大きいとされる人たちについても、摂取しても問題がないレベルだ」と冷静な対応を呼び掛けている。

 今回の汚染ホウレンソウをシーベルトに換算すると0.24ミリシーベルトとなるらしい。
 先ほどの単純な換算とは単純には整合しないように見える。また、CTスキャンにもいろいろあってウォールストリートジャーナルの例は枝野官房長官が比喩に使ったタイプとは違うのかもしれない。
 私が基本的な勘違いをしているのかもしれないが、吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーによる0.24ミリシーベルトの数値が正確で、CTスキャンという外部被曝の放射線量を内部被曝に換算しているのではないだろうか。
 であれば、枝野官房長官がCTスキャンという外部被曝の比喩を出してはきたものの、危険性の換算としては内部被曝が考慮されていると見てよかもしれない。
 そう考えると困惑の大半は解消されるが、仮にそうであったとして、もう1つ、困惑というのではないが気になることがあった。先の枝野官房長官の会見に続く。

 また、今回作りました暫定的な基準値というものでありますが、この暫定的基準値は、国際放射線防護委員会の勧告に基づき設定したものでございますが、当該物を一生、飲食し続けることを前提として、健康に人体に影響を及ぼす恐れのある数字として、設定をされた数字、これに基づいて、今回報告がなされ、より広範な調査、分析、評価を行う必要があるとしたものでございまして、ただちに皆さんの健康に影響を及ぼす数値ではないということについては十分理解を頂き、冷静な対応をお願いをしたいと思います。

 聞いていて疑問に思ったのは、先に「食品衛生法上の暫定基準値」として述べられた基準が、「今回作りました暫定的な基準値というものであります」とのことで、話を聞く限りでは、今回の問題が出て来たので、早急に基準を作ったかに聞こえることだ。そのあたりの真相はどうなのか、つまり、言い方はよくないが、この基準は泥縄式に作られたものなのか、疑問に思った。
 仮に泥縄式であったとしても、枝野官房長官が明言されているように、「国際放射線防護委員会の勧告に基づき設定」したとのことで、その基準はグローバルスタンダードなので、非科学的ものではないだろう。その意味で、仮に作成手順が泥縄式であっても基準自体は科学的に正確であると信頼してよいだろう。
 それはどのようなものか? すでに食品安全委員会から、3月16日作成、21日更新(第6報)として「東北地方太平洋沖地震の原子力発電所への影響と食品の安全性について」(参照)が公開され、解説されている。このなかで、基準値を超える食品を摂取した場合についての想定問答が掲載されていてわかりやすい。

2 放射性物質を含む食品の摂取による人体への影響は、内部被ばくによるものですが、原子力安全委員会は、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告した放射線防護の基準(例えば放射性セシウムの場合:実効線量5ミリシーベルト/年)をもとに指標を定めています。

 基準を放射性セシウムで5ミリシーベルト/年からすると、今回の汚染ホウレンソウが0.24ミリシーベルトとのことなので、20倍近い差がある。が、実際には放射性セシウムより、半減期の短い放射性ヨウ素が問題なので、実効線量50ミリシーベルト/年とその200倍になる(参照)。なので、実際には200倍と見てよいだろう。
 放射線量が累積されるとするとして(なおICRPでは半減期は考慮されているが、単純に累積するものではない)、今回のホウレンソウを100gとしてみると、1kgの10分の1なので、年回に2000回食べても安全ということになる。このほうれん草のおひたしを毎日食べても安全だということだろう。
 というところで、先の吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーの説明を思い出し、少しだが首をかしげた。再度引用する。

 人体に影響があるのは一度に100ミリシーベルトを受けたときとされており、小鉢一人前のホウレンソウを100グラムと仮定すると、今回のホウレンソウは4200人分を口にしないと人体に影響を及ぼさない計算になる。

 私の概算に基本的な間違いがあるのだろう。ここでは、基準は100ミリシーベルトで、よって、4200人分となっている。
 私が基本的な勘違いをしているのではないかとも思うが、そうではない部分では、端的なところ、吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーの説明では、人体に影響があるのは、「100ミリシーベルト」としているが、国際放射線防護委員会の勧告による基準では、放射性ヨウ素だと「50ミリシーベルト/年」なのでやはり倍の差がある。放射性ヨウ素に限定されないと倍になるのだろうか。
 あるいは、食品基準としては「50ミリシーベルト/年」ではあるが、その値と人体に影響が出る値は異なり、人体の影響というなら「100ミリシーベルト」ということなのだろう。とりあえず、そう考えるのが妥当なようではある。
 ここでどうも私が混乱しているのかもしれないが、関連して気になることはある。例えば毎日新聞「記者の目:福島第1原発の放射性物質漏出=斗ケ沢秀俊」(参照)を例にすると、被曝の安全性についてこう語られている。

 新聞やテレビの報道で、必ず出てくる言葉がある。「ただちに健康に影響するレベルではない」。この表現は科学的には正しい。私は知人に問われた。「ただちに影響しないということは、後で影響するかもしれないということでしょう」。実際には、合計の被ばく量が100ミリシーベルト以下では、将来がんになる確率が高まることはないとされる。

 また、今回福島原発作業員の被曝線量の改定でもこう語られていた。朝日新聞「福島第一原発の作業員、100ミリシーベルト超え始める」(参照)より。

 厚生労働省と経済産業省は15日、福島第一原発で緊急作業にあたる作業員の被曝線量の上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げている。

 この場合の「100ミリシーベルト」は外部被曝である。
 もしかすると、吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーの説明にある「100ミリシーベルト」もこれ同様に外部被曝ということで、説明に混乱があるということはないのだろうか。よくわからない。
 もう一点、安全基準に対する考え方で吉田聡・環境放射線影響研究グループリーダーは「今回のホウレンソウは4200人分を口にしないと人体に影響を及ぼさない計算になる」と、1回につき何人分という説明がされているが、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告した放射線防護の基準は、例えば、「実効線量5ミリシーベルト/年」というように「年」が単位になっており、半減期は想定されていても、通年の摂取への視点なので、この点についても内部被曝の考え方からみてどうなのだろうかと違和感が残った。
 ブログではエントリにちょっとした間違いがあると、厳しく批判や罵倒を受けるものなので、納得できるご指摘があれば、記事に反映するなり、追記したいと思っている。

追記
 引用部に対する時間単位について推定を除いた。


追記(2011.3.22)
 コメント欄で有益な示唆をいただきました。ありがとうございます。
 ホウレンソウの内部被曝については、「実効線量係数」によって:


ヨウ素131を経口摂取した際の実効線量係数は1.6x10^-5(mSv/Bq)なので
15020(Bq/kg)x1.6x10^-5(mSv/Bq)=0.24032(mSv/kg)
という単純な計算です


日本人が1日に摂取するホウレンソウの量は平均約15グラムらしいので、
年間で約1.3mSvになりますね。
CTスキャン1回分の1/5ってのはこういう計算でしょう。

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2011.03.20

多国籍軍によるリビア攻撃が始まった、つまりイラク戦争2.0開始

 米英仏を中心とする多国籍軍は日本時間で20日の未明にリビアへの攻撃を開始した(参照)。戦争がまた始まった。作戦名は「オデッセイの夜明け(Odyssey Dawn)」。読売新聞は「新たな旅立ち」と訳していた。ポケモンだろそれ。
 日本の民主党政権もこの軍事行動を支持した(参照)。日本もまた戦争に荷担することになったわけである。すでに政権から離脱してしまった社民党だが、仮に依然政権に加わっていたらどうなっていただろうか、とわずかばかり空しく思った。イラク戦争の時には随分と反対していた人がいたが、そうした声はあまり聞かれないようには思った。
 リビアの情勢が「イラク戦争2.0」、つまりイラク戦争を多少修飾した程度の事態になることはすでにエントリに記した(参照)し、その通りの展開となったので特段に驚くべきことはない。中国とロシアは、リビアへの武力行使を容認した国連安保理決議の採決で棄権し、多国籍軍によるリビア攻撃に遺憾の意を表明した(参照)。
 こうなるでしょと予期していたものの、なぜまたイラク戦争2.0を開始しなければならないのかということは、イラク戦争の時と同様、私には今ひとつよくわからない。
 もちろんイラク戦争とは大きく違っている点もある。イラク戦争では、イラクと一緒に国連不正をやっていたフランス政府が米国の軍事行動から離反していたが、今回はフランスのほうが戦争ノリノリだった。この点、なぜなのかとツイッターで問われたが、よくわからない。もちろん、表向きは人道危機への対応であり、朝日新聞社説「リビア介入―市民の保護を最優先に」(参照)のようにイラク戦争を忘れてけろっとダブスタなことで済ませてもいいのかもしれないが、そうでもなければ、石油の問題、地中海・北アフリカ世界のパワーバランス、さらなる難民問題などの要因も思い浮かぶ。が、これといった決め手になるとも思えない。右派ルペン氏の娘マリー・ルペン氏に押されて強硬気取りのサルコジ大統領ということもないわけではないが、それが理由とも思えない。
 欧米各国の政治指導者は、リビアのカダフィー指導者との間に、ちょっと痛い青春の悔恨みたいなものがいろいろあるので、大人になったら大人らしくばっくれて見せているのかもしれないし、いろいろ隠蔽したいこともあるのかもしれないが、そんな陰謀論で説明できる話でもない。
 実をいうと、私は米国オバマ大統領なら、こんなべたなイラク戦争2.0に突っ込んで、ブッシュ前大統領と同じじゃねーかよといった行動を取らないではないかとも多少期待していた。が、オバマ大統領もイヤイヤながらも追い詰められたということなのだろうか。開戦でもごたくを述べていた。毎日新聞「リビア:空爆 米大統領、「我々が求めた結果ではない」(参照)より。


オバマ米大統領は訪問先のブラジル・ブラジリアで19日、声明を読み上げ、リビア国民を保護するため「米軍の限定的な軍事行動の開始を承認した。行動は始まった」と宣言した。また国民への攻撃をやめないカダフィ政権に対して、「行動には結果が伴う。それが連合国の大義だ」と述べ、国際社会の強い意志を主張した。
 大統領は軍事行動について、「米国や我々のパートナーが求めた結果ではない」とし、国連決議に盛り込まれた即時停戦に応じないカダフィ政権が招いたものだと指摘した。さらに「圧政者が自国民への情けは無用と言っているのに、手をこまねいているわけにはいかない」と語った。

 オバマ大統領が引いている理由というなら、若干わからないでもない。15日付けワシントンポスト「The United States watches as Moammar Gaddafi gains」(参照)に、なるほどねと思える話があった。

Possible interventions include not only a no-fly zone but also providing weapons to the rebels, offering inducements to Gaddafi loyalists to defect, jamming Libyan military radio transmissions or bombing Mr. Gaddafi’s tanks and artillery when they move east. Each option carries risks for the United States, and Mr. Obama’s caution is understandable.

可能な軍事介入は飛行禁止区域の設定に留まらず、反乱軍への武器供与や、カダフィー信奉者の離反促進の餌を与えることや、カダフィー派の軍が東に進行する際には、無線妨害をしたり、カダフィー派の戦車や大砲への爆撃することが含まれる。どの選択であっても、米国には危険が伴うし、オバマ氏の警告も理解できる。


 それはそうだ。なのになぜ米国はこの戦争に突っ込まなければならないのか。

On the other hand, Mr. Gaddafi’s military is weak, and many Libyans clearly are desperate for change. And a Gaddafi victory also carries risks for U.S. interests, as Mr. Obama himself has said. A sacking of Benghazi will be accompanied and followed by a horrific bloodbath.

他方、カダフィー氏の軍は弱く、多くのリビア人は明確な変化を希求している。しかも、カダフィー派が勝利すると、オバマ氏自身が言うように米国の国益は危機に直面する。ベンガジの奪取とその後には恐るべき大量殺戮が伴うだろう。


 そのあたりは朝日新聞社説みたいなダブスタなお話である。さらにこう続く。

A revitalized dictator is likely to be distinctly unfriendly to Western interests. And other despots will conclude that Mr. Gaddafi’s brand of merciless revenge brings better results than the Tunisian and Egyptian models of accommodating people’s yearning for freedom — and that American threats to the contrary can be discounted.

力を盛り返した独裁者は、明確に西側諸国の国益と非友好的になるだろう。さらに、人々が自由を求めること受容するチュニジアやエジプトのようなことになるよりは、無慈悲な報復というカダフィー氏の烙印がましな結果だと、その他の独裁者も結論づけるだろう。つまり、米国が独裁に反対するのだという脅しが軽視されることになる。


 率直なところ、その主張はイラク戦争のときのネオコンとどこか違いがあるのかわからない。しかし結局のところ、そうした、またこれかよという判断に押されてオバマ大統領がイラク戦争2.0を始めたということは、ブッシュ前大統領の開戦をも数学的帰納法みたいに証明しているようにも見える。
 私は、よくイラク戦争を支持した・ブッシュ前大統領を支持したとか誤解されたが、しかたがないなと思ったくらいで、支持してはいない。今回の新しい戦争でも同じで、なぜこの戦争をするのか、イラク戦争と同じではないか、しかたがないなというくらいにしか思わないし、支持もしない。
 ではどうするべきなのかと言えば、平和を求める可能なかぎりの努力をすべきだろう。日本国憲法にそう書いてあるし、そういう市民契約で成立した国家の国民なのだから。

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2011.03.19

ミッション「二階から目薬」の背景

 福島原発事故について事態は依然深刻な状態にあるなか、後の検証ためになるかもしれない気になる点を備忘のためにメモしておきたい。
 気になるのは、福島第1原子力発電所4号機の使用済み燃料プールの水について、米国時間の16日、米原子力規制委員会(NPC)グレゴリー・ヤツコ(Gregory Jaczko)委員長が米下院エネルギー・商業委員会で、すでに無くなっていると証言したこと、日本政府による、あるとする見解が相違しているように見えることである。
 ヤツコ委員長の証言はNPR「No Water In Spent Fuel Pool Of Japan Plant」(参照)からの孫引きだと次のとおりである。


"There is no water in the spent fuel pool and we believe that radiation levels are extremely high, which could possibly impact the ability to take corrective measures,"

「使用済み燃料プールには水が全く存在せず、私たちは、放射能レベルが極めて高いと信じている。この放射能レベルは是正措置を取る能力に影響を与うる。」


 国内の報道では、共同は「福島原発「事態悪化」と米委員長 燃料プール、大半の水なし」(参照)で伝えた。

【ワシントン共同】米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は16日の上院公聴会で、火災が発生した福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールについて、大部分の水がなくなっているとの見解を示した。
 同プール内の水が失われると燃料棒がむき出しになり、放射性物質の放出が加速される可能性がある。
 委員長は原発事故に関し「事態が悪化している」と指摘。こうした認識が、原発から80キロ圏内に滞在する米国民への避難勧告につながったとした。
 NRCは現場に専門家を派遣している。委員長は「情報は限られているが、信頼できる情報を提供するよう心掛けている」と強調した。

 ヤツコ委員長証言と共同の記事と付き合わせると、証言では"no water"が共同では「大部分の水がなくなっている」となっている。その差違はよくわからない。
 読売新聞記事「米原子力委員長「4号機プールに水ないと思う」」(参照)では次のように伝えている。

 【ワシントン=山田哲朗】米原子力規制委員会(NRC)のグレゴリー・ヤツコ委員長は16日、米下院エネルギー・商業委員会で証言し、福島第一原発4号機について「使用済み燃料プールの水はすべて沸騰し、なくなっていると思う」との見解を明らかにした。
 使用済み燃料棒が露出した結果、「放射線レベルは極めて高く、復旧作業に影響する可能性がある」とも指摘した。具体的な人体への影響については、「かなり短い時間で致命的になるレベルだ」と述べた。
 ヤツコ委員長の発言は、東京に派遣した米国の専門家チームからの情報を基にしているとみられる。米当局が、日本政府や東京電力よりも、原子炉の状況について悲観的な見方をしていることを示した。
(2011年3月17日10時04分 読売新聞)

 ヤツコ委員長証言を詳細に見ていないので、読売新聞記事の「すべて沸騰し」の由来はよくわからない。
 ブルームバーグ記事ではヤツコ委員長証言の背景にも言及している。「米NRC委員長:福島原発の核燃料プール、水なくなったとの発言確認」(参照)より。

 3月16日(ブルームバーグ):米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長は、東日本大震災で被災した福島第1原子力発電所の原子炉の一つで使用済み核燃料プールの水がすべてなくなったとの下院委員会での発言を確認した。
 ヤツコ委員長は上下両院の委員会で証言後に記者団に対し、「問題の原子炉への対応に携わり、原発関係者と協力している米国のチームが日本にいる」と述べ、「それが情報源だ」と説明した。
 AP通信によると、日本の当局は福島第1原発4号機について、水がすべてなくなったことを否定し、安定していると指摘している。

 ヤツコ委員長証言の情報源は在日米国側チームによるらしい。
 これに対して日本側の対応だが、東電は水があったとしている。NHK「“4号機のプール 水あった”」(参照)より。

3月17日 12時38分
東京電力によりますと、17日、自衛隊のヘリコプターが上空から福島第一原子力発電所の状況について調べたところ、4号機の使用済み燃料プールには、水がある様子が確認されたということです。入っている水の量についてはまだ、確認できていないということです。また3号機には蒸気が立ちこめていたということで、16日の自衛隊のヘリコプターを使った上空からの水を入れる作業は、3号機から始めることに決めたということです。

 ブルームバーグ記事「東電:ヘリコプターを飛ばし使用済み燃料プールの水位を確認」(参照)も参照しておこう。

 3月17日(ブルームバーグ):東京電力は17日、記者団に対しヘリコプターを飛ばし福島第一原子力発電所3、4号機の使用済み燃料プールの水位を確認すると発表した。同社社原子力設備管理部の小林照明課長が明らかにした。
  福島第一原発の放水に関しては、同社広報の吉田薫氏によると、4号機の燃料プールのほうが水が少ない可能性があるが、3号機のほうが放水しやすい状態にあるため、3号機の放水を優先するという。

 東電側はヤツコ委員長証言に反論するためにヘリコプターによる確認を取ったとも言えるだろう。どちらが正しいのだろうか?
 日本ではこの問題、つまり東電側の発表と米国議会証言との差違についてそれほど議論にならなかったように思われる。おそらく、ヘリコプターによる確認ができたので、それが正しいとされたのではないだろうか。またヤツコ委員長も東電側の応答をいったん了承したかにも見えた。
 この点について朝鮮日報の記事「東日本巨大地震:核燃料保管プールに水はあるのか」(参照)は疑問を投げかけていた。

 米側の主張に対して東京電力は「4号機の状況は非常に安定している」として直ちにに反論した。東京電力は17日午後にヘリコプターから撮影した4号機の映像を公開した際「プールの水面とみられる部分が映っていた」と主張した。映像によると、4号機は片方の壁に半分ほど穴が開いており、そこから絡み合った鉄骨が露出していた。穴からは燃料棒を移動させるのに使う緑色のクレーンが見え、その後ろには白く光る部分があった。原子炉の構造から推測すると、この光る部分は使用済み燃料棒を保管するプールのある位置だ。東京電力は「この白く光る部分はプールの水面とみられる。4号機のプールには水が残っているため、放水作業は3号機から開始する」と説明した。
 このように日本が強く反論すると、ヤツコ委員長は17日に行われたホワイトハウスでの会見で「プールの水がなくなったとするNRCの見解は、あの時点で入手していた情報に基づくものだ。冷却作業が進められれば、危機的状況になるまではしばらく時間があるだろう」として発言を修正した。
 しかし、4号機の映像を見たソウル大学原子核工学科の黄一淳(ファン・イルスン)教授は「水があるのなら、画面のように明るく光らないだろうし、また蒸気も発生しているはずだが、そのような映像はなかった」とした上で「明るく見える部分は、燃料棒の一部が空気中に露出したものではないか」と指摘した。4号機の使用済み燃料棒保管プールに水はないとするNRCの発表の方が、より信頼できるということだ。黄教授は「この映像を根拠に東京電力が4号機に放水作業を行わないのなら、これは理解に苦しむ」と述べた。

 東電側のその写真をどう判断するかは難しい。日本国内でジャーナリズムによる検証はなされたかについては私は知らない。
 4号機の経緯について振り返ってみよう。15日付け朝日新聞記事「4号機、水が蒸発し水素爆発か 燃料棒露出の可能性も」(参照)より。

 福島第一原発4号機でも15日午前6時ごろに大きな音が発生した。東京電力が確認したところ、原子炉建屋の5階屋根付近に損傷がみられた。さらに午前9時38分ごろ、原子炉建屋4階北西部付近で出火を確認。正午前までに鎮火した。


 通常、プールの温度は40度以下で管理している。ところが、14日午後4時18分時点では約85度まで上昇していた。燃料の周囲を満たしている水が蒸発、燃料棒がむき出しになって水素が発生した可能性がある。ただ、運転停止後時間がたっており、発熱量は小さめだという。実際にむき出しになったかどうかは、確認できていない。

 東電ヘリコプターでは3号機では水蒸気が確認されているが、4号機では水があるとしていながら、写真から水蒸気はないとしている。
 問題が錯綜するのは、朝鮮日報記事にもあるようにヤツコ委員長は17日、考えを「修正」したかに見えることだ。表面的には東電の説明を飲んだかたちにも見える。
 この点について、17日付けウォールストリートジャーナルは「Did NRC’s Jaczko Misspeak?」(参照)で、ヤツコ委員長証言は誤りだったかいう切り口で取り上げている。だが、微妙な記事である。

At a White House briefing Thursday, Mr. Jaczko declined to repeat that statement, but he did not retract it, either.

木曜日のホワイトハウスにおけるブリーフィングで、ヤツコ氏は、(4号機プールに水はないとする)言明を繰り返すことは辞退したが、撤回もしなかった。


 これをどう見るかは難しい。政治的な判断かもしれない。枝野官房長官の会見も考慮に入れるほうがよいだろう。まず、17日午前11時半の会見(参照)より。

 ――米国の原子力規制委員会委員長が議会で、福島第一原発4号機について使用済み燃料プールの水はすべてなくなっている、と証言。日本政府の情報に基づいての証言なのか。
 おそらくそのご発言などがあって以降だと思うが、私どもの方から米国の専門家にこちらのより詳細な情報を提供して、すり合わせというか、認識が統一されているのかどうか整理させていただいている。
 この間、米国の専門家の皆さんには、できるだけタイムリーにこちらのもっている情報を提供して、分析をいただいて、そうした分析も参考にしながら対応しているところだ。どうしても若干様々なものをお渡しをするなどについての時間的ずれが生じている。
 特に4号機に現に水があるのかどうかについての情報については、若干米側に伝達するのに時間的な差があったという報告は受けている。

 「そのご発言などがあって以降だと思う」としているが、ヤツコ委員長証言以降を指すのだろう。表面的に読めば、日本側は4号機に水があるとしているが、米側にその伝達が遅れたかのように読める。つまり、日本政府としては4号機プールに水があるとしている情報を米国に伝えなかったために、米国側が誤認したということになる。ヤツコ委員長証言を否定していることになる。
 そうであれば、米側を説得するために東電ヘリコプター写真があったということになる。
 ところで、米側は東電よりも詳しい情報をすでに得ていたのではないだろうか。
 このあたりから時系列が複雑になるのだが、17日に米国は無人偵察機グローバルホークを福島原発に飛ばせた。産経新聞記事「米無人偵察機が原発内部を撮影へ きょうにも投入」(参照)より。

【ワシントン=佐々木類】放射能漏れが深刻化する福島第1原発の建物内部の実態把握のため、米軍が17日にも無人偵察機グローバルホークを投入することになった。現場レベルの原発事故対策としては初めての本格的な日米協力になる。米国防総省高官が16日、明らかにした。

 さらに米国はU2偵察機も投入している。「福島第1原発にU2偵察機も投入 米が内部解析と報道」(参照)より。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は18日、米軍が無人偵察機グローバルホークに加えてU2偵察機を投入、東京電力福島第1原発の原子炉建屋内部の解析などに当たっていると報じた。民間専門家は、スパイ衛星も使われている可能性があるとしている。

 この精密な写真は日本側に渡された。毎日新聞「東日本大震災:福島第1原発事故 米軍無人機の映像、日本政府が公開に慎重」(参照)より。

 日本政府が、米空軍無人偵察機「グローバルホーク」が撮影した福島第1原発上空の映像の提供を受けながら、公開に慎重姿勢を見せていることが関係者の証言で分かった。米軍側は「あくまで日本側の判断」とし、提供した映像の公開を承認している。
 無人機が搭載する高性能のカメラは「車のナンバーが読み取れるほど鮮明」(米空軍)で、映像は原発施設の内部状況をほぼリアルタイムでとらえており、専門家の分析にも役立つ可能性が高いという。


 だが日本側は、映像を保有したまま公開していない。同米空軍基地では、米国の原発専門家らが映像を詳細に分析しているという。

 映像には4号機のプールの映像も含まれているだろうし、水の有無の判断が可能になるはずだ。公開して、東電ヘリコプター写真と付き合わせて見ると、ヤツコ委員長証言と東電のどちらが正しいかはわかるはずだ。
 興味深いのはこうした情報収集は、米側ではこれが初めてではなかったようだ。同記事にはこう指摘されている。

米空軍は日本政府からの要請を受け、グアムのアンダーセン空軍基地に配備されている最新鋭のグローバルホーク(翼幅約40メートル、全長15メートル)を震災の翌12日から、被災地周辺に飛行させている。多量の放射性物質が検知されている福島第1原発上空では自衛隊機の飛行が困難なため、グローバルホークが24時間態勢で撮影。衛星通信を介して映像を米カリフォルニア州の米空軍基地に送信し、日本政府側にも提供している。

 時事「無人偵察機で福島原発撮影=冷却対策、日本と情報共有-米空軍」(参照)も同種の内容を伝えている。

ーク」を投入し、放射能漏れが続く福島第1原発の上空付近を飛行させて撮影していたことが16日、分かった。米空軍筋が明らかにした。

 東電がヘリコプターを飛ばした17日以前から東電ヘリコプター写真より精細な情報を米国側がもっていたと考えてよいだろう。そして、それがヤツコ委員長証言の情報に繋がっていたいたと考えられる。
 この時系列で考えるなら、日本政府側としては、4号機プールの状況がわからず、東電に打診したところ水はあるという応答を得て公式見解としたところ、それに矛盾するヤツコ委員長証言が出てきた。17日、東電はヘリコプターを飛ばして水があるという写真を得た。しかし枝野官房長官が述べたように、この時点ですでに日米両政府で摺り合わせは始まっていて、米国側の写真も存在していた。東電ヘリコプター写真と米側の写真を日本政府は付き合わせたことだろう。米国側は17日にもグローバルホークを飛ばしたのもその背景があったためだろう。
 ヤツコ委員長の対応を考える上で、19日の枝野官房長官の会見(参照)も見ておこう。

――原発4号機の使用済み燃料棒プール。「水が残っている」日本側と、「破損しているから水をためるのは困難だ」とする米国。どちらの見解が正しいのか。
 私は専門家ではないので、私自身の見解はここでは意味がないことだ。そのうえで、我が国の専門家のみなさんが分析した認識と、米国の専門家のみなさんが分析している認識については、これは日々ディスカッションをしてすりあわせをしてきている。今言った米国の認識というのは、ある一定時間前の認識として、そうした認識があったということは聞いているが、時々刻々様々な状況についての情報がはいるなかで、4号機について「一定の水が入っていて、それによって冷却に一定の効果がなされている」ということについては、よりその可能性が高いという報告をこの間受けている。

 従来からの政府の建前上、4号機プールに「一定の水が入っていて」の可能性としているが、可能性に留めて、米国側のとの認識のすりあわせが優先されている。
 米側の対応からすると、4号機のプールには水はないと推論するほうが妥当なようだが、以上の経緯の推定は、東電の意見が日本政府に及ぶのを米国側から強くヴィトーしたかに見えるプロセスなので、4号機プールの状態自体の情報からは独立している。
 19日付け共同「米専門家、4号機プールに亀裂か 冷却困難も、と指摘」(参照)を想定すると、枝野官房長官の建前の可能性は低そうにも思える。

【ロサンゼルス共同】米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)は18日、東日本大震災で被災した福島第1原発4号機について、使用済み燃料プールに亀裂が入り、冷却水が漏れている可能性があると報じた。米原子力規制委員会(NRC)の複数の原発専門家の分析として伝えた。
 亀裂の場所などは特定していないが、同紙は、漏えいが事実とすれば放水などによる冷却作業が一層難しくなり、「打つ手のない」(米物理学者)状況に追い込まれると指摘している。
 こうした分析について、枝野幸男官房長官は19日夕の記者会見で「(米側には)以前そういう認識があったと聞いている」と述べた。その上で「時々刻々さまざまな情報が入っている中で、4号機には一定の水が入っている可能性が高いという報告を受けている」と説明した。
 NRCの専門家は同紙に対し「(地震発生から)数日だけで、これほどの量の冷却水が蒸発するのは疑わしい」との見方を示した。亀裂の原因としては、地震の強い揺れや、それによる機材の落下が考えられるという。
 ニューヨーク・タイムズ紙(同)も、原子力企業幹部による同様の分析を紹介。米政府当局者は、4号機の建屋で15日発生した火災が完全に鎮火したかどうか確信を持てていないと伝えた。

 ヤツコ委員長証言以降進められた日米政府間の摺り合わせの間、「おそれいりますがしばらくそのままでお待ち下さい」になることもなくスペクタクルな、決死のミッション「二階から目薬」が実行されていた。対象は3号機である。朝日新聞「陸自ヘリ、水投下4回で終了 今後は陸上から放水」(参照)より。

 放射性物質放出の恐れがある東京電力福島第一原発3号機の使用済み燃料貯蔵プールを冷却するため、陸上自衛隊のヘリコプター2機が17日午前9時48分から計4回、上空から3号機に向け、水を投下した。17日午後には自衛隊と警視庁も地上から放水を始める方向で準備を進めており、原発の外からの冷却作業が本格化する。 
 ヘリ4機は17日朝、仙台市の陸自霞目駐屯地から出発。UH60ヘリ1機が上空から原発周辺の放射線量を調査した結果、1機あたり計40分間まで作業が可能だとして、CH47ヘリ1機が投下を指揮し、同2機が午前9時48分から午前10時まで、バケツ(容量7.5トン)でくみ上げた海水を交互に投下した。
 北沢俊美防衛相は投下を受け17日午前11時半ごろから記者会見し、「今日は限度だという判断で決心した」と、このまま3号機を放置するのは難しい段階にあったとの認識を示し、「3号機に間違いなく水はかかっている。成功を期待している」と述べた。今後、地上からの放水の効果などを見て、必要に応じて上空から追加して水を投下することも検討するという。

 任務に当たったかたにはひたすら頭の下がる思いがする。産経新聞「北沢防衛相、「決断」丸投げ 現職自衛官が悲痛な寄稿」(参照)より。

 福島第1原発への海水投下をめぐり、北沢俊美防衛相が任務決断の責任を折木良一統合幕僚長に転嫁するかのような発言をしたことに対し、自衛隊内から反発の声が上がっている。
 北沢氏は陸上自衛隊のヘリが17日に原発3号機に海水を投下した後、「私と菅直人首相が昨日(16日)話し合いをするなかで結論に達した」と政治主導を強調する一方で、「首相と私の重い決断を、統合幕僚長が判断し、自ら決心した」と述べた。
 この発言について、ある自衛隊幹部は「隊員の身に危険があるときほど大臣の命令だと強調すべきだが、逆に統幕長に責任を押しつけた」と批判する。北沢氏は17、18両日の2度の会見でヘリの乗員をねぎらう言葉も一言も発しなかった。
 首相も最高指揮官たる自覚はない。首相は17日夕、官邸での会議で「危険な中での作戦を実行された隊員はじめ自衛隊のみなさんに心から感謝を申し上げます」と述べたが、地震発生以来、一度も防衛省を激励に訪れたことはない。

 自衛隊のかたのご苦労に感謝したい。効果については、仮に放水まで打つ手がないための無理な策であったかもしれないとしても、私も問えない。
 壮大なるミッション「二階から目薬」は3号機を対象になされた。4号機でなかったのは、政府としてはそこにすでに水があるからであろう。
 もしそこに水を撒いたらどうなったかについては、16日付けのロイター記事「Analysis: Japan nuclear crisis reaches new levels」(参照)では、ヤツコ証言を巡る識者の意見としてこう伝えていた。

Arnie Gundersen, a 29-year veteran of the nuclear industry who has worked on reactors similar to the Daiichi plant and is now chief engineer at Fairewinds Associates Inc, warned that dropping water on the spent fuel pool could make matters worse.

第1プラントに似た反応炉で働いたことがあり、現在フェアウインズアソシエーツ社の技師長をしている、原子力産業で29年の経験を積んできたアーニー・ガンダーソンは、使用済み燃料プールに水を投下すれば事態が悪化しうると警告した。

"It's a bad idea to drop water onto the fuel racks. You could get an inadvertent criticality. That means you could have a nuclear reaction, similar to that in a reactor core, in the fuel pool," Gundersen said.

「燃料棚に水を投下するのはまずい考えです。予想外の臨界になるかもしれない。つまり、核反応を起こしかねないのですよ。燃料プールのなかで原子炉内に似たことになります」とガンダーソンは語った。


 そうなる可能性があるかについて私にはわからない。
 4号機への放水は今日は実施されなかったようだ。19日15時29分更新の日経新聞記事「2号機に電源接続へ 福島第1原発、3号機は放水続行」(参照)には、こう書かれていた。。

一方、防衛省は自衛隊の消防車による4号機への放水作業を19日午後以降に実施する方向で検討を始めた。自衛隊が17、18両日に放水した3号機は東京消防庁などの放水態勢が整ったので任せ、放射性物質飛散の危険がある別の原子炉に放水対象を移す。

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2011.03.15

石原慎太郎・東京都知事によるとされる「天罰」発言のこと

 石原慎太郎・東京都知事によるとされる「天罰」発言には、私には関心がなかった。今でもさして関心はない。理由は簡単で、この人の新しい失言から思想信条を考えるまでもなく、それなら、過去の失言で十分ではないかと当初思えたからだ。問題は、そうした思想信条が公的な立場である東京都知事としての行政に反映されているかなのだが、これまで都知事をされていて、特段に影響を見ないように思う。
 今回の失言の顛末だが、すでに「言葉が足りなかった。撤回し、深くおわびする」(参照)と謝罪したとのことなので、政治的な決着は済んでいると言えるのではないか。本人としても、「天罰」発言が失言であったと認めている(参照)。
 とはいえ、当初の報道のされかたに私は奇妙な印象を受けた。これってきちんとした報道になっているのだろうか。そういう思いから、報道の資料としてブログに残して、それと自分がこの件で思ったことを記しておきたい。
 大手紙と通信社の報道を見ていきたいが、これ以外のバージョンも存在するかもしれない。
 14日付け朝日新聞記事「「大震災は天罰」「津波で我欲洗い落とせ」石原都知事」(参照)は次のように伝えている。


 石原慎太郎・東京都知事は14日、東日本大震災に関して、「日本人のアイデンティティーは我欲。この津波をうまく利用して我欲を1回洗い落とす必要がある。やっぱり天罰だと思う」と述べた。都内で報道陣に、大震災への国民の対応について感想を問われて答えた。
 発言の中で石原知事は「アメリカのアイデンティティーは自由。フランスは自由と博愛と平等。日本はそんなものはない。我欲だよ。物欲、金銭欲」と指摘した上で、「我欲に縛られて政治もポピュリズムでやっている。それを(津波で)一気に押し流す必要がある。積年たまった日本人の心のあかを」と話した。一方で「被災者の方々はかわいそうですよ」とも述べた。
 石原知事は最近、日本人の「我欲」が横行しているとの批判を繰り返している。

 朝日新聞ではとりわけ「天罰」発言が問題化するという焦点は当てられていない。「一方で「被災者の方々はかわいそうですよ」とも述べた」として、それなりのバランスを取っているようにも見える。
 15日付け読売新聞記事「石原知事「津波は天罰、我欲を洗い落とす必要」」(参照)ではこう。

 東京都の石原慎太郎知事(78)は14日、東日本巨大地震に関連し、「津波をうまく利用して『我欲』を洗い落とす必要がある」「これはやっぱり天罰」などと述べた。
 石原知事は同日午後、都内で「震災に対する日本国民の対応をどう見るか」と報道陣に問われ、「スーパーになだれ込んで強奪するとかそういうバカな現象は、日本人に限って起こらない」などとした。さらに親が亡くなったことを長年隠し年金を不正受給していた高齢者所在不明問題に言及し、「日本人のアイデンティティーは我欲になった。政治もポピュリズムでやっている。津波をうまく利用してだね、我欲を1回洗い落とす必要があるね。積年たまった日本人の心のアカをね。これはやっぱり天罰だと思う」と語り、「被災者の方々はかわいそうですよ」と続けた。
 その後の記者会見で「『天罰』は不謹慎では」と質問が相次いだが、石原知事は「被災した方には非常に耳障りな言葉に聞こえるかもしれませんが、と言葉を添えている」とした。

 読売新聞が朝日新聞と異なるのは、「『天罰』は不謹慎では」と畳みかける「その後の記者会見」についても記事にしている点だ。「天罰」発言は、その後の記者会見で焦点化したことがわかる。
 15日毎日新聞記事「東日本大震災:石原知事「津波は天罰」」(参照)は長い。

 東京都の石原慎太郎知事は14日、東日本大震災に関連し「我欲に縛られ政治もポピュリズムでやっている。それが一気に押し流されて、この津波をうまく利用してだね、我欲を一回洗い落とす必要がある。積年たまった日本人の心のあかをね。これはやっぱり天罰だと思う。被災者の方々、かわいそうですよ」と発言した。蓮舫節電啓発担当相から節電への協力要請を東京都内で受けた後、記者団に語った。多くの犠牲者が出ている災害を「天罰」と表現したことが、被災者や国民の神経を逆なでするのは確実だ。
 石原氏は「天罰」発言の前段として「去年一番ショックだったのは、おじいさんが30年前に死んだのを隠して年金詐取する、こんな国民は世界中に日本人しかいない。日本人のアイデンティティーは我欲になっちゃった」と述べていた。また「残念ながら無能な内閣ができるとこういうことが起きる。(95年の阪神大震災の際の)村山内閣もそうだった」とも語った。【青木純】

 ◇石原氏「受け止め方の問題」
 「天罰」発言について石原氏は、14日夕に都庁で行った記者会見で「『被災された方には非常に耳障りな言葉に聞こえるかも』と(前置きで)言ったんじゃないですか」などと釈明したが、実際には発言していない。
 発言の真意については「日本に対する天罰ですよ。これをどう受け止めるかという受け止め方の問題なんですよ。大きな反省の一つのよすがになるんじゃないですか」と持論を展開。「それをしなかったら犠牲者たちは浮かばれないと思いますよ」と述べ、撤回しない考えを示した。【石川隆宣】


 毎日新聞記事はかなり詳しい。また、朝日新聞や読売新聞になかった、「多くの犠牲者が出ている災害を「天罰」と表現したことが、被災者や国民の神経を逆なでするのは確実だ」とやや誘導的な評価も含まれている。さらに、その後の都庁での記者会見の内容を加えて、「天罰」発言の問題化を明確にしている。
 14日産経新聞記事「石原知事「津波で我欲洗い落とせ」「天罰だ」」(参照)はこうである。

 東京都の石原慎太郎知事は14日、東日本大震災への国民の対応について記者団に問われ、「我欲で縛られた政治もポピュリズムでやっている。それを一気に押し流す。津波をうまく利用して、我欲をやっぱり一回洗い落とす必要がある。積年にたまった日本人のあかをね。やっぱり天罰だと思う。被災者の方々はかわいそうですよ」と述べた。
 知事は一連の発言の前に、持論を展開して「日本人のアイデンティティーは我欲になっちゃった。アメリカのアイデンティティーは自由。フランスは自由と博愛と平等だ。日本はそんなもんない。我欲だよ。物欲、金銭欲」と語っていた。
 同日、この後に開いた記者会見で「天罰」の意味について「日本に対する天罰だ」と釈明。「大きな反省の一つのよすがになるんじゃないか。それしなかったら犠牲者たちは浮かばれない」と話した。

 産経新聞では、「天罰」発言が焦点化するその後の記者会見で、むしろ、「天罰」の意味を限定し「日本に対する天罰だ」としている。毎日新聞の記事が「被災者や国民の神経を逆なでする」として「被災者」を前面に出すのに比べ、その点を避けていることがわかる。
 14日日経新聞記事「石原都知事「津波は我欲の天罰、被災者はかわいそう」」(参照

 東京都の石原慎太郎知事は14日、東日本巨大地震に関連し「津波をうまく利用して(日本人の)我欲を一回洗い落とす必要がある。これはやっぱり天罰だと思う。被災者の方々はかわいそうですよ」と述べた。
 同日、節電対策で蓮舫節電啓発担当相と会談後、記者団に述べた。
 石原知事は日本人の国民意識が「金銭欲、物欲、性欲などの『我欲』になっている」と指摘したうえで、こうした発言をした。

 日経新聞の記事は朝日新聞に似て、さらにさらりと扱っている。「天罰」発言は問題ではあるのだろうが、石原都知事の意図が「国民意識」にあることを簡素に示している。後の記者会見については触れていない。
 14日付け共同通信「大震災は「天罰」と石原知事 「津波で我欲洗い落とせ」」(参照)より。

 東京都の石原慎太郎知事は14日、東日本大震災への国民の対応について記者団に問われ「我欲で縛られた政治もポピュリズムでやっている。それを一気に押し流す。津波をうまく利用して、我欲をやっぱり一回洗い落とす必要がある。積年にたまった日本人の心のあかをね。やっぱり天罰だと思う。被災者の方々はかわいそうですよ」と述べた。
 知事は一連の発言の前に、持論を展開して「日本人のアイデンティティーは我欲になっちゃった。アメリカのアイデンティティーは自由。フランスは自由と博愛と平等だ。日本はそんなもんない。我欲だよ。物欲、金銭欲」と語っていた。
 同日、この後に開いた都庁の記者会見で「天罰」の意味について「日本に対する天罰だ」と釈明。「大きな反省の一つのよすがになるんじゃないか。それしなかったら犠牲者たちは浮かばれない」と話した。天罰について発言した際、「『被災された人は非常に耳障りな言葉に聞こえるかもしれないが』と言葉を添えた」としたが、実際には話していなかった。

 共同通信は見るとわかるように産経新聞記事とほぼ同じであり、おそらく産経新聞が共同の記事を購入したのだろう。ただし、産経新聞では共同にあった最後の一文が省略されている。
 14日の時事通信「「津波は天罰」=石原都知事「我欲を洗い落とす必要」」(参照)は次のとおり。

 石原慎太郎東京都知事は14日、東日本大震災に関連し、「津波をうまく利用して『我欲』を一回洗い落とす必要がある。やっぱり天罰だと思う」と発言した。都内で行われた蓮舫節電啓発担当相との会談の後、記者団に語った。被災者への配慮に欠けるとして、批判を受けそうだ。
 知事は、所在不明高齢者が最近社会問題化したことなどを挙げ、「日本人のアイデンティティーは我欲になった。金銭欲、物欲、性欲」と指摘。「アメリカの国家的アイデンティティーは『自由』。フランスは『自由と博愛と平等』。日本は無い」と強調した。半面、「被災者の方々はかわいそうですよ」とも述べた。
 知事は同日、都庁での記者会見で発言の真意を問われ、「例えば、減税という耳障りのいい言葉で釣られて国民が歓迎するという心情が、今の政治を曲げている。(今回の震災が)大きな反省の一つのよすがになるのではないか」などと説明し、撤回しなかった。

 時事通信の記事は毎日新聞の記事と同様の骨格をしている。「天罰」発言について「批判を受けそうだ」と問題化を誘導し、さらに「撤回」の言及も添えている。
 問題の元になる蓮舫節電啓発担当相との会談とその際の記者会会見だが、そのオリジナルを私は見ていない。フジテレビなどの報道ソースによるものは、巧妙に編集されているようで返って文脈をわからなくするきらいがある。

 オリジナルはニコニコ生放送で放送されたらしく、これを聞きながらツイッターでツダっていたm_um_uさんのまとめが、Togetter - 「石原慎太郎東京都知事の「洪水は天罰」発言の私的要約」(参照)にある。また、同氏のブログmuse-A-muse 2nd(参照)でも扱われている。完全な書き起こしではないが、逆に文脈がわかりやすい。


 要約すると「民主党は災害が来てからアタフタと対処療法的な夜間コンビニ禁止案とかだしてるけどそれ出すにしても政令できちんとだせばいいし、それ以前にスーパー堤防を事業仕分けでなくしといてなに考えてんだ。。全体的に大局みえてないんじゃないか?」であり
 「そういう大局が見えてない政府や名古屋みたいなところの目先の人気取り減税におどらされてる国民も国民だ」みたいな話
 なので「天罰」は「民主党の底の浅さ」と「底の浅い民主党ほか人気取り政策を支持する国民」にかかる、ということになる
 もうちょっと表現の仕方がうまかったらなぁ。。というところ。被災にあったふつーのじいさんばあさん(弱者)にはむしろ同情的なんじゃないだろうか
 もそっとわかりやすく強調すれば「天罰」は「洪水」にかかり、その洪水はスーパー堤防の話に絡む。
 (擁護的に解釈すれば)「(地震・津波などの被害全般ではなく) スーパー堤防などの準備に対する大局的視点を廃するような思考へのしっぺ返しだ」ぐらいの意味っぽい。

 m_um_uさんの印象では、「地震・津波などの被害全般ではなくスーパー堤防などの準備に対する大局的視点を廃するような思考へのしっぺ返し」として、国民に「天罰」が下ったというふうに捉えているようだ。
 「天罰」発言が焦点化された同日夕刻の記者会見についてはユーチューブにオリジナルがある。

 確認の意図もあって書き起こしてみた。


記者A 最後に石原知事にお伺いいたします。えー、知事、あのー、今日のですね、 えー、蓮舫大臣との会談のー、後で、えー、日本人のま、我欲についてお話しされて、 えー、「津波をうまく利用して、我欲をうまく洗い流す必要がある。積年に溜まった日本人の心の垢を。これはやっぱり天罰だと思う」とおっしゃいましたけども、これはあの、意味がどうあれですね、被災された方にとってはですね、非常に不謹慎な発言だと思いますが。
石原知事 いや、だから
記者A 撤回されるお考えはありませんでしょうか?
石原知事 いえいえ。あのとき申し上げたように、被災された方には非常に耳障りな言葉に聞こえるかもしれませんが言ったんじゃないですか。口を言葉を添えてますよ。
記者A (沈黙)わかりました。以上です。
石原知事 正確にね、君、人の言うことを聞いて、正確に聞き取って正確に報道してもらいたいね。
司会 各社さまお願いします。 (沈黙)はい、どうぞ、後ろのかた。
記者B 石原知事、ちょっと確認なんですが、その、先ほどの天罰という発言は、ごしっ撤回されるんでしょうか。いや、なかったことにするんでしょうか?
石原都知事:いや、そうじゃないんですよ。あのね、私はね、日本人の我欲がですね、政治を左右している。例えばね、税。減税党なんてのはまかりって出てくる。減税って何をするんですか。それ言い出してる張本人のね、名古屋ってのは、1兆5千億円くらいの借財があるんですよ。それがですね、市民税、住民税、こんなの非常にちゃちな税金でね、ある意味でね。例えばその、どれだけの税金が還ってくるかってこと、その要するに、喜ぶ人たちが知らずにですね、歓迎する。減税って言うとね市民税に限らない。これどんどん演繹していくとですね、これ日本の今の財政状態で、どんな減税ができるんですか。財政もピンチでしょうけどねんじゅ、あなた初めて見る顔だけどね、日本がもしECに属している国だったら、これだけ国債の依存度が高くなってきたら、ECから追い出されますよ。入れませんよ。ユーロ使えなくなりますよ。そこまで来ているのにね、減税っていうね耳のさわりのいいそんな言葉でね、つられてね、国民がですね、歓迎する。私は、そのそういうその心情がね、今の政治を曲げていると思うんだ。これは何も民主党の責任だけじゃないわ。あのね、これはやっぱりね、こういうものを打破しないとね、私たちこの国、立ち上がってこないと思います。と言うことで申し上げたんです。
記者B 民主党に対するという意味なんでしょうか?
石原知事 ええ?
記者B 民主党に対する天罰という意味なんでしょうか?
石原知事 いや、日本に対するいやそれ天罰ですよ。これだけ
記者B (石原知事の言葉を遮りながら)洪水が天罰というのとイコールになってしまうと思うんですが。
石原知事 ええ?
記者B 洪水が天罰というふうにイコールになってしまうと思うんですが。
石原知事 いや、それは、やっぱりこれをどうやって受け止めるかっていうか、受け止め方の問題なんですよ。
記者B (石原知事の言葉を遮りながら)災害に関する受け止め方という感じでしょうか?
石原知事 ええ? 大きな反省のひとつよすがになるんじゃないですか。それしなかったらね、犠牲者たちだって浮かばれないと思いますよ。
記者B ありがとうございます。

 私の印象からすると、石原都知事は今回の天災を「天罰」と理解していることは、疑いづらい。であれば、当然、被災者を思えば、「不謹慎」な発言であるということにもなり、彼が後に謝罪に至ったのも当然であるだろうし、記者としてもそこを追究したのも当然と言えるだろう。
 書き起こしながら思ったのは、共同通信・産経新聞記事が注意を払っているように、何に対する「天罰」かという点である。文脈を理解すると、石原都知事は、これを被災者に限定していないことは明白だろう。
 さらに石原都知事の思想信条に近く読み取るなら、「天罰」の対象は日本国民であり、日本国民はこの天罰を全うすることで、災害の被災者の霊魂が救われるのだと考えていることがわかる。被災者に対して、ざまーみろといった意味合いはまったく読めない。むしろ、自身を天罰の対象に含めているとすら見てよいかもしれない。
 私は系統的に石原慎太郎氏の文学を読んでいるわけでもないが、氏が政治家になる前からの彼の思想的なエッセイを読むことがあり、端的に言えば、彼が熱心な法華経の信者であることを知っている。なので、この「天罰」論は、私には単純に、彼による日蓮の思想そのものに思えた。
 私にしてみると、石原都知事は現代の「立正安国論」を語っているのである。
 「立正安国論」は、法華経を信奉する日蓮が1260年(文応1年)に、駿河国実相寺に籠って執筆した国家論で、当時の鎌倉幕府執権北条時頼に治世の要道として送呈したものだった。日蓮は、この著作で、当時頻発した天変地異は邪法の興隆よるものとし、これに立ち向かうには法華正法を弘めるなければならないとした。
 「立正安国論」は当時の日本国内に広まり、浄土宗信者の怒りを買い、日蓮襲撃事件を招いた。送呈した北条時頼からも幕府批判と見なされ、日蓮は伊豆国に流罪となった。
 時頼が1263年(弘長3年)36歳で死に、5年後の1268年(文永5年)、モンゴルから服従するように国書が送られ、元寇が始まる。また、時頼の遺児北条時宗による幕府内の内紛があり、内憂外患となった。特に、元寇は日蓮にとって天災とも見なされ、自身の「立正安国論」への確信を深めた。
 法華経教派の信者である石原都知事にしてみれば、現下の日本は「立正安国論」の同様の状態、つまり邪教民主党興隆によって天罰を受ける状態に見えるのではないか。日蓮のように、日本を糺すきっかけとしての天罰に見えたのではないか。
 もちろん、それに私は同意するわけではないが、こういう思想も日本が生み出した思想のいち類型にあり、それを、被害者正義の文脈で不謹慎だとバッシングしても、実際のところはその思想信条への批判たり得ないのではないかと考える。

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2011.03.14

停電待ちの一日

 昨日夜の首相官邸の記者会見で菅首相が輪番停電をアナウンスした(参照)。一昨日から言われていたことなので意外感はなかったが、さて、自分はどう影響を受けるのかという情報が皆目わからない。
 グループに分けるらしい。紅組ではないだろう。白組も難しい。黒組か灰色だろう、俺は。ツイッターを見るとみなさん、どうなんの?ということで対応情報も飛び交っている。そのうち、あれよという間に町名までわかる情報が入手できた。親と近所の人には伝えた。
 ツイッターとかしてない人はどうするのだろうか。テレビとかだと町名まではわからないだろうし、市町村レベルの情報では重なりがあってなんだかわからない。明日の新聞に掲載されるのだろうか。しかし、新聞見たときすでに停電という人もいるだろう、と思いつつ、節電で部屋の明かりを落とすと防災無線が聞こえる。その手があったかと、戸外に出てエコーのかかるアナウンスを聞いていると、明日停電があります、ご理解くださいというだけだ。早春の夜は寒いな、へっへっくしょん。
 停電は沖縄暮らしで慣れている。台風が来ると1日は停電で閉じ込められる。本土では台風一過というが、沖縄の台風は一過しない。のろのろとやってきて居座る。一度だったか、本島をぐるっと一周してから本土に向かって行ったことがあった。島の風土を気に入っているのは米軍ばかりではない。
 台風が近づくと、うちなーんちゅうは騒ぎだす。どうなんだよと思うのだけ、台風見物のドライブに出かける一群がいる。かく言う私も台風の目に入ったとき、ドライブに行ったことがある。こうした行動は当然事故に結びつく。経験則は一定以上は効かない。
 台風が近づくと、沖縄でも飛び散るものは家に入れる。買い出しに出る。なんのためにかというと、台風が去ったあとのご馳走のためである。いや、冷蔵庫でくたくたになっている食べ物を処分するのだ。東京の輪番停電でも冷蔵庫は数時間停まることになるので、冷凍品は傷みかねない。それと電源のオンオフは冷蔵庫によくない。これから冷蔵庫トラブルも東京で多発するのではないか。
 沖縄の都市部、那覇や中部だと停電になっても復旧は早いが、そこを離れると復旧は遅くなる。1日はかかる。3日かかっても不思議ではない。夏場、エアコンは効かず、窓も開けることはできない。出生率が高くなるのも頷ける。
 沖縄では単一乾電池4つくらいで光るランタンみたいなものが各家庭にある。私も今回、沖縄から持ってきたのを取り出して、電池チェックした。さて、どんとこい東京大停電、なわけはないな。
 信号も停まるらしい。そうでなくても、信号無視の老人が増えているのでどうなるかと心配になるが、従来から信号無視しているなら、こういう場合にこそ適性と言えるかもしれない。アパートやマンションなどでは、エレベーターは停まるし、水道系も停まるだろう。断水が付随するというわけだ。トイレも使いづらい、と。
 それにしても輪番か。東京電力は、地域ごとに消費電力の統計情報をもっているはずなので、普通に考えれば、それを効率よく配分するほうが合理的ではないかと思うが、なぜか無理だったのだろう。そんな計画をする時間がなかったということかもしれない。ただ、これはあれかな、悪平等というやつかなという気もした。資源を効率よく配分するとなれば、効率性には価値観がどうしても反映する。配分が少なくなる人から弱者を虐めるとか批判が出てくる。それが嫌なら、幼稚園児の組み分けのようにすると文句が出ない。
 して朝が来る。世の中大混乱だろうと思うと、すでに大混乱。電車が間引かれて改札に入れないという状態。しかたないなと思いつつ、ああ、そうかと落胆のような感じもする。東電のお得意といえば鉄道会社なわけで、停電制度を実施するなら鉄道会社との連携が重要になる。つまり、そここから率先して電力削減を実施したのだろう。かくして、夕方まで予定されていた輪番停電は実施されない。
 東京ほどの大都市で名ばかりの「計画」停電を突然実施すれば何が起こるかわからない。バッファが必要になる。誰かが痛みを引き受けてバッファになるとすれば、鉄道会社だったか。なんか、国家の意志というものに直面したような圧倒感があった。

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2011.03.13

2011年3月11日の地震のこと

 地震被害に遭われたかたにお見舞い申し上げます。
 
 一昨日、石原都知事が知事選にまた出馬するという話を聞いてげんなりしながら、コンビニ販売の東国原英夫「日本改革宣言」(参照)を読んでいたら、ぐらっと来た。
 またかと思っていると、揺れは激しくなる。これはひどい。私が経験した地震の大きな揺れのなかでも二回目くらいだ。これは震度四を越えているな、しかし直下型ではないから神戸震災のようにはならないなと思いつつ、震度五を越えるかな、いよいよ我が人生の終わりの時かと、崩れる書棚を見ていると、ようやく揺れが終わった。二度目が来た。余震という大きさではないように感じられた。怖いものだ。
 テレビを付けると、震源は東北沖。あそこかと思う。岩手・宮城内陸地震と宮城県沖地震(参照)のことを思い出した。東南海地震(参照)も連想した。スマトラ島沖地震津波(参照)のようになるとも思った。
 その日は終日、ゆらゆらとした余震で船酔いのようでもあったし、パソコンに触れたくもない感じだった。翌日もそうだった。余震が多いのでNHKの音声を流し、ツイッターとかしていた。
 その間、福島原発の問題を知った。私としては、大きな地震が来ても原発は安全だというふうに考えていたので、何事かと興味を引かれた。当初の報道では特段に危機感はなかったようにも思えた。
 昼過ぎからだが、NHKの報道や解説はおかしいのではないかと疑念を持つようになった。個々に間違っているとかいうのではない。4気圧に想定されている原子炉内の圧力が8気圧まで上がっているのは設計時想定外の相当に危険な状態ではないか、核分裂停止後の崩壊熱として想定される温度の上昇はここまで高いものだろうか、セシウムが検出されたがどこから出て来たのか、など、個々の話を聞きながら自分なりに筋立てて考えると、1号機では核反応の制御ができてない・制御棒が機能していないという仮説が立ちうる。その仮説が整合的なのではないかと思えたのである。であれば、これはスリーマイル島のメルトダウンのような事態が想定されるのではないか。制御棒が機能しているなら冷却に専念するしかないが、制御棒に異常が想定されるのであれば再臨界を防ぐために制御棒の代替となるホウ酸を注入すべき事態なのではないか。
 とはいえ、ツイッターを見ていると、デマを飛ばすな、原発は安全な状態で問題はない、NHKの解説を信頼せよという意見が多く、疑念でも書こうものならバッシングのネタにされそうでもある。が、まあ、疑念は疑念である、言論が統制された戦中の日本ではあるまいし、ということで、ぽつぽつと書いてみる。案の定、核反応は止まっている・崩壊熱であるといったレスをいただく。再臨界という疑念でも出そうものならトンデモさんに思われるかとためらっているうちに、1号機の外壁が吹っ飛んでいた。後の報道から午後3時半のことだった。



 このNHKの報道が奇妙なものだった。すでに吹っ飛んでから1時間以上経って、爆破前の建物と比較してみましょうという話が唐突に切り出された。そのわりに専門家としては事態の解説はできない。建屋の外壁が吹き飛ぶ前に、炉のベント弁は圧力調整のために開放されていて、炉内の水蒸気とともに微量の放射性物質は屋内に貯まっているはずだ。無理もないのだが、建家が崩壊すれば内部の放射性物質は放出されることは確かなので、そのあたりがわかるNHK側の担当者の苛立ちが伝わってくる。
 そうこうしているうちに、海外報道で爆破の写真も見られるようになる。なんでNHKは爆発状態の写真を出さないのだろうか。このあたりで、NHKの報道への疑念が高まりだした。結論からいえば、NHKとしてもこれをどう出したものか思案していたのだろう。
 疑念が政府にも向くのは避けがたい。菅さんも枝野さんもよくやっているなと思うし、この国難に民主党政権でまとまるしかないというのは了解できる。が、それと情報開示とは別で、この爆発をどう説明するのかと待っていたが、かなり遅れた。爆発が3時半だが、政府発表は5時45分であった。2時間は遅れている。
 炉内からの水蒸気による爆発と見ることは避けがたい。が、水素爆発であるという話も流れていた。確かに、NHKが報道しない爆発の状態を見るとそれも頷ける。ではその水素はどこから。冷却用の水素ガス(参照)という話もあった。あるいは燃料棒に使用するジルコニウムからかもしれない。この件で、ようやく枝野さんの会見が出て来たのだが、水蒸気が水素になったという説明で要領を得ないものだった(参照)。


 爆発理由は炉心にある水が足りなくなって少なくなったことによって発生した水蒸気が格納容器の外側の建屋との間の空間に出て、その過程で水素になって酸素とあわさって爆発した。ちなみに、格納容器内には酸素はないので爆発することはない。実際、東電から格納容器が破損していないことが確認されたと報告を受けている。

 水蒸気は水から発生するのだから、水蒸気によって水が足りなくなるのだが、事態はそうではなく、水蒸気化が進み炉心を冷やす水が足りなくなり、炉心の過熱が進みさらに水蒸気化が進み高圧になっているということだろう。それが「外側の建屋との間の空間に出て、その過程で水素になって」というので、水素化したのは建家に出てからという話になっている。私には理解できなかった。
 結果論からすると、つまり今日の3号機の説明から類推してみると、1号機もジルコニウムによるものだったと見てよいだろう。炉内の現象である。つまり、燃料棒を覆うジルコニウムが反応していたということで、燃料棒は溶解していたことになる。推測なのだが、枝野さんの曖昧な説明も、またあの時点のNHKの説明もそうだが、スリーマイル島的な「炉心溶融」を避けたいということではなかったか。しかし、その後、NHKも炉心溶融を明確に打ち出してきた。
 1号機の爆発で驚いたもう一点は、随伴する高い放射線量である。爆発後のNHKで報道された。明確には言えないものの、爆発に伴う放射性物質の放出によるものだろうと推測される。ただし、高いといってもこの時点で報道された量はそれほどは多くはなく、水蒸気爆発は想定しづらい。
 この時点でNHKの報道担当者の苛立ちはさらに伝わってきた。本来ならこの時点で政府発表があると想定していたのだろう。なかった。NHKは偉いなと思ったのだが、NHKがおそらく独断で、政府発表以前に、この放射性物質を避けるよう、屋内にいるように実質的な指示を出した。原子炉建家が崩壊された現状、建家内の放射性物質が放出されたと考えるのは常識であり、それは危険を意味している。どの程度の量か厳密に見極めてからでは危機管理として遅すぎる。
 爆発を認めた5時45分枝野さんの説明では、放射性物質について、NHK報道とは異なる見解を出した。

 このたびの爆発は、格納容器内のものではなく、従って放射性物質が大量に漏れ出すものではない。
 東電と福島県による放射性物質のモニタリングの結果も確認したが、爆発前に比べ放射性物質の濃度は、上昇していない。報道された15時29分の1015マイクロシーベルトの数字だが、この時点の数字はその後、15時36分に爆発したが、15時40分の数字が860マイクロシーベルト、18時58分の数字が70.5マイクロシーベルトとなって、むしろ少なくっている。

 率直なところ、これはかなりまずい事態になったと思った。これでは政府が信頼されない事態になりかねない。案の定その後、被曝した人が確認され、政府側も事実上訂正するに等しいことになった。やや意外だったのは、こうした点について、政府への批判はあまり見られないことだった。私としても、特段にこれで政府批判をしたいわけでもないので、そういう空気なのだろう。
 1号機の過熱はその後も止まらないらしく、ついに原子炉格納容器にホウ酸入り海水を入れるという。ここでまた私の疑問が浮かんだ。原子炉圧力容器にホウ酸を入れるというならわからないでもないが、なぜ格納容器になのか。もちろん、海水が冷却を意図したものであるのはわかるが、なぜ燃料棒に接しないのにホウ酸(中性子を吸収することから制御棒的な機能をする)なのだろう。これはすでに格納容器に異変があることを暗示しているのではないか。とはいえ、このあたりはおいそれとは言えないかと逡巡する。
 報道でもツイッターでも識者のまことしやかな説明があり、御傾聴しましょう的に感心されている人も多いのだが、どうにも私の各種の疑念は晴れない。戦時下でこの戦争は負けるのではないかと思った人に同情する。疑念を持ちながらも、圧倒的な世間の空気にげんなりして何も言う気力も失われたのだろう。
 一晩して、1号機の原子炉格納容器にホウ酸入り海水は注入されてめでたしめでたしふうななか、3号機で同種の問題が発生。こちらは、原子炉圧力容器に真水を入れ、さらにその後、海水を入れた。枝野さんも今度は、炉内から水素が発生しているかもしれないと述べてもいた。3号機については炉内の圧力も調整でき、それに伴って段階的に水素の放出もなされているのでむしろ爆発はないだろうし、水も燃料を覆っているのでかなり安定している状態になっているようだ。(追記:その後不安定化し、1号機と同じくホウ酸入り海水を注入した。なお、3号機はMOX燃料だが、蒸気内に含まれる放射性物質という点では特段の差違はないと理解している。14日11時1分、3号機建家も水素爆発。エントリーでの楽観的な予測は外れた。)
 疑問は、1号機のほうだ。原子炉格納容器にホウ酸入り海水が入っているのはわかったが、原子炉圧力容器にまで入って、過熱が制御されているのだろうか。どうなのかと思っているうちに、そういうツイート発言を辞めたらという示唆をもらい、それもそうだなと疑問を放置。
 いろいろ考えてみたが、私の推測では、1号機の炉内では燃料の溶解で制御棒が損傷し、制御棒の機能がうまく働かず、それで燃料の制御もできていないというあたりではないかと思う。原子炉圧力容器にまでホウ酸入り海水が入っているなら、これも安心なのだが、率直なところ報道を見てもそこがわからない。いやな懸念がまったくないわけでもない。まあ、しかし、と。(追記:既に炉内にも注入されているという情報をいただく。ソースの確認はできないが追記しておく。他、事実的な事柄などについては本文に追記した。)
 水素が燃料棒のジルコニウムから発生したとなると、他の原発にも影響を与えるようにも思うが、3号機でなんとか爆発を抑制できれば、今回の日本の事態で、このリスク管理も世界で共有されたことにはなるだろう。つまり、原発の安全性に寄与できる。
 そういえば、水素爆破時の枝野さんの説明では、原子炉圧力容器に問題はなかったということが強調されていた。科学的に考えるなら、近くで爆発を起こしてストレステストをしたようなもので、逆に原子炉の安全性の確認ができたとも言えそうだ。
 が、それを今後のエネルギー政策や海外原発ビジネスに載せていくのは難しくなるだろう。そう考えて、こりゃ「絶望的」とついツイートしたら、誤解された。私としては原子炉の安全性は前提的なんだが、そう思わない人もいる。避難住民の苦労を思えば当然でもある。


追記(3月18日)
 読売新聞で興味深い報道があった。「原発事故直後、日本政府が米の支援申し入れ断る」(参照)より。


 東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡り、米政府が原子炉冷却に関する技術的な支援を申し入れたのに対し、日本政府が断っていたことを民主党幹部が17日明らかにした。
 この幹部によると、米政府の支援の打診は、11日に東日本巨大地震が発生し、福島第一原発の被害が判明した直後に行われた。米側の支援申し入れは、原子炉の廃炉を前提にしたものだったため、日本政府や東京電力は冷却機能の回復は可能で、「米側の提案は時期尚早」などとして、提案を受け入れなかったとみられる。
 政府・与党内では、この段階で菅首相が米側の提案採用に踏み切っていれば、原発で爆発が発生し、高濃度の放射性物質が周辺に漏れるといった、現在の深刻な事態を回避できたとの指摘も出ている。
 福島第一原発の事故については、クリントン米国務長官が11日(米国時間)にホワイトハウスで開かれた会合で「日本の技術水準は高いが、冷却材が不足している。在日米空軍を使って冷却材を空輸した」と発言し、その後、国務省が否定した経緯がある。
(2011年3月18日08時12分 読売新聞)

  政府側としてはこの話を否定した。「枝野氏、米政府の原発支援拒否報道「事実まったくない」否定」(参照)。

 枝野幸男官房長官は18日午前の記者会見で、米政府が福島第1原発の原子炉冷却に関する技術的支援を申し入れたものの日本政府が断ったとする読売新聞の報道について、「少なくとも政府、官邸としてそうした事実は全く認識していない」と否定した。

 読売新聞記事の真義はわからない。仮に正しいとしても、米国側が「原子炉の廃炉を前提に」何を提案したかもわからない。が、それがホウ酸注入であれば、米国側の専門家の想定と自分の当時の疑念はだいたい同じだったことになるのではないかと感慨深く思った。


追記(3月19日)
 関連の報道が読売から出ていた。後の検証の資料のために追記しておく。「政府筋「東電が米支援は不要と」…判断遅れ批判」(参照)。


 東京電力福島第一原子力発電所で起きた事故で、米政府が申し出た技術的な支援を日本政府が断った理由について、政府筋は18日、「当初は東電が『自分のところで出来る』と言っていた」と述べ、東電側が諸外国の協力は不要と判断していたことを明らかにした。
 政府関係者によると、米政府は11日の東日本巨大地震発生直後、米軍のヘリを提供することなどを申し入れたという。政府は、各国からの支援申し出は被災地での具体的な支援内容を調整したうえで受け入れており、「(断ったのではなく)いったん留め置いた」と釈明する声も出ている。
 枝野官房長官は18日午前の記者会見で「政府、首相官邸としてそうした事実は全く認識していない」と否定する一方、米政府からの原子炉冷却材提供の申し入れなどについて「詳細は把握していない。確認してみたい」と述べ、事実関係を調査する考えを示した。
 政府・与党内では、政府の初動対応について、「米側は早々に原子炉の廃炉はやむを得ないと判断し、日本に支援を申し入れたのだろう。最終的には廃炉覚悟で海水を注入したのに、菅首相が米国の支援を受け入れる決断をしなかったために対応が数日遅れた」(民主党幹部)と批判する声が出ている。
 高木文部科学相は18日午前の閣議後の記者会見で「事実関係は把握していない。しかし、姿勢としてはあらゆることを受け入れるのは当然だ。内外の声をしっかり聞くことは非常に重要だ」と語った。
 一方、自衛隊が17日午前に行った大型輸送ヘリによる海水投下の背景には、米側の強い要請があったことも新たに分かった。
 日米関係筋によると、自衛隊の大型輸送ヘリによる海水投下に先立ち、今回の事故を「最大級の危機」ととらえる米側は、「まず日本側がやるべきことをやるべきだ」などとして、再三にわたり日本側の行動を強く要請していた。17日午前に予定されていた菅首相とオバマ米大統領の電話会談でも、大統領からの要請があると予想されたため、首相は防衛省・自衛隊に会談前の海水投下実施を求めたという。
 日本政府への懸念や不満は、米国以外からも出ている。
 今回の事故に関する情報収集や日本政府との意思疎通のため、急きょ来日した国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は、「(日本政府は)情報伝達を質量ともに改善して欲しい。改善の余地はある」と述べており、18日午後に行われる松本外相との会談などでも、こうした問題が取り上げられる可能性がある。
(2011年3月18日15時11分 読売新聞)


追記(3月20日)
 18日23時付け読売新聞記事「政治主導空回り…「危機の連鎖」に対応し切れず」(参照)より。


 米国が申し出た支援を断ったことが、その後の事態の深刻化を招いたという見方も出ている。
 米国のクリントン国務長官は地震発生直後、ホワイトハウスでの会合で原発事故に触れ、「日本の技術水準は高いが冷却材が不足している」と懸念を示した。
 民主党幹部は「米側はその後、原発事故への支援を申し出たが、日本側は辞退した」と語る。首相周辺は「支援の話は首相や官房長官には届いていない」としているが、「東電が原子炉を廃炉にせず、自力で収拾できると考えていたことが政府の判断に影響を与えた」(政府筋)という声もある。核分裂の反応を抑える効果から原子炉の冷却に使われるホウ酸と海水を注入すれば、運転再開は難しくなる。これを東電が嫌がり、政府も追認したというわけだ。
 結局、12日になって福島第一原発1号機で水素爆発が発生し、東電は海水とホウ酸の注入に踏み切った。
(2011年3月18日23時27分 読売新聞)

 読売新聞の文脈では、米国が申し出た冷却剤はホウ酸であるようだ。

追記(2011.3.24)
 安定したかに見えた1号機だったが、エントリで懸念を想定したように、実はこの間、問題を抱えたままだったようだ。
 「福島第一原発1号機、核燃料溶融の可能性も」(参照)より。


 国の原子力政策の安全規制を担う、原子力安全委員会の班目春樹委員長は23日夜、東日本巨大地震で被災した東京電力福島第一原子力発電所の事故後初めて記者会見を開いた。
 原子炉の被害について尋ねられた同委員長は「(水素爆発した)1号機の核燃料はかなり溶融している可能性がある。2、3号機に比べて、最も危険な状態が続いている」と指摘。原子炉内の温度、圧力の異常上昇が続き、危険な状況にさしかかっているとして、「(炉心が入っている)圧力容器の蒸気を放出する弁開放を行い、炉の破壊を防ぐ検討をしている」ことを明らかにした。
 同原発1~3号機の原子炉の燃料棒は露出し、海水の注水作業が続けられている。23日、1号機の炉内の温度は一時、400度と設計温度(302度)を上回ったが、注水によって温度が下がっている。しかし、圧力の上昇が続き不安定な状態になっているため、班目委員長は「24日にも、圧力容器内の蒸気を放出するかの判断をする」と述べた。
(2011年3月24日01時21分 読売新聞)

追記(2011.3.24)
 興味深い事実が公開された。エントリで触れた時期を挟んで、12日から14日かけて中性子線が放出されていたらしい。量としては微量なのでエントリで想定したスパイクの証拠になるとまでは言えないが、リアルタイムで公開されていたら議論の空気は変わっていたのではないだろうか。
 「中性子線検出、12~14日に13回」(参照)より。


 東京電力は23日、東電福島第一原発の原子炉建屋の約1・5キロ・メートル西にある正門付近で、これまでに2回だけ計測されたとしていた中性子線が、12~14日に計13回検出されていた、と発表した。
 観測データの計算ミスで見落としていたという。
 中性子は検出限界に近い微弱な量だった。東電は、「中性子は、(核燃料の)ウランなど重金属から発生した可能性がある。現在は測定限界以下で、ただちにリスクはない。監視を強化したい」としている。
(2011年3月23日13時10分 読売新聞)

追記(2011.3.30)
 IAEAが再臨界の可能性に言及していた。「IAEA原子力安全局:福島第一原発、局所的に再臨界の可能性も」(参照)より。


 3月30日(ブルームバーグ):国際原子力機関(IAEA)は30日のウィーンでの記者会見で、東京電力福島第1原子力発電について、「再臨界」の可能性もあるとみて、分析作業を進めていることを明らかにした。
 IAEA原子力安全局担当のデニス・フローリー事務次長は30日、「最終判断ではない」と発言。「局所的に起こる可能性があり、放出が増える可能性もある」と述べた。

 オリジナルのブルームバーグ記事が見当たらないが、Time「Has Fukushima's Reactor No. 1 Gone Critical?」(参照)に以下がある。

Update 2: The IAEA has said that the Fukushima nuclear power plant may have achieved re-criticality. “There is no final assessment,” IAEA nuclear safety director Denis Flory said at a press conference on Wednesday, according to Bloomberg News. “This may happen locally and possibly increase the releases.”

 ネットには以下のテキストがあるが真正であるかは判断しづらい。

Fukushima Atomic Fuel May Have Reached New Critcality, IAEA Says

By Jonathan Tirone
March 30 (Bloomberg) -- Fuel in reactors at the stricken Fukushima Dai-Ichi nuclear power plant may have achieved “re-criticality,” the International Atomic Energy Agency said today at a press conference in Vienna. “There is no final assessment,” IAEA nuclear safety director Denis Flory said today. “This may happen locally and possibly increase the releases.” In a paper published yesterday, James Martin Center high-energy physicist Ferenc Dalnoki-Veress said that Chlorine traces and neutron beams reported in water samples taken from unit-1 pointed toward “localized criticality.”

To contact the editor responsible for this story:
Jonathan Tirone at +43-1-513-266-025 or
jtirone@bloomberg.net


 元になっていると思われるDalnoki-Veres氏の1号炉についての考察は「WHAT WAS THE CAUSE OF THE HIGH Cl-38 RADIOACTIVITY IN THE FUKUSHIMA DAIICHI REACTOR」(参照)にあり、結論としては、局所的な再臨界がないとも言い切れないないとしている。

This analysis is not a definitive proof but it does mean that we cannot rule localized criticality out and the workers should take the necessary precautions.

追記(2011.4.9)
 4月8日付け「福島原発1号機、3月12日朝に燃料棒一部露出 東電が公表」(参照)で、3月12日の朝には燃料棒が露出していたことが明らかになった。


 公表データによると、1号機の原子炉内の水位がマイナスに転じたのは3月12日8時49分。マイナス300ミリメートルだった。マイナスに転じることは燃料棒が一部露出したことを意味するという。その後、水位の低下は進み、3月13日7時30分にはマイナス1700ミリだった。

 燃料棒がこの時点で損傷しているなら、制御棒挿入機能が作動していても制御棒が中性子を制御する機能が保たれていたとは限らず、当初想定していた事態はより裏付けられてきた。

追記(2011.4.20)
 4月20日に公開された「タービン建屋地下階の溜まり水の核種分析結果の再調査」(参照PDF)で、cl-38は「検出限界未満」となった。これでこの時点、つまり、3月25日時点のスパイクの可能性は大きく否定されたと見てよいことになった。

追記(2011.11.02)
 2号機で燃料のウランが核分裂した際にできる放射性物質のキセノンが検出された。結論からすると、この事態は自然分裂であった。しかし、制御棒が効かない可能性は検討事項に上がった。
 NHK「かぶん」ブログ「原発2号機で何が起きたのか」(参照)より。太字はオリジナルのママ。


2号機では事故で核燃料がメルトダウンし、原子炉の底や格納容器まで散乱している状態だとみられています。このため、東京電力は制御棒が効かないことに加え被覆管が溶けてなくなったことで燃料がむき出しの状態となり核分裂が起こり、一時的に一部の場所では臨界が継続した可能性もあるとみています。

 2号機についてではあるが、1号機についても同様の推定はなりたちうる。

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2011.03.10

メア氏講義メモ私訳

 ケビン・メア米国務省日本部長(当時)が昨年12月3日に国務省で実施した講義の受講メモとして公開されている英文(参照参照)の私訳。

  ※  ※  ※

United States Department of States Briefing
December 3rd, 4pm, at the Department of State

米国国務省ブリーフィング
12月3日、午後4時、国務省にて

Participants
-Department of State:
Mr. Kevin K. Maher, Director of the Office of Japan Affairs
-American University:
14 Members of Alternative Break Trip to Okinawa, Japan, Winter Break
2010, "U.S. Military Bases and Their Impacts in Okinawa, Japan"

参加者
- 国務省:
ケビン K.メア氏(米国務省日本部長)
- 米国大学
沖縄への冬期交代休暇の14人
2010年、「米軍基地とその日本・沖縄への影響」

Presentation
※All opinions and claims are from Mr. Maher

プレゼンテーション
意見と主張はメア氏による。

-I was the Consul General in Okinawa until 2009. It is said that a half of U.S. bases in Japan is located in Okinawa, but the statistic only includes bases used exclusively by the US Military. If all bases, US bases and bases jointly used by the US and JSDF, are considered, the percent of bases in Okinawa is much lower.

- 私は2009年まで沖縄の総領事でした。在日米軍基地の半分が沖縄に置かれていると言われますが、その統計に含まれているのは米軍単独使用の基地です。米軍基地と米軍と日本の自衛隊が共用する基地をすべて含めるなら、在沖米軍基地の占有率はもう少し下がるでしょう。

-The controversial bases in Okinawa were originally in the middle of rice fields, but are now in the middle of towns because Okinawans allowed urbanization and population growth to surround United States facilities.

- 議論の的となる在沖基地は元来水田中央にあったものですが、現在は市街中央にあります。理由は、米国施設を取り囲むような都市化と人口増加が沖縄住民に認可されたためです。

-The US bases in Okinawa exist for regional security. The Japanese obligation under the US-Japan security treaty is to provide land for bases. The relationship between Japan and the US under the security treaty is asymmetric and benefits the Japanese to the detriment of the US. Japan is not obligated to defend the United States if US forces are attacked, but the United States must defend and protect Japan’s people and property.

- 在沖米軍基地は地域的な安全保証のために存在しています。日米安全保障条約による日本側の義務は、基地用の土地を提供することです。安全保障条約下の日米関係は釣り合いがとれてなく、米国の損失分だけ日本に利益があります。米軍が攻撃された場合日本には米国を防衛する義務はありませんが、米国は日本国民とその財産を防衛し保護しなければなりません。

-Collective security is not a constitutional issue, but a policy issue.

- 集団安全保障は憲法問題ではなく、政策問題です。

-Eighteen thousand (18,000) US Marines and an air wing are stationed in Okinawa. The United States needs bases in Okinawa for two reasons: bases are already there and Okinawa is an important geographical location.

- 1万8000人の米国海兵隊と空軍部隊が沖縄に配置されています。米国が沖縄に軍を必要とする理由は2つあります。基地がすでにそこにあることと、沖縄が地理的に重要な位置にあることです。

- (While showing a map of East Asia) US Forces Japan is headquartered in Tokyo and is the location of a logistics hub that would coordinate supplies and troops in the event of a crisis. Misawa, an important base in the Cold War, is the closest U.S. base to Russia and the base at Iwakuni is only 30 min from Korea, yet Okinawa’s geographic location is important to regional security.

- (東アジアの地図を示しつつ)在日米軍は、司令部を東京に置き、危機の事態に補給と部隊を統括する後方支援の拠点としての位置にもあります。冷戦時代に重要な基地であった三沢基地はロシアに近接し、岩国基地は韓国からわずか30分にありますが、沖縄の地理的な位置づけは地域安全保障に重要です。

-Okinawa was an independent Kingdom paying tribute to China, although it has never been a part of China. The U.S. occupied Okinawa until 1972.

- 沖縄は中国の一部となったことはありませんが、中国に朝貢する独立王国でした。米国は1972年まで沖縄を占領していました。

-The Okinawan people’s anger and frustration is directed at Japan rather than the United States. The DPJ government does not understand Okinawa. The Japanese government does not have a “pipe” of communication to Okinawa. When I offer to contact people in Okinawa DPJ officials say “Yes! Yes, please!” The LDP communicated with Okinawa and understood Okinawan concerns better than the current DPJ government.

- 沖縄の人々の怒りと苛立ちは米国よりも日本に向けられています。民主党政府は沖縄を理解していません。日本のこの政府は沖縄と対話するための通路(パイプ)を持っていません。私が沖縄の人と接触しましょうかと申し出たら、民主党の高官は「是非是非、お願いします」と言うのです。自民党は、現行の民主党政府よりも沖縄と対話してきましたし、沖縄の関心事を理解していました。

-One third of people believe the world would be more peaceful without a military. It is impossible to talk with such people.

-軍隊がなければ世界はより平和になると三分の一人々が信じているのです。そんな人々と対話することは不可能です。

-The 2009 election brought the DPJ to power, which was the first change in the government of Japan. Hatoyama was a leftist politician. Despite the DPJ and PM Hatoyama, the US and Japan managed to issue the 2+2 statement in May. (Mr. Maher left the room and two his colleagues gave a lecture about the US-Japan economic relationship. Mr. Maher returned to resume his lecture and the two officials left the room.)

-2009年の選挙で民主党が政権を獲得し、これは日本政府に初の変化となりました。鳩山は左派の政治家です。この民主党と鳩山首相であるにも関わらず、日米は5月にツープラスツー声明発表になんとかこぎつけました。(メア氏は退室し彼の2人の同僚が日米経済関係の講義をした。メア氏が戻り彼の講義を再開し、2人の職員が退室した。)

-The US will relocate 8000 Marines from Futenma to Guam in order to reduce the US Military footprint on Okinawa. The plan will allow the US to maintain a military presence in the region to provide regional security and deterrence capability.Under the Roadmap, Japan will provide money for the relocation and it is a sign of a tangible effort from Japan. The DPJ government has delayed implementation, but I am confident that government will implement the existing plan. Tokyo needs to tell the Okinawan Governor, “if you want money, sign it [agree to the relocation plan].”

- 米国は、沖縄での米軍専有削減のために8000人の海兵隊を普天間からグアムに移転するでしょう。この計画によって、米国はこの地域の駐留を維持し、地域安全保障と抑止力を提供することが可能になります。民主党政府はこの実施を遅らせていますが、政府が既存案を実行するだろうと私は確信しています。日本の政府は沖縄県知事に、「おカネが欲しければ、[移転計画に]同意なさい」と告げる必要があります。

-There is nowhere else to base US Marines. The DPJ suggested a replacement facility in mainland Japan, but there is no place in mainland Japan for the US Military.

-米海兵隊の場所は他にはありません。民主党は日本本土への移転をほのめかしていますが、米軍用の土地は日本本土にはありません。

-Japanese culture is a culture of "Wa" (harmony) that is based on consensus. Consensus building is important in Japanese culture. While the Japanese would call this “consensus,” they mean “extortion” and use this culture of consensus as a means of “extortion.” By pretending to seek consensus, people try to get as much money as possible. Okinawans are masters of “manipulation” and “extortion” of Tokyo.

- 日本の文化は、合意に基づく「和」(調和)の文化です。合意形成が日本文化に重要なのです。日本人が「合意」というとき、その意味は「高値のふっかけ」で、「高値のふっかけ」として合意文化を使用するのです。合意を求める振りをして、日本国民はできるかぎりのカネを得ようとします。沖縄の人たちは、日本政府への「手練手管」と「高値のふっかけ」では名人級です。

-Okinawa's main industry is tourism. While there is an agricultural industry, the main industry is tourism. Although Okinawans grow goya, other prefectures grow morethan Okinawa. Okinawans are too lazy to grow goya.

- 沖縄の主要な産業は観光旅行です。農業もありますが、基幹産業は観光旅行です。沖縄の人たちはゴーヤーを栽培しますが、他県の人のほうが沖縄の人より多く栽培します。沖縄の人たちは気を抜きすぎてゴーヤー栽培ができません。

-Okinawa has the highest divorce rate, birthrate (especially out of wedlock) and drunk-driving rate due to Okinawa’s culture of drinking liquor with high alcohol content.

- 沖縄は、離婚率、出生率(特に婚外子)、それと沖縄が度数の高い酒を飲む文化による飲酒運転率の点で最上位です。

-You should be careful about “tatemae and honne” while in Japan. Tatemae and honne is the “idea that words and actual intentions are different." While in Okinawa, I said MCAS Futenma “is not especially dangerous." My statements caused Okinawans to protest in front of my office. Although Okianwans claim MCAS Futenma is the most dangerous base in the world, they know it is not true. Fukuoka Airport and Osaka Itami Airport are just as dangerous.

-みなさんは在日中は建前と本音に用心すべきでしょう。建前と本音というのは、「発言と行動の意図が違っているという意味」です。沖縄にいた頃ですが、普天間飛行場は特段に危険ではないと発言しました。この発言が、私のいる総領事館前で沖縄の人たちの抗議になりました。沖縄の人たちが普天間飛行場は世界一危険な基地だと言っても、彼らはそれが正しくないことを知っています。危険といっても、福岡空港や大阪伊丹空港と同程度です。

-Japanese politicians do Tatemae and Honne all the time. Okinawan politicians will agree to a negotiation in Tokyo but return to Okinawa and claim they did not. The US Ambassador and other representatives to Japan are constantly criticized for speaking the truth because the Japanese culture is too focused on tatemae and honne.

- 日本の政治家は年がら年中、建て前と本音をやっています。沖縄の政治家たちは日本政府との交渉で同意しても、沖縄に戻ると同意しなかったと主張するのです。米国大使やその他の対日代表団は、本当の話をしようものなら、毎回批判されます。理由は、建前と本音に関心を持ちすぎるのが日本の文化だからです。

-The US Military and JSDF have different mentalities. The US Military trains to prepare for possible deployment, but the JSDF train without actually preparing for deployment.

- 米軍と自衛隊は違った考え方をしています。米軍は軍展開の可能性の準備訓練していますが、自衛隊は軍展開の現実的な準備としての訓練はしていません。

-Local people oppose to night training by the US Military but it is necessary because modern warfare is often fought at night. Night training is essential to maintain deterrence capability.

-地元の人々は、米軍の夜間訓練に反対するが、現代戦ではしばしば夜間戦闘になるので必要なのです。夜間訓練は抑止力に必須です。

-I don’t think Article Nine of the Japanese Constitution should change. I doubt it will ever be changed. It would be bad for the United States if the Japanese Constitution was changed because Japan would not need the United States’ Military. If the Japanese Constitution was changed the United States would not be able to use Japanese land to advance US interests. The high host nation support the Japanese government currently pays is beneficial to the US. We’ve got a very good deal in Japan.

- 私は、日本国憲法第9条を改正すべきだとは思いません。改正されるとも思えません。日本に米軍は不要だという理由で憲法改正されるなら、米国にとってもよいことではありません。日本国憲法が改正されれば、米国は自国国益推進のために日本の土地を借りることができなくなります。現在日本政府が支払っている高額の受け入れ国側援助は米国に有益です。私たちは日本ととてもよい取引をしてます。

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2011.03.08

フィナンシャルタイムズの日本政局評価もトホホ

 前原外務大臣辞任を世界がどう見ているか。それほど気にしてないかもしれない。が、フィナンシャルタイムズは社説を出していた。見方によってではあるが、すごい冒頭だった。「Japan resigned to political drift(流浪するしかない日本)」(参照


Woops. There goes another Japanese minister. In less than 18 months, the Democratic Party of Japan is already on its second prime minister and third finance minister. Now, with the resignation of Seiji Maehara over a minor funding scandal, it is looking for its third foreign minister. It is a sorry testament to the thin layer of talent within the DPJ that pundits are struggling to come up with a credible name.

うへぇ。また日本の大臣が辞めちまったぜ。18か月にもならないのに日本の民主党は、二人目の総理大臣に三人目の財務大臣。現状、たいしたことない資金スキャンダルで前原誠司が辞任しちゃったから三人目の外務大臣を募っている状態だ。日本民主党の人材が薄っぺらなのは、政治通ですらまともな人選に苦闘する残念の証である。


 うへぇ。民主党の上に輝く金文字、「残念の証」。
 しかし、フィナンシャルタイムズはどちらかというと日本を称賛している。ここまで残念な政治でありながら国民生活が維持されている秘密を見抜いている。これだよ。

This, remember, from the party that promised to put politicians in charge and cut bureaucrats down to size. The sad fact is that rudderless politicians are more than ever relying on a professional – albeit overly conservative – bureaucracy. If Japan were not blessed with a cadre of well-trained mandarins it really would be in trouble. Its policies, both internal and external, could lurch dangerously from pillar to post.

思い出してごらんなさいな、これがさ、政治主導と官僚制縮小を公約した政党だったことを。悲しい事実を述べれば、舵取り不能な政治家たちは、保守的すぎるにせよ、プロの官僚にいっそう依存することになっているのだ。不運にも日本に熟練した官吏の中核がなければ、日本は本当に困難に陥っていだろう。内政であれば外交であれ、危険なたらい回しになりえた。

Thankfully, even though politicians come and go with metronomic regularity, the thrust of policy stays more or less consistent.

ありがたいことに、政治家がメトロノームの振り子のようにきちんと行ったり来たりしても、政治の推進力はなんとか一貫性をもっている。


 どうでもいいけど、フィナンシャルタイムズの社説は、いやはやの名文。英語で読んだときはなんとなく意味を取っていたのだけど、試訳するとなると、意味だけじゃない、詩的な隠喩がうまく訳せないものだね。
 ご指摘を受けるまでもなく、日本の官僚制度がエジプトの軍部なみに巧妙なクーデーターを実施したとしても、むしろそのおかげで日本が維持されているのは、悲しい事実としかいいようがない。
 もっともそれで万事うまく言っているわけではなく、フィナンシャルタイムズの社説はこの先の文脈で、日本を挟んで米国と中国の関係を不安定にしてしまったと嘆いて見せる。そのあたりは、中国贔屓とも見えるフィナンシャルタイムズなんで、適当に聞き流していいのだが、それでも日本の外交が面目丸つぶれという事実はいかんともしがたい。
 前原ボクちゃんよくやってくれたもんだよと、私などは呆れるのだが、フィナンシャルタイムズの社説は奇妙な締めになっている。むしろ、前原さんに期待しているふうなのだ。ほぉ。

Mr Maehara could probably have toughed it out. His offence was to have received a political donation worth $3,000 from a long-time resident of Japan of Korean origin, illegal under Japan’s insular laws. His pre-emptive resignation means there is a slim chance he could yet return as prime minister.

前原氏はなんとか切り抜けたのかもしれない。彼の違反はといえば、韓国系の日本長期滞在者からの3000ドルの政治献金である。日本の島国法では違法なのである。彼の辞任には先見の明があって、僅かであるにせよ首相に返り咲くチャンスとなるかもしれない。


 そんなものかねと思うがオチはきつい。

The question is: by then, will anyone care?

問題はといえば、その時に、誰が気にかけるだろうか?


 前原首相なんてものが出現しても、日本国民も世界も、誰も一顧だにしないだろうということ。
 まあ、それは、そうだろう。

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2011.03.07

前原外務大臣辞任、呆れた

 昨日、NHK BSで大河ドラマ「お笑い柴田勝家」を見た後、7時のニュースでも見るかと地上波に変えると、前原外務大臣辞任の速報が入っていた。まさかと思った。これで鳩山外務大臣かというギャグが思いついた。
 呆れたという他はない。焼き肉屋のおばちゃんが、近所に引っ越してきた中学生の前原ボクちゃんを息子のようにかわいがっていて、大人になったら政治家になったのだからがんばれやということで支援の献金もしてたら数年にわたって20万円ほどになった。おばちゃんは在日生活の長い韓国人。で? 何が問題?
 政治資金規正法違反? 曰く、第22条5項では外国人からの政治献金を禁じている、と。しかし、これは故意の受領に限定されているわけで、今回は故意ではないだろう。似たように在日韓国人・朝鮮人およびその私企業からの献金を受けていた政治家は過去にもいるし、それで済んでいる。
 前原さん自身も、福田康夫元首相も過去に北朝鮮系の企業から献金を受けていたから問題ないんじゃないと、偽メール事件の時のようにバックレていたのでこれで終わりかと思っていたら、撃沈。わけわからない。焼き肉屋のおばちゃんの背後になんか他国が支援する悪の組織でもあったのか。あるわけないじゃん。
 経過も不可解極まっていた。そもそもこのネタどっから降ってきたのだろう? しかし、それを探る気にもならないのは、これそもそもネタですらないだろう。前原さんの秘密を探り当てたというわけでもない。今回の件で、ツイッターとか見ていたら、焼き肉屋のおばちゃんの店が「じゅん」と言うらしいので、べたに「焼肉 じゅん 京都」だけでぐぐってみたら、店前に前原さんのポスターが貼ってある。これが該当店なら、焼き肉屋のおばちゃんが前原さんを支援していたのは近所の誰もが知っていたことだし、彼女が通名であっても在日韓国人であることもとりわけ秘密ということでもないのではないか。

 朝日新聞記事(参照)によれば、おばちゃん「ごめん、ごめん。迷惑かけてごめんなさい」と何度も謝っていたとのことだが、違法にあたるとの認識はなかったわけで何も悪くはないし、悪いというなら前原さんの政治資金管理がマヌケ過ぎて、大丈夫なのかこの政治家というくらいなもの。
 もっともおばちゃんは、「まだ若いんやから、また戻ってきたらええ。すぱっと辞めるのは男らしい。みんなに頭を下げて回ったらええ」と言っていることだから、前原ボクちゃんもがんばるように、ではあるが、さて、すっぱり辞めて男らしいといえるのか。大国の外交を放り投げるなよ。
 なんの馬鹿騒ぎなのか皆目わからん。こんなこと騒ぎたてる自民党も、これじゃ民主党後の政権の受け皿にならないよ、とほほでしかない。
 なぜ前原さんは辞任したのだろうか? その決断自体が単純に謎だ。
 いろいろ想像はできる。小沢さんの手前、政治資金管理の記載ミスでしたから許してねとは言い難いというのもあったかもしれない。菅政権はすでに終わっているから、泥舟から逃げるかなというのもあったかもしれない。中国様もかねて前原外務大臣を変えろというご意向だったのでそれに沿ったスジだったかもしれない。通名による献金を問題化することで、多数の議員への自爆テロ効果か。ああ、なんか理由を考えるだけくだらない。
 私にははっきりしていることがある。普天間問題から逃げたなということである。
 ウォールストリートジャーナル「前原外相辞任、菅政権に打撃-外交関係円滑化努力に支障も」(参照)にも指摘があるが、米国側としては、リビア並みに手詰まりになった。


 前原氏の辞任は日米関係へも打撃だ。2009年に民主党が政権を取って以来、沖縄米軍基地の移転問題で緊張が高まっている。前原氏は親米で知られ、当初は沖縄担当相として、その後は外相として交渉を主導していた。

 私は菅政権はもう終わっていると思う。しかし、だからといってまた政局をいじっても何も変わらないとも思う。だったら外国の手前、できるだけ菅さんふんばれと思っていた、ら、肝心の対外向けの顔である外務大臣が沈没してしまった。

追記
 3日付け産経新聞「「クリーンさ」一変 脱税関係企業から資金、国会会期中に北朝鮮へ」(参照)より。


女性は、前原氏が中学時代からの知り合いで、「違法とは知らなかった」としている。前原氏も「献金を受けていたことは知らなかった」と故意性を否定している。

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2011.03.06

「さよならをするために」の詩学

 年が明けたあたりだろうか、ふと、「さよならをするために」という曲が聴きたくなってカバーを物色した。この曲が脳のなかで鳴り出して止まらない。奇妙な感じがしていた。鳴っているのはオリジナルのビリー・バンバンのそれ(参照)ではあるのだが、そのあたりですでに奇妙な感じする。今思うと、紅白で坂本冬美カバーの「また君に恋してる」(参照)を聞いた連想だったかもしれない。

cover
また君に恋してる
ビリー・バンバン
 あれはビリー・バンバンのオリジナルだったかな。赤い鳥ではなかったっけと、この曲が主題歌だった日テレのドラマの記憶を探ったがぼんやりしている。当時の石坂浩二と浅丘ルリ子を思い出し(横尾忠則の絵も思い出し)、寺尾聰と范文雀を思い出す。
 「さよならをするために」は石坂浩二の作詞で彼自身の色男半生の思いもあるんだろうかとも思う。今じゃ石坂浩二も千利休だし、寺尾聰はすっかり宇野重吉になってきた。老いることのない范文雀を思うとなんともいえぬ悲しみがこみ上げてくる。
 調べてみてわかったのだが、「さよならをするために」は「3丁目4番地」の主題歌で私の記憶では前作の「2丁目3番地」と区別が付いていなかった。「2丁目3番地」は1971年の1月2日から3月27日、主題歌は「目覚めた時には晴れていた」で赤い鳥だったのはこっち。「3丁目4番地」は翌年の1972年1月8日から4月8日。1年ブランクがあったのか。
cover
ザ・ピーナッツ・カヴァー・ヒッツ
 「さよならをするために」が好きな曲かというと微妙。しかしその後の人生ずっと折に触れて思い出し、ひそかに歌っていたので好きな曲としか言えないのだろう。脳内ジュークボックスを聞いていてビリー・バンバンの歌唱もいいのだが、なにか違うなとも思っていた。なにが違うんだろうというあたりで、歌詞にずぼずぼと沈んでいくのだが、あの歌唱だとどうしても歌詞の深みが考えられない。ノー天気過ぎるとは言わないけど、この歌詞はなんかどろっと暗い歌なんだが。
cover
オー・シャンゼリゼ
 「さよならをするために」のカバーを探すと、私の好きなザ・ピーナッツにカバー(参照)があった。知らなかった。もちろん、聞いた。これが強烈な代物。脳内が昭和でくらくらしてくる。声は最高。魅力的でもある。だが率直に言って、なんかの間違いだろこれ、という感じもしないではない。なんだこれはというところで、ヘドバとダビデってその後どうしたのだろうと思うことは避けがたい。調べるとダビデさんは麻薬中毒になりもう死んでいた。南無。さらに連想でダニエル・ビダルを思い出した。彼女は日本語上手だったな。柴田功と別れたあとフランスで歌手しているらしい。ツアー募ったら、けっこういけるんじゃね。
cover
Boys be・・
沢田知可子
 カバーを探していて、ああ、これはいいなと、その後ずっと聞いているのは沢田知可子のカバー(参照)。歌唱はいいのだけど発音がなんとなく外人さんですかふうなのがちょっと鼻につく感じがしないでもない。でも、軽さと軽さのなかにある暗さみたいののバランスはいい。かくして歌詞に沈む。

過ぎた日の微笑みをみんな君にあげる
夕べ枯れてた花が今は咲いているよ
過ぎた日の悲しみもみんな君にあげる
あの日知らない人が今はそばに眠る

暖かな昼下がり通り過ぎる雨に
濡れることを夢にみるよ
風に吹かれて
胸に残る想い出と
さよならをするために


 意味わかるだろうか? 私にはわからない。
 どうわからないかを書いてみたいのだが、これがカフカ的シュールな話になる。
 まず、デカルト風に「私」が存在する。「私」は「君(きみ)」につぶやいている。過去の微笑を君にあげる、というのはわからないではないが、なぜ悲しみをあげるというのだろう。いや、そこはわかるからこの歌が心に残る。
 その前に、登場人物の整理である。私、君、そして、今そばに眠る人。
 「私」は男だろうと思う。この時代、男は女を「君」と呼んでいる(恥ずかしい話だが……いや恥ずかしすぎるのでやめとこ)。そして「君」は女であろう。問題は、男のそばで眠るのは、女だろう。ゲイの歌ではないだろう、たぶん、きっと。まあ、ゲイでもいいのだけど。
 問題は、今そばで眠るこの女が「君」なのだろうか?
 違うだろう。「あの日知らない人」の「あの日」は、「私」と「君」の共有された過去の時間だろう。
 男は、明け方、昨晩セックスした女の寝顔を見ながら、過去の恋人のことを「君」として思っているのである。だから、過去の恋人である「君」ともう心も別れなくていけないから、さよならをするために、微笑みも悲しみも「君」にあげるというのだ。
 で、この悲しみこそが、恋の価値であった。痛みこそ愛だった。それを与えるための自罰的な幻想が、雨に濡れる心象なのだろうが、それで踏ん切りがつくわけもなく、男は過去の女のことを思っている。
 で、と。
 そう解釈すると、二番がうまく続かない。

昇る朝日のように今は君と歩く
白い扉を閉めてやさしい夜を招き

 「君」と今歩いて明るい人生を歩んでいるなら、「君」が過去の恋人のわけねーだろ、こらぁ、である。
 ただ、ここで「やさしい夜を招き」というのは、一番のほうの、 "Post coitum omne animal triste est."に繋がるので、この「君」は今眠る、今の女なのかもしれない。ただ、そうすると、「君」という標識をここで切り替えるだけの、大きな詩的力学を必要とする。
 それが、ないわけではないのは、二番は途中こう、支離滅裂になるからだ。

今のあなたにきっとわかるはずはないの
風に残した過去の冷めた愛の言葉

 ここでとつぜん「あなた」が出てくる。これは先の「君」の時代背景と同様に、女が男を指していると解釈するのが自然なので、この独白は、女のそれになっている。
 この女は誰か?
 一番で、寝ていた今の女か。そうかもしれない。
 ただ、詩の力学的な構成からすると、かなりここでたわんでいるとしても、悲しみをあげるとした「君」の女ではないかと思う。対称的な構成が想定されるからだ。
 二番にも、一番と同じ、「濡れることを夢にみるよ」のリフレインが付く。まあ、形の上で付いているというのもあるが、詩の構成からすると、一番の男の悔恨に対して、二番は女の悔恨という対比を解釈するのが自然だろう。しかし、決定的な解釈に至らない。どう見ても、二番には支離滅裂な要素もある。
 それでも二番のテーマは、別れた女の側の思いが主軸になっているのは確実で、女が過去に残した愛の言葉を、今、別の恋人といる男に、わかるはずはないとつぶやいている。
 「冷めた愛の言葉」を、別れた男に向けて、わかれよ、ごらぁと、女は遠く思っている。
 ここで解釈が難儀なのは、過去に語った愛の言葉が、その時、すでに冷めていたのか。「あのときすでに愛してはいなかったのよ、馬鹿ね」と。まあ、しかしであれば今の未練はないだろうから、あの時の愛の言葉は真実で、ただ時がそれを冷ましただけと解していいだろう。
 であれば、女は「私こそあなたを愛していたのに、それを今のあなたはわからない」ということで、いずれわかるかもしれないという含みがあり、これは、女の呪いというものだろう。「いずれ、今の女と破局したとき、私の愛がわかるわ」ということだ。
 昭和だな。
 まあ、以上の解釈は全然外れているかもしれない。ただ、恋愛って、そーゆーところはあるし、そーゆーところがなあ。

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2011.03.05

最近聞いているジブリの歌のカバーとか

 久石譲のファンということもあって、ジブリ映画の音楽は総じて好きだが、なんとなくカバーで聞いてみたいと思うことがある。いろんな人が歌っているからというのもある。

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島本須美singsジブリ
 意外なカバーといえば、安田成美のじゃなくて、島本須美の「風の谷のナウシカ」(参照)だろうか。けっこう嫌いではない。好きと言っていいかもしれない。失念していたが、島本さん、私より年上なんだ。そりゃそうか。ナウシカも映画は1984年で、もうそんなになるのか。ナウシカについてはまあ嫌いではないが、どうにもちと微妙な感じがしてならない。というか、そのころのジブリ音楽やアニメの音楽を特に聞きたいというものでもない。平野文のCDを無くしてしまったのはちょっとさみしい気はしているが。
cover
記憶の森のジブリ
竹仲絵里
 最近のお気に入りは、竹仲絵里の「もののけ姫」(参照)である。何がいいのかと言われるとよくわからない。シンプルな曲作りで声が生かされていて、その声が好きということなんだろう。朗読少女ではないけど、なんか語りかけるような声質が染みてくる。というか、朗読的な歌という感じがする。歌詞中の「切っ先によく似たそなたの横顔」の「そなた」のところで微笑んでいる感じがする。その解釈でいいのか。そこはもっと怖い響きじゃないのか。とか、戸惑っているうちにこの歌唱にはまっている。



cover
わが麗しき恋物語
クミコ
 これはもうカバーというもんじゃないように思うが、クミコの「人生のメリーゴーランド」(参照)は、覚和歌子の歌詞と歌唱とメロディが嵌りすぎて泣けてくる。「夕焼け見渡せる楽屋口のドアは軋ませないで閉めきるのにコツがあるの」とかじんとくるじゃないか。映画でこれ歌ってたんじゃなかったっけと勘違いしそうになる。そういえば彼女、昨年の紅白に出て、聞いたのだけど、すまん、「INORI~祈り~」とか僕は好きではない。
cover
紅の豚
加藤登紀子
 ついででこれはカバーじゃないけど、おときさんの、とか言うとまるで全共闘世代になってしまうが、加藤登紀子の「時には昔の話を」(参照)。残念ながら圧倒的。実際に聞いているのは、iTuneで売っているほうの別バージョン(参照)。本人の持ち歌だからカバーではないのだけど、なんか別の人の歌唱にも聞こえる。少し音外してんじゃないのというずれと、60歳過ぎた女性の声の、なんというのか、やっぱ圧倒的な人間力とでもいうのか。これも考えようによっては、語りの歌か。泣けてくるしかないでしょ、こりゃ。

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2011.03.04

[書評]宇宙は何でできているのか(村山斉)

 「宇宙は何でできているのか(村山斉)」(参照)は昨年秋に出た本でそのころ書店に平積みにあったのが気になり、年明けになってふと思い出して別の本のついでなんとなくアマゾンで買ったものの、さらに積ん読状態だったが先日読んだ。

cover
宇宙は何でできているのか
村山斉
 普通の読書人が一読すればわかるが、そして書名のコンセプトが違うというものでもないが、2008年のノーベル物理学賞受賞の南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏の業績の意味を一般向けに説いて下さいという幻冬舎の企画だったのではないかと察せされる。また著者の側からすると、当時民主党のめちゃくちゃで削られていく科学研究予算に反対するための科学啓蒙の意図もあったのではないかとも思われる。
 ですます体で書かれていることもだが、口述書き起こしを思わせる語り口調で、あたかもNHKあたりの教養番組焼き直し書籍の印象も与える。ところどころ、これも編集が頼んだのではないかなと思わせるが、著者一流のユーモアやギャグが添えてあり、心和む。総じて読みやすく、あとで知ったのだがけっこう売れた本らしい。評価も高かったというのも頷ける。
 内容はというと、先に南部博士らの名前を挙げたが、彼らが活躍していた1970年代を知っている科学少年としては、「ああ、懐かしい話だなあ」という印象のある素粒子論である。最終章は別にすると、どちらかといえば、物理学的な部分についてはやや退屈な印象がある。が、同時に、理論は先行していても実際の科学的な知識として人類が共有していくには、実験というものが持つ大きな意味合いも再確認できるあたりの、理論と実験のクロニカルな関係について、本書はとても上手に解き明かしている。
 現代物理学の知見を上手にまとめているかというと、概ねそうだと言ってもよいが、基本となる量子力学とアインシュタイン理論については、要点のつまみ食いに、エピソードで色を添えているという感じで、たとえば、量子力学のコペンハーゲン解釈などの説明もあるにはあるが、これで一般向けにわかるのだろうかという疑問も残った。
 終章を除くと、雑誌「ニュートン」とかで図解しそうな話題なのだが、この終章「第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎」は別の意味で微妙な感じだった。率直にいうと、ここだけ解説された新書があるとよいと思うし、探せばあるのかもしれないが、どうなのだろう。「ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く(リサ・ランドール)」(参照)か、佐藤勝彦氏の著作あたりだろうか。
 私の関心点は2つある。一つは統一理論である。本書でも端的に描かれている。

 詳しい説明を省いて言うと、この超ひも理論は、重力を含めた4つの力を1つの理論で統一できる可能性を秘めています。標準模型では電気力と弱い力が統一されそうですが、そこに強い力を含めた「大統一理論」はまだ確立されていません。ところが超ひも理論は、そこに重力まで加えて、すべての物理学者が夢見る完全な力の統一を実現できるかもしれないのです。

 重力をどう理論化するかということが、結局のところ物理学のテロス(目的)と言ってもいいのだろう。本書の書名のように「宇宙は何でできているのか」という問いかけに対して、アトミックに「それは素粒子です」というのでは、実は答えにはなっていない。にも関わらず、本書ではその部分が最終的にぼやけた印象はある。冒頭でも述べたように、南部博士らの研究や科学研究費といった日本の文脈があるというのは理解できないでもないが。
 もう一つは、これも結論的な言い方をすると、重力の問題に帰すると思われるが、終章の題にもある暗黒物質・暗黒エネルギーをどう捉えるかということなる。もちろん、その部分こそ、未知であり、理論的には本書の表現を借りるなら「何でもアリ」ということだいうこともわからないでもない。
 科学少年のなれの果ての私としては、科学的であるということは、既知の知見を知識として振り回すことではなく、宇宙とはなんだろうか、暗黒物質とはなんだろうか、暗黒エネルギーとはなんだろうか、という問いを出して、それに、さっぱりわからない、では「何でもアリ」というくらいに想像力豊かに考え、そして実験してみようじゃないか、ということだと思う。
 宇宙のエネルギーの73%は得体の知れない暗黒エネルギーという事実は、人間の知を困惑させるとともに、科学が人間の知に問いかける最上のなにかを持っている。その部分への本質的な愛情が実に上手に表現されているという点では、なるほど本書はよくできている。

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