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2011.02.25

深刻化するパキスタン問題

 パキスタンのザルダリ大統領が21日から3日間、日本を訪問した。離日する23日には天皇陛下との会談もあった。が、他の報道に押されたせいか、あまり報道された印象はなかった。大手紙社説では今日になって日経新聞がややピンぼけした社説「パキスタン支援を強めよう」(参照)を掲載した。朝日新聞が社説「パキスタン―南アジアの安定に協力を」(参照)を掲載したのは昨日である。こちらは良社説といってよいのだが微妙な含みもあった。日本では現下、あまりパキスタンが注目されていないが、いろいろとやっかいなことになりつつある。
 日経新聞社説「パキスタン支援を強めよう」は表題のとおり、日本はパキスタンを支援せよというのだが、どう支援するのかは曖昧である。


 日本はテロや過激派を生む土壌となっている貧困の削減とともに、経済改革や貿易面での支援も進め、現政権を支えていくべきだ。テロ対策でもアフガニスタンだけでなく、パキスタンにもどのような貢献が可能か、人的支援を含めて包括的に検討していく必要がある。

 論旨がぼけてしまうのも、しかたない面もある。本来ならパキスタンが求めるところに応じるというのが支援なのだが、そうもいかない。

 ザルダリ大統領は日本に原子力協定の締結を打診した。日本がインドと交渉を始めたことへの警戒感もあるのだろう。核拡散の懸念が強い国だけに慎重を期すべきだ。
 日本としては当面、プルトニウムなど核兵器の原材料となる物質の生産を多国間で制限する兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約への参加などを求めていくのが先決である。条約に抵抗するパキスタンを説得できれば、ジュネーブ軍縮会議での交渉開始にもつながる。

 日本には核不拡散条約(NPT)を御旗にして、インドと原子力協定締結交渉をすることに反対的な風潮がある。昭和の名残ともいえる被爆国日本の戦後史の慣性もある。だがこの間、米国やフランスなどはさっさとインドとの原子力協定に踏み切っている。
 加えて、パキスタンをNPT非加盟国だからと原子力協定から外しても、ほいほいと中国が入ってきている現状もあり、どうバランスを取るかは、考えれば難しい。
 このあたりで朝日新聞社説「パキスタン―南アジアの安定に協力を」は、少し興味深い切り出し方をしていた。

 パキスタンの核戦力の問題もある。
 米ニューヨーク・タイムズ紙は最近、パキスタンがこの2年間で配備核兵器を60~90発から95~110発にまで増やし、さらに40~100発分の兵器用核物質を生産したとの、米情報機関などの分析を報じた。
 近く英国を抜き米、ロシア、中国、仏に次ぐ核大国になるとの見立てさえある。パキスタン側は報道を否定するが、実態は秘密に閉ざされている。

 このニューヨークタイムズのネタだが、国内で他に報道されただろうか。
 21日付けのニューヨークタイムズ社説「Pakistan’s Nuclear Folly」(参照)でも、これを包括的に扱っている。朝日新聞社説の執筆者も、このネタをなぞったのだろう。

With the Middle East roiling, the alarming news about Pakistan’s nuclear weapons buildup has gotten far too little attention. The Times recently reported that American intelligence agencies believe Pakistan has between 95 and more than 110 deployed nuclear weapons, up from the mid-to-high 70s just two years ago.

中東の争乱で、パキスタンの核兵器強化について警告的なニュースはほとんど関心を持たれていない。が、ニューヨークタイムズは最近、パキスタンが、2年前には1970年代の水準だったのに、95から110個を超える配備された核兵器を持っていると米国諜報機関が確信していると報じた。

Pakistan can’t feed its people, educate its children, or defeat insurgents without billions of dollars in foreign aid. Yet, with China’s help, it is now building a fourth nuclear reactor to produce more weapons fuel.

パキスタンは数十億ドルもの対外援助なしでは、国民に食糧供給も子供の教育も、さらには反乱者らの鎮圧もできない。なのに、中国の援助で、パキスタンは現在、核兵器燃料を多く生産する4番目の原子炉を築いている。

Even without that reactor, experts say, it has already manufactured enough fuel for 40 to 100 additional weapons. That means Pakistan — which claims to want a minimal credible deterrent — could soon possess the world’s fifth-largest arsenal, behind the United States, Russia, France and China but ahead of Britain and India. Washington and Moscow, with thousands of nuclear weapons each, still have the most weapons by far, but at least they are making serious reductions.

専門家によれば、原子炉なしでも、パキスタンはすでに40から100もの核兵器燃料を製造しおえている。つまり、最小限の抑止力と言いつつ、パキスタンは、米国、ロシア、フランス、中国に次ぐ第5位の核兵器所有となり、英国とインドを抜く。米国政府とロシア政府はそれぞれ数千の核兵器や最大数の武器を有するが、それでも真剣に削減に取り組んでいる。


 米国諜報機関にどれだけの信憑性があるかは疑問だが、朝日新聞ですら懸念する事態ではあるのだろう。とはいえ、朝日新聞は朝日新聞らしい自らの幻想に沈んでしまうのだが、こんなふうに。

 南アジアでの核軍拡を防ぎ、中国も含めたアジア全体の核軍縮・不拡散外交を進めることが不可欠だ。インドとの交渉では、核実験の停止を協定に盛り込むべきだ。それを足場にアジアで新たな核軍備管理の道を模索したい。

 どう模索するのかは皆目わからないが、そこは朝日新聞にツッコミ入れてもナンセンスなので、ニューヨークタイムズ社説に戻る。
 問題は朝日新聞のような明後日の方向に爆走することではなく、現前の課題である。端的にいって、現下、パキスタンの核化を抑制することが米国には不可能な事態になっていることだ。

Washington could threaten to suspend billions of dollars of American aid if Islamabad does not restrain its nuclear appetites. But that would hugely complicate efforts in Afghanistan and could destabilize Pakistan.

米国政府は、パキスタン政府による核の欲望を抑制しないなら、数十億ドルに及ぶ米国援助を中断すると脅すことも不可能ではない。が、それはアフガニスタン問題を複雑にし、パキスタンを不安定化させてしまうことになる。


 言うまでもなく、潜在的な危機は朝日新聞が昭和の香りに引きづられてNPT歌舞伎を演じることではない。単純にアフガニスタンの勢力にパキスタンの核兵器が奪取されることである。
 全体的な危機の状況に加え、オバマ大統領の戦争失態はしかもここに来てさらに極まっている。
 1月27日のことだが、米国人レイモンド・デービス(Raymond Davis)氏がパキスタン、ラホールでパキスタン人男性2人を射殺するという事件があった(参照)。逮捕されたデービス容疑者は、パキスタンの警察の調べに、2人は強盗だったとして正当防衛を主張している。が、彼は米中央情報局(CIA)の契約職員であることが発覚し、パキスタンではこの事件は米国政府による秘密工作ではないかとして反発運動が起きている。
 米国側の対応もまずいものだった。ラホールの米総領事館は事件時、デービス容疑者を救出しようと派遣した自動車でパキスタン人男性をもう1人はねて事故死させている。その上、米国はデービス容疑者には外交上の免責特権があるとし即時釈放を求めた。パキスタン人が怒るのも無理はない。
 苦慮した米国政府は現状米無人機攻撃停止したらしい。17日付け朝日新聞「パキスタンで米無人機攻撃停止 拘束米国人へ影響懸念か」(参照)より。

パキスタン北西部で米国が激化させてきた無人機攻撃が先月23日以降止まっている。理由は不明だが、パキスタンではその4日後にパキスタン人を射殺した容疑で米国人が逮捕されており、攻撃継続が釈放問題に与える影響を米国が懸念しているのではないか、との見方がある。

 朝日新聞記事の元ネタは「Killings Spark CIA Fears in Pakistan」(参照)のようだ。
 もともと、この無人機攻撃がパキスタン人の怒りの源泉でもあった。国内報道では毎日新聞記事「記者の目:オバマ米大統領の無人機戦争=大治朋子」(参照)が詳しい。

 オバマ米大統領が無人航空機を飛ばして武装勢力を掃討する「無人機(プレデター)戦争」を推し進めている。米国本土から衛星通信で無人機を遠隔操作し、1万キロ以上離れた戦場で敵を殺すのだ。兵士は米国内の基地に出勤し、モニター画面の中で「戦争」をして家族の待つ家へと帰る。「プッシュボタン・コンバット(ボタン押しの戦闘)」とも呼ばれる無人機戦略は世界の注目を集め、40カ国以上が開発競争を繰り広げている。だからこそいま、その「負の側面」に目を向けたい。

 これがひどい代物である。誤爆で民間人を殺害している。

 一つは民間人被害だ。米シンクタンクによると、例えばパキスタンでは04年から昨年末までに米中央情報局(CIA)によるとみられる空爆で1734人が死亡し、約2割が民間人だった。無人機の射撃の正確性は95%と高いが「市民をテロリストと誤解して殺している可能性がある」(元陸軍士官学校教授)のだ。

 誤爆もひどいが、そもそも空爆も人間の尊厳に反する攻撃である。
 率直にいって、こんなひどい戦争を展開しているオバマ政権なのに、アフガニスタンの発端を開いたブッシュ前大統領が悪いで終わってしまう日本の世論はどうなんだろうかと思わないでもない。

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コメント

アメリカがこの地域から撤収する可能性は中国若しくは最終的にインドが地域秩序に責任持つ事になるという感じでしょうか。中国は自身がパキスタンへ供与した核技術が無政府化によって陸伝いで中央アジアに拡散するのは嫌でしょうがパキスタン北部山岳地帯は兎も角、南方平野部への長期進駐とか随分無理目だと思いますし。逆にパキスタンが独立を維持するには自身で過激な民族運動を潰すなり牽制するなりする一方で、アメリカには反米機運を刺激しないよう自重してもらわないと、政権への離反が一層増すでしょうし。

投稿: ト | 2011.02.27 15:59

パキスタンの核兵器を日本が買い付けられないかな。
インドの核兵器も買って両国の配備数のバランスを取ることで世界平和に貢献しよう!

投稿: ho | 2011.02.27 22:05

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受信: 2011.02.26 05:57

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